Sランク冒険者
かなり遅れてしまい、申し訳ございません!
それとかなりの文字数になってしまい、いつもの倍ほどになってしまいました。
でも、どうしても入れたかったんです。許して下さい。
それでは本文どうぞ。
・・・そもそも読んでくれてる方がいるのでしょうか?
『さあ、皆様大変お待たせ致しました! Sランク冒険者の方々の登場です!』
『『『『ウオオォォォォォォォォ‼‼‼』』』』
『い~い感じで盛り上がっていますね~。それではこのまま開会式と行っちゃいましょうか。ウルス王国王都ギルドマスターのアックスさん、開会の挨拶をお願いします』
『うむ』
気付けば、舞台の正面の壇上に一人の老人がいた。彼こそが王都のギルドマスターであるアックス。その姿はとても老人とは思えない程鍛えられている。筋骨隆々とまではいかないが、一目で鍛えていると分かる体をしている。そのアックスが壇上に立てられた魔法具に語りかける。
『ーーーまた、この年がやってきた。前回は4年程前だったか。別の国じゃったから、わざわざ行ったのを覚えておる。思えば随分と人数が減って、武闘会の回数も減ったものじゃ。一世紀近く開催されない程にの。だが、かつてこの世界にはSランク冒険者なぞそこらに蔓延る程おったそうじゃ。しかし、だ。そんなSランク冒険者たちも寄る年波には勝てず老いていき、そんな彼らですら圧倒的な暴力には脆く、悪逆的な破壊には敵わなかった。ドラゴンとの戦いにはかつて最強と呼ばれたSランク冒険者も力及ばず皆死んでいったことで、この80年程でSランク冒険者は伝説の存在と化した。数年前まではの』
アックスは一度舞台を見てから空を見上げる。
『しかし、ほんの数年前にSランクシステムは復活した。ふらりと現れたたった一人の青年によってな。ワシはその報せを聞いたとき、歓喜に震えたよ。もう一度、ワシの生まれるほんの数年前の伝説が、黄金世代とまで呼ばれたかつての時代が、この目で見られるのではないのかと』
アックスはそこで言葉を切り、もう一度舞台に立っているSランク冒険者を見てから、今度は観戦している冒険者に目を向ける。
『さあお前たち! 刮目せよ! 謦咳に接しよ! お前たちの目で! 耳で! 全てでもってこの戦いを見て学ぶがよい! これは、伝説だ。そして、かつての伝説を甦らせし諸君。君たちの戦いが彼らにとって良い影響を与えることを願っている。それでは諸君、健闘を祈る』
アックスは言い終えたのか壇上から降りていく。シン、と静まり返る会場。数瞬の後に、パチ、パチ、とどこからか乾いた音が響き、やがてそれは会場全体に広がっていく。
『は、はい、ありがとうございました! いや~中々に心に響く言葉でしたね~。それではこれで開会の挨拶を終わります』
開会の挨拶が終われば次にあるのはーー
『それでは内容を決めたいと思いますが、Sランクの皆様から希望はありますか?』
大会の内容決めだ。毎回の内容は希望をその場でSランクに聞き、無かったらギルドマスターによるくじ引きで決まる。得てしてこういう大会では希望はあがらないものだが、今年はどうやら違うようだ。
スッと手が挙がる。舞台上の冒険者はその方向を見て意外に思う。何故なら彼はこのようなことはしないと誰もが思っていたから。式人でさえ予想していなかった。
「俺に希望がある」
訴えたのは赤髪の冒険者ーードランだった。
『何でしょうか?』
「トーナメント戦にしてもらいたい」
『トーナメント戦・・・ですか?』
「ああ。トーナメント戦をやってみたい」
『構いませんが・・・なぜでしょうか』
「いや、なんだ、Sランク最強を与えられる奴ってのは何度も自分と対等、もしくは格上と連続で戦ってなお勝ち抜く奴のことだと思ってな。ちょうど戦ってみたいやつもいるしな」
『なるほど。ではそれにしましょう。滅多にない大会ですし、何より早く決まるのはいいことですしね~。前回はリーグ戦で非常に時間がかかりましたし。ですが、ルールはどうするんですか?』
「それはお前さん、上手く考えてくれ」
『人任せですか・・・そうですね~。・・・では、全員のトーナメント戦で一対一の決闘制。十人で戦うので時間はそんなにかけず、恐らく今日だけで十分でしょう。一番勝ち抜いた人が優勝。引き分けは無しで、三位決定戦も無し、それぞれの組み合わせを左からA、B、C、D、EとしてAの組の勝者の相手はBの組の勝者、Eの組の勝者はCの勝者対Dの勝者の組の勝者と戦う、ということでよろしいですか?』
「おお、上手く纏めたな。それで頼むわ」
『分かりました。さあ皆様大変お待たせしました! ただいまを持って内容が決まりましたので、武闘会をここに開催することを宣言致します!』
『『『『ウオオォォォォォォォォ!!!!!!』』』』
いよいよ始まるのだ。今か今かと試合開始を待ち続けている会場の盛り上がりは既に最高潮に達している。
『それでは、私の方から組み合わせ決めと簡単に選手紹介をしちゃいたいと思います!』
舞台の正面に大きな画像が映し出される。どうやらトーナメントの組み合わせ表のようで、左下から右下に名前が入るのであろう空欄が十個並んでいる。名前の欄の下には左から順に数字が振られているので、順番に発表してそこに名前を入れていくということなのだろう。
『それでは、まず1番目の枠に入る選手は!』
ガサガサと何かをかき混ぜる音が魔法具から響いてくる。Sランクの名前が書かれたボールか何かだろう。短時間でよく用意したものだと、舞台上の全員は感心している。
『出ました! 1番目は『ヴェンガドル』の現リーダー! 彼の守護は最硬の壁! 鉄壁すら生温いと言われた彼の守りを抜ける者は現れるのか!? 『要塞』ドラン・フェストング!』
「俺か。早いな」
ドランはやる気十分といった感じで左手に右手をぶつける。
『どんどん行きますよ! 続きまして2番目は『ヴェンガドル』のメンバー! 今回の武闘会ではどのような魔法を見せてくれるのか! 世界最高峰の攻撃魔法の使い手! 『魔女』クーリア・フィトニーザム!』
「あら、私ね。うふふ」
クーリアと呼ばれた水色の長髪長身の女性は妖艶に微笑む。そんな彼女を見たドランは嫌そうに顔を顰める。
「あら、どうしたのドラン?」
「いや別に、ただお前さんとの戦いは相性が悪すぎてな。面倒だと思っただけだ」
「正直ね。私も同感だけど」
互いに睨み合って牽制し合う二人だが、別段これは普段通りなので誰も気にしていない。確かに二人の相性は最悪だ。パーティを守る壁役のドランと、敵を遠距離から殲滅するクーリアはどちらも互いに決め手に欠ける。Sランクであるドランの盾は魔法すら弾く素材で出来ているし、Sランクであるクーリアの魔法をくらい続けると前に進むことは困難だからだ。故に二人の相性は最悪と言われている。
余談だが、あらかじめ言っておくと、クーリアの態度は実は演技である。Sランクには周知の事実だが、式人だけがそれを知らない。というか演技ということに気付いていない。周りと違うのは嫌われているからだと本気で思っている。
クーリアは当時のリーダーであった式人に好きな女性のタイプを聞いたことがあったりする。そのときに、「大人っぽい人」と言われてからこのような態度をすることにしたのだが、本人を前にすると突然素に戻り、傍から見ても恋する乙女の様な反応を見せるのだ。しかし、当然式人は気付いていない。
スタイルが優れているクーリアはその長身故か年齢をよく間違われるのだが、実際の年齢は18歳である。それでも式人よりも頭半分程小さいのだが。
ちなみにもう一つ余談だが、もう一人の女性メンバーはスタイルに関する話になると物凄い形相でクーリアのことを見るので、『ヴェンガドル』内でのスタイルに関する話はタブーとなっている。“普段は大人しいのに”とはメンバー談だ。
『続きまして3番目は『トワイライト』のメンバー! 最も若きSランク冒険者にして、世にも珍しき精霊魔法の使い手! 精霊に愛された子! 『愛し子』リラ・スピリート!』
「・・・・・・が、がんばり、ます」
白髪に赤眼の少女、リラは小声でボソッと呟く。そんな彼女の周りには様々な色をした光がクルクルと回っている。その光こそが精霊だ。普段は目にすることは出来ないが、リラの感情が昂ったりするとこうして光となって見ることが出来るらしい。
『4番目は同じく『トワイライト』のメンバー! これまた珍しい星属性の魔法を使う魔法使い! 彼女の魔法を止められる者はいるのでしょうか!? 『星屑』スピカ・メテリット!』
「ん・・・」
金の髪をショートで揃えた少女は頷く。無口だが、彼女は小さくガッツポーズをしているので、ただ単に感情を表現するのが苦手なだけだろう。だが、そんな彼女の魔法は強力だ。魔法を一回発動するだけで草原を更地にすることが出来るのだ。当然魔法の制御に難がある魔法だ。
そもそも星属性の魔法は使い手が少ないため魔法を制御することが出来ず、スピカと、同じく使い手の少なかったリラは5年前まで魔法を発動することを禁じられていた。そのときに魔法の制御方法を教えたのが式人だった。まだ幼い少女(二人は当時8歳)が、自分で制御出来ない魔法を制御する方法を教えて貰った相手に懐くのは当然の結果と言えるだろう。
幼いながらも強い力を持っていた二人は友人など出来るはずも無く、それが式人に懐くことに余計に拍車をかけた。二人はギルドでたまたま会っただけで友人ではなかったが、ベクトルは違くとも強力な力を持つ者同士、惹かれ合うものがあったらしい。式人が二人纏めて師事出来たのは二人同時に当時のギルドマスターから紹介されたからである。
当時から二人とも式人のことを「お兄ちゃん」と呼んでいたことで、周りからロリコン疑惑が上がったこともあるが、それはまた別の話だ。加えて、式人はリラとスピカの二人を実の妹のように可愛がっていたので、ロリコン疑惑がさらに深まったが、それもまた別の話だ。
『5番目も同じく『トワイライト』のメンバー! 闇属性に関しては『魔女』すら上回ると言わせしめた斥候! 彼女の姿は目にすること能わず、ただ静かに死を待つのみ! 『音無』イーラ・オルモート!』
「あの・・・その紹介、恥ずかしいんですけど・・・なんとかならなかったんですか?」
腰まであるであろう黒髪を後ろで纏めた少女は恥ずかしそうに零す。だが、彼女の実力は本物だ。イーラが操る闇属性の魔法は言わば一種の頂点。魔法使いが目指す頂きに彼女は立っている。
そもそも『魔女』とは基本属性を全てつかえるのは勿論、それを全て巧みに操り、且つ同時に別の属性を発動出来るほどの繊細な魔力制御が行える者に、初めて『魔女』の称号を得る資格が与えられる襲名制の称号、二つ名だ。
『魔女』の称号を与えられるのは一人だけ。そして与えられたものは世界一の魔法使いとして認められるというものだ。当代の『魔女』はクーリアだったが、そのクーリアをもってしても闇属性に関してだけは全く勝てる気がしないと断じたのが、イーラ・オルモートという少女だった。
イーラは闇属性しか使わない(使えない訳ではない)。基本的に属性に関する適正はこの世界には存在しない。適正検査はあるが、それは一種の指標とも言えるもので、簡単に言えば得意不得意が分かるというだけだ。
理論上、人はどの属性も扱うことが出来るということになっている。魔力を属性のイメージ、或いは詠唱による補助により、属性魔法へと変換するだけだからだ。
だが、人には得意不得意というのものがある。イーラは正に典型的な得意分野がはっきりしている者だった。別段、それは悪いことではない。苦手な属性を練習するよりかは、得意な属性を伸ばした方が遥かに身のためだからだ。そして闇属性を伸ばすことは、イーラの戦闘スタイルに合っていた。
彼女の戦闘スタイルは短剣を二本用いた双剣による死角からの奇襲戦法。即ち、暗殺だ。そしてその戦闘スタイルこそ彼女の二つ名の所以。
ーー曰く、彼女の戦闘音は聞き取れず。
ーー曰く、彼女の接近に気付くことは出来ず。
ーー曰く、彼女の前では魔物すら断末魔を上げることは叶わない。
故に『音無』。
故に『死』の象徴。
故に――『死神』。
彼女の逆鱗に触れることは、それ即ち死を意味する。それは人すら例外ではない。式人と出会ったのもそうした縁があったからこそだった。式人はギルドの依頼で、イーラはたまたま寄った村が既に魔物に蹂躙された後だったから。そのときはイーラの誤解で先に村に着いていた式人に襲いかかったのだが、彼女の暗殺を初見で受け止めたのが式人だ。
イーラは式人の強さに手を止めざるを得なかった。そこでようやく誤解だったことを知ったイーラは頭を地面にめり込ませる程、深く頭を下げて謝罪した。それはそうだろう。自分の早とちりで何の罪もない人間を殺してしまう所だったのだから。相手が式人だったから避けられた悲劇。それを両者は分かっているからこその謝罪だった。
その後は原因の魔物を共闘して殲滅し、ギルドへの報告に戻る式人に着いて来たイーラは式人の強さに憧れて、当時からかなりの高みにあった闇属性を極めることで近づこうとしたのだ。その過程でSランクに至ったのだが、本人的にまだ満足していなかったりする。今回の出場で式人に胸を借りるつもりだったが、見当たらないので(気付いていないだけ)実は落ち込んでいる。
『まだまだ行きます! 6番目は『ヴェンガドル』のメンバー! 『要塞』の護りが攻撃を弾くのであれば、彼の護りは攻撃を返す! 彼に攻撃することは自分に攻撃することと同じこと! 『結界師』クレス・オードラス!』
「む・・・俺か。面倒だな」
黒髪に碧眼という珍しい組み合わせの青年が本当に面倒そうに溜息を吐く。彼は二つ名の通り結界師だ。
結界は分類として無属性魔法になる。魔法を使っているので魔法使いの筈だが、結界師に限って言えば魔法使いとして扱われない。何故なら結界の魔法は魔力の燃費がとてつもなく悪いからだ。
結界は魔法を行使するときに魔力を使う。この手順は全ての魔法と同じだ。だが、結界は空間に固定、維持する為にも魔力を使うのだ。言い換えればそれは魔力を常に垂れ流しているのと同じ事だ。そんな無駄に燃費の悪い魔法は魔法として認められなかった。そんな燃費の悪い魔法を使う者こそクレス・オードラスという青年だった。
彼は結界しか使えない。使わない、ではない。理論上、この世界の人間は全ての属性魔法を使うことが出来る、ということになっている。だが、所詮は理論上でしかない。世の中には例外というものが存在しないことは有り得ない。クレスは結界魔法に特化した代わりに、属性魔法が使えないという特殊体質だった。故に彼は結界を極めるしかなかった。
しかし結界を極めるということは、自分から攻撃する手段がないということにも繋がる。それでは意味がない。自分の体質を活かすにはどうすればいいか、彼は必死に考えた。そして一つの考えに至った。 “結界魔法に特化しているなら、誰にも真似出来ないことが出来るのではないか” と。その考えは正しかった。彼の結界は他人の攻撃を跳ね返すことが出来る特別性の結界だった。だからこそ彼は結界魔法のみでSランクについているのだ。
だが、今回の彼の初戦はイーラが相手だ。だからこそ面倒なのだろう。片や姿の見えない『死』の象徴と呼ばれる暗殺者。片や全ての攻撃を跳ね返す結界師。今大会は相性が悪い組み合わせが多々あるようで、皆辟易としている。
『7番目も『ヴェンガドル』のメンバー! 『魔女』と対を成すもう一人の魔法使い! 『魔女』が世界最高峰の攻撃魔法の使い手なら彼女は世界最高峰の支援魔法の使い手! 『聖女』リンティア・ナクディス!』
「私ですか。私としてはリーダーを探しに行きたいのですが・・・仕方ありませんね」
桃色の髪の少女が煩わしいといった感じでクレスと同じように溜息を吐き、何かを諦めた表情をして対戦表を睨みつける。とても『聖女』とは思えない表情だ。端的に言えばかなり怖い。
『さあ、そろそろ少なくなってきましたよ! 8番目も『ヴェンガドル』のメンバー! 契約した魔物は数知れず! 伝説の聖獣すら彼に付き従う! 『召喚者』ルーク・カルラニル!』
「ここで僕ですか。初戦がリンさんはきついですね・・・」
金髪の青年が対戦表を見て、やはり溜息を吐いてリンティアの方を見て、見てはいけないものを見てしまったという表情になり、即座にばっと音がする勢いで反対側を見た。・・・というか『ヴェンガドル』のメンバーは溜息を吐きすぎだろう。五人中三人が溜息を吐いている。
『いよいよ残り二人! 9番目は『トワイライト』の現リーダー! 剣一本でSランクにのし上がった最強の騎士! そして唯一『ヴェンガドル』の前リーダーに弟子と認められた猛者中の猛者! 『瞬閃』エルレア・スヴェリヒト!』
「いやぁ、唯一の弟子だなんて、照れますね〜」
翡翠色の髪の騎士然とした佇まいの女性、エルレアがその言葉を発した瞬間、エルレアの周りから嫉妬100%の視線が飛んできた(式人を除く)。
「な、なんでしょうか?」
「「「「「いや、別に?」」」」」
「ん・・・」
「・・・ず、ずるい・・・です」
「ふん、くだらん」
「・・・・・・」
エルレアがその視線に気付いて周りに問うとドラン、クーリア、リンティア、ルーク、イーラがすっとぼけ、スピカがそれに同意した。唯一リラだけが本音を零し、クレスは彼らの態度をくだらないと切り捨てた。
「確かに俺達はリーダーに弟子と言われたことは一度もない。だが仲間だったのだ。寧ろ弟子よりも近しい間柄だったとも言える。俺たちはそれを分かっててリーダーについて行ったのだろう。なのにお前達はそれを忘れて・・・勝手に着いて行きながら、技術を教わり仲間と呼ばれる。それ以上何を求めるというのだ」
クレスに睨まれたドラン達『ヴェンガドル』のメンバーは、バツが悪そうな顔をして、エルレアに対する嫉妬を抑えた。だが彼らはエルレアに謝らない。羨ましいと思っているのは事実だからだ。
スピカもリラも技術を教わったが、技を教わった訳では無いのだ。他のSランクも同様だ。彼らは式人から技術を教わっても技を教わったことは一度も無い。ただ一人、エルレアを除いては。
エルレアは式人が拾った孤児だ。道端で死にかけていたところを偶々式人が通りかかったのだ。式人は急いでエルレアを拾い、食べ物を食わせて様子見をすることにした。やがて快復したエルレアに式人が事情を聞くとどうやら孤児院から攫われたが、犯人が思ったよりキレやすい性格だったようで、いつまでも暴れていたエルレアに暴力を振るい犯人が我に返ったときには既にエルレアは虫の息だったという。
何に感化されたのかは式人もよく分かっていない。だけど、どうやら孤児院にいても居場所がなかったらしいエルレアに、つい聞いてしまったのだ。力が欲しいか、と。返ってきたのは是、ただ一言だった。
何故かは分からない。エルレアの境遇に己を重ねたのかもしれない。ただ同情しただけかもしれないし、いい加減一人が嫌だったのかもしれない。ただ単に地球でのやり残しを成し遂げたかったのかもしれない。思い付く理由は幾つもあったが、一つ言えることはエルレアを助けたのは間違っていなかったということ。
だが、助けられた理由などエルレアにとっては何でも良かった。このときのエルレアは式人に感謝しかなかった。自分を捨てた両親を見返そうとか、いつもいじめてきた子供より強くなろうとか、そんなものはどうでも良かった。醜い姿で死にかけていた自分を助けた式人への感謝と恩返しのことしか頭になかった。だからだろう。エルレアは初めて他人に我儘というものを言った。――”私に名前をつけてくれませんか?”
恩人に対して失礼かもしれないと思ったが、自分を強くしてくれる人に自分の名前を新しくつけてもらうことで、自分はここからやり直すという意思表示を自分なりにしたかったのだ。前までの名前は捨てたかったというのも少しばかりあったが、それでも新しく生まれ変わったという実感が欲しかったのだ。
そこからエルレアと式人のたった2年間の二人の旅は始まった。式人は自分がかつて教わったことを全て教え込んだ。魔法も剣術も勉強も、式人の持つ全てをエルレアに仕込んだのだ。だからこそエルレアは自他共に認める式人の弟子なのだ。故に彼女の戦闘スタイルはとても式人と似ている。
彼女と別れたのは前回の武闘会でだった。喧嘩別れした訳ではない。その頃には周りはSランク冒険者が既に十人集まっていたのだ。式人と最も長くいるエルレアにも仲の良い者ができるのは必然だ。リラやスピカと話しているエルレアの笑顔を見て、安心した式人は、もう自分が居なくても大丈夫だと考えて姿を消した。自分の目的を果たすために、巻き込まないように、大切な人を二度と失わないように失踪した。――エルレアの気持ちも一切考えずに。
その頃のことを思い出して少しばかり胸が痛む気がしたが、皆が自分を見ていることに気付いた。何事かと考えていると、直ぐに答えが聞こえてきた。
『それではいよいよ最後の一人! 誰も見た憶えがない正体不明のSランク! オダ・シキト!』
ああなるほど、と一人納得する式人。その様子を見て困惑するSランク冒険者達。だが、そんな彼らを余所に司会は開会式を進めていく。
『それでは選手が出揃いましたので、この後直ぐに第一試合を始めたいと思います! ドランさんとクーリアさんは準備してください! 二人以外のSランク冒険者の方々は舞台から降りて皆様に用意された専用席へ移動をお願いします!』
用意された専用席とはどうやら最初にアックスが挨拶した壇上の左右にある席のことだろう。よく見ると壁から突き出すように作られており、舞台よりも上に設置されているため、よく見えるようになっている。舞台にドランとクーリアを残して式人達はそれぞれ移動を始める。式人達が席に着くのを確認した司会は試合開始の準備をする。
『どうやら準備が整ったようですので、試合を始めたいと思います! 実況はわたくし、ミルカ・アウスタンドが、解説はギルドマスターのアックスさんと、同じくギルドマスターのラナさんとミーナちゃん・・・ん? ・・・あの・・・なんで子供がいるんでしょうか? え? 子供ならではの発想と疑問がある? 面白そう?』
司会の言葉にそういえば朝には既にラナもミーナもいなかったな、と今更ながら思い出す。職権乱用な気もしてきたが気にしないことにした。ただ単に面倒だったというのもあったが。
『・・・まあいいでしょう。それでは両者共にいいですね?』
「おう」
「はい」
『それでは第一試合、開始!』
そして遂に戦いの火蓋が切って落とされた。
詰め込みすぎて分かりづらいと思うので、各パーティのメンバーです。
『ヴェンガドル』
『要塞』ドラン・フェストング(25)
『魔女』クーリア・フィトニーザム(18)
『結界師』クレス・オードラス(19)
『聖女』リンティア・ナクディス(17)
『召喚者』ルーク・カルラニル(19)
『トワイライト』
『愛し子』リラ・スピリート(13)
『星屑』スピカ・メテリット(13)
『音無』イーラ・オルモート(17)
『瞬閃』エルレア・スヴェリヒト(17)
右の数字は年齢です。式人の年齢は実は23歳だったりします。式人にはエルレアと出会う前に1年間の空白が存在しています。いつかその話も出来たら良いなと思っています。
私はようやく明日から夏休みに突入しまして、執筆作業ももうちょっと進むと思うんですよ。だから次の話も(あ、更新されたんだ)程度に思って下さい。
それと次の話から投稿する時間を変えたいと思います。どうせ亀更新だろとかは、まあ、言わないで下さい・・・




