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邂逅

すいません、遅くなりました。若干いつもより長いですが、次回からは今までと同じ程に戻ります。

 朝、式人は宿のベッドで目を覚ました。


「夢、か・・・」


 何故今になって夢を見るのだろう。しかもよりによって武闘会の開かれるこの日に。


「あれからどれくらい経ったっけ・・・」


 そろそろ式人が失踪してから半年程経つだろうか。だからだろう。彼らとの夢を見たのは。彼らが式人について聞いてきたのは後にも先にもあの夜だけだった。

 何故今なのだろうか。――警告、というやつだろうか。本能が告げているのだ。何があっても武闘会が終われば、自分は話さなければならないのだ、と。あのとき、あの場所から消えた理由を。


「・・・取り敢えず飯にしよう」


 しばらく考えてから式人は考えるのを止めた。今考えても詮無いことだ。それよりも今日は武闘会が開かれる日だ。朝食の後にギルドへ向かわなければならない。

 式人は宿の食堂で朝食を取ることにした。大抵の宿では食堂も開いている。その際は別途料金になるが、意外とこれは上手くいっている。宿屋に泊まる際、どこの宿屋も基本的には前払いなのだ。そのため料金を一緒にしてしまうと食べられなかった日の料金が返ってこないという事態になり、かつて客と女将で言い争うということがあったため宿屋と食堂は別料金というシステムになっているのだ。


「あら、いらっしゃい。初めてね、こっちで食べるなんて」


「そういえばそうですね」


「で、何にする? 時間があるならがっつり作るけど」


「女将さんが作ってるんですか?」


「ええ、そうよ。やっぱり女ですもの。料理の一つや二つはできないとね」


「そんなものですか」


「そんなものよ。で、どうする?」


「じゃあ、あまりお腹空いてないので軽く摘めるものでお願いします」


「それならサンドイッチね。具は何でもいいかしら」


「何でもいいですよ」


「それじゃあ、20(アルカ)ね」


「安いですね」


「ふふ。そんなものよ。はい丁度お預かり。ちょっと待っててね。すぐ作ってくるから」


 銅貨を二枚渡し、近くの椅子に座り待つこと五分。サンドイッチを三つと紙袋のようなものをお盆に乗せて女将が戻ってきた。


「はい。このままギルドに行くのでしょう? だからサービスで沢山入れといたわ。頑張ってね」


「いいんですか?」


「いいのよ。本当は見に行きたいのだけれど宿を放っておく訳にはいかないから、せめてもの応援ってやつよ。頑張んなさい」


「ありがとうございます」


 その場で女将が持って来てくれたサンドイッチを口に詰め込み(中身はハムとレタスとチーズを挟んだものを三つだった)、紙袋を収納袋に入れてから宿の隣にあるギルドへ向かった。


 閑散としていると思っていたが意外にも人が多くいるようだった。少し考えて直ぐに原因を思いつく。今日はこのギルドに全てのSランクが集う、またとない日なのだ。皆がSランクを一目見ようとこの場にいるのだろう。だが、式人は何かを期待している空気を全て意識から外して受付に向かう。


 たまたま先日の受付嬢が空いていたのでそこに向かうと、ガチガチに固まっており緊張しているのが見てとれた。しかし他の受付嬢と話そうにも他の受付嬢も大して変わらないようで、結局のところ目の前の受付嬢に相手してもらわなければならなかった。というかしてもらわないとこっちが困るのだが。


「すいません。今大丈夫ですか?」


「は、はひ! 大丈夫でしゅ!」


 ・・・・・・本当に大丈夫なのだろうか。心配になったが早めに終わらせておきたかったので、構わず話を進める。


「今日の武闘会に参加します」


 ザワっと一気にギルド内が騒ぎ出す。


「は、ははは、はい! そ、それでは、確認の為にお名前をお伺いします!」


「式人です」


「シキト様ですね・・・・・・はい、確認しました。それではギルド内にてお待ち下さい。皆さんがお揃いになりましたらお呼び致します」


 それだけ聞いて踵を返し、さてどうしようかとギルドを見渡し周りの冒険者が固まっていることに気が付いた。気が付いたのだが、やはり式人はそれらを気にせずにギルド内に併設している酒場で一つだけ空いていた席に座る。


 他のSランクが集まるまで何をして時間をつぶそうかと考えていると、先程まで静かだったギルド内が少しずつざわめきを取り戻してきた。どうやら式人のことを話しているようだが誰も式人のことを知らないようで、『あれ誰だ?』『あんなSランクいたか?』『少なくとも前にはいなかったな』・・・等々色々なことが聞こえてくる。


 彼らの疑問を全て無視していると入口付近で違うざわめきが聞こえた。『おい! あれって・・・』『ああ、間違いない! 『ヴェンガドル』の連中だ・・・!』 その声に反応して式人は入口を盗み見た。そこにいたのは今はもう懐かしいヴェンガドルのメンバー。


 ドクン、と心臓の鼓動が聞こえた気がした。

 ーー嗚呼、この胸に響くような気持ちは何だろう。この胸に去来するような高鳴りは一体何だろう。

 ・・・ああ分かった。分かってしまった。これは()()だ・・・! 彼らの表情で気付いた。式人は今()()()()()()()()()()・・・!

 彼が残した唯一の心残り、断ち切るべき未練。彼に残された、たった二つの願い。それが今一つだけ叶ったのだ。これで喜ばずして何が願いか。これで残りの願いはあと一つ。それで心置きなくーー


「あのーすいません。ちょっといいですか?」


「っ、はい、なんです・・・か?」


 どうやら自分のことに集中しすぎていたようで、声をかけられるまで人が近づいてきていることに気付かなかった。浮かれすぎだと自省しながら声の主を見て、式人は少しばかり驚いた。透き通るような金髪に女受けしそうな顔。その顔を式人は知っている。かつては共に行動していたのだから。何故なら声をかけてきた人物は、今はもう懐かしきパーティの内の一人だったから。

 もしや気付かれたのか・・・? 顔には出さずに少しだけ警戒をする。


「他のSランクの人達がどこにいるかって分かります?」


「・・・いや、ちょっと自分には分かんないですね」


((((いやアンタもSランクだろ!))))


 どうやら違うようだ。ならば問題無いと考えてしれっと嘘をつく。いや嘘をついてる訳では無いが、誤魔化した式人に周りは慄いていた。


「そもそも何故()に聞いてきたんですか?」


「さあ? なんとなく、ですかね。後はあなただけ僕たちのことを見ていなかったのと、纏ってる雰囲気・・・というのでしょうか。それが周りと違っていたので」


「はあ、そうですか」


 何とも言えない理由で話しかけられた身としてはとんでもないのだが、曖昧に返事をするだけに留めておく。


「おーいルーク。そっちは見つかったか?」


「いえドランさん、どうやら僕たち以外にはまだ来ていないようです」


「そうか・・・ん?」


 ルーク、と呼ばれた青年の後ろから、ドランと呼ばれた赤髪の男もやってきた。


「ここ、いいかい?」


「え、ええ、どうぞ。ルークさんも」


「ああ、わざわざすみません」


 いつの間にか式人の周りから人は消え、遠巻きにして自分たちを眺めている。式人は空いた椅子をルークに勧め、三人はテーブルを囲むように座る。

 椅子に座ったドランは式人を見て何かに気付いたような反応を見せる。


「ほう。()()()お前さん」


「はぁ、どうも」


「あ、やっぱりドランさんもそう思います?」


「ああ。これ程までとなると・・・リーダー以来か。お前さん、Sランクか」


「あれ、Sランク?」


「リーダー?」


 驚いた。彼らと一緒にいた間は一度も顔を見せてはいないというのに。どうやら的確に力量を見抜く観察力は相変わらず健在らしい。だが、今ここでバレる訳にはいかない。そう思った式人はルークの疑問を無視して強引に話題をずらすことにした。


「ん? なんだ知らんのか。ふむ、どうやら全員が集まるまで時間があるようだし教えてやろう。と言っても情けないことに、仲間だった俺たちもそんなに詳しくはないが」


「え、ええ、そう・・・ですね。僕たちはあまりリーダーのことを知らないんですね」


「ああ。とにかく俺たちのリーダーについてだったな。そうだな、物凄く強い人だった。それと同時にとても同一人物と思えない程謙虚な人だったな」


「リーダーは強いと周りから持て囃されても、困ったような雰囲気でいつも同じことを言うんですよ」


「ああ、あれか。いつも言ってたな」


「「『たまたまだよ。こんなものはただの不正(チート)だ』」」


 懐かしい台詞だ。だが、それを他人から聞かされるのはやたらと恥ずかしい。どうやらいらないことを聞いたようで、式人の感覚としては自分の黒歴史を只管聞かされている気分だ。しかしそれに気付くのは少し遅かった。


「その、ちーと? はよく分かんなかったんですけど、僕はその台詞が結構好きでしたね」


「ああ、俺も好きだったぜ。それを聞きたくてわざと持て囃してた時もあったぐらいだ」


「でも、そのときに決まって最後に辛そうな雰囲気になるんですよ。当の本人は気付いてませんでしたけど」


「内のパーティの女共はその台詞を聞く度に辛そうな顔をしやがってな。いつも俺たちに相談しに来てたぜ。リーダーの力になれないのかってな」


 知らなかった。自分では分からないことはどうやら周りにはよく見えているようで、まるで自分が周りに興味を持っていなかったことについて咎められてるような気分だった。勿論彼らにそんな意図は無いのだろう。しかしそれでも思わずにはいられないのだ。自分はあのパーティにいらなかったのではないのか、と。


「そう・・・なんですか。・・・それで、今はそのリーダーはどうしてるんですか?」


 ずるい質問だ。自分は答えを知ってる癖にそれを他人から、しかもかつての仲間から語らせるなんて、ああ、なんて醜いんだろう。自分の浅ましさが浮き彫りになるようだ。絞り出すかのような声にルークとドランは怪訝そうな顔をするが、その質問に辛そうに顔を歪めて下を向く。


「リーダーは、今はもう、いません」


「ああ、突然いなくなっちまった。俺たちがドラゴンを倒したその直後にな」


「ドラゴンを倒した後に転移で帰ろうとした僕たちに突然リーダーが謝ってきて・・・最後に何かを言ってた筈なんですが・・・そのときには転移の影響で空間が断絶されてましたから、分からなかったんです。そしてそのまま転移してしまって・・・」


「俺たちはもう一度転移でその場に戻ってきたが、そのときにはもうリーダーはいなかった。どうやっていなくなったかは分からねえ。何でいなくなったかも分からねえ。だから俺たちはそいつを聞くために、そんで一発ずつ殴るためにリーダーを探しているのさ。あんなに強かったんだから今もどこかで生きてる筈だってな」


「正直に言えば探したところで見つかる筈がないって思ってました。この世界は広いので、その中から一人の人間を探すのはほぼ不可能に近い。オマケにSランク冒険者は全員が所在不明ですから」


「それでも希望はあった。お前さんもここにいるってことは分かっているんだろう? ここで何が行われるのか」


「武闘会、ですね」


「その通りだ。武闘会にSランク冒険者は参加が義務付けられている。だからここに来たらリーダーも見つかるんじゃないかってな。今は手分けしてギルド内と街中を捜してる最中だがな」


 通りで他のヴェンガドルのメンバーがいない筈だ。彼らは参加をする旨を伝えた後に颯爽とギルドを飛び出して行ったらしい。だが、式人も今はバレる訳にはいかないのだ。今はまだ少しだけ早い。だから――


「Sランク冒険者の皆さん! 全員の確認が出来ましたので、集まって下さい!」


「お、どうやら集まったみたいだな。行こうぜルーク。それとお前さんもだろ?」


「ええ」


「やっぱりSランクだったんですか! 何でさっき嘘ついたんですか?!」


「嘘はついてませんよ。()は他のSランク冒険者がどこにいるか聞かれただけで、()自身のことについて聞かれた訳ではないので」


「え〜何ですかそれ! 屁理屈じゃないですか!」


「ハッハッハッハッ! お前さん面白いな!」


 さっきまで互いに初対面同士のような反応をしていたとは思えない程仲良さげに、まるで元から仲間だったかのように三人は受付まで向かう。受付には他に七人集まっており、どうやら自分たちが最後のようだ。他の七人は式人を初めて見るような反応を示しているが、今はそれらを全て無視する。


「全員集まりましたね? それでは会場まで転移します。離れないでください」


 受付嬢が懐から出したスイッチを押す。眩い光が足元から溢れ出し、そして彼らはギルドから姿を消す。彼らが目を開けると、そこは大きなコロシアムのような会場の舞台の上だった。


『さあ、皆様大変お待たせいたしました! Sランク冒険者の方々の登場です!』


『『『『ウオオォォォォォォォォ!!!!!!』』』』


 舞台の上にまで歓声が響く。轟く。空気の波が震えて、舞台上まで伝わってくる。それはまるで――彼らにとっての因縁の戦いがすぐそこまで迫っていることを嫌でも知らせてくるような、そんな波だった。

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