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王都のギルド

すいません、遅くなりました。

 王都についた翌日、式人は冒険者ギルドに一人で来ていた。理由は依頼を探す為、ではなく、武闘会の参加申請する為である。武闘会は不定期でランダムの場所で開催されるが、主催者は冒険者ギルドである。


 実はギルドは国家に属していない。何故なら、ギルドに所属する高ランク冒険者(Bランク以上)は各国に存在している騎士団よりも強いからだ。ランク付けするのであらば、騎士団は平均でCランク相当である。これは、ようやく一人前の冒険者と言われるランクと同じだ。

 何故Cランクで一人前なのかというと、依頼をこなして生計を立てている冒険者にとって、主な依頼は魔物の討伐だからだ。それはどういうことか。常に死の危険に晒されているということと同義であるということ。故に求められている強さはかなり高い。そのため冒険者にとっての一人前とは魔物の討伐を幾つも成功させて生き残ってきた者になるのだ。


 騎士団よりも強い冒険者が国家に属していたらどうなるか。起こることは決まっている。――戦争だ。当然だろう。なんせ冒険者は騎士団よりも強く、数も多い。数が多いということは替えがきくということ。もし戦争が起きたならば、攻めた国も攻められた国も壮大な被害を齎し、疲弊しきった所を別の国から攻められ容易に落とされるだろう。故にギルドは国家に属さず、中立という立場になっているのだ。


 しかし、冒険者が騎士団よりも強いからといって騎士団とギルドの関係は悪いかと言われると、実はそうでもない。そもそも互いの仕事の領分が違うからだ。冒険者の仕事は依頼による魔物の討伐。言うなれば国の外側の仕事だ。そして騎士団の仕事は国の守護なので内側の仕事になる。互いに区分を弁えているからこそ、国の平穏は成り立っているのだ。


 だが、冒険者ギルドは強い。その気になれば国を潰せる程に。だからこそギルドは国に属さず、中立を保つことで独立した権力を得ているのだ。しかし強過ぎる力は普通の人からしたら恐怖でしかない。いつかその力が自分達に向くのではないのかと。その恐怖を緩和する為に、Sランク冒険者による武闘会を冒険者ギルドが提案した。果たして結果は功を奏した。冒険者の頂点に君臨しているSランク冒険者を直に見ることで、その実力と人柄から冒険者全体を恐怖の対象として見なくなっていったのだ。それから武闘会は大衆のイベントとして開催することになったのだ。それが今からおよそ100年程前、つまり式人達の前に存在していたSランク冒険者による武闘会の始まりである。


 式人はギルドに入り受付まで真っ直ぐ向かっていく。今は早朝と呼ぶには遅い程度の時間なので、大して冒険者はギルドにいなかった。それでもちらほら残っている冒険者はいたが、ほとんどが式人を一瞥しただけで興味が無いような素振りだった。取り敢えず式人は入り口から一番近かった受付嬢に話しかける。


「すいません」


「はい。依頼でしょうか」


「いえ、武闘会についてです」


「ああそちらでしたか。では観戦でよろしいでしょうか」


「いや、そっちではないですね」


「はい? ・・・まさか参加ですか?」


「その通りですが」


 式人と受付嬢のやり取りに、聞こえていたであろう周りの受付嬢や少数の冒険者がざわつきだす。


「・・・・・・・・・・・・はっ、失礼しました。ではギルドカードを見せて頂けますか?」


「どうぞ」


「・・・・・・・・・ほ、本物、の、Sランク」


 受付嬢のその言葉によってギルド内は更にざわめきだした。『嘘だろ!?』『俺初めて見た』『どのSランクなんだ?』 そういった言葉が式人に聞こえてくる。だが、ざわつくのも分からないでもない。何故なら彼らSランク冒険者は、何度も言うが武闘会以外では所在不明なのだ。しかも、その武闘会は開かれるのが不定期ときている。そのためSランク冒険者の風貌がどんなものか知らない者も多かったりするのだ。


「ど、どうぞ、お返し致します。か、確認ができましたので、武闘会への参加を認めます・・・」


「ありがとうございます。それでは」


「ちょ、ちょっと待って下さい!」


 踵を返し帰ろうとする式人を受付嬢が引き留める。


「・・・何でしょうか」


 ゆっくりと振り向く式人。その視線に射抜かれた受付嬢は「うっ」と唸るが、それでも引かずに告げる。


「そ、その、お名前を・・・」


「・・・? 先程ギルドカードを見せた筈ですが」


「うっ、そ、それはそうなんですが・・・ランクにばかり目を取られてしまいまして、名前を見ていないんです。で、ですのでどうか、お教え下さい。武闘会のときに名前が分からないとあれですので・・・」


 その言葉に式人は大丈夫かなこの人、と思わずにはいられなかった。というか式人以外の周りもそう思っていた。


「・・・式人です。織田式人」


 彼はいつぶりかも分からない程、久しぶりに名前をフルネームで名乗った。もう自分はパーティを組んでいないから、名前を隠す必要がないのだと。だが、その表情は懐かしそうに見える反面、どこか寂しそうですらあった。


「・・・・・・はっ。お、オダ・シキトさんですね」


 式人のその表情に受付嬢は何故か胸を痛めたが、気を取り直して仕事に戻る。


「はい。もう行ってもいいですよね?」


「あ、はい。引き留めて申し訳ありません。ありがとうございました」


 一度は止められたが今度こそ式人はギルドの外に出た。武闘会についての説明は前回聞いているし、毎回集合場所はギルドだということはそのときに聞いたのであまり聞く必要はない。

 さて、これからどうしようと考え、そういえば朝食を摂っていないことを思い出したのでどこか食べる場所を探しながら歩いていると、正面からラナとミーナが歩いて来るのが見えた。散歩だろうか、と思案しているとミーナが式人を見つけ、「あ〜〜!」と大きな声で叫んだ。近所迷惑である。


「見つけた! どこに行ってたのよ!」


「ギルドだけど」


「どうして?!」


「どうしてって・・・武闘会の参加申請しに来たからだよ」


「〜〜〜〜〜〜っ! だったら一声かけてから行きなさいよ!」


「何でだ?」


「何でって・・・その・・・」


「はぁ。シキト君。君は朝食を食べたかい?」


「まだですが」


「それは好都合だ。どうやらミーナは君と一緒に食べたかったらしくてね。君の部屋に行っていないと分かったらものすごい慌てていたよ」


「ちょ、ちょっと! あたしは別に・・・」


「おや、では先程の様子をシキト君に伝えようか。んんっ、ごほん。『ら、ラナさん! し、し、シキトが』」


「ああ〜〜もう、分かったから! 食べるから!」


「そうかい。それは何より」


 相変わらずミーナはラナにからかわれているようで、式人は二人のやり取りをただ眺めて苦笑しているだけで止めようとはしないようだった。だが、ギルドの前でずっと叫んでいる訳にもいかないので、そろそろ止めることにする。


「ラナさん、揶揄うのもその辺にして飯食べに行きませんか?」


「そうだね。オススメの食堂があるんだ。そこに行こうではないか」


「あっ! ちょっと! 置いていかないでよ!」


 式人は騒がしくしながらも会話する二人を見ながら、ラナのオススメの食堂とやらに向かった。こんなのも悪くないと思いながら。――頭の片隅では仲間たちと囲った夜を忘れられずに。

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