王都
馬車の中でラナから式人の過去をミーナが聞いている内に、一行はとうとう王都まで後少しという所まで来ていた。
「ラナさん、そろそろ王都が見えてきますよ」
「そうか。では、話はここまでだな」
「もう少し聞きたかったけど、仕方ないわね」
そんなに話すことがあったのか、と式人は僅かに驚いていた。式人は自分のことがそんなに広まっているとは考えていなかったからだ。そんなことは少し考えれば分かるはずなのだが。彼がいたパーティ――『ヴェンガドル』はドラゴン討伐を成し遂げたのだから。
だが、それは仕方のないことだった。地球で過ごしてきた式人が、誰かに評価されることはなかったのだから。
長年無能扱いを受けてきた人間が異世界だろうが何処だろうが、誰かに評価されるとしたら何を思うか。そんなものは決まりきっている。――“評価されてるのは俺ではない” “仲間が凄かっただけ” “俺は偶々その場に居ただけだ”――即ち、自己卑下だ。
式人が自らにSランクを与えたのは偶々彼に与えられた力が、偶々周りより上回っていただけ。ただそれだけの話だった。
式人の自己評価は最低だ。だから式人はSランクになれたことを決して実力だと言わず、常々思っているのだ――運が良かっただけだ――と。式人に与えられた力が、地球で得た知識を応用できたから。地球にはなかった魔力というものが、この世界での式人には人並み以上に備わっていたから。アーレスに来てすぐに彼女に出会えたから。
そんな人間にパーティのリーダーが務まる筈がないと、式人は考えてきた。だから彼は決して目立つことはないように徹してきた。普段からフードを被り顔を周りに見せず、名前すら彼は出そうとしなかった。それが今でも周りに式人だとバレていない理由だ。
いつかラナが予想したのは魔法具で周りを欺いているというものだったが、そうではない。単純に式人は顔も名前も知られていないからだ。
「ラナさん、王都が見えてきましたよ」
「そうか、ありがとう。ミーナ、市民証は持っているね?」
「ええ、持っているわよ。ほら」
ミーナはネックレスのように首にかかっていたタグを見せる。市民証とは、冒険者ギルドに所属していない一般人が持つ身分証明書である。書いてあることは名前と市民証を発行した街、犯罪歴である。犯罪歴があると街には入れてもらえない。当然だ。どこの街が好き好んで自分の街に犯罪歴を持つ人間を入れたいと思うのか。だからこそ盗賊は街に入れず、山などで身を隠すしかないのだ。
式人は馬車をそのまま進め、王都の入り口まで行く。入り口にはどこか気の抜けてそうな男が立っていた。
「王都に入りたいんですけど」
「それじゃあ、身分証明書見してくれるかい?」
「ギルドカードで」
「はい・・・よ・・・・・・。あんた、武闘会に?」
「ええ、まあ、そんなとこです」
そんなとこもなにもその通りなのだが。
「そうかい。馬車の中は?」
「こっちだ。私はギルドカードで」
「こっちは市民証よ」
「よし。確認した。全員問題なしだ。ようこそ王都へ」
式人は馬車を進めて中へと入っていく。
「そういえばラナさん、ギルドと宿の場所って分かります?」
「ふむ、大抵のギルドは入り口から真っ直ぐに行ったらあるようになっていて、宿はギルドの隣にあることが多い。まあ私は王都の宿で何回か泊まったことがあるから場所を知っているが、他の街でも同じ筈だから覚えておくといいよ」
「へえ、そうなんですか。それにしてもこの道だけやたら広いんですね」
「そうだ。馬車が通れるようにな。というか君は冒険者なのだから、知っていると思ったが?」
「・・・・・・」
式人はそっと目を逸らした。そんな式人の様子を見て呆れているラナに宿の場所を聞いて辿り着いた式人は、早速馬車を停めて宿の中に入っていく。
「すいません。泊まりたいんですが空いてますか?」
「あら、いらっしゃい。何人かな?」
「男一人と女二人で二部屋希望したいんですが。後は馬車がありますね」
「それなら空いてるわね。馬車も馬を外して馬小屋に連れて行ってくれたら、そこに繋ぐ場所があるからね。馬車は置く場所があるからそこに置いてくれればいいわよ」
女将と思しき女性が帳簿を見て部屋が空いていることを確認する。
「分かりました。いくらですか?」
「どれくらい泊まるかにもよるけど、一人一泊で300Aね」
「ラナさん、武闘会はいつからでしたっけ」
「四日後だな。だから取り敢えず五泊程でいいのではないか?」
「そうですね。それだと4500Aですかね」
「ちょっと待ってね。・・・そうね、4500Aになるわ」
「これで。丁度あると思いますが」
「・・・はい。確認したわ。じゃあこれ鍵ね。階段を上って一番奥の部屋で一応隣同士にしといたから。追加で泊まりたい場合は前日までに伝えて頂戴」
「分かりました」
式人は受け取った鍵をラナに渡す。
「すまないシキト君、金は返す」
「いや、これくらい気にしなくていいですよ」
「しかし、それではシキト君に負担がかかってしまうではないか」
「いえ、これでも冒険者なんで金は十分にありますよ」
「だからといって全部シキト君に任せてしまうのは・・・!」
二人が(どうでもいいことで)言い合っていると、ミーナが欠伸をする声が聞こえてきた。どうやら初めての遠出で興奮していたが、とうとう限界がきたようでかなり眠そうだ。ラナと式人は互いに顔を見合わせ頷き合い、今は取り敢えず部屋に向かうことにした。
「ミーナ、部屋まで歩けるかい?」
「ええ、それくらい歩けるわ」
「俺が背負ってもいいんですが」
「まあ、すぐそこだからな。一番奥の部屋だろう?」
「ええ。俺はその手前の部屋ですので、何かあったら来てください」
「是非そうさせて貰うよ」
三人はそれぞれの部屋に入る。部屋の中は一人で使うには少し大きいベッドがあり、その隣には机がある。それなりに良い宿屋なのだろうということが窺える。
「王都だけあって宿も広いな」
式人は一通り部屋を見渡して呟き、四日後の武闘会に思いを馳せる。式人が考えているのは仲間達のこと。自らが切り捨てた過去。そこに後悔はない。それしか方法がなかったから。
だが、簡単に捨てられる程式人は大人ではなかった。今でも仲間達を気にしてることがその証拠。だからこそ未練と呼ぶのだ。それでもその未練も四日後の武闘会で終わる。式人は彼らの成長を、行く先さえ知ることができればそれでいいのだ。
それは傲慢だろうか。成長したかを知る。かつて彼らに師の真似事をした身からすればこの上ない光栄だろう。しかしそれは心のどこかで彼らを下に見てしまっている言い方だ。
「文句言われるだけで済めばいいが・・・」
そう言いながらそれはないと確信している。彼らは式人のことを慕っていたのだ。各々の考えはあるだろうが、それでも式人の強さに憧れたからこそ彼らは付き従った。そんな彼らが突然消えた式人に思うのは何か。事情があったのかもと信じる慈悲深い優しさ。或いは慕っていたが故に裏切られたと感じる程の憎悪。そのどちらかだろう。
だが、式人にも事情がある。話すわけにはいかないのだ。何故行方を晦ましたかなど。言ってしまえばそれこそ何を言われるか分からない。――だが、そうは言っていられないかもしれない。
「・・・話さなきゃいけないのかね」
式人は今から覚悟をしておくことにした。行方を晦ました理由を話す覚悟を。いらない覚悟だと願いながら。
今月全然投稿できなくてすみません。割と時間が取れないもので、という言い訳です。はい。相変わらず最後まで読んで下さってる方がいるのか分かりませんが、これからも気長に待っていただけたらなと思います。後は誤字脱字等ございましたら報告をいただけたら直ぐに修正致します。




