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依頼の完遂

取り敢えず山は超えたので更新します。そしていつもより長い気がします。

 ヤナの店でバイトをしつつミーナにヤナと同じことを教えたり、アンナの経過を聞いたりしていたらいつの間にか一週間が経っていた。この一週間、あまり変わったことは無かったが、唯一変わったことと言えば――


「ちょっとシキト! これはどうしてこうなるのよ!」


「いや、そこはこうやるんだが・・・」


 ミーナが式人の予想通りに元気になったことだった。少し元気過ぎる気もするが、いつまでもしょげられてるよりかは遥かにマシなため、あまり気にしないことにしている。そしてミーナは地頭が良かったらしく、教えたことをまるでスポンジのように吸収していくのだ。そのためつい調子に乗った式人はどんどん関係無いことまで教えてしまったのだ。その結果、


「シキト! 早く私にこの前言ってた、さいんこさいん? とかいうのを教えなさいよ!」


「それ絶対受付嬢には必要ないよな・・・」


 何でも知りたがる好奇心旺盛な少女になってしまったのだ。少し好奇心が激しい気もするが、この世界では平民は教育を受けることは難しいため、このようにして聞いてくるのだろう。今はとても反省しているが、後悔はしていない。要するに式人も楽しかったのだ。何でも吸収する様は見てて気持ちよかったのだ。


「今日はギルマスに呼ばれてるから無理だ。というかもう教えることはないって言ったろ? これだけ出来れば受付嬢なんてすぐになれる。後は経験だけだ。何の文句もないだろ?」


「それは・・・そうだけど」


 今、ミーナと式人はヤナの店『ベーカリー』の奥にいる。式人のバイトやヤナへ教えるためのついでに都合がよかったので、ベーカリーになった。今の式人は休憩中だ。


「シキト君。今日はもう終わりにしていいぞ」


「分かりました。ではお疲れ様でした」


「ああ、お疲れ様」


「あ! ちょっと!」


 バイトが終わり式人はそのままギルドへ向かう。後ろからはミーナが付いてきているが、いつものことなので気にしない。


「それでどうしてギルドマスターに呼ばれたの?」


「そうだな。そろそろ一週間経つから、そのことじゃないか?」


「あ・・・」


 そうなのだ。ミーナに教えるのは一週間という制限が合った。ミーナも楽しかったのだろう。寂しそうに顔を伏せる。少ししんみりとした空気の中、二人はギルドにやって来た。中に入ると一瞬静かになるが、入ってきたのが式人だと分かるとまた元のように騒ぎ始めた。式人はそんな騒ぎや視線を全て無視して受付嬢のところに向かう。


「すいません。ギルドマスターに呼ばれてるんですが」


「はひ! シ、シキトさん!」


「ん?」


 よく見ると先日謝罪してきたレンカだった。しかし今では前のような凛々しさはなく、顔を真っ赤にして慌てている様子しか見ていないので、この人大丈夫かなと式人(元凶)はいつも思っていたりする。


「ご、ごようけんは、な、なんでしょう?」


「いや、ギルドマスターに呼ばれてるんですが」


「そ、そうでしたね! え、ええと・・・」


「・・・レンカさん。私が代わります」


「ウルカさん・・・ありがとうございます」


「シキトさん。どうぞこちらに。シキトさんがお見えになったら通すようにギルドマスターから伺っております」


「そうか。ありがとう」


 レンカに代わってウルカが式人を案内する。ウルカと式人とミーナは今では慣れたギルドマスターの部屋までの通路を歩く。ギルドマスターの部屋に辿り着きウルカが扉をノックすると、中から「入ってくれ」と聞こえてきた。


「失礼します。ギルドマスター、シキトさんとミーナさんをお連れしました」


「ご苦労だったね。下がっていいよ」


「失礼致します」


 そのままウルカは出ていった。


「よく来たね。取り敢えず座ってくれ」


 初めてミーナと会ったときと同じように式人は左側のソファに座り、ラナも式人の対面に座る。あのときと違うのはミーナが式人の隣に座っていることだろうか。


「さて、シキト君を呼び出した理由は・・・分かっているか」


「そうですね。依頼の完遂でしょうか」


「その通りだ。一週間ご苦労だったね」


「待って!」


「何だい?」


「まだ・・・まだ続けることはダメなの?」


 その言葉には式人もラナも驚いた。当然だろう。一週間前までは教わることはないと言い放ったり、謝った後に落ち込みながら教えを乞う程だったのだ。それが今では続けて欲しいと言う程までになったのだ。それはつまり、式人の教えがそれほどまでに分かりやすかったか、面白かったかのどちらかだろう。あるいはその両方か。どちらにせよミーナには良い経験だったということだろう。だが、その時間はここで終わりだ。


「済まないが、シキト君はこの街を発たなければならない」


「どうしてよ!」


「それは俺も知りたいですね」


「ふむ。では二人ともこれを見てくれ」


 ラナが差し出したのは一枚の紙だった。


「ああ、今年なんですね」


 一瞥しただけである程度の内容は掴めたのだろう。式人はそれだけで理由を察した。


「ちょっと、どういうこと?」


「武闘会は知っているだろう?」


「知ってるわよ。Sランク冒険者が集まる大会でしょ? それがどうしたのよ」


「つまり、シキト君には武闘会出場のための招集がかかっているんだよ。まあ、彼はSランクなのだから当然といえば当然なのだが」


「Sランク?」


「ん? 何だ、知らなかったのかい? 君の隣に座っている彼は世界にたった10人しかいないSランク冒険者の一人なんだよ」


「うぇ?」


 よっぽど驚いたのだろうか。変な声を出してミーナは式人を見る。当の本人はとても冷めた目をして紙を見ているが、ミーナはその反応だけで嘘ではないと分かってしまった。それと同時に自分がやったことを思い出し――


「あ、あたし、その、知らなくて・・・だから、その・・・ご、ごめんなさい〜〜」


 泣き出してしまった。隣で突然泣き出された式人はぎょっとしている。それほどまでに式人が怖かったのだろうか。


「どうして泣く? 俺は気にしていないと前にも言ったぞ」


「だ、だって・・・」


「俺は別に怒っていないだろう? なら君が気にする必要はないはずだ。だから泣きやめ。な?」


「う、うん」


「それで分かってくれたかな、シキト君がこれ以上街にいられない理由が」


「ええ、良く分かりましたよ」


「あ、あたしも分かったわ」


「それはよかった。まあ今年の開催場所は運がいいことにこの国、ウルス王国の王都だ。開催は二週間後だが、今日明日中に出れば間に合うだろう」


「そうですね。じゃあ明日行きます。宿も丁度明日までなんで」


「決まりだな。それとシキト君。依頼完遂の報酬だ」


 そう言ってラナは立ち上がり、机の引き出しから布の袋を取り出した。今回はラナからの依頼だったのでウルカを呼ばずに自分で渡そうとしたのだろう。


「中には100万(アルカ)入っている。確認してくれ」


「ひゃくまん?!」


「何を驚いているんだい? ミーナ、君が受けた教育は世界最高峰のレベルだぞ? 世界中の貴族が金を出してでも受けさせて欲しいと言ってくる位だ。寧ろ100万ですら足りないと言っても過言ではない」


 いや、義務教育なんだが・・・それで金を貰ってもな・・・と式人は思ったが口には出さない。この世界の教育水準は低いのだ。最悪地球の小学生が天才と称されてしまう程に。義務教育どころか高校にまで通っていた式人が教えるのだ。簡単に天才など生まれてしまう。だからこそ式人は何も言わない。天才を育てたかった式人だが、天才を()()()()()()()()()()()()()のだ。


「自覚した方がいい。君は計算に関してなら誰にも負けないレベルの能力を手に入れたのだと」


「そ、そうね。分かったわ。あたしはシキトから教わったことを誇りに思うわ」


「その意気だ」


 何やら変なことになってる気もしなくもないが、式人は全て聞き流した。


「ではシキト君。明日準備が出来たらこの部屋に来てくれ。受付嬢には話を通しておく」


「分かりま――ん? 何故ラナさんの部屋に?」


「おや? 忘れたのかい? 武闘会にはギルドマスターも観戦に行く義務があるんだよ」


「そういえばそうでしたね」


「え? てことはラナさんもシキトに付いて行くってこと?」


「そうなるな」


「なにそれずるい!」


「ずるいと言われてもな・・・これ義務だし」


「それってあたしも見れないの?」


「確か冒険者に混ざって見れる筈だが」


「それならあたしも連れてって!」


「はぁ・・・シキト君」


「別に構いませんが・・・アンナさんはどうするんです?」


「仕方ない、アンナのことはウルカに任せよう。彼女は優秀だからな。アンナが目を覚ましたら適切な対処と現在の状況を伝えるように言っておこう」


「そうですか」


「ミーナ、今回だけだぞ」


「分かってるわよ。二人ともありがとう」


「やれやれ。では明日は頼むぞ」


「分かりました」


 そんなこんなで二人程お供が付いてくることになったが、式人は意外と楽しみにしていた。久しぶりに一人ではなく行き先が決まっている旅なのだ。話相手がいるということはそれなりに疲れが紛れるものだ。

 だが式人は忘れていない。武闘会に出るということは、かつての仲間たちと再会するということを。あいつらはどうなっているだろうかと、自らが切り捨てたものへと思いを馳せる。だがそれは自分が気にしてはいけないことだとすぐに思い直す。しかし思わずにはいられない。彼が捨ててしまったものが行く末を、その先を気にせずにはいられなかった。その気持ちはきっと『未練』、或いは『傲慢』と、そう呼ぶのだろう。

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