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対面

 受付嬢――ウルカというらしい――に案内されてギルドマスターの部屋の前までやって来た。ウルカが扉をノックすると中からラナの声が聞こえてきた。


「誰だい?」


「ウルカです」


「ああ、入ってくれ」


「失礼致します」


「失礼します」


 ウルカに続いて中に入ると、ラナの他にもう一人子どもがいることに式人は気がついた。見た目は10~12歳程で金の髪を肩まで伸ばしている。ウルカが反応しないあたり、恐らくはその子が件の教えて欲しい相手なのだろう。

 見た感じはそこまでやんちゃには見えず、大人しく――式人から見て右側の対面式のソファに――座っている・・・かと思いきや顔が膨れており、足もプラプラと揺れている。

 これは確かに大変そうだなと思いラナに目線を移すと、ラナは入り口の正面の木造式の机で書類を見ているところだった。


「ギルドマスター。シキトさんをお連れしました。」


「ご苦労だったウルカ君。下がっても構わないよ」


「分かりました。失礼致します」


 ウルカが部屋を出ていってからラナは書類から顔を上げて式人を見て立ち上がる。


「よく来たねシキト君。取り敢えず座ってくれ」


「それではお言葉に甘えて」


 恐らく断っても話が進まないだろうと考え、左側のソファに座る。ラナは式人の対面、子どもの右側に座った。


「それじゃあ、互いに自己紹介といこうではないか。シキト君からお願いするよ」


「分かりました」


 式人は目線を子どもに向けて自己紹介をすることにした。が、


「俺は式人。よろしく」


 とても自己紹介とは言えない、ただ名前を言っただけの式人にラナは頭が痛くなった。そして、


「あたしはミーナよ。よろしく」


 こちらも同じような紹介で、しかも先程までと違って腕を組んでふんぞり返っている。そんな二人の様子にラナは頭を抱えたくなった。だが、


「あたしはあんたみたいに、なよなよした人から教わることなんて何も無いわ」


 本当に子どもか? と疑う程の言葉に式人は内心驚き、ラナは頭を抱えた。しかし元アルバイト講師の経験がある式人は、そんな反応には慣れている。驚いたのは、そういった反応が久しぶりだったからだ。そしてこういった場合は対処方法がいくつかあるが、その一つとして式人は敢えてそれに乗ることにした。


「まあ、そうだよな。俺みたいなやつから教わることなんか一つもないよな」


「ええ、そうよ。分かってるじゃない」


「俺もね、依頼されたから来たけど算術や薬学なんて別に教わらなくたって生きていけるしな」


「ええ、そう・・・ん?」


「それに俺は冒険者といっても戦闘――主に補助がメインだからね。中でも仲間が呪いや毒にかかったりしても解呪や解毒はお手の物って訳だが、誰かに教えるのは苦手でね」


「ちょっと・・・」


「まあ、依頼者には断られたしギルドマスターには悪いけどこの話は無かったということで・・・」


「待ちなさい!!」


「ん? どうした? 俺はこれから宿に帰って延泊の願いを出しに行かなきゃならないんだ。明日もバイトがあるからな」


「あんた・・・お母さんのこと知ってるの?」


「君のお母さんのことは知らないが、症状には心当たりがあるね」


 その言葉にはミーナはともかくラナも驚いていた。原因が分からないまま二週間もの間、高熱を出しながら目を覚まさないのだ。それが治るかもしれないという情報は二人を大いに喜ばせた。だが、


「でも君は教わることなんてないと言った。ならば、()()()()()()()()()()()()? まさか君は人の命がかかっているからと言って助ける方法を無償で聞けるとでも思っているのかい?」


「「な!?」」


 続いた式人の言葉に二人は絶句した。だが、式人の言葉は止まらない。追い詰めるかのように叩きつける。


「『人の命がかかっているから。』・・・なんて都合の良い言葉なんだろうね。人は命がかかっていると知れば途端に手の平を返す。ましてや自分の友人や家族となれば尚更だ。当然だ。人間にとって一番大切なのは自分の周りの事だけで、自分の知らない人間は関係ないんだから。君は毎日どこかで誰かが死んでいるということに心を痛めるのかい? それと同じだよ。君のお母さんが死のうとも、俺には関係ないことだ。命がかかっているから助けて欲しいなんてのは、時と場所を選んで使うべきなんだよ。だが君は使う時も場所も間違えた。君のそれはただの命に対する冒瀆で、必死に生きている君のお母さんに対する侮辱にすぎない。それでもなお、君は『母の命がかかっているから助けて欲しい』なんて口にするつもりかい?」


 最後の言葉を聞いてミーナはとうとう泣き出した。言い過ぎた。なんて式人は思っていない。事実だからだ。命を助けて欲しいと言うならば、助けるに値する行動をしてきた人間が、誰かを助ける力を持った人間に言うべきなのだ。助けたいから助けるなんてものは嘘だ。正確に言うなら助けられるから助けるとなるはずなのだ。


 だが、冒険者である式人は知っている。それは無理だということを。かつて助けようとして助けられなかった命があった。力が足りなかった。誰かを助ける力を持っていなかったが故に、目の前で命がこぼれ落ちていく恐怖を式人は知っている。今でも忘れない。忘れることができない。――『君は私が守らなきゃダメなんだから。』――そう言って二度と目を覚まさなかった人がいたことを覚えている。


「確かに君には関係のないことだ。だが、それでも私は言おう。彼女を、ミーナの母を助けて欲しい。これは依頼ではない。私の個人的なお願いだ。ギルドマスターとしてではなく、彼女の友人として君にお願いする。どうか助けてくれないだろうか」


「お、おねがい・・・ヒッ・・・します・・・グス」


 それでもラナは式人に助けて欲しいと言い、頭を下げた。隣ではミーナも泣きながら式人に向かって頭を下げている。


「ええ、分かりました」


 拍子抜けするぐらいあっさり請け負った式人に二人はポカンとする。元々式人は助けるつもりだったが隠れてやるつもりだったので、今回お願いされたことによって堂々と助けることができるようになったのはありがたかった。


「では、行きましょうか」


「どこへだい?」


「決まっています。病人がいるところにですよ」


「「へ?」」


「授業ですよ。病気に対する対処法です」

すいません。今月は割と忙しいので、次に投稿できるのがいつになるかわかりません。気長に待っていただけたらなと思います。

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