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謝罪

すいません、遅くなりました。

 ベーカリーでラナに新しい依頼として受付嬢の子どもに教えて欲しいと言われた翌日、式人はベーカリーでヤナと会計の練習をしていた。


「15+15で30だから・・・合計は30+40で70か?」


「正解です。これだけできるようになったなら、もう教えることは何もありませんね。これで店長は一人で会計ができるようになったと言ってもいいですね」


「本当かい?」


「ええ、これだけ間違えないで合計を出せたのなら、もう問題ないでしょう」


「そうか・・・。私が算術をできるようになるとは思ってもみなかったよ。ありがとうシキト君、君のお陰だ。何かお礼をしたいが・・・」


「いりませんよ、お礼なんて。依頼ですから仕事の内ですよ」


「やはりそうか。すまないね。代わりに報酬には色を付けよう。それより今日はもう閉めてしまうが、ギルドに行くのかい?」


「ええ、行こうと思ってます。店長はラナさんが言っていた子のことをご存知なんですか?」


「いや、私は会ったことは無いがラナから話だけは聞いている。すごくやんちゃな子らしい」


 その話を聞いて式人は内心驚いていた。受付嬢になりたいと言うのだから、てっきりもっと大人しい子どもだと思っていたのだ。しかし、どうやら違うようで想像とは大分かけ離れた性格の子どもらしい。


「それはまた、意外ですね」


「そうかい? 母親の為に受付嬢になるなんて、可愛らしいじゃないか。それに親の仕事に憧れるのは子どもの特権さ。誰もが一度は親の仕事に憧れ、そして目指すんだ。どうだい? そう聞くと大して珍しくないだろう? 単純にあの子は受付嬢に憧れたからなりたくなった。そう思えばどこにでもいる子どもと変わらないと思わないかい?」


 ハッとした。確かに子どもは一度くらいは親の仕事に憧れる。それが人助けや有名な仕事であれば尚更だ。なるほど、と式人は思う。どこにでもいる子どもと考えれば、そんなに珍しくもなく寧ろ一般的だと言えるだろう。子どもにとって親とはカッコよく見えるもので、その背中を追いかけることで育っていくのだ。


「そうですね。確かに普通の子どもですね。俺が間違っていました。」


「分かってくれたようでなによりだ。では店を閉めようか」


「はい。では店長、また明日」


「ああ、また明日も頼むよ」


 そう言ってベーカリーを出てから式人はこの街に来て以来、ずっと来ていなかったギルドまでやって来た。式人が中に入るとギルドの中は静まり返る。その静寂を無視して式人は受付に向かい、ギルドマスターに呼ばれたことを伝え、ついでにバイトの依頼の報酬を貰うことにした。式人がボーッとしながら報酬が来るのを待っていると、一人の受付嬢が近づいてきた。


「シキトさん、でよろしかったでしょうか」


「そうですが」


「私は受付嬢のレンカと申します」


「はあ、そうですか」


 少しぞんざいに扱われたレンカは顔が引き攣っているが受付嬢としてのプライドなのか、なんとか態度には出さんと努力をしているようだ。そんな投げ遣りな式人はレンカの顔を一瞥して、早く本題を話せと目で促す。そんな視線を感じとったのか、レンカは急いで話すことにした。


「実はシキトさんに謝りたいと思いまして」


 その言葉を聞いてようやく式人はまともにレンカの顔を見た。レンカは腰まである赤の長い髪を後ろで一つに括っており、所謂ポニーテールという髪形をしている。ついでにかなりの美人で、眼鏡が似合いそうだな、と式人はそんな感想を抱いた。


「シキトさんが最初にこのギルドに来た時に絡まれた出来事は、私が冒険者に依頼してやったことなんです。本当に申し訳ございませんでした」


 と言ってレンカは頭を下げた。


「いや、大丈夫ですよ。特に問題が起きた訳でもないんで気にしないでください」


 だから頭を上げてください、と言って式人はレンカの頭を上げさせようとする。というか式人は現在かなり居心地が悪かった。突然受付嬢が頭を下げたのだから、何事かと冒険者達に思いきり見られていたのだ。しかも、かなりの美人で冒険者の間では人気のあるレンカが頭を下げたのだから、式人の気分は針のむしろ状態で居心地が悪かったのだ。

 それでも頭を上げないレンカに式人は少し強い口調で彼女の名を呼んだ。ビクッとしたレンカは恐る恐る式人の顔を見た。


「本当に気にしてないんで大丈夫ですよ。こんな見た目ですからね、本当にSランクかなんて思いますよね」


「い、いえ、そういう訳では・・・」


「取り敢えず頭を上げてください。ずっと下げていては、話も出来ませんから」


「は、はい。それでは失礼しまして・・・」


 ようやく頭を上げさせることが出来た式人はホッとして、気を抜いてしまった。それがいけなかったのだろう。少し、だが確実に式人は笑ってしまった。それはほんの少しの微笑でしかなかったが、それでも笑ったのだ。

 仲間と別れてから、いや、この世界に来たときから式人は一度も笑っていない。笑わないように徹してきた。彼の笑顔はいつだって苦笑か自身に対する嘲笑だけだった。

 そんな式人が、仲間にすら一度も見せなかった笑顔をレンカに見せてしまったのだ。それはまるで子どものようで、しかし年相応の青年の笑顔で。そんな式人を直接見てしまったレンカは、途端に顔が音をたてるように真っ赤に染まった。その様子に式人はどうしたのかと疑問に思い、レンカに詰め寄った。


「大丈夫ですか? 突然顔が赤くなりましたけど、もしかして熱でもあるんですか?」


 近づいてきた式人にレンカはパニックに陥ったようで、「あ、う」と呟き、口をパクパクとしている。熱を測ろうと式人は手を伸ばしたが、そこにギルドマスターの部屋に案内する為の受付嬢がやって来た。


「シキトさん、ギルドマスターのお部屋にご案内致しますので、どうぞこちらに」


「分かりました」


 と、手を下げた式人をレンカは少し残念そうな顔で見る。


「それでは俺はこれで。レンカさん。風邪をひいてるようなら帰って安静にしてた方がいいですよ」


「ひ、ひゃい・・・」


 油断しきっていたレンカに式人は心配するような素振りを見せたために、驚いたレンカは変な声が出てしまった。その様子に首を傾げながら受付嬢のあとに付いていく式人は、後ろでレンカが倒れたことなぞつゆ知らずギルドマスターの部屋に向かうのだった。

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