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新たな依頼

「それでシキト君。どうだろうか」


「どう、とは?」


「私の職場でも教えてはくれないか、ということさ」


「なぜですか? ギルマスや受付嬢にはそんなこと必要無いはずですが」


 ギルドマスターや受付嬢は基本的な読み書きや計算はできるはずだ。依頼書を読んだりギルドカードを作成する際に代筆を頼まれることもあるのだから、式人が教えることは何も無いはず。もし教えるとしてもギルドマスターはともかく、受付嬢は常に全員ギルドにいる訳ではないのだから、読み書きや計算を教える時間も人も足りているはずである。


「いや、私は君ほど早く計算は出来ないから教えて欲しいが、頼みたいのは受付嬢ではない」


「それじゃあ誰に?」


「・・・まさかラナ、あの子か?」


「そうだ。あの子だ」


「あの子?」


「ああ。うちの受付嬢の子どもだ」


「・・・子ども?」


 意外に思った。てっきり大人相手に教えて欲しいと言っているものだと式人は考えていた。


「ああ。といってもどこかおかしいという訳ではない。ただの子どもだ」


「なぜですか?」


 その「なぜ」には、いくつもの意味が込められていた。なぜ自分なのか。なぜ母親である受付嬢が教えないのか。なぜ教える必要があるのか。

 それを正確に汲み取ったのか、ラナは一つずつ返した。


「それは簡単だ。まず君は人に教えることに慣れているということ。これは重要だ。人に教え慣れていない人に頼んでも、分からないからね。そして君は恐らく、いや、確実に教えるのが上手い。でなければ、一日でここまで計算ができるようにはならないだろう。次に受付嬢だが、彼女は今入院中だ。原因は分からない。最後にその子は将来受付嬢になりたいんだとさ」


「原因が分からない?」


「ああ。二週間程前のことだよ。突然彼女は倒れたんだ。受付で倒れたからそのときはギルド中が大騒ぎさ。なんとか病院に運んだが、彼女は未だに眼を覚まさないんだ。そしてすごい高熱が出ている。その子はそんな彼女を見て少しでも助けになれたらと、受付嬢になろうとしているんだ」


「いい、と思います。とても立派なんじゃないでしょうか」


「健気だろう? その子は今はギルドで面倒を見ているんだが、私は上手く教えることができないんだ。簡単な読み書き程度なら教えることはできる。だが、計算となるとそうはいかないんだ」


「そういうことですか。職場、つまりギルドでその子に教えるのと並行して周りにも教えてやってくれということですね? ついでに自分も含めて」


「そうだ。あとは君に一度ギルドに来て欲しいというのもある」


「なぜでしょう」


「君がこの街に来たときにうちのギルドで絡まれただろう? あれは一人の受付嬢が勝手に出しゃばったことで起きたことだ。そのための謝罪をさせたいのさ。勿論私のミスでもあるため私も謝罪しよう。すまなかった」


 突然頭を下げられた式人は若干困惑しながら、頭を振った。


「頭を上げてください。俺は全く気にしてませんので」


 事実、式人は全く気にしていなかった。舐められても仕方ないと考えているが、それとは別の方向で気にしていなかった。どうでもよかったのだ。意外に思われるかもしれないが、式人は周りに対する関心が薄い。興味がないと言ってもいい。別に自分が強いからという思い上がりや、周りを見下している訳ではない。ただ純粋に興味がないだけだった。勿論そんな素振りは全く見せずに式人はラナの謝罪に対応した。


「しかし・・・」


「いいんですよ。ラナさんが、いえ、ギルドマスターが気にする必要は無いんですから。そんなことより依頼の話をしましょう」


「ああ、そうだな。シキト君に教えて貰いたいのはヤナと同じもの、つまり計算だ。内容は君に任せる。勿論これはギルドからの指名依頼として依頼するので報酬は出す。期間も君に任せよう。これでどうだい?」


「ええ、それで大丈夫です。時間はいつ頃?」


「そうだな・・・。ベーカリーを閉めてからギルドに来てくれれば、その子に会わせよう」


「分かりました。では明日からでも構いませんか?」


「いつでもいいとも。準備が出来たらギルドに来て欲しい。受付で私の名前を出せば私の部屋に連れて来るように伝えておこう」


「分かりました」


「話は終わったかい?」


「店長、終わりましたよ」


「そうか。では今日はもう時間だから店を閉めようか」


「なら私はもう帰るとするよ」


「では店長、また明日」


「ああ、また明日」


 そうして新しい依頼をギルドマスターから直々に紹介されて今日のバイトは終わった。

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