姉妹
すいません、遅くなりました。読んでいただけたら幸いです。
パン屋『ベーカリー』でバイトにスカウトされた翌日、同じ時間に式人は裏口から入った。
「こんにちは」
「ああ、こんにちは。来てくれたんだね」
「まあ、金はいくらあっても困りませんからね」
「正直だね君は。・・・ところで君の名前は何だったかな?」
「すいません、言ってませんでしたね。式人です。」
「そうか、シキト君だね。では今日も頼むよ。君以外に人が相変わらずいないが・・・まあ大丈夫だろう?」
「要領は分かりましたから、なんとかなるでしょう」
「頼もしいね。ではよろしく」
この世界に来る前までしていたバイトの経験がこのような形で活かせるとは思っていなかったが、数多の店でバイトしてきた式人には慣れたものだった。
「『ベーカリー』開店です。」
店を開けると疎らにいた人達が一斉に集まってベーカリーに入ってきた。やはりこのパン屋は人気があるようで、店の半分程が人で埋まっている。それらの客を捌ききると、昨日も来た女性がベーカリーにやってきた。何となく雰囲気が店長に似ているなと式人は考えていた。
「おや、ここで働くことにしたのかい?」
「この街にいる間は、ですが」
「それでも助かるよ。客を捌くのが早いのは客側も店側も得だからね」
「こんなもの、ただの慣れですよ。俺じゃなくても誰でも出来ますよ。この店に来たのがたまたま俺だったってだけで」
どこか自嘲めいたその言葉に女性は何かを感じ取ったのか、追求はしなかった。
「シキト君。パンが焼けたから並べて・・・・・・おやラナじゃないか。どうしたんだい?」
「ああ、パンを買いに来たんだよ。ここ以外に美味しいパン屋は無いからね」
「嬉しいことを言ってくれるね。ラナもここで働いてくれないかい?」
「すまないね。私にも仕事があるからそれは出来ない相談というやつだ」
「そうか。まあ分かってた事だが働く気になったらいつでも来たまえよ。歓迎するよ」
パンを並べ終わったところで式人は二人のことについて聞いてみることにした。
「ところで店長。お二人は姉妹ですか?」
「ん?ああそうだよ。私が姉でラナが妹だよ。よく私たちが姉妹だと気づいたね」
「まあ、雰囲気が何となく似てたので」
「そんなに似ているかな」
「ええ、似ていますよ」
「そんなこと言われたのは初めてだね」
「そうだね。では改めて私はラナだ。よろしくシキト君」
「こちらこそよろしくお願いします」
「挨拶もしたことだし、ラナは何か買っていくのだろう?」
「そうだね。あんパンと食パン、それからハムチーズパンを貰おうか」
「ありがとうございます。合計60Aになります」
「相変わらず計算が早いね君は。・・・これでいいかい?」
「はい、ちょうどお預かりします。ありがとうございました」
「ふふ、シキト君がいるなら少しはこの店も安泰ではないかい?」
「やめたまえよラナ。彼は冒険者なのだからずっとこの店で働く訳には行かないだろう」
「何かあったんですか?」
二人の会話に不穏な空気を感じた式人は出しゃばることにした。本来は許されざる行為だ。それは当人たちが解決するべきなのだから。だが、昨日来た無関係な人間ならば話くらいは聞けるだろうと式人は考えた。まあ、この店の惨状を見れば何となく話の内容は予想がつく。
「なに。この店は人気だからな。従業員が足りんのだよ。人を素早く捌くには手早くパンを袋に詰めることと、値段の合計を早く出すことが必要なのだ。しかし、平民である我々はそうそう学校には通えないものだ。だからといって独学では無理があるため教えることは出来ず、結果従業員が皆辞めていってしまうのだ。だから今君以外の従業員はいないのだ」
「そうでしたか」
「だからこんなことを君に頼むのは筋違いだと分かっている。断ってくれても構わない。どうか私たちに算術を教えてくれないだろうか」
「はい?」
「君は学校に行っていたのではないのか? だから算術ができるのだろう? 頼む。どうか教えて欲しい」
「店長・・・。いいですよ」
「いいのか?」
「ええ、誰かに教えるということは慣れていますから」
どこか懐かしそうな目をして式人は遠くを見る。かつて彼はアルバイトではあったが講師だった。あいつらは元気だろうか。そんな風に感慨にふけていると、ヤナが式人の手を取った。
「ありがとう助かるよ!まずは生徒は私だけだがいずれ増えて行くだろう」
「え、ええ、何人でもいいですよ」
「それでは早速今日から頼めるかい?」
「分かりました。ラナさんはどうしますか?」
「ふむ。私も教えて貰ってもいいのかい?」
「構いませんよ」
「ではお言葉に甘えて教えて貰おうか」
こうして、式人は異世界でもアルバイトで先生役をすることになったのだ。
少し忙しくて書けなくなりそうです。何とか隙間時間に書きますが、また間が開くと思います。




