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心中

 私はファンの村の村長、アレクだ。私は今とてつもない後悔と罪悪感に苛まれている。しかしこれは自業自得だということは分かっている。

 事の発端は山賊によってこの村の食糧を根こそぎ取られたことにある。おかげで村の皆の元気が出なくなっていったし、そのせいで新たな食糧を得ることが困難になるという悪循環に陥ったのだ。このまま飢え死にさせられるのだろうか、というところに彼はやって来た。


「ただいま〜。パパ、ママ、ぼうけんしゃさんを連れて来たよ!」


「おかえり、ルナ。冒険者を連れて来たって本当?」


「帰ってきたか、それで、その冒険者はどこにいるんだい?」


「今呼ぶね。お兄ちゃん、入ってきていいよ!」


「「お兄ちゃん?」」


「お邪魔します。初めまして、冒険者の式人といいます」


 うちの愛娘にお兄ちゃんと呼ばれた彼は驚く程平凡に見えた。正直冒険者と言われても信じられない程だった。お兄ちゃんと呼ばれたことについてはいつか問い詰めたいものだが。

 ルナと彼との出会い方は寿命が縮むかと思った。彼が言うにはルナはウルス大森林の出口付近で倒れていたとらしい。そこに通りがかった彼が保護したとのことだった。


「シキトさん。娘を助けて頂きありがとうございます。」


「いえ、本当に運が良かっただけです。それより何があったんです? どう見てもこの村はゆっくり食料が無くなった訳ではなく、唐突に食糧難になったようにしか見えませんが」


「・・・・・・あまり巻き込みたくありませんが、この際です。なりふり構っていられません」


 実際に彼を巻き込みたくはなかったのだが、事情が事情だ。彼に依頼をしようと思った。


「実は、二週間程前に山賊がこの村から食糧を取っていってしまったのです。しかも奴らは定期的にこの村に来ては食糧を取っていくので、我々の食糧が無くなっていき、つい先日とうとう食糧が底をついたのです。」


「山賊、ですか」


「ええ、冒険者のシキトさんには山賊を捕まえて欲しいのです。もちろんお礼はしますので、どうかよろしくお願いします」


「・・・捕まえればいいんですか? 討伐ではなく?」


「・・・・・・シキトさんに出来るのですか? 奴らを殺すことが」


 そんなに彼が強い冒険者には見えなかった私は、つい彼を試すようなことを言ってしまった。しかしすぐに後悔した。彼はものすごく冷淡な目付きで私達を見ていた。


「勘違いされては困る。俺は冒険者だ。事情は俺から聞いたが、お前達を助ける義理など何一つない」


 そうだ。彼は冒険者なのだ。何を勘違いしていたのだろう。冒険者とは本来魔物を倒すのであって人助けではない。そんなことをするのは人情の話であって義務ではない。そんな冷たい目をした彼を元に戻したのは愛娘のルナだった。ルナのおかげでこの村の依頼を受けてくれることになった。その後彼と一緒に山賊が来たときの打ち合わせでルナと一緒にいて欲しいと頼んだ。正直少し癪ではあったが、ルナには知り合いが殺される瞬間など見て欲しくはなかった。

 そしてとうとう山賊どもがやって来た。何とか待ってもらうようにしたかったが、駄目だった。山賊の頭の剣が振り下ろされるときに目を瞑ってしまった。


 ガキィィィィィンンン!!!!!!


 とてつもない音だった。私は恐る恐る目を開くとそこには、彼が片手にルナを抱えながら敵の剣を防いでいる姿があった。ルナが「パパ!」と叫びながらこっちに走ってきたのを見て、見せたくなかったのにな、と思いながらルナを抱きかかえた。そこに彼から村の皆と一緒に離れてるように指示された。恐らくここにいては邪魔にしかならないのだろうと歯がゆい思いで離れるしかなかった。


 そこからの彼は凄まじかった。確かに刺されたはずなのに倒れたのは山賊だったり、返り血が一切付いていなかったりした。とうとう山賊は逃げ出そうとしたが彼は逃がさなかった。頭以外の山賊を殺したのだ。残るは頭だけになったとき、


「な、何なんだよお前は!」


という声が聞こえてきた。それに対して彼の反応は薄く、


「何って、ただの冒険者だよ」


と言って頭の首を撥ねた。山賊は滅びこの村は救われたはずなのに、どうしてこうも素直に喜べなかったのか。皆彼が怖かったのだろう。村の皆が彼を見る目は少なくとも感謝ではなかった。真っ先に私が感謝しなくてはいけなかったはずなのに、どうして感謝の言葉が出てこなかったのか。どうして彼は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そんな思いが伝わってしまったのか、彼はこちらを見ると振り返りそのまま去っていってしまった。ルナが止めようとしたのか、「お兄ちゃん!」と叫んだが彼はそれを無視して行ってしまった。そして家に帰ってきてルナは一晩中泣き続けていた。シアも心なしか少し落ち込んでいるようだった。シアもルナも妙に彼を気に入っていたから、何も言わずに去っていったことが寂しいのだろう。だから、もし彼がここに寄ることがあれば、そのときは謝ろうと思う。謝ってもう一度、今度はちゃんとした夕食を一緒に食べようと思っている。それまでは彼の無事を祈ろう。

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