山賊
今日も一話更新になります。
次の日の昼、もうすぐ山賊がやって来るという時間になった。
「シキトさん、ルナを頼みましたよ」
「ええ、分かってます」
「お兄ちゃんどうするの?」
「ルナは俺と一緒に行動しよう」
「え?」
聞かされていなかったのか、ルナは驚いて式人を見てから、アレクを見る。
「ルナのことはシキトさんが守ってくれるから心配すんな」
「あなた、そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
四人は家を出てからアレクとシアは村の入り口に、式人とルナは入り口から少し離れた場所にあった木の上に行った。ルナは木には登れなかったので、式人が抱えて登っている。
「パパとママ、大丈夫かな」
「大丈夫だよ」
「どうして?」
「・・・・・・俺がいるからね」
式人は少し恥ずかしそうに言った。大人が恥ずかしがってるのを見るのは少し薄ら寒いものがある。が、ルナを安心させるためならば、羞恥心を捨て虚栄を張る。式人の実力は見せかけではないが、本人は本当に安心させるためだけに言っているし自分が役に立てることは無いと考えている。勘違いも甚だしいのだが、彼がこの世界に来る前からの考えなので恐らくその考えが修正されることはないのだろう。
「・・・来たな」
「え?」
式人とルナが村の入り口を見ると、村人が集まっている場所から10メートル程先に、如何にも賊という格好をした集団が50人ほどやって来ていた。
「おい! 食糧の用意は出来てんだろうな!」
「申し訳ございません。もうこの村の備蓄は無くなりまして、少ししか用意出来ていないんです」
どうやらこの位置でも会話は聞こえるようだ。山賊の頭と思われる者と話してるのはどうやらアレクのようで、それを見るに彼がこの村の村長らしい、と今頃式人は気付いたのだが、見ず知らずの冒険者を泊めることが出来るのは村長以外にいないだろう。
しばらく二人の様子を見てたのだが何だか少し雲行きが怪しくなってきた。
「そうか、食糧はこれっぽっちしかねえのか」
すると山賊達が皆ニヤニヤし始めた。
「それじゃあしょうがねえな。体で払って貰うしかねえよな?」
「な!?」
「おい、てめぇら! 金目の物と女を連れて来い!」
「お頭! 男はどうしますか?」
「そうだな、殺せ」
「そんな! 待ってください! 次までには必ず用意しますから!」
「もう遅せぇよ。それにどうやって用意するつもりだ?」
「それは・・・」
「ハッ! どうせ出来ねえだろ。なら、もう用済みだ。さっさと死ね」
そう言って山賊の頭は剣を振り上げてアレクに振り下ろした。
ガキィィィィィンンン!!!!!!
金属がぶつかり合うような音が響き、目を閉じていたアレクは恐る恐る目を開けるとそこには片手でルナを前が見えないように抱えながら山賊の剣を刀で受け止めている式人と、目を見開いている山賊の姿だった。式人がルナを地面に下ろすと目に涙を浮かべながら「パパ!」と言ってアレクの元へ走っていった。
その光景に戸惑う山賊を尻目に式人はアレクに村人と一緒に離れているように指示を出す。
「てめぇ、どっから来やがった!」
「あそこの木の上からだけど」
と言ってさっきまでいた木を指差す。たまたま通りがかった設定はどうしたのだろうか。
「ああ?! バカにしてんのか!」
「いや、本当のことだけどね」
「お頭! 村の奴らが離れていきます!」
「チッ! おい、こいつを殺せ!」
「「「「「「「うおおおおぉぉぉぉ!!!」」」」」」」
「やれやれ。疲れるのは勘弁してもらいたいな」
「てめぇのその余裕がいつまで続くか楽しみだな!」
「そうか」
周りを取り囲まれた式人に何も出来ないと判断したのか、一斉に式人に剣を突き刺した。その光景を後ろで離れて見ていたルナとシアは息を呑んだ。
ズシャッッッッ!!!!!!
何かを貫くような音と噴き上がる鮮血。今度こそルナとシアは盛大に悲鳴を上げた。だが、事切れて倒れたのは式人に剣を突き刺した山賊達の方だった。刺されたはずの式人は無傷で、おかしいことに血の一滴すら付いていない。それを村人も山賊も呆然と見ていた。
「何もおかしいことは無い。魔法に決まっているだろう」
それ以上は教えないと言わんばかりに今度は式人から山賊に向かって突っ込んだ。
「て、てめぇら!あいつを止めろ!」
「「「「「「お、おおぉぉぉ!!!!!!」」」」」」
向かってくる式人に次々と山賊が迎え撃つが、その度に式人は山賊を一刀のもとに切り捨てる。50人ほどいた山賊も残り10人を切ったところで、もはや完全に山賊の戦意は消え逃げ出そうとした。そんな山賊を式人が逃がすはずもなく。
「や、やめてくれ! 俺たちは――ぎゃあ!」
「も、もうやめ――ぐあっ!」
「何で追って来て――がぁっ!」
逃げ出そうとした山賊を切り捨て、残るは頭一人だけとなった。
「な、何なんだよお前は!」
その言葉にようやく式人は反応を見せた。
「何って、ただの冒険者だよ」
そして頭の首が飛び、それが山賊の最期の光景となった。村を襲った山賊は呆気なく滅んだ。しかし、村を救ったはずの式人は英雄にはなれなかった。理由は簡単だ。惨すぎたのだ。山賊に襲われる経験も無ければ人が殺される瞬間を見るのも初めてだった彼らには、平然とそれを行う式人がとてつもなく恐ろしいものに見えたのだ。その証拠に彼らの式人を見る目は畏敬や感謝ではなく、怯えと恐怖だった。
だが、そんなことに慣れている式人はその表情を認めると、村には戻らずそのまま歩いて去っていった。遠くから「お兄ちゃん!」と呼ぶ声を無視して。
恐らくこれから一話更新になってしまうと思います。もし楽しみにしてくれてる方が居たなら本当にごめんなさい。