ファンの村
その村はウルス大森林を少し抜けた先にある小高い山の上にあった。
「ようこそお兄ちゃん、ファンの村へ」
「お邪魔するよ」
村の中に入ると思ったより人はいるようだが、皆はやけに生気がない目をしている。食料をルナが森に取りに行こうとする程困窮しているということだろう。
ちなみに、今ルナが元気なのは村に来る途中でまた空腹で倒れそうになったため、式人が収納袋から取り出した焼き串を食べさせたためである。それと、焼き串の原料は大抵オークだったりする。
「これは酷いな・・・」
「うん・・・。もう村の食べ物が無くなっちゃいそうだから皆頑張って狩りに行ったりするんだけど、どうしても力が足りなくて逃がしちゃうんだ。ってパパが言ってた」
「どうしてこんなことに?」
「それは・・・あ! 私の家が見えてきたよ!」
現状の理由を聞こうとしたところでルナの家に着いてしまったようなので、一先ず話は後にしてルナの家に上がることにした。
「ちょっと待っててね、パパとママに伝えるから。ただいま〜。パパ、ママ、ぼうけんしゃさんを連れて来たよ!」
「おかえり、ルナ。冒険者を連れて来たって本当?」
「帰ってきたか、それで、その冒険者はどこにいるんだい?」
「今呼ぶね。お兄ちゃん、入ってきていいよ!」
「「お兄ちゃん?」」
「お邪魔します。初めまして、冒険者の式人といいます」
「・・・・・・君、ちょっといいかい?」
「はい、どうしました? お父さん」
「君にお義父さんと呼ばれたくない! それより、君とルナはどういう関係だね!」
と、盛大な勘違いをしているルナの父に肩を掴まれた式人は何故そんなに怒ってるんだ?と思いながらルナと出会った経緯を簡潔に説明する。
「ルナが森で倒れていたのを発見したのが俺だったんですよ」
「「倒れていた!?」」
「ええ、空腹で倒れていたので保護した訳ですが何か問題がありましたか?」
するとルナの父は式人の肩から手を外し、母の隣に座った。
「ルナ、こっちに来なさい。シキトさんもどうぞ」
気まずそうな顔をしたルナと、その隣に式人が座った。
「ルナ。どうして森に行ったんだ?」
「何か食べ物を取ってこようとしたの」
「危険だとあれほど言った筈だが」
「それでも我慢できなかったの。これ以上食べ物が無くなると皆が死んじゃうと思って・・・。ごめんなさい」
「反省しているならそれでいい。今回はたまたまシキトさんが通りがかったから助かったんだ。もう二度とこんなことしないでくれ」
「・・・・・・はい」
「シキトさん。娘を助けて頂きありがとうございます。」
「いえ、本当に運が良かっただけです。それより何があったんです? どう見てもこの村はゆっくり食料が無くなった訳ではなく、唐突に食糧難になったようにしか見えませんが」
「・・・・・・あまり巻き込みたくありませんが、この際です。なりふり構っていられません」
式人が事情を聞くとそう言って話し始めた。
「実は、二週間程前に山賊がこの村から食糧を取っていってしまったのです。しかも奴らは定期的にこの村に来ては食糧を取っていくので、我々の食糧が無くなっていき、つい先日とうとう食糧が底をついたのです。」
「山賊、ですか」
「ええ、冒険者のシキトさんには山賊を捕まえて欲しいのです。もちろんお礼はしますので、どうかよろしくお願いします」
「・・・捕まえればいいんですか? 討伐ではなく?」
「・・・・・・シキトさんに出来るのですか? 奴らを殺すことが」
その言葉にルナは目を見開いて式人を見上げ、式人は逆に目を細めた。そしてその目はかなり冷淡だ。その目にルナの両親は息を呑み、式人を試したことを後悔した。だがそれは仕方のないことだった。背は高いが物腰が低く、平凡な形をしている式人はどう見ても高ランクの冒険者には見えなかったのだ。
「勘違いされては困る。俺は冒険者だ。事情は俺から聞いたが、お前達を助ける義理など何一つない」
今までの敬語はやめ、冷たい声音で両親に告げる。いくら普段は温和な式人でも聞き流せないこともあるのだ。冒険者の依頼に盗賊退治などいくらでも来る。それに式人はSランク冒険者だ。そんなことはいくらでも経験してきたし、仲間のためにその身を犠牲にしてきた。そんな冷たい目をした式人を正気に戻したのはルナだった。
「もうやめてお兄ちゃん!」
「ルナ?」
「お兄ちゃん元に戻ってよ・・・。今のお兄ちゃんすごく怖いよ・・・。」
涙目のルナを見て正気に戻ったのか、式人は優しくルナの頭を撫でて、
「ゴメンな、ルナ。ちょっと怖かったな。もう怒ってないからな、泣き止んでくれ」
「お兄ちゃん本当?」
「ああ、本当だ」
「じゃあ許してあげる!」
「そうか、ありがとう」
置いてきぼりの両親はそろそろと手を挙げて
「・・・・・・ところで、私達の方はどうなるのでしょう」
「いいですよ、やりましょうか。依頼は山賊の討伐でいいですね?」
さっきまでの態度が嘘のように物腰が低い、最初と同じような様子の式人に二人は戸惑ったが、依頼内容の了承をした。




