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イーリス

イーリス視点です。意外と一人称って難しいですね。

 私はギルドの受付嬢をしています、イーリスです。今日はエリエスの街をスタンピードから守ってくれたあの方についてお話したいと思います。

 私は初めてあの方とお会いした時変な人だな、と思っていました。髪はいつもぼさぼさで見た事のない武器を腰に付けて、背は高いけれど顔は平凡で。いつも腰が低くて、とてもSランク冒険者には見えなかったのです。


 しかしいざ依頼を出してみると依頼の内容以上のことを成し遂げてくるのです。私は初めは呆気に取られてしまいましたが、数を重ねていくうちに段々とあの方が何をしてくるのか楽しみになってきました。時には大変なことをしでかしたりして私達ギルド員の胃を荒れさせることが多々ありましたが、それでもあの方と話すのが楽しかったのです。

 呼び出したらいつも私のところに来るように言っておいたのに他の冒険者と話しているのを見て、つい膨れてしまった私を見た彼は急いで私のところに来てくださったので、内心私は嬉しかったりしました。


「こんにちは、イーリスさん」


「はいこんにちは、シキトさん」


 このように挨拶をしてくれる冒険者なんてほとんど居ない中、彼だけは挨拶をしてくれるのです。だけどすぐに来なかったことで若干怒っていた私は、ついそれを態度に出してしまいましたが彼は不思議な格好をして謝罪するのを見て、ご飯を奢って貰う約束をしてもらいました。


「イーリスったら自然な流れでシキトさんをデートに誘ったわよ。大胆ね」


「落としてから上げる戦法かしら。イーリスも考えたわね」


 後ろからそんな声が聞こえてきて、私の顔は真っ赤になってしまったのでしょう、凄く顔が熱かったです。当の本人は全くの無反応だったのでついつい怒って追い出しましたが、後ろの元凶二人に当てることでなんとか鎮めました。

 けれどある時、そんな日が終わってしまう日が来てしまいました。そう、スタンピードです。


「避難勧告が済んだら一刻も早くイーリスさんも避難することをおすすめしますよ」


「・・・え?」


「イーリスさんは変異種、もしくはスタンピードの規模というものがはかれることをご存知ですか?」


「いいえ・・・」


「それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と言われています」


「そんな!! それではもうこの街は・・・」


「ええ、誰が防衛しても保たないでしょう」


 愕然としました。今まで居たこの街が滅ぶと言われたことではなく、逃げろと言われたことに。彼は戦わせてくれなかった。私はサポートとして彼と一緒に戦いたかった。けれど、彼に向かって防衛のために生き残れるか分からない戦いに赴けとは言えなかった。それが酷く悲しくて切なかった。彼には防衛に参加する義務がない。だから私は彼の忠告に頷くしかなくて。


「・・・分かりました。街の人が全て避難したら私も避難することにします」


「その方がよろしいかと。では、俺はこの辺で」


 そう言って彼は去ってしまった。しかし、私は漠然とした不安に駆られました。彼がこのまま消えてしまう気がしてなりませんでした。

 スタンピードが消えたということを聞いたので私は急いでエリエスの街に戻りました。戻ってきた私は自分の目を疑いました。滅ぶと言われたエリエスの街が健在だったのです。何があったのか分からず、取り敢えずギルドに向かうとギルドから一人の冒険者が出てきたので、私はその冒険者を捕まえて話を聞きました。


 冒険者の方によると防衛のためにたくさんの冒険者が集まっているところに突然彼が現れたのだと。そして自分が前に出て倒すから皆にはおこぼれを倒して欲しいと言い出したこと。止めようとしたガンツを沈めたこと。戦いが始まると彼が武器を振るう度に敵の群れが切り刻まれていくこと。埒があかないと判断したのか魔法で津波とマグマのようなものを敵にぶつけて、更に水とマグマが触れることで大規模な爆発が起きたこと。空を飛んでいき落雷で攻撃したこと。その後土の壁を作り出し、上から大量に石を落として魔物を潰したこと。最後に生き残っていた『核』を斬ったこと。


 正直何を言ってるのか分かりませんでしたが、彼のやることですからと無理矢理自分を納得させました。が、その後の言葉に私は崩れ落ちました。それは彼がこの街に戻って来なかった、ということ。『核』を倒した彼はエリエスの街を一瞥するとそのままウルス大森林の方に消えてしまったと言うのです。

 私がその場で呆けていると、その冒険者が彼から伝言を預かっていると言いました。


「伝言は『ご飯一緒に行けなくてごめんなさい』です。」


 それを聞いた私はとうとう泣き出してしまいました。そして深く後悔しました。どうしてあの時自分も一緒に戦わせてくれと言わなかったのか。どうしていつからか存在していた気持ちを彼に伝えられなかったのか。どうして。どうして。


 一頻り泣いた私はいつの間にか冒険者の方がいなくなっていることに気づき、その気遣いに感謝しながらあることを決めました。それは、いつか彼がこの街に来たときに彼が守ったものがここに在るということを、守って正解だったと思えるような街にするのだと。そして今度こそご飯を奢って貰い、この気持ちを伝えるのだと。だから彼には覚悟していて欲しい。女を敵に回すと恐ろしいと思い知らせてやるのだ。

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