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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
9/27

【きゅう】失恋の思い出 岬目線

今回は岬くん回です!


 俺は機嫌よくイベント会場を後にした。

 今日もカメ子さんは愛らしかった。

 カメ子さんと初めて写真を撮った日から、俺は本格的にカメラの練習を始めた。

 もちろん下心ありまくりです。認めます。

 前回、田島さんという神様と知り合うことが出来ました。田島さんのいるところにカメ子さんあり。田島さんに会うという口実で、カメ子さんにも会える!

 そして田島さんに会う理由に、写真撮影の練習が使える。それに初めて会ったときによく理解した。田島さんは写真のプロだ。あんなにカメ子さんを可愛く撮らせてくれた。

 あの技術が欲しい!

 さらに、写真の練習だと言って毎回カメ子さんを写真に納めることが出来る! 彼女のポーズのレパートリーは驚くほど少ないが、可愛いので全て許される。



 そんな邪な理由で写真の練習を続けた俺だったが、上手く撮れるようになるとやっぱり嬉しい。今では田島さんに色々アドバイスをもらって、風景なども撮るようになっている。

 使っているのは初めて買ったあのごく普通のデジカメだが、工夫次第でなかなかいい写真が撮れる。

 俺ってイケメンなだけじゃなく、写真の才能もあったのか。才能を開花させてくれた田島神様とカメ子さんには感謝しなければ。

 そんなことを考えながら、友人との待ち合わせ場所へと向かう。今日は高校時代の同級生、田中と会うことになっている。同窓会の幹事である田中を手伝う約束だ。

 仲間とよく会う喫茶店に行くと、田中はもう来ていた。向かい合わせに座ってアイスコーヒーを注文すると、田中が早速準備の進捗状況を伝えてきた。


「全員にハガキ送ったから、今返信待ち。店はもう押さえてあるし、人数決定したら連絡するよ」

「了解。いつもの居酒屋?」

「そうそう。色々融通利かせてくれるから助かるんだよなぁ。あ、出し物は恒例のビンゴ大会でいいよな?」

「お前ビンゴ好きだなー」


 そんな話をしていたところ、突然田中が話題を変えてきた。


「なあなあ隼人。今回はあの子来るかな?」

「あの子?」

「またまたとぼけちゃってー」


 いらっとしたので一発殴っておいた。


「ムカつく。あの子って誰だよ」

「いてぇなー。だから、吉川ひまりだよ」


 アイスコーヒーを吹くかと思った。無理にこらえたせいで若干鼻に来た。危な! イケメンが鼻からコーヒー吹きそうになった!


「なっ、何で吉川が出てくるんだよ!」


 動揺を隠しきれない。俺と仲が良かった田中は知っている。

 吉川ひまりは、俺の失恋相手だということを。


「いつも返信すらくれないんだよなぁ。戻っては来ないから住所は変わってないと思うんだけど、誰もメアドとか知らないし」

「…毎回来ないんだから、もう送らなくてもいんじゃねえの」


 あ、思ったより低い声が出た。


「えー、だって、隼人会いたいだろ?」

「会いたくねぇよ! 軽いトラウマなんだからな!」


 そう、俺と吉川との思い出は、恐らくお互いにとってトラウマだ。

 


 彼女と俺がまともに話をしたのは、高校二年のクラス替えで同じクラスになった時。だけど俺は、その前から吉川ひまりを知っていた。

 一年の秋頃、飼育小屋の前に座り込んでいる吉川ひまりをたまたま見かけた。高校には珍しいうさぎの飼育小屋は、数年前に当時の在校生が、家で飼えなくなったうさぎを勝手に校舎裏で飼い始めたのがきっかけと聞いている。

 そこには数匹のうさぎが飼われていて、一年生が持ち回りで面倒を見ることになっていた。

 その時は吉川が当番だったのだろうか、彼女は網越しにうさぎにニンジンをやっていた。その時の優しげな表情が、同世代の女子高生とは思えないほど大人びていて、とてもきれいで。

 そう、一目惚れです。

 そういえばカメ子さんも一目惚れだ。だが俺は決して惚れやすい訳ではない。こう言っては何だが、これまで女に不自由したことはないし、高校時代には彼女が三人いた。もちろん時期はかぶってない。

 だから吉川ひまりは、俺にとって特別だったんだ。

 モテる俺だが、自分からアプローチするのはその当時驚くほど苦手で、クラスが違うということだけで話す機会を持てずにいた。


 そんな俺にチャンスが来たのは、二年になった時。クラス替えで同じクラスになったのだ! クラス替えシステム万歳!

 しかも隣の席! 俺は嬉々として吉川に話しかけた。吉川は驚いていたけれど、ちゃんと受け答えしてくれた。だけど。

 ウサギに向けた表情とは真逆、というかあれは幻だったんじゃないかと思うくらいの、何というか。

 笑顔が、マジで怖かった。

 まるで悪巧みをしているかのように、口をひきつらせた笑顔。…いや、あれ笑顔か?

 それでもいつかあの顔が見られると信じて話しかけ続けたが、吉川は変わらなかった。

 俺はだんだん腹が立ってきた。あいつが笑わないのは俺に対して笑顔を見せる価値がないと思っているからじゃないのか。楽しく話していても、ホントは俺をバカにしてるんじゃないのか。

 吉川はそんな奴じゃないと、短い付き合いの中でもわかっていたはずなのに、あの頃の俺は若かった。だから、吉川に言ったんだ。


「吉川、あんまり笑うなよ。お前、顔面凶器なんだから」


 周りの生徒たちはその言葉をいたく気に入り、吉川のあだ名は「顔面凶器」になった。

 その時の俺は自分のことで精一杯で、吉川の気持ちなんか全く気にしていなかった。だから、吉川のその時の表情を覚えていない。

 気づいたときには遅かった。それから吉川は、俺を避けるようになった。どんなに話しかけても俺から逃げる。あの不気味な笑顔すら見られなくなった。俺だけでなく、他のクラスメイトとも話さなくなった。どんどん孤立していき、それから卒業まで一人でいた。

 後悔した。するに決まってる。吉川を一人にしたのは俺だ。そして激しく嫌われた。自業自得だ。

 それでも諦めきれず、告白するのを決めたのは卒業式の前日。俺が失恋した日。

 …いや、この話はやめておこう。トラウマ過ぎて思い出したくない!

 以上、回想終わり!



「トラウマかー。あっちもそうなら今回も来ないかなー」


 うっ! 友よ、気にしていることをずばっと言いやがって!


「…とにかく、話を戻すぞ。同窓会について」

「お、そうだな。ビンゴの景品はー…」


 何とか話を逸らしたが、俺の頭の中は当時の罪悪感でいっぱいになっていた。

 今さら会って、何を話せばいいのか。向こうはきっと、俺に二度と会いたくないだろう。

 吉川は俺のせいで、卒業式にも来なかったんだから。



 ああ、早く終わんねえかなぁ。

 家に帰ってカメ子さんのストラップを愛でたい。

 パソコン開いて「今日のカメ子」読みてえ!

 今日撮影したカメ子さんの写真チェックして、やべえかわいいって浸りてえ!

 分かっている。カメ子さんはゆるキャラだ。

 俺の恋は叶わない。っていうかゆるキャラに本気になっている俺はイタいと自分でも思う。

 だけど、叶わないから安心するんだ。

 カメ子さんは仕事で俺と接してくれているし、そう思えるから俺も安心して接することが出来る。

 俺が相手を傷つけることも、相手が俺を傷つけることもない。

 もちろん最初は見た目の可愛さに一目惚れしたけど、そういう距離感が、俺を安心させてくれる。

 リアルな恋愛なんて、傷ついて傷つけられて、疲れるだけなんだから。



昔のトラウマって、意外と忘れられないものですよね。


次回はひまり回です!

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