【はち】同窓会への招待です
久々にお母さん登場です。
『かめこです きょうわ しゃしんの もでる したです はいぽーず じょうずに できたです』
…こんな感じでいいでしょうか?
今日の出来事は忘れたいのですが、これは仕事です。私情を挟むことは許されません。
載せる写真はどうしよう、と思っていると、藤井さんが一枚の画像を見せてくれました。
「こ、これは…!」
私、カメ子が入口に挟まっている写真。一体誰が!
「うちの巡回スタッフがかわいいーって言って写メしたらしいよ。カメ子が撮ったのじゃないけど、これ使う?」
「いや、この流れで使うとこれがモデルの写真になりませんか」
「写真のあと補足したら大丈夫だよー!」
『はさまりました たべすぎです もうはっぱは たべません』
これでどうだ! 食べ過ぎのせいにしてやりましたよ!
前回の観葉植物をまだ引っ張るという荒業も入れ込みました。
藤井さんと母からOKをもらい、「今日のカメ子」更新完了です。
お疲れさまでしたー!
と、いうわけにはいきませんでした。
その日家に帰ってポストを見ると、私宛のハガキが一枚。裏を見てびっくり!
高校の同窓会のお誘いです! 何というタイミング!
否が応でも岬くんのことを思い出します。
これまでにも何度か、同窓会は開かれています。私以外のクラスメイトは大変仲が良かったので、頻繁なんです。
ですが私は一度も行っていません。仲の良い子がいないというのももちろんですが、何より岬くんに会うのが怖いからです。
…でも今日会っちゃったなあ。
いつもはそのまま返事すら返さず放置します。その方が来なくなるかと思ったのですが、幹事の田中くんは諦めが悪いのか律儀なのか。
私はいつもの通り、放置することに決めました。
行くという選択肢は、私の中にはない!
顔面凶器に出番はありません!
これは閉まっておきましょう。
さあ、過去は忘れて仕事に集中です。
しかし、岬くんはそう簡単に消えてくれませんでした。
何故だか彼は、カメ子が出るイベントによく姿を現すのです! 何で!?
よく田島さんと話をしています。田島さんの弟子になったのか、イケメンよ!
田島さんに聞いてみると、あれから岬くんは写真を撮る練習をしているようで、田島さんにアドバイスをもらいに来るそう。田島さんは嬉しそうです。
…ホントに弟子じゃん!
だったら田島さんとだけ話してればいいのに、どうしてか岬くんは必ずカメ子の写真も撮りに来ます。初めてちゃんと撮った相手だから思い入れがあるんだって。…知らないよ! 来なくていいよ! 私は子どもたちとだけ絡んでるからさあ!
ですが岬くんはお客様。私に拒否権はやっぱりないのです。世知辛い。
だけど何ていうか、岬くんはカメ子にものすごく優しいんですよね。
「お疲れ様です」
「いつもありがとうございます」
「大丈夫ですか? 今日は暑いんで気をつけて下さいね」
「これ、差し入れです。頑張ってください」
ね、優しいでしょう?
て言うか、どうしてこの人ゆるキャラに敬語なんでしょう?
高校の頃は、あんまりそういう印象なかったんです。先生にすらわりとタメ口で、でも何だか許されてしまう感じの生徒だったんですよ。
社会人になって変わったってことですかねえ。
そういえば岬くん、今は何をしているんでしょうか?
その答えは、意外な所からもたらされました。
「あら、岬くんじゃない」
「あ、吉川さん」
お、お母さん!? 何で岬くんと親しげなの!?
「吉川さんって、天堂カメラの方だったんですか」
「そうなのよ。最近よく来るイケメンってあなたのことね?」
「え、そんな風に言われてるんですか?」
「やだ、誉め言葉よー。田島さんも嬉しそうだし」
「あら、お二人はお知り合いなんですか?」
谷さん、よくぞ聞いてくれました! 高校時代にはお母さんと岬くんに関わりはなかったはずです。お母さん、忙しくてほとんど学校行事には来なかったし。
「私が行ってるスポーツクラブのインストラクターさんなのよ」
「そうなんです。俺の担当するストレッチのクラスによく顔を出して下さるんですよ」
「あら、私だけじゃないわよ。あそこに通ってる女性の半分以上は岬くん目当てよ」
「そんなことないですよー」
岬くん、インストラクターなんだ。似合うなぁ。
ていうか、母親と失恋相手が仲良さげに会話してるのって、心臓に悪いですね。
まさかと思うけど、岬くんは目の前の相手が顔面凶器の母親って知ってたりしないよね…?
そして母よ、そのイケメンが私の失恋相手って知らないよね…?
ああ、ハラハラする。帰りたいです。
ですが私が帰る前に岬くんがその場を去ってくれました。今日は用事があるそうです。よかったー!
今日も一方的に気まずくて疲れる一日でしたね!
家に帰ってから、母にそれとなく聞いてみました。
「お母さん、あの岬さんってどんな人なの?」
すると母は驚いた顔。
「何言ってるの。あなたの同級生でしょ」
頭をガツンと殴られたような衝撃です!
母よ、知ってたの!?
私が口をぱくぱくさせているのを見て、母は勘違いをしたようです。
「同級生って、今気づいたの? お母さんはちゃんと分かってましたよ、俳優さんみたいな名前だから印象に残ってたし」
「いや、そうじゃなくて!」
私は動揺を隠しきれません。今の顔はさぞひきつっているのでしょう。
「ひまりちゃん、顔、顔が怖いわ」
「元からです! そんなことより!」
ああ、体が震える。がんばれ、私!
「み、岬くんはお母さんが私の母親だって知ってるんですか!?」
「さあ、知らないんじゃないかしら?」
…そうなの!?
「こっちから言ったことはないわよ? だってあなた、岬くんと仲が悪くなってそれっきりじゃない」
ひぃ! 何故それを知っている!?
私、言ったことないのに!
「あなた分かりやすいもの。二年生になってすぐ、岬くんのことよく話してたのに、ある日突然話さなくなるし」
母の勘、恐るべし! いや、私が分かりやすすぎるのか!?
「私がひまりちゃんの母親だって知ったら、岬くんも気まずいじゃない? 私あのスポーツクラブ気に入ってるし、岬くんいいインストラクターだし」
絶対に後半のが本音だ!
「だから安心なさいな。…カメ子の正体も、黙っててあげるからね?」
にっこりと笑う母。何故でしょう、背筋が寒いです。
私はもしかして、知らぬ間に母に弱味を握られてしまったのでしょうか。いや、仕事紹介してもらった時点で借りはありまくりなんですけどね!
だけど、こうなると岬くんが本当に母と顔面凶器の関係に気づいてないのか、大変気がかりです。
今回、母が天堂カメラの人間だと知って、私と母が親子だと気付いていた場合、気まずく感じてもう来られなくなるんじゃないでしょうか?
せっかくカメラ始めて、田島さんに弟子入りして楽しそうなのに。
…私は来なくなる方がありがたいんですよ? いや、ホントに。だけどでも、…岬くんはお客様ですし。
私は誰に言い訳をしているんでしょう?
私は無意識に大きなため息をついていました。
何だかややこしくなっちゃったなぁ。
次回は岬くん目線でお届けする予定です!