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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
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【ご】日記はじめました

カメ子の世界が広がっていきます。

今回は、楽しそうな職場の雰囲気を感じて下さいね!


 カメ子の仕事は、毎日あるわけではありません。

 大体週末の土日祝日にあちこちに呼ばれます。

 じゃあ、それ以外の日はどうしてるのか、皆さん気になりませんか?

 ちゃんとお仕事してるんですよ!



「おはようございます!」

「あ、おはようひまりちゃん」


 今日は本社勤務の日です。

 ゆるキャラが本社で何してるのかって?

 ふふ、知りたいですか?

 それは…雑務です!


「ひまりちゃん、この手紙全部封して切手貼ってくれる?」

「吉川さん、この書類のホッチキス留めお願い」

「カメ子ちゃん、この荷物の梱包お願いできる?」

「おーいカメ子、お茶」

「はい喜んで!」


 ザ・雑務とお思いでしょう。その通り!

 だけど私はやりがいを感じています。

 今まではどの職場でも顔面凶器のせいで嫌がられ、仕事すらさせてもらえなかったのに、ここではゆるキャラ以外の仕事ももらえて、ちゃんとお給料をもらえます。

 とっても幸せです!


 ちなみに、カメ子にお茶を所望されたのは、「天堂カメラ」の社長です。

 私のカメ子をいたく気に入ったらしく、事あるごとに構ってきます。

 この人、多分ですけどこの会社で一番暇だと思います。社長ってそんなもんなんでしょうか?



 カメ子の仕事も順調です。あの初日の仕事から、コンスタントに呼ばれています。

 そしてあの日、新店舗の売上も相当良かったそうです! 用意していたカメ子ストラップ、夕方には無くなったって。嬉しいですね!

 実は私にも、谷さんがストラップを一つくれたんです。嬉しくて、自分のスマホに付けました。

 間違いない。これまでの人生の中で、今が一番幸せです!

 ひゃっほう! カメ子万歳!



 そんな私に広報部長から新たな仕事が与えられたのは、初日の仕事から二週間ほど経った日の事でした。


「日記、ですか?」

「そう、日記」


 母は笑顔でそう言いました。

 誰の、とか愚問ですよね。


「会社のホームページにこの前のカメ子のお仕事を動画で載せたのよ。そしたらなかなかの反響でね。こうなったらいっそホームページでカメ子の日記を更新してみようと思って」

「そ、それを私が書くんですか?」

「あら、当然じゃない。あなたがカメ子なのよ?」


 母はとても良い笑顔だ。逆らえん。


「で、でも、カメ子は喋らないのでどういう感じで書けばいいのか」


 しどろもどろになりながらそう言うと、母は「そうねえ」と小首を傾げた。


「語尾に何か付ける?」

「ああ、猫ならニャンとか付けますよね」


 横から会話に参戦したのは谷さん。

 今日は谷さん、藤井さん、田島さんの全員が揃っています。

 確かに猫にニャン、犬にワンを付けるのは定番。だが、カメ子はテン。


「テンって何て鳴くんでしょう?」


 私の問いに、何となく全員が黙る。そりゃそうだ。誰も聞いたことなんかないよ。

 田島さんが動画サイトで検索すると、テンの鳴き声が出てきた。


「………」


 何と言えば良いのでしょうか。

 ギャウギャウとかグエーとか、そんな音です。甘え声すらフィヤーという感じの、何とも言い表しにくい鳴き声。


「…やめましょう」

「…そうですね」


 全員が微妙な表情で頷きました。ああ、驚いた。


「でもじゃあ、どうします?」


 明るくそう聞いたのは藤井さん。そこで声をあげたのは、田島さんでした。


「子どもが使う敬語はどうかな?」

「? どういう意味ですか?」

「この前親戚の子どもと会ったんだが、お店やさんごっこをしているときの言葉が面白くてね。これ買うです、とか、とにかくですますつければいい、みたいな。カメ子はわりと小さな子どものイメージがあるから、良いんじゃないかな」


 母の顔が輝きました。


「それ良いかもしれないわね! 何なら全部ひらがなで行きましょうか」


 その提案を受け、私は試しに、メモに書いてみました。


『こんにちわ わたしのなまえ てんどうかめこです きょうから にっきかくです よんでください』


 …書いてて不安になりました。これ、読みにくいんじゃなかろうか。

 だけど、広報の人たちには意外と好評で。


「あ、可愛い!」

「句読点を使わないってのがまた何とも、ねぇ?」

「母性本能くすぐられるなあ」

「田島さん、男じゃないですか」

「次も読んでやろうって気になりますね」

「何というか、育てたい系ゆるキャラ、みたいな」


 育てたい系ゆるキャラ!? 謎の言葉が出てきました。


「ひとまずこれで行きましょうか」


 え!? ホントにこれでいいの!?

 しかし不安なのは本人だけのようです。


「一応会社のホームページだから、毎回確認が必要なの。メールで私に送るか手書きで書いてくれたら私達で打って載せるから」

「わ、わかりました」


 不安だ!

 ですが、やるしかないのです。

 私はカメ子なんですから。


「それと、これ」


 母にそう言われて渡されたのは、デジタルカメラです。


「こ、これは?」

「日記に一緒に載せる写真を撮るのも、あなたの仕事」


 ええ!?

 わたしの仕事!?

 だって私、カメラのことほとんど分からないのに!

 そんな思いが表情に出ていたのでしょいか。声に出す前に母が言いました。


「シャッター押したことくらいあるでしょ」


 いや、あるけど! 人様の目に触れるような写真を撮る技術が、私にあるとお思いか、母よ!

 そこで谷さんが声をかけてくれました。


「ひまりちゃん、カメ子の設定思い出してね?」


 設定。…そう言えば。


 カメラマンを志す。

 趣味はピクニックと草花採集。

 特技は止まっているものを写真に撮る。


「あああ…」


 カメ子よ、どうして止まっているものしか撮れないのに、カメラマンを志してるんだよ!


「上手く撮らなくてもいいのよ。むしろひまりちゃんみたいな素人と同レベルくらいの技術しかない設定だから、リアルでいいわ」

「撮ってるうちに上手くなっていったらそれはそれで、カメ子の成長が感じられて良いですよね!」


 藤井さんがにこにこしながらそんなことを言う。

 ああ、逃げ場がない。

 これもやるしかないのですね…。



 とりあえず、カメラの使い方を覚えるために、オフィスにある観葉植物やコーヒーカップなどの止まっているものから、広報の人たちを被写体にしてみました。

 撮った写真を見てみると、人物は見事にピントがずれています。観葉植物はまだマシな程度。

 止まっているものすら上手く撮れないとは…。

 さすがにへこみます。八回目のクビ以来のへこみっぷりです。

 しかし皆さんは。


「あら、良いんじゃない?」

「カメ子っぽいね」

「初々しいなあ。うちで育てるカメラマンも、意外と最初はこういう子多いんだよな」


 え? そうなの?


「カメ子と一緒に成長していく気持ちでさ、やってみようよひまりちゃん」


 藤井さんの言葉に、みんなが頷きます。

 まあ、私には断るという選択肢は初めからないんですけどね。


「が、頑張ります」


 できる仕事が増えた! やったね! という気持ちにはまだなれませんが、やるしかないのです。やってやりましょう!



 今回は、観葉植物の写真を載せました。

 文面はこうです。


『こんにちわ わたしのなまえ てんどうかめこです きょうから にっきかくです よんでください』

『おへやにあった はっぱ たべられるかな かじったら しゃちょおに おこられたです』


 これを読んだ社長は大喜びしていました。自分の名前が出たからでしょうか。

 やっぱり絶対出たがりだ、この人。



 そうして私、いやカメ子の日記コーナーがスタートしたのです。

 吉と出るか凶と出るか、乞うご期待!

 つづく!



育てたい系ゆるキャラは、無事に立派なカメラマンになれるでしょうか。

応援よろしくお願いします!

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