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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
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【よん】運命の出会い 岬目線

新キャラ登場です!



 俺の名前は岬隼人。

 芸能人のようなカッコいい名前だが本名だ。良いだろう。

 現在二十三歳。昨年から、スポーツクラブのインストラクターとして働いている。

 自分で言うのも何だが、非常にモテる。

 整った顔立ち、高身長に鍛え抜かれた体。スポーツクラブで働くと、施設が無料で使えるのがいい。給料もらって体を鍛えることが出来る。

 これまで付き合った女は両手の指では足りない。ふ、色男は辛いね。

 そんなイケメン爽やかスポーツ男子としてのイメージ作りに余念がない俺、岬隼人には、誰にも言えない秘密がある。



 その日は休日だった。

 俺は黒のTシャツにジーンズというラフな格好で、地元のショッピングモールへと来ていた。

 ラフな格好でもイケメンが着るとハイセンスに見えるから不思議だ。自分で言うなって? いいんだよ、本当の事なんだから。

 初夏ということもあって、日差しが強い。俺はお気に入りのサングラスを掛けて、一人で洋服を見たり、カフェに入ったりと充実した休日を過ごしていた。


 昼過ぎに、一際賑わう店を見つけた。

 「天堂カメラ」の新店舗が今日オープンしたらしい。店頭には花が飾られ、オープン記念にカメラや写真の現像がかなり安くなるそうだ。

 カメラか…。撮られることはよくあるが、撮る方にはあまり興味がない。そんなことを考えながら店頭から離れようとした時。


 衝撃を受けた。


 店の奥から、よたよたと覚束ない足取りで出てきたのは、黄色いキツネのような生き物。俗に言う「着ぐるみ」だ。

 俺はその着ぐるみに目を奪われた。

 つぶらな瞳、茶色いお鼻、小さなお口。

 ピンクのワンピース姿が眩しい。


 一目惚れとはこういう事を言うのでしょうか。


 俺の秘密、それは、イケメンな容姿に似合わず、可愛いものが大好きだということだ。

 誤解のないよう言っておくが、女になりたいとかそういうことでは全くない。ただ、世間一般の男達がプラモデルや乗り物に瞳を輝かせる、その対象が俺にとっては「可愛いもの」だったというだけだ。

 着ぐるみキャラクターとか大好きだ。全国にいくつかあるテーマパークのキャラクターなんて、モノによっては可愛すぎて鼻血出るわ。出したことないけど。

 だが、友人達にそんなものが好きだなんてバレたら、もう恥ずかしくて死ねると思う。細マッチョ系イケメンが着ぐるみに興奮するとか、俺でもないわーと思う。恐らく友情も終わる。

 だから決して知られてはいけない。隠し通すしかないんだ。



 それでも俺の体は気が付くと、その超絶かわいい着ぐるみを追っていた。

 その子はショッピングモールの賑やかな場所へ来ると、子ども達と記念撮影を始めた。

 あっ、抱きついた!

 写真の時、ちょっと手が上がるのが可愛い! 何だあれ、あの子なりのポージングか!?

 あのガキ、着ぐるみにパンチを繰り出そうとしている! 俺が助けに…! あ、母親がげんこつ食らわした。ざまあみろ!

 気が付くと、俺はショッピングモールの柱の影からそのゆるキャラを見続けるという、ちょっとストーカーのような行動をしていた。


「ママー、あのサングラスのお兄ちゃん、へん!」

「見ちゃいけません!」


 そんな母子の会話もどうでもいい。

 俺も写真撮りたい。握手したい!

 でも俺のイメージがそれを邪魔する。

 嗚呼、どうして俺は細マッチョ系イケメンなんだ!



 しばらくすると、着ぐるみの近くにいたショートヘアーの女性が大きな声でこう言った。


「カメ子はご飯の時間だから、ここでさよならです! 本日、天堂カメラで五千円以上お買い上げの方には、この子、天堂カメ子のヌイグルミストラップをプレゼント! ぜひお店にも来てくださいねー!」


 耳より情報ゲット!

 ヌイグルミストラップ、欲しい!

 カメラならイケメンが買っても問題ない。むしろカッコいい。

 そしてさりげなくもらったストラップを、「彼女にでもあげるかな」って呟けば、俺のイメージは守られる!

 そんなことを考えながら、俺は着ぐるみの後を追うように「天堂カメラ」の店へと戻った。

 ていうかあの子、天堂カメ子っていうのか。カメ子さん、可憐だ。古風な名前に似合う、奥ゆかしい子なんだろう。



 「天堂カメラ」に足を踏み入れると、そこはたくさんの人で賑わっていた。店の奥へと消えていくカメ子さんを最後まで一方的に見送ったあと、店内を改めて見回す。

 写真の現像が出来る機械。五千円分も現像する写真ねぇな。

 俺の目的は、何でもいいから五千円以上買い物をしてカメ子さんストラップを入手すること。

 続いてフレームやアルバムが目に入るが、そもそも写真を撮ったり現像したりすらやらない人間に、必要なものではない。

 やっぱりカメラか。色んなカメラが並んでいる。デジタルカメラや一眼レフ、ポラロイドカメラもある。

 ポラロイドが一番価格的に手頃だが、男が持つイメージがない。偏見だろうか?

 一眼レフなんてプロ仕様過ぎて、絶対にいらない。ていうかあのバズーカみたいな望遠レンズ、あれ持ち歩くとか何の苦行だよ。

 やっぱり定番のデジカメだな。そう思って安いものを探すと、一万円しないくらいのカメラも並んでいる。だが、安いのも要注意だ。今日はキャンペーン。すべてのカメラが三割引! つまり、下手に安いの選ぶと会計で五千円を切る!


「いらっしゃいませ! どのようなカメラをお探しですか?」


 うお、びっくりした! いつの間に真横に立っていやがった!?

 隣にはセミロングの黒髪を後ろで束ねた、笑顔の女性が立っていた。この店の店員か。

 俺は咄嗟に笑顔を作る。


「ええと、そんな凝った写真とかは撮らないので、スタンダードなデジカメが欲しいんですけど」


 要約すると、余計なオプションは不要だからとにかく単純で手頃な値段のカメラを出せ! という意味だ。

 店員は俺の笑顔に頬を赤らめた。モテる男は辛いね。


「でしたらこちらなどいかがでしょうか? ベーシックなタイプですが、画素数がかなり高くて綺麗なお写真をお撮りできますよ」


 値段を見ると、26800円。にまんろくせんはっぴゃくえん!?

 高ぇよ!


「本日なら三割引で18760円になります。さらに5000円相当のSDカードとミニ三脚もお付けできます!」


 畳み掛けられた! だけど意外と安くなった。何か色々付いている。

 だけど買うだけで使う予定ないしなぁ、と唸り、他のカメラも見てみようと視線を巡らせると、店内に貼ってあるPOPが目に入った。

 カ、カメ子さん!

 カメ子さんの絵が描いてあるPOPには、横にカメ子さんのセリフが吹き出しで書かれてある。


『思い出の写真をたくさん撮ったら、現像は天堂カメラで! カメ子も待ってるよ!』


 そうか! これを機会にカメラが趣味ってことにしたら、ことあるごとに「天堂カメラ」に現像に来られる!

 カメ子さんと接点を作ることが出来るかも知れない…。

 気がついたら、店員に答えていた。


「買います」

「ありがとうございます!」


 満面の笑顔の店員。

 してやられた気がしないでもないが、これもカメ子さんの為だ。

 クレジットカード持ってて良かった!



 店員に案内されてレジカウンターへ。

 会計を済ませ、保証書をもらい、ついでにポイントカードも作られた。

 そしてカメラの入った紙袋が俺の前に。

 ちょっと待て! ヌイグルミストラップは!?

 もしかして品切れたか!?

 だったらカメラいらねえよ!

 そんなことを考えたのは一瞬だった。店員の隣に、先程カメ子さんと一緒にいたショートヘアーの女性が現れたのだ。


「マリちゃん、特典のストラップはお付けした?」

「あ! すみません忘れてました! 藤井さん、ありがとうございます」


 藤井さん、俺からも礼を言いたい。ありがとう!


「本日、五千円以上お買い上げのお客様にこちらのカメ子ストラップをお付けしてます!」


 マリちゃんという店員が笑顔でそれを差し出してきた。

 俺は頬が緩むのを必死でこらえる。嬉しいです。

 そしてあの台詞を。


「どうも。彼女にでもあげます」

「きっと喜ばれますよ」


 俺に彼女がいると思ったマリちゃんは一瞬残念そうな顔をしたが、藤井さんは爽やかな笑顔でそう返してきた。

 藤井さん、あんたは俺の恩人です。



 ストラップは透明のビニール袋に入っている。俺の手のひらにすっぽりと収まる大きさのカメ子さん。

 超絶可愛い。

 俺はカメ子さんをそっとカメラの入った紙袋に入れると、とても良い気分で店を後にした。


 ああ、良い休日だった。



変な新キャラですみません(笑)

次回はひまりちゃん目線です!

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