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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
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【さん】初仕事です

ひまりの初仕事です!


 いつもより早く目が覚めました。

 外は良い天気です。

 まさしく、ゆるキャラデビュー日和ですね!

 そうなのです。今日は私が、「天堂カメ子」として初仕事をする日なのです!

 吉川ひまり、頑張ります!



 この日は本社に集合です。

 オフィスに入ると、広報部の方達が気付いて手を振ってくれました。母もいます。

 そこに加わると、今日一緒にお仕事をしてくださるメンバーを紹介されました。

 まずは吉川広報部長。母です。

 そしてアラサーくらいと思われる綺麗な女性、谷さん。

 とても社会人には見えない若々しくボーイッシュな女性、藤井さん。

 眼鏡の優しそうなおじさん、田島さん。

 基本的には谷さんと藤井さんが、同性ということで私のマネージャーみたいなことをしてくれるんだって。芸能人みたいですね! ちょっとわくわくします。

 田島さんは先代の「カメ子」だったおじいちゃんを補佐していたそうで、顔見知りのお店やショッピングモールに、引き継ぎとして同行してくださるそうです。

 皆さんにこにこしていて、優しそうです。私も必死で笑顔を返しましたが、その瞬間皆さんの笑顔がわずかにひきつったのを、私は見逃しません。ですが三人とも動揺を見せずに握手までしてくれました。

 この人達、プロやで! さすが広報!



 会社の黒いワゴン車に、大きな袋に入ったカメ子を積み、私達も乗り込みます。

 今日は初日ということで、皆で一緒に現場まで行くことにしてくれたそうです。

 交通の便などによっては現地集合になることも多いそうです。カメ子はその都度、広報の方が車で運んで下さるとのこと。

 広報って、大変なんだなぁ。


 そして到着したのは、大規模なショッピングモールです!

 この中に、天堂カメラの新店が今日からオープンするらしく、私、というかカメ子は、このショッピングモールで最も人の出入りが多い場所で広報の方と新店のスタッフの方と一緒に、チラシや風船を配るんだって。

 これまで「顔面凶器」のせいで、仕事は常に日影のポジションだった私が、こんな大きなショッピングモールで華々しくチラシを配るなんて、夢のようです!


 オープンする新店舗のバックヤードを借りて着替えるとのことで、私は初めて「天堂カメラ」の店内へと足を踏み入れました。何しろ、これまで写真というものに興味を持ったことがなかったもので。

 店内はパステルカラーを基調とした内装で、とてもキレイです。

 壁側にはお客さんが自分で操作してカメラやスマートフォンのデータを現像する事ができる機械が並んでいます。

 店の真ん中には、販売されている様々なカメラがところ狭しと並べられています。お手頃な物から、私にとっては目玉が飛び出るくらいに高額な物もあります。これは壮観ですね!

 カメラ以外にも、フォトフレームやアルバムが飾ってあります。それらには全て、笑顔の写真が入っており、店内を明るく彩ります。

 奥にはレジカウンターがありますが、その横に奥へ続く通路が。そこがバックヤードかと思いきや、何と写真スタジオが!

 プロのカメラマンが、証明写真や簡単な記念写真なら撮影してくれるそう。

 バックヤードはさらにその奥でした。

 入口からの印象より、この店の奥行きすごいね!

 バックヤードの隅と藤井さんの手を借りて「天堂カメ子」に変身し、いざ出陣!



 土曜日ということで、ショッピングモールは朝からとても賑わっています。

 カメ子は広報の皆さんに支えられながら、よたよたと目的の場所へ移動。歩く練習はしましたが、まだまだ不安定。さしずめ歩き出した一歳児といったところでしょうか。つまり、広報の方もカメ子から目が離せません。ごめんなさい。

 目的地へ着くまでにも、多くの子どもたちから声をかけられました。


「可愛いねー!」

「でけー!」

「歩くのおそーい」

「ねえねえ、そのカメラほんもの?」

「必殺ウルトラサンダーキック!」


 色んな言葉をかけられて、何だか楽しいです!

 ちなみに、ウルトラサンダーキックをカメ子に食らわそうとした少年は、母親からげんこつを食らうはめになりました。ウルトラサンダーなげんこつに、私がビビりました。

 目的地に着く頃には、たくさんの子どもたちに囲まれていました。

 谷さんがカメ子に耳打ちしました。


「カメ子ちゃん。チラシは私達で配るから、あなたはお客さんと写真撮ったり戯れたりしててちょうだい」


 しゃ、写真!? 戯れる!?

 どちらも私の最も不得手とする事じゃありませんか!

 そんなの練習しなかったじゃん、吉川広報部長!

 ですがカメ子は人の言葉を話せません。やるしかないのです。


「カメ子と写真撮りたいお友だちは並んでねー!」


 藤井さんが上手くお客さんを誘導してくれます。

 最初の女の子は、五歳くらいでしょうか。もじもじと恥ずかしそうにしています。カメ子はしゃがむ事ができないので、まずは挨拶として頭を下げてみました。

 …固いだろうか。

 ですが女の子も、可愛いしぐさでぺこっと頭を下げてくれました。

 可愛い!

 短い手で頭をなでなですると、満面の笑顔になって抱きついてきてくれました。

 可愛すぎる!

 女の子のお母さんがスマートフォンで写真を撮りたいと言うので、女の子と並んでポーズを取ります。ポーズといっても、バリエーションは皆無なので両手を左右に広げるに留まりましたが、それでも周りからは「可愛いー」と声が上がります。

 苦節二十三年、これほどちやほやされたことがあったでしょうか。

 カメ子、恐るべし!

 やっぱり見た目って大事なんだね!

 


 それから二十分ほど、子どもたちと写真を撮ったり握手をしたりと、気が付くと夢中でカメ子に成り切っていました。ここで藤井さんが、「カメ子、ご飯の時間だから一度帰るよ!」とお客さんにも聞こえるように言いました。


「次は一時間後に同じ場所でご挨拶する予定です! その間に、良かったら『天堂カメラ』も覗いてみて下さいねー!」


 藤井さん、商売上手ですね!

 子どもたちとお別れし、来る時より慣れ始めてスムーズな歩き方でお店まで戻りました。

 バックヤードでカメ子を脱いで、大きなため息をついたところに母がお茶のペットボトルを差し出してくれました。


「お疲れ様。良かったわよ!」


 広報の皆さんも絶賛してくれます。


「子ども達への接し方も上手だね! 驚いたよ」

「動きも可愛かったし、話題になるかもしれないわね」

「これからが楽しみだなあ」


 今日は槍でも降るんでしょうか。私がこんなに誉められるなんて。

 ですがそれ以上に、自分の新たな一面を発見しました!


「部長!」

「なあに、ひまりちゃん」

「私、母性に目覚めた気がします!」


 子どもたち、本当に可愛かった!

 これまで私を見た子どもたちはみんな、怖がる、泣く、敵認定するの三択でした。

 ですが今日、「子どもって笑うと可愛いんだ!」と初めて理解した気がします。

 その感想を聞いた母は予想外だったのかきょとんとしていました。


「…まあ、楽しかったんならいいわ」

「はい!」


 良い返事を返しました! カメ子、楽しーい!



 その後も三十分カメ子を演じ、移動含めて一時間休憩する、を四回繰り返し、初日は終了となりました。

 うん。良いスタートを切れました。

 これからも頑張るぞ!



 カメ子を夢中で演じていた私は、気付いていませんでした。

 遠くから、サングラスをかけた怪しげな若い男が、ずっとカメ子を見つめていたことに。



次回は新キャラ目線で進める予定です。

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