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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
15/27

【じゅうご】苦い思い出 岬目線

今回はずっと引っ張っていた卒業式前日の回想が入ります!

やっと書けた!


 はっきり言って、脈ありだと思う。


 だって普通、何とも思っていない男に弁当を作ったりしないよな?

 あれ、超旨かった。

 高校の時に付き合った数人のうちの一人が、よく弁当を作ってきてくれた。その時も嬉しかったが、「昼飯代が浮いてラッキー」くらいの気持ちだった。しかもその弁当、料理なんかしない俺が見てもわかるくらい冷凍食品に頼っていた。まあそこそこ旨かったし、腹が膨れればそれで良かった。 


 でも吉川の弁当は、比べ物にならないくらい嬉しかった。吉川から弁当のことを聞いた後、後ろ姿を見ながら思わずガッツポーズをした。そして蓋を開けると、定番ではあるけど手をかけて作ったと一目でわかる料理の数々。これだけの量を作るのに、どれだけ早く起きたんだろう。

 そして味は抜群。めちゃくちゃ俺好みの味。

 胃袋を掴まれるとはこういうことか。

 これはもう俺のこと好きなんじゃないだろうか?

 

 だけど距離を大きく縮められなかった理由は、気になることがあったから。

 俺は楽しかった。田島さんの言った通り、本当に良い場所だったし、吉川ともたくさん話せた。

 でも吉川は、一度も笑わなかったんだ。

 きれいな風景を見ているときや写真が上手く撮れたとき、表情が和らぐことはあったけど、俺に対して笑いかけることは一度もなかった。

 あの不気味な笑顔でもいい。笑ってくれたらいいのに。

 そういえば、もうどのくらい吉川の笑顔を見てないんだろう。そう振り返ってみて気づく。

 俺があいつを「顔面凶器」と呼んだ日、あの日からだ。

 …そもそもの原因、俺でした。

 あの時のことも、そして卒業式前日のことも、謝ってもいないのに笑顔が見たいなんて虫が良すぎるということか。

 卒業式の前の日、俺は吉川を泣かせたんだ。


 * * *


 ずっと忘れられない。

 卒業式の前日、二月二十七日。

 俺は吉川に告白すると決めた。

 高校の三年間で、三人の女の子と付き合ったが、何となく好意を寄せられたので付き合ってみただけで、特別な感情はなかった。

 自分から好きになって告白するのは初めてだった。

 「顔面凶器」というあだ名を付けてしまってから、吉川は俺をずっと避けている。いつも口を真一文字に結び、決して笑わなくなった。

 あの事を謝って、告白するんだ。

 あだ名をつける前は程よく仲が良かったと思う。吉川からの好意を感じたことも何度もある。だから、可能性はない訳じゃないと思い込み、心を奮い立たせる。


 放課後、メールで校舎裏に呼び出した。

 卒業式の前日で、部活もなく皆の帰宅は早い。野次馬はいない。

 返信がなかったから無視されるかと思ったが、吉川は来てくれた。

 だけど表情は固く、目を合わせてもらえない。

 心折れそう。でも、ここでやらなきゃ男が廃る!


「吉川、あのさ」


 吉川は何故か周囲の様子を窺っている。絵に描いたような集中力散漫さだ。

 俺の方を向いてほしい。

 頬が熱くなるのを自覚しながら、言った。


「俺と付き合ってくれ!」


 あっ、先に謝るんだった! しまった順番間違った!

 だが口から飛び出した言葉はもう取り消せない。

 口から心臓が出そうなほど緊張している。告白するってこんなに緊張すんのかよ。

 吉川がやっと俺を見た。

 だけど俺が想像していたような、頬を赤らめるとか驚くといった反応はない。

 そして、とんでもないことを言ったのだ。


「罰ゲームか何かですか」

「えっ」


 何を言われたのか理解できない。


「そうなんでしょう。でなきゃ、岬くんがそんなことを私に言うわけありません」


 心が折れた。

 決死の告白を、罰ゲームだと。

 確かに順番は間違えた。あの時のことを先に謝って、誠意を見せるべきだったんだ。

 だとしても、ちょっと酷すぎませんか。


「どこかで皆見てるんですか。それとも撮影でもしてるんですか。…私のこと、そんなに気に入りませんか」


 吉川の声が震えていることに、目が潤んでいることにもっと意識を向けるべきだったんだ。だけど俺は、好きだった子にそこまで言われて冷静でいられるほど、大人ではなかった。

 自分の心とプライドを守ることを優先した。

 もう吉川なんて大嫌いだ、と思い込むことにしたんだ。


「ああそうだよ! 罰ゲームじゃなきゃ、誰が顔面凶器に告白なんか」


 だけど、吉川の目から涙がこぼれた瞬間に頭が一気に冷えた。

 傷つけたいわけではなかった。あだ名をつけたときも、今も、吉川を傷つけたかったことなんて一度もない。

 なのに今、俺は何を言った?


「私は、岬くんが好きでした」


 声が出ない。過去形で言われたな、と思った。


「嫌い。大嫌いです」


 胸が痛い。死ぬかも。

 だけど、俺には傷つく資格もない。

 吉川は俺に背を向けて、泣きながら走っていってしまった。

 追いかけることも、声をかけることも出来なかった。



 「ごめん」とメールを送ったが、返信はなかった。

 卒業式に、吉川は来なかった。担任は体調不良だと言ったけど、きっと俺のせいだと思った。

 もう一度メールを送ったら、送信できなかった。メールアドレスを変えられたのだ。電話も繋がらない。着信拒否されている。

 謝ることすら拒絶されたのだとわかった瞬間、俺の失恋は確定的になった。

 

 * * *


 はい、回想終了!

 苦い苦い思い出だ。思い出す度に気が滅入る。

 今日、何度かあの時のことを謝ろうと思った。だけど、やっと二人で自然に話せるようになって、楽しく過ごしているのに、今更その話を出して楽しい雰囲気に水を差すこともないんじゃないだろうか。

 わかっている。あの時の話を持ち出したくないのは俺の方だ。

 俺の小心者!

 …決めた。次会ったら謝る。

 謝って許してもらえたら、もう一度告白するんだ。


 次は一緒にカメ子さんに会いに行ってみようか。アプリを教えてくれたり、ストラップを付けていたり、きっと吉川はカメ子さんのファンだ。会ったら喜ぶだろう。

 そう思って久しぶりにカメ子さんの日記を見た。

 すると、数日前の日記であのアプリが紹介されていた。


「あぷり できたです かめこも かめこ そだてるです」


 そんなカメ子さんの日記の後、社長がアプリについて補足説明をしていた。

 最後にカメ子さんの撮った写真が。

 え、自撮り?

 だけど恐らく手が短すぎるのだろう。左頬だけがわずかに写っている。

 そしてぶれている。愛しい。

 ていうかカメ子さんの手でスマホが操作できることに驚くわ。すげえな。

 カメ子さんの出演予定のイベントを調べると、一週間後の日曜日に天堂カメラで最新カメラの店頭販売があり、それに登場するようだ。

 よし、誘ってみる!


『今日はありがとう。

 来週の日曜、天堂カメラのイベントにカメ子さん来るみたいだけど、一緒に行かねえ?』


 しばらくすると既読がついた。緊張しながら待っていると、返事が。


『こちらこそ、ありがとうございました。

 その日は仕事があります。すみません』


 相変わらず事務的な会話。そして。 


 …断られた…。


 いや、仕事だから仕方ない! 他の日も調べてみよう。

 お、毎週土日のどっちかでカメ子さんが現れるイベントが。

 この日は俺が仕事だから、よし、この日だ。

 送信してみた。


 …仕事で断られた…。


 何故!? どうしてこんなに予定が合わない!?

 神様は意地悪だ。 

 いや待て。これもしかして、もう会いたくないっていう吉川からの遠回しなお断りか!? じゃああの弁当は何だったんだ!

 俺、何かしたっけ!? …あっ、五年前にしてるわ!

 ショックを受けていると、吉川からこんな返事が。


『仕事の後なら少しだけ会えます。カメ子のイベントは終わっている時間ですが、夕食でも行きますか?』


 吉川ああああ!

 安心した。泣きそうだ。

 吉川から誘ってくれるなんて!


『何食べたい?』

『嫌いなものはないので、何でも大丈夫ですよ。お勧めのお店とかありますか?』

『イタリアンは好き?』

『好きです』

『店予約しとく。日曜よろしくな』

『楽しみにしてます』


 楽しみにしてます!!

 俺と会うの、楽しみにしてるって!

 どうしよう、大声で叫びながら全力疾走したい気分だ!

 だけどもう夜だから常識人としてやめておく!

 俺も楽しみです!

 明日からの仕事、超頑張れる!!



岬くんはちゃんと謝れるんでしょうか?

応援よろしくお願いします!

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