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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
13/27

【じゅうさん】デート決定 岬目線

今回は岬くん目線ですが、都合上少しだけひまり目線も入ります。

読みにくかったらすみません!


『今週の日曜、空いてる?』


 何て送ろうかさんざん考えた。はっきり言って仕事も手につかない。ストレッチ教室も注意散漫で、同じストレッチを三回繰り返して常連のおばさま方に「ちょっと岬くんいつもより多いわよ!」と突っ込まれる始末だ。

 だがおばさま方は「疲れてるのねぇ」と勝手に納得し、お饅頭やら飴ちゃんやらを大量にくれたのでクレームにはならないだろう。普段から愛想振り撒いといて良かった。



 俺がずっと考えているのは、吉川ひまりへのお誘いの文面だ。

 これまで、この若さの割には付き合った女の子の人数は多い方だと思う。どの彼女にとっても自慢の彼氏を演じるのは得意だったし、誘い文句なんて適当に送っても大抵良い返事が返ってくる。

 なのに、メッセージを送る相手が吉川だというだけで、どうしてこんなに悩むんだろう。

 そして結局送ったのは、何の面白味も特徴もない内容。

 デートに誘うにしては事務的すぎると自覚している。

 だけどこれが今の俺の精一杯だ。吉川に対しては、お互いにわだかまりがありすぎて、急に距離を詰めることなど不可能だ。

 ランチ休憩にメッセージを送信し、コンビニで買ったカレーパンをかじっていると、すぐに既読がついた。

 えっ、ちょっと待って心の準備が!

 返事の内容も怖いが、既読スルーも怖い。

 この休憩中に返事が来なかったら、午後に予定している水中ウォーキングなんて絶対に集中出来ない。

 突然味のしなくなったカレーパンを無理矢理咀嚼しながら、じっと返事を待つ。

 …時間にして三分。俺にとっては一時間くらいの体感だったが、スマホがピロン、と鳴りメッセージを受信した。

 吉川だ!


『空いてます』

 

 こちらも事務的な、絵文字や顔文字どころか句読点すらない素っ気なさ。

 だけど日曜空いてるって!

 この前会ったときの話の流れからいって、日曜に俺と会うことは想定した上での返事のはずだ。

 手が震える。必死で指を動かして返事を打つ。頑張れ俺!


『前に言ってたカメラのことなんだけど、俺が教わってる人に聞いたおすすめの場所行ってみない?』


 一緒にその場所のURLを送った。

 田島さんから聞いたのはフラワーパークという場所だ。

 名前の通り花がたくさん咲いていて、建物はヨーロッパ風で風景写真の練習に持ってこいだと聞いた。

 聞いたときは聞き流したが、ここに来て使えるとは。田島さんはやっぱり神様だ!

 またすぐ既読がついた。

 ああ、怖い。


『行きたいです』


 またしても短文。しかもそっけない。

 だけど大事なのは内容ですから! 行きたいって! 俺と!

 フラワーパークは俺の家より吉川の家に近い。吉川の最寄り駅で待ち合わせをすることにした。

 日曜の予定が決まったところで、思い切って日常会話を振ってみた。


『今、休憩中?』

『お昼休みです』

『俺も。カレーパン食べてる』


 緊張でほとんど味しないけどな!


『栄養偏りますよ』


 心配してくれた!


『吉川はお弁当?』

『そうです』


 自炊してるんだ。偉いなあ。


『料理得意なの?』

『好きですよ』


 好き、という言葉に過剰反応してしまう。これは料理のことだ。しっかりしろ俺!

 その時、上司から呼ばれた。くそ、いい感じだったのに!


『ごめん、上司に呼ばれた。じゃあ日曜よろしくな』

『はい。いってらっしゃい』


 いってらっしゃいだって! 超テンション上がる!

 これは水中ウォーキング張り切っちゃうな!




 フラワーパークの前日、土曜日にはカメ子さんが出るイベントがあった。

 今日もカメ子さんは可憐だ。

 だけどごめんな。俺、他に好きな人ができたんだ。できたというか、ぶり返したというか。

 カメ子さんはあくまで俺にとってアイドルなんだよな。

 いつも通り田島さんに押されてカメ子さんの写真を撮らせてもらう。今日は藤井さんという女性もいる。最初にカメラを買ったときに、ストラップをつけてくれた女性だ。


「岬くん、今日機嫌いいね」

「え? そうですか?」


 言いながらも、確かに機嫌がいい自覚はある。理由は決まってる。


「明日、フラワーパーク行くことになったんですよ」


 目の前のカメ子さんがびくんと震えた気がしたが、気のせいだろう。


「あ、もしかして彼女さん?」


 そう言ったのは藤井さんだ。そういえば、カメ子のストラップをもらったときにそんなことを言った。

 …彼女じゃないけど、これからそうなるかも知れないし。


「えっと、その、まあ」


 カメ子さんが動かなくなった。どうした? スリープモード?


「へえ。いいね。フラワーパークいいとこだよ! うちのカメラマン結構行ってるんだよね」

「そうなんですか」


 カメ子さんが藤井さんの肩をぽんぽん叩いた。


「どうしたの? …ああ、衣装直し行こっか」


 大人の俺は察する。休憩だな。だけどカメ子さんが自分から休憩をアピールするのは俺の知る限り初めてだ。

 今日は様子がおかしい。具合でも悪いんだろうか?

 カメ子さんは俺にぺこりと頭を下げる。かわいい。

 俺も頭を下げると、カメ子さんはゆっくりとした動作で帰っていった。

 …本当に中身はおじいさんなんだろうか?

 動きの緩慢さといいポーズのレパートリーの少なさといい、思い当たることはいくつもある。

 写真を撮るのが苦手なところもそれっぽい。

 いや、吉川も言ってたじゃないか。カメ子さんはカメ子さんだ。中身とかそんなの関係ない。

 …大丈夫かな。腰痛かな。

 やっぱりおじいさんという印象はそう簡単に拭えない。大人だからな。

 頑張れおじいさん! 応援してます!

 

  * * *


 はい、こちらカメ子こと吉川ひまりです。

 バックルームに入ってすぐ、藤井さんはカメ子の頭を取ってくれました。


「ひまりちゃん、大丈夫!? 顔が真っ赤だよ!?」


 違うんです。恥ずかしすぎて居たたまれなかっただけなんですよ藤井さん。

 だけどそれを言うと私と岬くんのことを話さなければならなくなります。…ごめんです!

 大体、彼女って何ですか彼女って!

 なった覚えないですし、あなた私のこと昔振ったじゃないですか!

 なのにあんな嬉しそうにされたら、こう、何か、もう。

 落ち着こうと大きくため息をついた私を心配げに見つめ、藤井さんは「飲み物取ってくるね」とその場を離れました。

 気を使わせて申し訳ないです。

 それもこれも、全部岬くんのせいです。これだからイケメンは!

 勘違いしてはいけません。ええ、しませんとも。

 岬くんが私に気があるなんてこと、あり得ません。

 私はただ、写真の撮り方を教わりに行くだけなんですから!

 妙な考えは捨てて、技術を磨くことだけに専念します。そうしましょう!

 


二人は両片想いというやつですかね。

お互いに秘密の多い二人ですが、本心を出せる日は来るのでしょうか。

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