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ゆるキャラはじめました  作者: 山下ひよ
10/27

【じゅう】同窓会です

いつか天堂カメラの社長メインの話を書きたいです(笑)


「きょうわ おさんぽ したです ぴんくの おはな たくさん おいしそう」


 そう、今日は「今日のカメ子」のために会社の近くの土手に散歩に行きました。もちろんカメ子の姿ではなく、人間の姿ですよ!

 ピンク色の、名前はわかりませんが小さな花がたくさん咲いていてかわいいです。でも写真に撮ったら、ピントが合っていませんでした。

 …上達しないなあ。


「しゃちょおさん はしって ころんだです としだから いってるです」


 社長が「俺も撮って良いぞ!」とノリノリでついてきました。正直な気持ちを言っていいですか。声に出さないからいいですよね。…ウザいです!

 散歩なんて久しぶりだな! と声のデカイ社長は走り回り、派手に転んでいました。助ける前にシャッターを切りました。…誤解しないで下さいね? ざまあみろとか思ってません。仕事のためです。

 その瞬間の写真を載せました。例によってブレブレです。でも面白いからいいか。



 田島さんによると、あの岬くんのカメラの腕前はどんどん上達しているとのこと。イケメンめ!

 悔しくて、田島さんに「私にも教えてください!」と言うと、こう返されました。


「カメ子は下手な方がかわいいって」


 カメ子が私の成長をこんな形で妨げるとは!

 無念です!



 そんな私に、思いがけない話が来ました。


「ゆるキャラコンテストですか?」


 谷さんは笑顔で頷く。


「そう。毎年全国のゆるキャラが集まるんだけど、今年は出てみようと広報のみんなと言ってたのよ」

「昨年は出なかったんですか?」

「昨年は、ほら、体力的に、ね?」


 ああ、おじいちゃんでしたもんね。そりゃあキツイよ。

 ふと、他のゆるキャラにはどんな人が入ってるんだろうと考えます。

 定年越えたおじいちゃんは意外に定番なのか? それともアルバイト?

 コンテストに出れば、会えるんでしょうか。

 それはちょっと楽しみです!


「わかりました。頑張ります!」

「良かった! じゃあ舞台でのアピール方法考えといてね!」


 …えっ。私が考えるんですか?

 顔に出ていたようです。谷さんが苦笑しました。


「丸投げはしないわよ。ただ、あなたがやりたくないとか違うなと思うことをやらせたくないから、ある程度あなたの希望を聞きたいの」


 そういうことですか! 時給800円のアルバイトにそこまで気を使ってくれるなんて、やはり広報の皆さんは優しいです!

 話が決まったところで、今日の勤務は終わりです。

 雑務をこなし、社長と散歩して「今日のカメ子」を更新し、最後にカメ子の打ち合わせ。

 なんて充実したアルバイト生活でしょう!



 しかし爆弾は、帰宅後母からもたらされました。


「同窓会のハガキ、出席で返信しといたわよ」

「ひょええ!?」


 久々に変な声が出ました。

 だってあれですよ、同窓会ですよ!?

 岬くんがいるかもしれないじゃないですか!


「な、なん、何で!」

「せっかくだから岬くんと話して来なさいな。これから会うたびに気まずいの嫌でしょう?」

「い、いいんですよ! どうせカメ子で岬くんは私が誰かなんて知らないし!」


 そう、気まずいのは私だけ。岬くんは楽しそう。腹立つ。


「今、岬くんだけ楽しそうで腹立つって思ったでしょ」


 ひぃぃ! また母に心を読まれた!


「とにかく行ってきなさいな。何があったか知らないけど、わだかまりなくしてらっしゃい」


 そんな簡単になくなるわだかまりじゃないんですよ!

 私の顔から不満を読み取ったのでしょう。母はにっこり微笑んだ。


「岬くんが来るたびにネガティブオーラが出てるのが見てて鬱陶しいのよねえ」


 あ、これはまずいです。本当に鬱陶しいと思っている顔です。


「そもそもあなた、私に借りがあるわよねえ?」


 来た! とうとう借りを返すときが来たということでしょうか!?

 それが同窓会!? …母は関係ないじゃん!

 これは鬱陶しさ半分、面白がってるのが半分です。絶対そうです!

 あなたはドSですか! …あっ、ドSでしたね! 忘れてましたよ。

 これはもう諦めるしかない流れです。

 ドタキャンなんかして、母の不興を買った日には、…恐ろしい!

 行く以外の選択肢は、もう私にはないのですから。



 嗚呼、来てほしくない日ほど、すぐに来てしまうものですね。

 今日は同窓会です。

 ええもう、テンション下がりまくりです。ああ、電車止まらないかなぁ。台風とか来ないかなぁ。

 そんな都合の良いことが起こるわけもなく、家でうじうじしていた私を母が追いたてます。


「ほらこのワンピースで行きなさいな」


 ええ…。すごく張り切ってるよ。


「メイクしてあげるわ。最近カメ子だからってずっとスッピンじゃない」


 だってカメ子だとどのみち汗で落ちるんですよ。


「髪型はどうする? やっぱりくるりんぱかしら」


 今の流行をよくご存知で。

 もう好きにしてください。



 写真スタジオでかつては着付けやヘアーセットも担当していた母の手により、私は一見清楚な女性に変身しました。

 いつもならもっとテンションが上がるものですが、今回ばかりは効果がありません。

 とぼとぼと駅へ向かい、「電車よ止まれ!」と祈りながらも結局のところ、無事に同窓会が行われる居酒屋の最寄り駅に時間通りに着きまして。非常に順調にそのお店まで来てしまいました。

 …帰りたい!

 急な仕事とか入らないかな? ないな! カメ子だし!



 そこは個人経営っぽい居酒屋です。和風な雰囲気で、引き戸に「本日貸切」の看板が。貸し切ったの!?

 意を決して入口をゆっくり開けました。中はすでに賑わっています。そうっと入っていくと、中にいた人々が一斉にこちらを向き、しいんとなりました。

 な、何ですかこの視線は!

 顔面凶器がホントに来たよって事ですか!

 だってハガキ来たんだもん! 返信しちゃったんだもん!!

 店員さんの「らっしゃっせー!」というかけ声だけが響き渡ります。店員のおじさん、あなただけです。私を歓迎してくれたのは。

 その声に我に返った元クラスメイトたちが、ざわめきを取り戻しました。


「吉川、来てくれたんだな。久しぶり!」


 立ち上がってそう声をかけてくれたのは幹事の田中くん。嫌そうな顔をせず、にこにこしてくれています。ちょっと安心。


「お、お久しぶりです」


 小さな声でそう返事を返すと、数人の女の子が私の方に来ました。あ、クラスでも目立つタイプのグループだった子達だ。

 正直に言いましょう。苦手です。

 彼女らは当時ほどの派手なメイクではないものの、大人の女性らしく流行を取り入れた出で立ちをしています。


「吉川さんだー! 五年ぶり? てか私服姿初めて見たかも!」


 そりゃそうでしょう。高校は制服だったし、こんな人たちとどこかに出掛けたことなど皆無です。修学旅行すら行かなかったんですから。

 ですが何一つ返事をする暇を与えられないまま、さあさあとお店の奥へと引っ張られます。この子達、田島さん並みの押しの強さですね!

 そして連れていかれたそのテーブルには。


「…久しぶり」


 来たー! 岬くん!

 やっぱりいるよね。そりゃそうだよね、田中くんの親友だし。

 岬くん、目が泳いでますよ! ものすごく気まずそうですよ!

 私も同じ気持ちです!


「…」


 …あっ、しまった! 無言で頷いてしまった!

 最近の岬くんとはカメ子で会ってたから、カメ子っぽく挨拶してしまった!

 無言で頷きだけ返すって何様だよ! 「うむ」ってか!?

 ああほら、岬くんがますます目を泳がせてる!

 申し訳ない!


「お、お元気そうで」


 やっと出た言葉がそれです。何だかすごくうわべだけの会話っぽい返しです。

 もうやだ、帰りたい。


「ねえねえ、吉川さんって今何してるの?」


 押しの強い女子が聞いてきます。この子の名前は確か、木田さん?


「事務などを少々…」


 お見合いか! 何だ少々って。

 でも嘘はついていないですよ。事務もやってます。メインはゆるキャラですけどね。


「あ、あたしも事務!」


 そう言ったのは確か、長谷部さん。


「ねえねえ、連絡先交換しよ!」


 ええ!? 話が飛びますね! びっくりしました。

 でも、連絡先かぁ。あまり気は進まないけど、断りづらいな。


「あ、俺も知りたい! メッセージアプリやってる? あれでクラスのグループ作ろうぜ。今度から同窓生の召集それでかけるから」

「いいねー!」


 田中くんの提案に皆が次々乗っかりました。

 岬くんは私に対してやっぱり気まずいのか、会話を見守っています。でも視線は感じます。

 何ですか、言われなくても笑いませんよ!

 何しろ「顔面凶器」ですからね!

 どちらにしろ、断れる空気ではありません。私はしぶしぶスマホを取り出しました。


「あ、そのストラップ可愛いね」


 言われて目をやると、そこには。

 カ、カメ子! カメ子が揺れています!

 外してくるの忘れたー! 岬くんがいるから、絶対に私とカメ子を関連付けさせないようにしようと思ってたのに!

 岬くん、ストラップをガン見しています。

 そうだよね! 知ってるもんね!

 もう毎週って言うほど会ってるもんね!


 吉川ひまり、ピンチです!



次回は岬くん目線でお届けする予定です!

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