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勇者が始める魔王道(マスターロード)  作者: 五五五
第3章「二代目勇者だ!」
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第5話

「人間共は追い返したぞ。マーベル……」

 負傷兵の手当てをするテントの中。ガッデスは傷ついた若き腹心の手を握っている。

 ガッデスの活躍により、崩れかけた前線は持ち直していた。人間の軍を押し返したガッデスが、傷ついた部下を見舞いに来ていたのだ。

「あのとき、私がお前を止めていれば……」

 経験を積ませてやりたい……そんなガッデスの親心が裏目に出た。

 軍人であれば、戦場に倒れるのは当然。しかし、それがわかっていても、ガッデスの心は静まらない。

「マーベル……お前をこんな目に合わせた奴を、私は絶対に許さんぞ」

 ガッデスが小さく、しかし強い口調で呟いた。

 その時、テントの外から一人の兵士が入ってくる。

「ガッデス将軍! ルミナリア宰相様から早馬が到着しました」

 静かに報告を受けるガッデス――だが、聞き終えた頃には額に血管を浮かべ、静かにテントの外へと出ていく。そして……。

「マーベルを――部下たちを傷つけるだけでは飽き足らず、魔王様にまで手を出すだと!!」

 ドッズーーーーン!!

 ガッデスは、背負っていた大斧を大きく振りかぶり、そのまま地面へと叩きつけた。

「魔族に仇名すものは、全てこの私が――ガッデス=オルフェイドが打ち倒してくれるわ!!」

 ガッデスはまるで鬼のような表情を浮かべた。周りで見ていた兵士たちは、普段と全く違う彼の姿に怯えてしまう。

 ガッデスはその場から歩き出し、外にいた上級士官に指示を出す。

「私は魔王城に戻る。いいか、私が帰るまで、何があっても人間共を先に進ませるな!!」

 それだけ言い残し、ガッデスはそのまま、自分の馬へと飛び乗る。

「待っておれよ、マーベル! お前が受けた苦痛と屈辱、私の手で返してやる」

 そう呟くと、ガッデスは全速で城へと向かっていく。


 アルは自分がいる場所がどこだかわからなかった。

 それでも、しばらくすると夢の中にいると理解する。目の前には、幼い日を過ごした孤児院があったからだ。

 同時に、アルは思い出していた。

 孤児として苦しい生活をしていたこと。

 拾われ、厳しい先生の下で教育を受けたこと。

 そして――勇者として激しい訓練を受けたこと。

 ――ああ、そういえばこんなこともあったけなぁ……。

「アルにぃ……アル兄! 今日は一緒に遊んでくれる?」

 訓練やら勉強やらで、なかなか遊び相手になってあげられなかった少女。血の繋がりもないその少女は、アルにとって大切な家族だった。

「わたしもいつか、アル兄と一緒にみんなを守る人になる!」

 屈託のない笑顔で――曇りのない瞳で言ってくれた少女に応えたくて、アルは勇者として強くあろうと決意した。


「お目覚めですか、魔王様?」

「うにゃむにゃ……え~っと? シルフィ? あれ? まだ、夢見てるのかな」

 翌日の朝、アルは寝ぼけた頭で、奇妙なものを見る。ベッドで寝ているはずの自分を、上から見下ろす女性の姿だ。

「寝覚めはいかがですか?」

「まだ、眠いんだけどさぁ……もうちょっと寝かせて、くれ? あれ?」

 昨晩は一人でベッドに入ったはずだった。シルフィは熱が悪化したため自室で休んでいるからだ。

 にもかかわらず、自分に跨る女性の影がある。そのおかしさに、アルはようやく気付く。

 目を擦り、その影の正体を確かめる――そこに映ったのはルナの姿だ。

「おいおい、朝っぱらから何だよ……まさかお前まで、シルフィみたいなことする気じゃ……」

 シャキン!

 アルがルナの行動を茶化す言葉を言い切る前に、彼女の翼剣がアルの首元に添えられる。

「一体、何の冗談……」

「偽らずに――答えろ」

 その言葉には、一切の迷いが感じられない。

 ルナの冷めた視線に、アルは息を飲んだ。

「昨日の……あれは何だ? お前はどうしてあの女と――戦わなかった?」

 その質問に、アルはしばらく何も答えない。だが、ゆっくりと過去の自分について語り始める。

「俺には……親がいない。路上で暮らしてたんだ。何日も食えない人があって、時には、木の根をかじって飢えを凌いだこともあるよ。そのうち、孤児を引き取ってるって場所に連れてかれてさ……そこには俺みたいな――親無しがたくさんいたんだ。彼女はその中の一人だよ。名前はアムラエル――ずっと俺の後ろをついて歩く、妹みたいなもんだった」

 昔話をするアルは、どこか楽しそうだった。

 ――そんなアイツが、剣を手に戦うようになるなんて!

 アムラエルが戦う姿は、彼女を守りたいと願ったアルにとって、心に痛みを感じるものだった。

「それでお前は……あの女を見逃したわけか」

 アルはルナの目を見つめ、静かに頷く。ルナはかざした翼剣を戻す。静かにベッドから降りると、そのままドアの前へと歩く。

「お前の事情はわかった。だが、忘れるな。今のお前は魔王だ――私との約束を……違えるなよ!」

 ルナはそれだけ告げると、部屋から出ていった。

 残されたアルは再びベッドの上に身を投げる。ゆっくりと天井へと視線を移し、大きく息を吐いた。

 ――なら、勇者アルフレッドはどこに?

 心の底に溜まる泥のような感情――真っ直ぐ向き合えない気持ちに蓋をして、もう一度ベッドで横になった。


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