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94.ダビデの種族進化

 翌日も飛行して第6境界の森を抜けた。夕方には少し早い時間だったけれど、今日は第6境界の森を抜けた地点に隠れ家を設置する。


「ダビデ、そろそろ起きますかね?」


 1日たって、確実に一回りは大きくなったダビデを覗き込みながら、問いかけた。


「あぁ、そろそろだろう。しかし、ダビデはどんな職業に就くんだろうな? 基本的には今まで一番多く使った能力の職に就くんだが、ダビデが使った戦闘技能はなんだ?」


 ジルさんがダビデを見ながら悩んでいる。確かにたまに小石を投げるくらいしか戦ってないからねぇ。


「ええ、体の作りで多少は分かるものなのですが、特出するような特徴はないようですね」


「特徴?」


「キャットは知らないのかな? コボルドアーチャーなら片手だけ筋力が発達したり、ソルジャーなら全体的に筋肉質になる。レンジャーなら細身になったり、そんな特徴が出るはずなんだが、ダビデは何もないから、アル様もお悩みなんだよ」


「へぇ……。あ、起きた!!

 おはよう、ダビデ。気分はどう?」


 そんな風に雑談しながらダビデが起きるのを待っていたら、うっすらと目を開けている。


「……おはようございます、お嬢様」


 ぼんやりとしたままダビデは、それでも返事を返してきてくれた。


「調子はどうだ?」


「あれ? ジルさん、それにアル様にオルさんも。ボク、何かしましたか?」


 目を開けたら全員が揃っていることに気がついたのだろう。慌てて起き上がって、周りを確認している。


「あれ、なんでここにいるのでしょう。ここ、ボクのお部屋ですよね? 獣人さん達は何処へ?」


 状況が繋がっていないダビデに、種族進化の眠りについた後の事を説明した。


「それでだ。ダビデ、お前は自分が何の種族に進化したか分かるか?」


 ひとしきり説明して落ち着いた後に、ジルさんが問いかける。ダビデ自身、しばらく考えていた様だけれど、結局分からなかった様で、首を振った。


「あの、お嬢様。お手数をかけますが、鑑定をお願いできませんか?」


「あ、うん。もちろん。なら少し見せてもらうね?」


「え? 鑑定ですか?」


「キティは鑑定技能持ちなのかい?」


 そう言えば、アルオルには私が鑑定技能持ちだと言うことを、まだ教えてなかった。それに気がついたダビデはオロオロしている。


「うん。鑑定技能あるよ。まぁ、あんまり使わないけど。

 さ、ダビデ、鑑定するね」


 何でもないことのようにサラッと認めて、ダビデを鑑定する。


 ダビデ(♂)

 年齢:17才

 種族:コボルドコック

 職業:料理人、癒し系

 レベル:1

 ……


「あ、コボルドコックだって。そっか、ダビデお料理好きだもんね。料理人なんて良い種族だね」


「ありがとうございます。何だか今までよりも、美味しい料理が作れそうです」


 素直に喜ぶダビデを見て笑っていたら、ジルさん達が頭を抱えていた。


「ご主人様、戦闘職以外の職業コボルドなんぞ、聞いたこともない」


「ええ、確かに。普通なら戦闘職ですからね。ダビデ、特殊スキルは分かりますか?」


 どうやら、3段階目のコボルドには、その職業に合わせて特殊スキルが発生するらしい。


「えーっと、常時発動(パッシブスキル)が『美味しい味付け』選択発動(アクティブスキル)が『活〆』みたいです」


「活〆?」


「えーっと、獲物を仮死状態にして、素早く血抜きを行い、美味しく食べる技術です。これ、本来はお魚相手にやるんですが、動物にも出来るようになりました!!」


 褒めてほしいと尻尾をパタパタ振りながら、ダビデは輝く瞳で私を見つめるけれど、なんて恐ろしいスキルを手に入れたの!

 動物を瞬時に脳死状態にして、血抜きをするって、めっちゃ戦闘に役立つから!!


「あ、うん。おめでとう。凄いスキルだね。

 私にはやらないでね?」


 微妙に引きつつ、ダビデを撫でた。ベッドに身を起こしたままだからまだ頭に手が届くけど、これからは屈んでもらわなくちゃならないな。


「なんのご冗談ですか。お嬢様は、美味しく食べる係です。今は何時ですか? お食事の支度をしなくては。

 ボク、きっと1日くらいは寝てましたよね。お嬢様の食事を準備せずに眠っていて、申しわけありません。その分も腕によりをかけてお作りします!!」


 いや、種族進化の眠りをサボりみたいに思わないで欲しい。不可抗力だから!!

 そのままベッドから立ち上がろうとして、ようやく腰に布を巻いただけなのに気がついたのだろう、慌て出した。服は昨日、パッツパツになったから、ジルさんが脱がせたんだよね。


「成長したから、今までの服がまた入らなくなったんだ。とりあえず、ジルさんので何とかなるかな? それなら尻尾を出す穴も開いてるし。ジルさん、悪いのですが、洋服貸してもらえますか? 町についたら買います」


「ああ、分かった」


 快くOKしてくれて、ジルさんは一揃え服を準備してくれた。


「ダビデその首輪が気に入っているのかい? ギリギリだが入って良かったな」


 一番外側の穴にフックを引っかけて、いつもの首輪を着けているダビデにオルが声をかけている。そんなみんなを見ながら、席をたった。


「ダビデ、今日はお祝いだから私が作るよ。何が良いかな?

 それと、種族進化のお祝いに迷宮都市に着いたら、何かを贈るから、欲しいもの考えていてね。ただし生きた生き物は不可」


 そう言えば前回の種族進化のお祝いで、ダビデにねだられてアルオルを手にいれる事になったんだと思い出して、慌てて付け加える。これ以上の増員はごめんです。ペットなら……、それでも今は無理かなぁ。ダビデがちゃんとお世話するなら考えるけど。


「え、ア、イエ! お嬢様、そんな何も要りません!!

 それに、ボクはコックです!! お嬢様に作っていただくわけには!! どうか大急ぎで作りますから、待っていてください!!」


 腰布1枚でベッドから飛び出したダビデに、頼み込まれて、夕飯作成は断念しました。だってさ、お待たせしないために、服なんか着てる暇ありません! このままで十分ですって、私より拳一つ大きくなったダビデに詰め寄られてご覧なさいな。待つから、服を着て!! としか言えないじゃないか。


 それでも、何とかデザートは私が作って、みんなに食べて貰ったよ。ババロア風の不思議な物体だったけれど、ダビデは感涙に咽びながら、フォークを動かしていた。


 さて、明日には迷宮都市国家連合まで飛べるだろう。

 いよいよ、ようやく、ジルさんたちを自由にするための行動開始だ!






 ****


「わぁ!! 綺麗!!」


 実家とは反対側に出た所で、低い灌木が生い茂る草原に出たんだよね。そのまま、空を飛んで半日くらいが過ぎたところで、目の前に広がった風景に歓声を上げる。


 灌木の先には、白く高い崖から、陽光を浴びて輝く銀の瀑布が見える。水煙が立ち上り虹がかかる、そこの周辺には小型の鳥が舞っていた。


「あれが、白い丘でしょうか?」


「アル様、おそらくそうですね。ゲリエと迷宮都市国家連合の国境となる丘です。

 キャット、綺麗なのは認めるけれど、あの丘は鍾乳洞になっていて、広域のダンジョンだ。この高度なら危険はないと思うが気を付けてくれ」


「え? 鍾乳洞?!」


「なぜそこで目を輝かせるのかな? まさか、散歩したいとは言わないだろうね」


 鍾乳洞と聞いて、テンションが上がった私に向けて、オルランドが苦笑している。いや、だってさ、鍾乳洞だよ、鍾乳洞! しかも天然もの。歩いてみたくなるじゃない。ロマンチックが止まらない!


「ティナ、どうしてもと言うならそのうちに付き合うから、今は混沌都市に向かうぞ。ダビデの服を買うんだろう?」


 私を宥めるように、ジルさんは大きめの服を着たダビデを示しつつ、進む方角を指示してきた。


 確かに体に合っていない服装で鍾乳洞探検はキツいよね。なら、また今度来よう。それに、しばらく私の事をご主人様と呼んでいたジルさんもようやく落ち着いたみたいで、名前で呼んでくれるようになった。また何か嫌なことでもあったのかなと思って、ジルさんには何度か聞いたんだけれど、はぐらかされるばかりだったんだよね。


「はーい。なら、少し速度上げます!

 今日中に混沌都市まで行きますよ!!」


 グンと加速して、迷宮都市を目指した。




 体感時間で二時間くらいたった頃に、地平線に街が見えてきた。

 近づくにつれて、全容が見えてくる。


 西に湖と接する巨大な城壁都市だ。中央に巨大な塔。北には古墳、南には複数の石造りの大きな建物がある。私たちが向かっている東側の門の側にも、巨大な穴や建物があった。その建造物の隙間を埋めるように、人が住む建物がある。


「中央にある塔が混沌都市を統べるダンジョン公の住居です。地下はカタコンベ型のダンジョンになっているという噂です。

 北に見えるのが、古代遺跡型のダンジョン。西の湖にもいくつかの水関連のダンジョンの入り口が点在しています。

 南は比較的攻略しやすいとされている、通常ダンジョンですね。そして東は、地属性のダンジョンとして宝石等が排出されるダンジョンと、昆虫型ダンジョンがあると言われています。

 私が知るのはこれくらいでしょうか?」


 混沌都市をみたアルが解説してくれた。滅茶苦茶詳しいんだけど! 疑問をぶつけたら、元貴族らしい返答があった。


「はい、我が国……いえ、ゲリエの国の貿易相手として、混沌都市とは縁がありましたから、有名なものは知っています。混沌都市は食料、資源、産業の全てをその豊富なダンジョンに依存している都市です。魔石の排出量も多く、良質な為に高値で売買されます。

 ここの地域は、毎年新しいダンジョンが見つかるとも言われるほどダンジョンの種類も数も豊富です。故に、スタンピードを起こさない為にも、冒険者を優遇し、ダンジョンの攻略を積極的に推進しております。お嬢様の実力でしたら、歓迎されるはずです。最初は冒険者ギルドに向かわれるのですか?」


「あ、うん。そうだね。

 ただ、泊まるところ最初に確保しなきゃならないかも。でも、皆の扱いが悪いなら、デュシスと同じように外で暮らそうね」


「それは大丈夫だろう。混沌都市は実力主義、現金主義だ。金銭を払えるのであれば、奴隷も貴族も変わらない。種族も生まれも関係ない、そんな考えのはずだ。ただし、法律もないに等しいからな。自分の身は自分で守るのが基本になるだろう」


「へぇ……ずいぶん詳しいんですね」


「迷宮都市の中でも、混沌都市は有名ですから。ボクら奴隷にとっては、希望として語り継がれています」


 口々に説明されて驚いた。知らぬは私ばかりなりってか。


「ふーん、なら頑張ろうね。まずはホテルかな。ゆっくり休めるところを見つけようね」


「ハニーバニー、それは見つかるかどうか……」


「え? なんで、オル??」


 沈痛な表情で言うオルランドに首をかしげる。


「キャットの隠れ家ほどの設備がある宿を探すのはホネだよ。いっそのこと、一軒家を借りて、その中でいつもの隠れ家を展開するのをオススメしたい」


 肩を竦めてそう言われた。そう言えばそうだね。この世界のお風呂のスタンダードは盥風呂だったっけ。すっかり忘れてたわ。


「うーん……、なら、最初にギルドに行って、不動産屋紹介してもらおうか。2、3日はダンジョンの情報収集をして、何処の踏破を目指すか相談しようね」


 城門近くで、空飛ぶレジャーシートから降りて街道を歩く。同じく混沌都市を目指していた旅行者達から注目を浴びたけれど、スリッパで歩くダビデに長距離は歩かせたくない。仕方ないから気にしないことにした。


「次!」


 筋骨粒々な弁髪が門番をしていて、ビビってしまう。いや、なんでこんなにデカいのよ。縦にも横にも、私の2倍はあるぞ?!


「ん? どうしたんだ?

 あぁ、お嬢さんは混沌都市は初めてかい? さぁ、身分証を出してくれ。入門税は1人銀貨2枚だ」


 私を見下ろした門番は、その見た目に反して気さくに話しかけてきた。


「はい、これ。私は冒険者です。連れは全員私の所有奴隷です。

 銀貨10枚ですね、少しお待ち下さい」


 驚きながらも、財布をあさって銀貨を渡す。


「あぁ、慌てなくて良いぞ。ほう、銀の冒険者か。若そうなのに凄いな。強いなら是非手合わせを願いたいものだ!」


 ガハハと笑いながら門番は冒険者カードを返してきてくれた。


「銀?」


 そう言えばデュシスのみんなもそんな事を言ってたなぁと思い出して呟く。


「おう、Bランクが銀、Aが金、Sが緋緋色金のカードになるからな。高レベル冒険者は大歓迎だ。ようこそ、混沌都市へ!」


 にっかりと、リックさんを思い出させる顔で笑った門番さんに、銀貨を渡して、都市の中へ入る。そこはデュシスとはまた違った魅力に溢れた都市だった。



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