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7.転生したら怒濤のクライマックス!?




 おはよーございます。

 高橋 有里改め、リュスティーナ(13歳)です。


 床が抜けて気がついたら、ボロボロ泣いていました。さらに豊満な美人に抱きつかれているし!


 石壁、石床、暖炉有り。窓はあるけど、ガラスは入っていない。

 なんだろう、バンガロー風?


 走馬灯の如く、13年と数ヶ月分の記憶が流れてくる。


 今、抱きついてきている銀髪碧眼のご婦人は、私の母親のクラサーヴィアさん。古代魔法と治癒魔法の使い手で、回復ポーション作製のプロ、薬剤師でもある歴戦の女冒険者だ。抱きつかれた服から、薬草の香りが漂っている。


「あぁ、ティナ、ごめんなさい。貴女は逃げてちょうだい。母様と父様は、魔物を止めなくてはならないの。必ず倒すわ、父様も母様も強いのよ?だから大丈夫。町まで逃げて、待っていてね」


 質問です! 起きたとたんにこんな台詞を言われたら、私はどう反応したら良いのでしょう?

 ちなみに前世の私より、母、若いし。

 死亡フラグだよね、コレ。確実に。


 ちなみに、ここは私の家。


 正しくは、邪気溜まりの近くにある、人と魔を分ける境界の森。

 その廃棄された、番人の小屋。


 うちの両親は冒険者を引退してから、邪気が強くなりすぎ廃棄されたこの小屋に、番人として勝手に住み着いたそうだ。

 流石冒険者、自由ですねぇ。


 私をぎゅっと抱き締めて、頬を寄せている母の後ろに父も見える。ちょっと年いったアイドル系の顔立ち。薄茶の髪がフワフワしてます。カッコいいと言うよりはかわいい系。


 高レベルの妖精戦士だった父・フェーヤも、いつもは着ない、現役時代の装備を着込んでいる。


 万年ラブラブ夫婦の二人は、記憶を見た私が砂吐きそうになるほど、熱々で、常に幸せそうにイチャついていた。悲しげな母、無表情の父など、見た記憶はない。


「ヴィア、そろそろ……。ティナ、良く聞きなさい。ここから、町を2つ抜けた、ゲリエの国、デュシスの町の冒険者ギルド。そこのマスターを訪ねるんだ。昔の父様と母様のパーティーメンバーで、ティナは覚えていないだろうが、赤ん坊の頃にお前も会っているんだよ」


 どう反応していいか分からず、フリーズしている私の肩を叩き、自分に注目を集めると、話続ける。


「ティナ、この手紙をそこのマスター、クルバに渡すんだ。いいね。冒険者登録をするなら、必ず、デュシスの町で行うこと。他の町ではいけないよ。

 さぁ、これをお前のアイテムボックスに入れて、決して無くさないようにするんだ」


 あら、アイテムボックスのことは知ってるんだ。

 渡された手紙は、分厚つく、おそらく紙以外の固いものも入っており重かった。


 あ、この世界の紙はご多分に漏れず、高級品です。裏には、封蝋とか言うのかな?精緻な細工のもので封じてある。


 おとーさん、貴方、ナニモノ様?これもフラグな気がします。


「さぁ、これで食べ物や簡単な地図、出生証明、その他必要になりそうな物はすべて渡した。お前がアイテムボックス持ちでよかったよ。安心して持たせられる。

 冒険者ギルドには12歳から登録できるが、成人は15からだ。奴隷狩りに気をつけて生きるんだぞ。」


 母様ごと、私を力一杯抱き締めてくる。親子の一生の別れ的な?

 この二人、かなり強そうなんだけど、そんなに魔物って強いのかしら?


 親だし良いよね?鑑定しちゃえ♪


 まずは母様。


 名前:クラサーヴィア・ピエモンテ・イティネラートル(♀)

 年齢:32歳

 職業:聖女

 レベル:56

 ………

 ……



 次、父様。


 名前:フェーヤ・イティネラートル(♂)

 年齢:34歳

 職業:妖精戦士

 レベル:63

 ………

 ……


 おや、父様は名前が2つだ。

 今はそんな事どうでもいいか。ついつい、気になると、脇道にずれるんだよね。


「ヴィア、そろそろティナを離すんだ。今、最後の結界が破られた。すぐにヤツラもここまで来る。ティナを逃がさなくては」


 観察中にもストーリーは進んでいる。いや、なんか他人事ですわ。しかし、これ、私も一緒に戦えば、何とかならんのかね? これでも神さまお手製チート持ち。身体の大きさが変わったから、ちょっと扱い辛いけど、私のメインは魔法攻撃だから、大して影響ないし。


 親御さんたち、娘(偽)も一緒に闘いますよ!


「父様、母様、私も……」


「リュスティーナ、元気で。幸せにおなり」


 闘うアピールをしようと思ったら、ちょっと遅かったようで、私の足元に移転石を叩きつけられた。

 瞬時に展開される魔方陣。


 青い輝きの先には、慈愛に満ちた母の笑顔と、その母の腰を抱き、苦しそうな視線を寄越す父。


 いや、いや、いや、いや、ちょっと待って!


 私も、私も闘えるから!戦力の逐次投入は愚か者のすることですよ!!




 ****



 という訳で、(両親が)怒濤のクライマックスでした。


 そんな私は今、境界の森の入口、街道沿いにポツンとたっています。

 さっきから、森から火花やら、氷やら、地震の様な震動やらが伝わって来ている。


 本気で強いな、ウチのオヤ。


 放って置いても、生き残りそうな気もするけれど、見捨てるの寝覚め悪いし、こんな中途半端な位置に子供を移転した親も悪いよね?

 フラグの結果も気になるし。私も参戦にいきますか!


 身長も縮んで、歩幅も変わり歩きにくいが、慎重に歩みを進める。


 さて、森に一歩入るとそこは異界。魔物の種類も強さも一気に跳ね上がる。


 視界も利かないし、遭遇した魔物は襲いかかってくる。ついでに派手な物音をたてれば、近場にいた全ての魔物が『エサー!』と寄ってくるし、もう、最悪。

 我が家のある森は、一応、高レベル帯用のフィールドだったりするらしい。


 目につく魔物をすみやかに殲滅しつつ、派手な騒音を発する方向に小走りで歩みを進める。この身体にも馴れてきて、ようやく走れるようになった。飛んだり、移転すれば早いんだけど、戦闘中の状況も分からず、しかも身体を制御出来ないまま飛び込むのは自殺行為だ。


 この隙に、自分の今のポテンシャルを確認することにする。


 名前はリュスティーナ。

 正しくは、リュスティーナ・ゼラフィネス・イティネラートル。


 この世界の民は、奴隷は1つ、平民は2つ、貴族は4つ、王族は5つの名前からなる。


 私みたいな3つ名は、産まれたときからの自由人、テリオ族と呼ばれる人族にのみつけられる。


 テリオ族は典型的流浪の民で、定住することを嫌い、世界を旅するらしい。この大陸のどこぞに国家もあるらしいが、詳細は不明。探りに行ったもので生きて帰ったものはいないらしい。ただし、才能豊かな民らしく、どこの国でも取り込みに躍起になるが……ヒドイことをすると、怒り狂ったテリオの戦闘員達が報復に来て国が滅ぶ、と言い伝えもある、アンタッチャブルな1面もあるそうだ。


 ご多分に漏れず、というか、まぁ、私のはチート保有だから、チートを目立たなくするためかも知れないけど、チート種族に生まれたものだ。


 魔物の中を狩りながら走っているせいでレベルアップが止まらない。それに伴ってHP、MP系はガンガン上がっているから、落ち着くまで割愛。

 初期値もかなり高いんだけど、これ、大丈夫なのかな?


 テリオ族種族特徴:必要経験値軽減(10%)、取得経験値増加(10%)


 が地味に良い仕事してます(笑)


 あとは、追加した特殊技能

吝嗇家(りんしょくか)の長腕』(同一フィールド上でドロップした自軍のアイテムを任意・自動で回収、アイテムボックスに自動収納する)と、

『認めましょう!地図の読めない女です』(全マップ検知&自動作成、ナビ付き)の二つのお陰で足を止めることもない。


 技能の名前は変だけどっ!有効だから、仕方ないの!!


 無駄な事を考えている間に、戦闘区域に近づいてきた。

 無駄な思考はしていたけれど、無駄な行動は何一つ取っていない。


 戦闘音はますます激しく、胸や腹に重く響く。


 よし!森を抜けた!!


 焼き払われ、なぎ倒された木々を乗り越え、戦闘フィールドに飛び込む。


 ガァァァァ!!!


 目の前に、目玉お化けがいます。


 あー、これ、バグベアードとか言うんだっけかな?

 7つの触手からそれぞれ違った特殊攻撃を出し、赤い1つ目を直視したものは魅了され操られる、黒い靄をまとった浮遊する巨大な目玉(触手付き)のような魔物。


 母は氷漬けになってから砕かれた様で地面にバラバラに散らばっている。グロい。


 父は、手傷を負いながらもが戦い続けたらしく、血を流したまま触手の一本に腹を貫かれ、宙に掲げられている。


 父はまだ息があったようで、私が来たことに気がつくと必死に手を伸ばしている。虚ろな瞳は、私に逃げろと言っているようだ。


 あ、ヤバい。ロックされた。


 両親との戦闘が終結する前に飛び込んできた私を救援と認定したようで、バクベアードは次のターゲットを私に合わせてきた。


 赤い目が光り魅了が発動されたが、少し目眩がした程度で影響はない。流石、状態異常全耐性。しっかり魅了にもきく。


 今度はこっちの番! 足を踏みしめ、魔法を発動させる。


 魔法は制御をきちんとすれば、味方を怪我させることはない。同士討ち(フレンドリーファイア)が術者の制御力にかかってるって、ちょっと恐いよね。


 古代魔法:虚無塵(イネインダスト)


 無属性で連鎖自壊を起こさせる魔法だ。蛇のようにうねうねと動く黒い何かは、発動と同時にバグベアードを目指し進む。


 触手VSヘビもどき


 足のない系生き物って苦手なんだよねー。虫もヤだけど。


 とりあえず好き嫌いは置いといて、魔法が目玉お化けに到達する前にダッシュで接敵する。


 バクベアードは魔法を迎え撃つように、触手の一本を絡めてきた。私に向かっても、触手を伸ばす。


 …愚か!!


 私に向かってきた触手を潜り抜ける。

 ヘビもどきに触った触手は確認するまでもない。消滅している。

 相手の生気や魔力をエネルギーに変換して、自壊を起こさせるこの魔法に自分から触るとは、さすがに魔物。頭悪いわー。


 苦痛に雄叫びをあげるバクベアードを無視して魔法を操る。触手から根本の本体まで進んだら、二手に分けて、1つは止め用、もう一方は、父を解放するために貫いている触手を全消滅させる。


 触手の方はすぐに消せた。落っこちてくる父様を抱き止めようとして潰れる。成人男子、鎧付きはさすがに無理でしたか。


 腹に大穴を空けた父に、大治癒をかける。


 えっ、うそ! 何故効かない?!


 問題なく治癒は発動している。けれど、壊れたコップに水を注ぐような感覚があり、怪我は全く治らない。


「あ、………ゴフっ。テ、ティ…やめ…む…だ…」


 切れ切れに父が話している。

 むだ? 無だ? 無駄? なぜ?


「ティ…ナ……、てき……」


 私の背後を見ながら父がそう言う。見なくても分かる。制御を続けていた魔法が破られた。


 GAAAARaaaaa!


 怒りに震える雄叫びが聞こえる。


 父を横たえ、ゆっくりと振り向く。7本あった触手は半数に減り、纏っていた靄ももうない。本体も所々に穴が開き、瀕死状態だ。


 アイテムボックスから、オススメシリーズの武器を取り出す。私のイメージで姿を変える、その姿は長弓だ。


 上下に宝石を付け、金の装飾をつけた紅の剛弓。

 矢をつがえずに、引けばそこに現れるのは光の矢。


 一呼吸おき、天に向かって指を放す。


 弓術奥義:審判之矢(ジャッチメントアロー)


 そのまま撃ち上がった矢は、その到達最高点で無数に枝分かれし、フィールドに降り注ぐ。


 このままだと、近くにいる魔物も乱入してくる恐れがある。自動マップと気配察知を組み合わせて、広範囲殲滅を選択した。


 次々とマップから敵対反応が消える。

 弓をくるりと回し、長剣に作り替える。この剣はバスターソード型。ただし、物語の英雄や勇者が持つような派手さだ。


 剣を正眼に構えると、正面から触手がきた。先程よりも更に傷付き、バクベアードに残された触手は一本。

 触手が左の肩を掠め血が飛ぶが、気にせず助走し、正面からバクベアードを切り捨てた。


 ようやく、終わったか。

 黒い塵となって風に融けていく、バクベアードをみながら確信する。


「っ!! …父様!!」


 慌てて駆け戻る。私の顔と、消え行くバクベアードを見て安心した様に、力を抜く。


 もう一度、高レベルの治癒を唱えようとする私の手を握り、制止すると苦しげに口を開いた。


「ティ…ナ、やめ…な…さい。おれ…は、も…う、助か……ない。ほぼ…すべて……ヤツに…すい…と…られ……。強…く…なっ…たな。もう…あん…しんだ」


 あぁ、父様の話を聞いている間に理解してしまった。理解できてしまった。


 この世界の生き物は、魂の本質に力を宿す。バグベアードを初めとする高位魔物や魔族はそれを吸出し、己の力と変える。魂が纏った力を吸い出された生き物は生きてはいけない。

 魂を保護する器を喪うからだ。一定以上力を吸い出されると修復は不可能。


 今の父様は魂の保護する器に、大きな埋められない穴が空いて、僅かに残った力とこぼれ落ちている。すべてこぼれ落ちた時が最期の時だ。


 そしてこの世界には、死者蘇生の術はない。一度死んだら終わりなのだ。


 ぼろぼろと涙が流れる。体感時間ではほんの30分程の付き合いだが、私の中には13年分の記憶がある。


 優しかった、そして、厳しかった両親との思い出がある。たとえ、偽物の記憶だけであっても、大切な親だ。


 最後の力を振り絞り、俯く私を慰める様に撫でると、父は動かなくなった。



 ***


 しばらく俯いたままでいると、コツンと頭に何かが当たる。


 敵対反応はないままの攻撃だったため、慌てて辺りを見渡すと、紙飛行機が転がっていた。


 小学校とかでよく作る、簡単で三角のシンプルなもの。

 その翼の部分に2度と見ることはないと思っていた日本語で、「高橋有里もしくは、リュスティーナへ」と書かれている。


『よう! 転生後はどうだ?

 なんだか混乱しているようだから、いくつか補足説明だ。


 1.本来、この夫婦には子供はいない。俺の管理者としての力を使い、有里をリュスティーナ(13歳)として割り込ませた。お前が生じたことによって、存在を消された"リュスティーナ"はいないから安心しろ。


 2.怒濤の展開で驚いたかも知れないが、この夫婦がここで死ぬのは確定事項だった。後悔する必要はない。


 3.この夫婦の子供としての事実は揺るがない。全ての記憶および記録が齟齬なく世界に組み込まれている。


 つまり、何を言いたいかと言うとだ、お前を束縛するものはなにもない。自由に生きろ。元々そういう約束だからな。


 では、健闘を祈る。あまりすぐにこっちにくるなよ。


 管理者より』


 はぁ?!かなりふざけた内容の手紙だった。力一杯潰して、アイテムボックスに放り込む。


 管理者(おまえ)はそれでも人間か?!!

 いや、神か。なら人間(ひと)の機微なんぞ、分からなくても仕方ないのか?

 普通、親を亡くして泣いている子供(偽)相手に、安心しろとか言うか?! しかも、自由に生きろ?! ふざけんな!!


 イラッとするわ、マジで。


 とりあえず、手持ちの布を出して、父と母をそれぞれ集めまとめる。

 一応、人の死体ならドロップアイテム扱いになるから、技能で集める事も出来なくはないけど、なんとなく嫌だ。


 出来うる限り集めて我が家に運ぶ。バクベアードを倒してから、一気に魔物の侵攻が収まり、大人しくなったから移転で一瞬だ。


 家の脇、よく両親とのお茶を飲んだ樹の下に精霊魔法で二人分の穴を明ける。

 並べて空けたその穴に両親を入れ、また精霊魔法で埋め戻した。

 こんもりと盛り上がった土の上に、それぞれの折れた武器、錫杖と剣を突き刺す。そして2度と抜けないように、精霊魔法を複合させ、表面を金属に変え癒着させた。

 簡易な墓だが、今の私にはこれで精一杯だ。


 破壊を免れた我が家に入り、手当たり次第にアイテムを収納しようとして気がつく。元高レベル冒険者にしては、価値のあるアイテムが少ない。


 それでも、薬草をはじめとするここで採れるものと、食料は見つけアイテムボックスに格納した。


 さて、家から出て別れを告げるように一度見渡す。

 両親の墓に向かって一礼し、家の近くで摘んできた花を捧げた。


 両親の最後の指示を守るために、私は今から旅立つ。


 旅の目的は、デュシスの町のギルドマスター・クルバさんに、両親の手紙を渡す事。


 人生の目標は、後悔しない人生を歩む事。幸せになれって言われたしね。


 たった30分だけの関係だったけど、暖かな記憶がある両親の墓を背に歩き出した。









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― 新着の感想 ―
[一言] 決定事項にしても、転生して両親を失うイベントって、普通なら心壊れそうだ。
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