78.手紙
拝啓
調律神・メントレ様
ここ数日花冷えの日が続いておりますが、管理者様はお変わりなくお過ごしでしょうか? 私自身は、もうご存じかとは思いますが、管理者様より頂いた隠れ家を山地に設置し、日々、残雪と野の花を楽しんでおります。
さて、先日、御使いである思念体86号、ハロさんを遣わされた件でのお問い合わせをしたく、筆を取りました。
私に与えて頂いた称号と職業ですが、何かのお間違いではないでしょうか?
恐れ多くも、メントレ様の使徒に、管理者様のプロトタイプ、犠牲者と、御身に関わる称号が3つ。それに、訓練中の私の行動でついたと思われる「救世の神子姫」。どうやら獣人の国で歴史の一部となっている様で、大変困惑しております。
称号の効果としては、「上位管理神の試作品」が本来は同時に保有できない能力を、所持出来るようになるもの。
「荒ぶる拗らせ厨二病の犠牲者」が、ついついやってしまいがちな、設定の盛り込み過ぎ能力盛りすぎの犠牲者に贈られるもの。
「救世の神子姫」が、その当時関わった血統、本人だけではなく子孫を含め、全ての者から忠誠と好意を寄せられるやすくなるとのこと。
「チビッ子女王サマ」が、若い身で自分よりも年上の者達を従えていても、違和感を感じにくくさせる効果があるとか。
これらはどれ1つとして、我が身に相応しい者ではございません。
また、職業では「聖女」「女王サマ」と2つの大変珍しいものが御座いました。特に「女王サマ」については、今、滞在しておりますデュシスの町に長く神官として勤めております方でも、初めて見る職業と聞きました。
「聖女」は我が身の母となった人と同じ職業でございます。治癒魔法と、防御魔法を扱える様になる職とのことでした。確かに転生前の訓練にて、治癒魔法も防御魔法も使えるようにはさせていただきましたが、この職業は行き過ぎかと愚行いたします。
そして、「女王サマ」ですか、これは一体どんな職業なのでしょうか? 説明には、「己のモノとした存在を支配し、そのポテンシャルを最大限発揮させる」とあります。ある意味においては、テイマー系職業、もしくは指揮官としての職業でしょうか?
私個人と致しましては、誰かを支配することも、指揮をする能力も持ち合わせておりません。
管理者様がどのようなお心で、私にこのような称号、職業を与えられたのか、愚かな我が身では思いもつかぬ所ではありますが、伏して、正しきものに直していただけますよう、お願い申し上げます。
敬具
リュスティーナ
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書き終わった手紙で簡単な紙飛行機を作って、壁に向かって飛ばす。口ずさむのは、一人言のような、呪いのような言葉だ。
「飛んで行け、飛んで行け、どこまでも。
私の想いを乗せて、飛んで行け。
いけずな あの人の心に
この想いを伝えておくれ」
壁に当たる前に、薄くなって消えていった紙飛行機を見送って、二通目の手紙にとりかかる。初めてちょいワルおやじから貰った手紙だから、しわくちゃだ。丁寧に伸ばして、筆圧強く、ガリガリと書く。
そうして、書き上がったソレをスナップを効かせて投げた。
「追っていけ! 追っていけ!
先に飛ばした私の心を
恨みを乗せて 追っていけ。
私で遊ぶ、あの方の元へ
一直線に、ドタマへと 突き刺され!!」
ふぅ、と一息ついて、落ち着こうとする。
いや、自由の風さんじゃなかった、坩堝さん達を見送って、住み家を山の方へと移し、近所の探索も終わって、嫌な予感しかしなかった能力の確認をしたんだよね。
そうしたら、こんな感じで出たんだよ。
名前:リュスティーナ・ゼラフィネス・イティネラートル(♀)
種族:人間種 テリオ族
レベル:99
職業:女王サマ・転生者・薬剤師・魔導師・弓術士・聖女
HP:4682
MP:81392
物理耐性:45 魔法耐性:76
器用度:48 敏捷度:66
筋力:63 生命力:80
知力:74 精神力:69
幸運:99
一般技能:ネイティブ異世界言語、上級統一言語、上級古代語、中級精霊語、上級神語、中級魔族言語、上級一般常識、上級博物学、上級古代知識、上級精霊学、上級神学、上級動物学、上級魔獣学、上級薬草学、中級毒物工学、初級軍事知識、初級軍略、初級策謀、初級拷問、中級調教、初級騎乗、礼儀作法、ダンス、話術、商談、緑の指、歌唱
戦闘技能:格闘level6、剣術level10、槍術level5、斧術level4、弓術level10、投擲level3、古代魔法level10、治癒魔法level10、精霊魔法(全適正)level6
特技技能:情報隠蔽、情報操作、回避、縄抜け、鍵開け、罠発見、罠解除、気配察知、気配遮断、嘘感知、状態異常全耐性、不撓不屈、武器防具作製、アイテム作製、ポーション作製
特殊技能:偽装情報(∞)、認めましょう地図の読めない女です、吝嗇家の長腕、鑑定、アイテムボックス(∞)、看破、第六感、鷹の目、幸運付与(大)、魔導の愛し子、自己治癒、健康体、ポイント消費
賞罰:なし
称号:チビッ子女王サマ・規格外薬剤師・救世の神子姫・荒ぶる拗らせ厨二病の犠牲者・上位管理神の試作品
そして、個別の鑑定結果がコレ。誰が決めたかは知らないけど、ディスってるよね、確実に。
上位管理神の試作品:神々の井戸端会議で、自慢話を聞かされ続け、流行りに乗ってみようと思った神により作られた試作品。犠牲となった魂に鎮魂歌を捧げよう。何でもアリに改造された、憐れな魂に祝福を。
荒ぶる拗らせ厨二病の犠牲者:同神の悪ノリと荒ぶる厨二病により、思い付く限りの設定を盛り込まれた可哀想な犠牲者。本人の預かり知らぬ所で、着々と外堀は埋められている。望まぬ見た目、経歴、分不相応な能力に振り回される魂の明日はどっちだ!
救世の神子姫:隠しイベントまで終わらせた転生者にのみ贈られる称号。救われた種族から慕われやすくなる。これで世界を生き抜く為の守護者GETか?!
チビッ子女王サマ:あー……頑張れ。大丈夫だ、我々はお前が異常性癖でないことは知っている。というか、枯れすぎだろう。
いや、ちゃんと効果の説明もあったんだけど、それより何より、この説明文。確実にちょいワルおやじ以外の神様か何かが関わってるよね?
怒りに任せて、フザケンな!! と熱く手紙で語った私は悪くないと思う。
それに対するお返事はなかったけれど、まぁ、言いたいことは書いたし後悔はない。
そんな一幕もありつつ、一月かけて特効薬を作り続け、何とか七色紋の撲滅が宣言された。その後、町の人達からお礼だと言われて、何故かワンピースとかネグリジェ、装飾品等をプレゼントされた。何より嬉しかったのは、ダビデもウチの子と認識されたらしく、市場や小売店に買い物に行っても、犬妖精だから駄目だとは怒鳴られずに買い物が出来るようになったと報告された事だ。
「あぁ、悪辣娘さんの所の。ほら、今日はこの野菜が新鮮だよ」
「おう、ダビデだったか? 薬剤師殿のだよな?
ほらよ、オマケだ。これは今年の初物だからな。是非食べてもらってくれや」
「おや、ダビデ。そろそろ小麦が尽きる頃では?
良いものが手に入ったので、寄っていきなさい」
一度こっそり後をつけて確認したところ、町の人達からそんな風に声をかけられていた。もちろん私にと言いつつも、それだけでは無いようで、素直に喜ぶダビデを見て、町の人達も嬉しそうに目を細めていた。まぁ、全員がそうだとは言えないから、相変わらず近づくだけで追い払われる所もあるみたいだったけど……、最初に比べれば随分進歩したよ。
それはジルさんやアルオルについても同じようで、最近は多少の散歩なら各自で歩き回れる様になった。
私自身は、声をかけるだけで助勢を貰わなかった各神殿の偉い人とクルバさんと一緒に挨拶に行ったり、時々はドリルちゃんのお忍びの護衛についたりと、忙しい毎日を過ごしていた。
あぁ、そうそう、特効薬を作ってる間に、ニッキーにパーティーメンバーが出来たんだった。それも、一悶着あったんだけど、軍神殿の青年神官サーイさんだ。私を庇ったことにより、神殿に居られなくなったそうだ。
町を歩いているときに、神官服で道端に座り込むサーイさんを見つけたときには驚いたよ。詳しく聞いたら、破門されたって事で二度驚いた。
サーイさんは路頭に迷っていたから、アンナさん達に相談して冒険者ギルドに所属してもらったんだよね。神官職は珍しいから大歓迎だと、諸手を上げて歓迎されていた。
でもやっぱり、元軍神殿出身と言うことで周囲の当たりがキツかったサーイさんをニッキーがスカウト。最近は神官がいるパーティーって事で人気が出ている。
そんなこんなで騒がしくも穏やかな日々を過ごしていた時、ギルドを通して、領主館からドリルちゃんの婚礼に招待するって連絡が来た。それに前後して、パトリシア君からも私への指名依頼が来た。
だから初夏の日差しを浴びながら、ギルドに向かって歩いている。周りには私の同居人達も揃っている。
マダムの所には時々息抜きで行っているけれど、パトリシア君に会うのは久々だ。一体、どんな依頼だろう?




