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77.半魔って何さ?

 かなりの人数に見送られて、城門を後にした。サミアド遺跡からのドロップ品が明後日には届き始めるから、まだギルドに顔を出すように言われる。


「疲れましたね。草原に帰りましょう」


 ジルさん達を連れて、テクテクと歩き始めた。城門から見えない位置まで来てから、移転して草原深部に戻る。


 展開したまま1日放置した隠れ家は特に荒らされることもなく、魔物が入り込んでもおらず、出掛けるときのままあった。


「……? ジルさん??」

 

 リビングに入った所で、ジルさんの足が止まる。


「ティナ、俺達はそんなに頼りないか?」


 悲しげに問われて、心底驚いた。ジルさんの耳が力なく垂れ下がったのかなんて、久々に見たよ。


「え? なぜ??」


「ティナの体から、微かにメラニーの匂いがする。同じ獣人だ、すぐに分かる。我々はそんなに頼りないか? 何故、全て自分でやろうとする」


 あちゃ、バレた。でも、ジルさんは怒ると言うより、哀しんでいる。バレたらスリッパが飛んでくるのは、覚悟してたけれど、これは予想外だ。


「……お嬢様、それは本当ですか?」


 アルも私を咎める様に見ている。


「本当だよ。着替えるね。少し待ってて。多分、見せた方が早い」


 そう言って部屋に戻って、いつものローブ姿に着替えた。リビングに戻ると、私が部屋に戻った時の格好のまま、皆が待っていた。


「良く見ていてね?」


 そう言ってローブを甲冑に、髪飾りを兜に変える。手足も昨夜と同じ様に、重装備に変えて、最後に大きさを変える蜃気楼を纏った。

 同じ様に、弓形態にしていた武器を、大剣に変えて背中に背負う。


「これが軍神殿が話していた、邪神もしくは、輝く鎧の正体だ」


 皆、声もなく黙り込んでいる。あー……やっぱりちょっとショックが大きかった? 


「ごめん、私は色々と隠し事をしている。今は、それを話す勇気もない。でも、そうだね。もしみんなが自由になって、その時もまだ知りたいと思ってもらえるなら、身の上話を聞いて貰えるかな?」


 今は何も聞かないで欲しいと、言外に伝えながら肩を竦めた。いや、転生だ、神様だ、地雷な称号だ、職業だと数え上げたらキリがない程の隠し事をしている。ジルさんにバレて一番マズイのは、称号「救世の神子姫」かな? どんな反応をするかは分からないけれど、最悪は背教者か宗教的な嘘つきとして殺されるかもしれない。一度GETした称号を返上する方法ってないのかしら?


「自由の風を助けたのも、その隠し事のせいか?」


「んー……、そうだとも、そうでないとも言えるかな?

 価値観が根本から違うんだよ。今、話せるのはそれだけ。

 でも、出来たら信じてほしい。

 今回の事は皆の協力がなければ、出来なかった。ダビデとジルさんは、私と行動を別にしても、町に噂を広める手伝いをしてくれた。アルは私の護衛と箔付け。オルランドは、私では絶対に出来ない働きを……って、そうだ!

 オル、昨日のサクラな皆さんへの報酬は大丈夫だったの?? いつの間にか合流してきて、聞きそびれた」


 話していて唐突に思い出す。いきなり話を振られたオルは驚きつつも、問題ないと答えた。


「ハニーバニー、昨日の連中は、噂に踊らされただけだ。俺からの報酬は発生しないし、キティの名前はおろか、影1つ出ていない。安心してほしい」


「噂って、一体どうやって? いや、答えなくていい。私には理解出来ないことをしたんだろうね。

 オルランド、ありがとう。感謝してる。疲れたでしょ? ゆっくり休んで、何か望みがあるなら話してね。借りは必ず返すことにしてるから、出来ることならするよ」


「そこで『なんでも』と言わないのがキャットの良いところかな? では、キャット、どうか、アル様の隷従の首輪を外してほしい。もう十分だろう?

 俺の分を外してくれとは言わない。だからどうか、アル様の分だけでも外す許可が欲しい」


「え、なんで?」


 別に二人とも外しても良いんだけど。今回の件で、多分大丈夫だろうとは思えたし。町の人達も『冒険者ギルドの臨時薬剤師の奴隷』って認識してくれたと思うから、外すなら今だよね。


「キティに危害を加えた俺が、コレを外す事を望めないことくらいは分かっている。だがアル様は公衆の面前で、平民に膝を屈する程には奴隷として完成されている。どうか、慈悲を持って、アル様を許してほしい」


 悲壮な覚悟でオルに訴えられるが、意味不明だ。いや、確かに私に危害を加えたけれど、それは奴隷紋で制御済みだ。隷従の首輪は何を仕出かすか分からない二人を警戒して、私が買ってきたものだ。なら、不安が解消されたなら、外すのが筋だよね。


「いや、許すも何も。二人とも外せば?」


 驚いて見つめる同居人達を見ながら、頭を掻いて続けた。


「ダビデはご飯と言う意味で、私の命を握っている。ジルさんは、ある意味、保護者みたいなものだと思ってるよ。そしてアルオルは、出会いは最悪だったけれど、今では頼りになる同居人だ。ならさ、もう隷従の首輪は外そうよ。ただ、何も付けないわけにもいかないから、今度一緒に首輪を買いに行こうね。せめて好きなのを付ければいいよ」


 本当は首輪も付けたくないんだけど。ただダンジョン踏破報酬で自由の身にはなってもらうまでは致し方なし。その後は知らないけど、そこまでは私の責任でみんなを守るさ。守られることの方が多くてどうしたもんかとも思うけど。


 感謝を伝えるアルオルを見て、相変わらず私とジルさん達との間には、ズレがあるのが分かる。けれどそれは、私の育った環境と、この世界が違いすぎるから仕方のない事だ。追々修正していこう。


「……それで、今日はこれから自由の風さん達を匿った所に行ってくるね。どうやらクルバさんにはバレてたみたいだけれど、見逃してもらえたし、逃げろって伝えてくる。

 みんな昨日は良く休めなかったでしょ? 今日はもう、自由時間にするから、各自適当に過ごしてね」


「あの! お嬢様!

 すぐに出掛けないと駄目ですか? ボク、日持ちする料理を作ります。出来たら、自由の風さん達に持っていきたいです」


 ん? ダビデは一緒に来たいのかな? でもなぁ、あそこ、一応高レベル帯用のフィールドだから、危ないんだよね。


「ダビデ、駄目だ。ティナが匿ったなら、我々が知ってはいけない所だろう。詮索するなと言われたばかりだ。弁えろ」


 悩んでいたらジルさんがダビデを嗜めている。いや、そんなに気にしなくても良いんだけど。知られたくないのは、実家絡みじゃなくて、私が森に発生するまでのアレコレだから。


 目に見えて落胆したダビデに、預かるだけなら自由の風さん達に持っていくよと伝えたら、尻尾が高速で動き出した。


「あの、なら、大急ぎで作ります。どれくらいお待ちいただけますか?」


「別に、どれくらいでも良いけど、三時間もあれば作れるかな?

 それまで私も少し何か作るよ。それで大丈夫?」


 ダビデは元気に「はい!」と答えると、キッチンに飛び込んでいった。残ったアルオル、ジルさんに苦笑を向ける。


「……今回は本当にごめんなさい。いや、今回も、かな?

 明後日からはまた、ギルドで特効薬作りをしなくちゃならないから、明日は隠れ家を山の方に移動しようと思います。構いませんか?」


「ご主人様のお望みのままに」


「もう! 私はご主人様じゃないですよ」


「ではキティ、女王サマのお望みのままにでどうだろう?」


 私をまたご主人様と呼んだジルさんにツッコミを入れたら、オルランドが混ぜ返してきた。それを聞いてアルが苦笑している。


 軽く膨れっ面をして文句を言ってから解散し、ダビデの料理が出来上がるまで、自室で作業をすることにした。




 ******



「のぉわぁ!!」


 ダビデから出来立ての保存食を受け取り、実家に移転すると、目の前に短剣が突きつけられていた。驚いて少女とは思えない悲鳴を上げてしまう。


 回避行動を取りつつ反撃をしなくてはと考え、体を捻りすれ違いざまに掌打を打ち込む。柔らかい手応えがあり、クリーンヒットした。


「グゥ! ガァ!!」


 痛みに呻きながらも反撃してくる太い男の腕を掴んで、折ろうとした所で、相手が体勢を崩した。


「コラ! この馬鹿リーダー! 脳筋の考えなし!!

 相手を良く見るのニャー!!」


 バランスを崩したリックさんの後ろには、メラニーさんが立っていた。にゃんこの耳と、尻尾の先だけ真っ白い黒い尻尾が揺れている。超可愛い。


「あら、ティナ。いらっしゃい。やっぱり貴女だったのね」


 おっとりと笑いながら、エルフのオードリーさんがドワーフのジェイクさんと腕を組んで外に出てきた。


「こんにちは。遅くなってすみません。洋服、サイズが違うでしょうけれど、とりあえず入って良かったです。体の調子はどうですか?」


「お陰様で、助かったわ。ここは貴女の家なのね。風や大地、それに森の木々から話を聞いたわ。ご両親のお墓にも、花を手向けさせて貰おうと思ったのだけれど、危ないからと出して貰えたかったの」


 苦笑しつつ、ジェイクさんを視線で示して、オードリーさんは肩を竦めた。確かに森はエルフの独壇場だろうし、危ないと止められても納得できなかっただろうなぁ。


「リック! いつまで呆けているつもりですか。助けてくれた恩人に、剣を向けたんです。謝ったらどうです?」


 家の入り口に立ったままのチャーリーさんが、ドカリを地面に座ったままのリックさんに声をかける。その声に弾かれたように、勢い良く土下座された。鈍い音が響いたから、額を地面に打ち付けている。


「スマン!! 助かった!

 お前は命の恩人だ!」


「え、いえいえ。どういたしまして。もっと早く助けられなくてごめんなさい。

 それよりも、逃げて良かったんですか? これでデュシスの町では犯罪者ですよ?」


「構わん」


「問題ない」


「助かったニャー」


「感謝しております」


 口々にお礼を言われる。入り口に立つチャーリーさんが身体をずらし、アリッサさんを前に押し出した。


「ほら、アリッサ、お礼を言うんでしょう。

 隠れていては言えませんよ?」


「あの、ティナ、本当にありがとう。そしてごめんなさい。でも、何故助けてくれたの?」


 室内から外に出てきたアリッサさんはそう言うと、怯えた様に身を抱いた。


「え? だって、アリッサさん達はお世話になってる『自由の風』さんですもん。私は受けた恩は忘れない質なんです。

 特にリックさんには二回もワンコの借りがありますからね。頑張りました!」


 ワンコの借り? と首を傾げる自由の風さん達に、ダビデですよと教える。


「でも、私は魔族ッ!」


「え、アリッサさん、違いますよね? 半魔半人の哀れなる犠牲者って言う人もいましたよ。私も全てを知っていて助けた訳ではないんです。話せる範囲で情報交換といきませんか?」


 みんなで実家のリビングに入り、情報交換をする。最初に、自分達がどんな立場に置かれているのか気になっているだろうから、私から話した。状況を説明するに従って、なんて危ない橋を渡ったのだと叱られた。助けるために頑張ったのに、怒られて釈然としない。


「それで、自由の風さん達の話を聞かせてください。なんで危険を侵してまで、人間の国にいたんですか?」


「私のせいニャー。チャーリーの生まれた国を見てみたくなってニャ。アリッサ達を誘って、こっちに来たのニャ。オードリーも異種族婚だったから肩身が狭かったし、息抜きにいいかと思ってニャー」


「この国を抜けて、種族にうるさくない迷宮都市に向かう予定が、途中で路銀が尽きました。ですからデュシスで冒険者をして、旅の資金を貯めていたのです」


「ええ、でも、そこでアリッサが恋をしてしまって。相手も満更でもなくてね? 種族を知っても恐れなかったから、パーティーに入れて、一緒に旅立つ事にしていたのよ」


「だがなぁ、旅立つ前に今回の件だ。正直、死んだと思った。助かったぜ」


 口々に説明をされて、理解するだけで精一杯だ。

 つまりは、ハネムーン的な旅行をしつつ、安全(?)な国に抜けようとしていたら、途中で旅費が足らなくなった。バイトしてたら旅行仲間が恋に落ちて、ドタバタしてたら捕まったって事? うわぁ……、恋は身を滅ぼすを地でいってる。


「えーっと、なら、半魔ってなんですか?」


 魔族と半魔はずいぶん違うみたいだし、確認しておきたい。譲り合う自由の風さん達だったけれど、アリッサさんが覚悟を決めたみたいに話し始めた。


「あのね、ティナ。そもそも魔族は知っている?」


「さぁ? 会ったことないので、人族の敵でしたっけ? 魔物を使役したり、国家争乱を巻き起こしたりする種族らしいですけど」


 アルオルの罪状の中にそんなのあったよね。そう思いながら話したら、アリッサさんは頷いた。


「ええ、そうね。そして、魔族は、魔族同士でも婚礼を行うけれど、時折、人間も拐うのよ。そして、稀に子供が生まれたりする。生まれた子供は、半分魔族、半分人間。普通は殺されるわ。でもね、ごく稀に生き残ることもあるのよ。

 そして、人との間に子孫を残す……。人間として何代も世代を重ねる間に、ある日突然半魔半人と言う種族が生まれることがある。それが私よ。

 鑑定しなくても幼い頃から、魔族の特徴である角と輝く瞳が、私が人ではないことを証明していた。

 殺されこそしなかったけれど、魔物が出る森に捨てられたらしいわ。でも、そんな私を拾って育ててくれた人達がいたの。そこに部族を追われたオードリー達が来て、三人で旅をしている間に、メラニーに出会った。後はみんなが話した通りよ。

 信じてちょうだい。私は人と敵対はしていないの」


 淡々と話すアリッサさんの口調からは、怒りも悲しみも感じない。


「はい、知ってます。アリッサさんは悪い人じゃありません。それに、そう思ってるのは私だけじゃないみたいですよ?

 コレを預かってきました」


 そう言って、クルバさんに渡された魔石をテーブルに出す。


「マスター・クルバがくれました。皆さんの救出に一番熱心だった私が持っているのが一番良い。外に住む私なら、どこかで自由の風さん達にあうかもしれない。そのときは『二度と顔を見せるな』と伝えるように言われました。

 これの中には、自由の風さんたちへの『デュシスの冒険者ギルドからの感謝状』が入っているそうです。何処か他所で冒険者をやるときには役に立つだろうって……、なんで泣くんですか」


 状況を伝えたら、全員泣き出してしまった。ジェイクさんだけが、泣かずに居ようとしているけれど、失敗している。


「アリッサ、良かったなぁ。お前を認めてくれたのは、ティナだけじゃなかったぞ。良かったな」


 リックさんがアリッサさんを抱きしめて号泣していた。落ち着くのを待って、私からも餞別を渡すことにした。


 ポーション類と現金をマジックバックに入れて、リックさんに押し付ける。そう言えば、このバックも、リックさんにおつかいを頼んで買ってきてもらったんだっけ。感慨深く、洒落っけのないバックを見つめた。


「……しばらくこの家で休みますか? それとも、すぐに旅立ちますか? それなら、フィールドの入り口まで送ります」


 相談の結果、追っ手がかかる可能性が絶無ではないから、すぐに逃げると言う自由の風さん達に、ダビデの保存食と両親の遺品から着替えを渡し、旅立ちの準備をしてもらう。ほとんど使っていないから、私が毛布代わりにしていた布も夜営用に渡した。


 後は何処かの町に着いてから渡した現金で準備をすれば、手慣れの冒険者だ。なんとでもするだろう。


 第6境界の森入り口に移転して、とうとうお別れと言うときに、自由の風さん達全員が、跪いて私に頭を下げた。脳筋だと思っていたリックさんが、似合わない口調で話し出す。


「ティナ、今回の借りはいつか必ず返す。我ら自由の風……これはもう名乗れないパーティー名か、なら、我ら『坩堝』は我らが誇りにかけて誓おう。ティナが必要とするときは、必ず駆けつける。種族の垣根を飛び越え、偏見を乗り越え、救いの手を差し伸べてくれた貴女に、最大の感謝を」


「風と水の祝福を」


「大地と炎の祝福を」


「知識の深淵の祝福を」


「どうか貴女に幸運を」


「慈悲深き、神子姫様のご加護を、ニャー」


 いや、最後のだけは、受付不可! いらん! 多分、加護なんぞない。


 締まらないまま、旅立つ自由の風さん、じゃなかった『坩堝』のみんなが見えなくなるまで見送った。


 心の中でだけ、唯一接点のある神様っぽい生き物に祈りを捧げる。


(どうか、種族を超えて手を取り合う奇跡の冒険者パーティーに調律神のご加護を)


 あの姿こそが理想だと、私はそう思う。


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