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73.どちらかと言えば、呪いに近い。

 個人的には、グロ注意報が出ています。


 想像の翼は厳重に封印して下さい。

 食事時にお読みになるのはオススメしません。


 描写はサラッと控え目を心がけておりますし、「慈悲を乞うだけです」周辺を読まれている皆様でしたら大丈夫だとは思いますが、痛い系の表現が苦手な方は下の方にある「*****」まで読み飛ばす事をオススメします。











では、よろしくお願いいたします。

 階段を降りるとそこは異質な空間だった。

 何処かから水の滴る音が聞こえる。両脇に並ぶ鉄の扉に開けられた小さな覗き窓は、薄暗い松明の光を不気味に反射する。


 この建物の中に入った時に感じた、籠った匂いが更に強くなる。吐き気を催する甘さの混ざった生臭さと、汗と排泄物の混ざった酸っぱい匂い、松明が焼ける焦げ臭さに混じりあい、えも言えぬ不快な匂いにしている。


 薄暗い通路の奥から、微かに風が鳴る音とオウオウと獣が啼くような音が合わせて響いていた。


 ー……帰りたい。


 一歩ここに足を踏み入れた感想はそれだった。

 マップを確認しているから、誰もいないのは分かっているけれど、覗き窓から誰かに見られている気がして落ち着かない。


 身に纏う光を強くして、魔法の明かりを先行させ歩き出した。石畳の通路は所々濁った悪臭を放つ水溜まりがある。それを踏むのが嫌で浮遊した。


 少し進むと、中に人がいる牢屋の前を通る。部屋の中から、ヒューヒューと風が鳴る音が聞こえてきて、見えないだろうと思いながらも覗き込んだ。


 暗闇の中で光る白いものがある。それが瞳だと、目を凝らして初めて分かった。地面に叩きつけられて壊された人形の様に、四肢をあり得ない方向に曲げている。黒っぽい服の上からでもはっきりと、その胸が陥没していることに気が付いた。多分、元は男の人だろう。


 風が鳴る様な音は、その人が呼吸をする度に、不規則に流れ出している。


 何を求めるでもなく、私の方を見る瞳からそっと目を反らし、先へ進む。助けることも出来るけれど、この人が何をやったのか、何故ここにいるのか分からずに、それをやるのは危険すぎた。


 ー……恨むなら、恨んでくれて構わない。ごめんなさい、私は貴方を見捨てます。


 しばらく歩き、今度はオウオウと叫び声が聞こえる扉の前に着いた。流石に覗いて見る勇気は出ずに、速度を上げて通りすぎた。






「誰だっ!!」


 目的の部屋の前には、まだ若い牢番がいた。腰に鍵束を下げ、今部屋の中にいる人たちが出てくるのを待っていたのだろう。


 入り口近くに小さな机と椅子が置かれて、そこで気晴らしに呑んでいた様だ。酒瓶が数本置かれている。


 さっきの覗いてしまった牢屋の中に衝撃を受けたのか、反応が遅れて、声を上げるのを許してしまった。慌てて眠りの魔法をかける。床に崩れ落ちた牢番を確認して入り口に向かう。


「おい! どうしたんだ!!」


 牢の中から扉を叩きつつ、誰が訴えている。覗き窓に強さ最大、持続時間最小の光源を叩きつけ、悲鳴を聞きつつ、解錠(アンロック)を無詠唱で唱えて部屋に飛び込む。


 どうやら引いて開くタイプの扉だったようで、蝶番がひしゃげてしまった。小さいことは気にせず、中にいる敵だと思われる人々に眠りの魔法をかけた。


 重さの違う複数の人が倒れる音がする。


 やはり薄暗い室内に、明かりを灯す。魔法の明かりに照らされた室内には、予想以上に広かった。


 私のすぐ側には、外で倒し……眠ってもらった牢番と同じ格好をした、こちらはベテランっぽい見た目の人が倒れている。扉を開けてすぐに数段、下り階段があり、その階段の脇には外に合ったのと同じような机と椅子、そして酒瓶がある。

 少し離れた所には、拷問吏と思われる筋肉質な男が数人、そして最も奥には拷問吏と席に座ったまま眠りに落ちる豪華な格好をした神官がいた。


 ー……え、うそ? 抵抗された??


 眠る神官の陰に隠れるように、こちらは簡素な軍神殿の神官服を着た青年がいた。慌てて再度眠りの魔法を掛けようとしたけれど、青年はその前に私の方を向いたまま、両膝をつき祈りを捧げる格好になった。


 不審者(私)を見つけても、助けを求める訳でもなく、神様に祈るって変わってるな。まぁ、やることは変わらないけどさ。


 青年に効果を上げた眠りの魔法を掛け直したら、今度は問題なく眠ってくれたみたいだ。床にどさり倒れている。外の牢番も含め床に倒れた人たちは、壁に持たれかけさせ少しでも楽な体勢に整えた。魔法を使うと全員一度に出来るし、本当に便利だわ。


 現実逃避にそんなことを思う。

 気を取り直して、室内を確認する。マップ上はここに自由の風さん達全員かいるはずなんだけど……。


 金属が軋む音に誘われて、上を見上げた。

 内向きに鋭い刺がついた、巨大な鳥籠が不自然に揺れている。前後左右に揺れる度に、液体が振り撒かれていた。鳥籠の下にもさっきまで拷問吏がいたから、これも拷問具かな?


 浮かび上がって鳥籠の中を覗いた。中には探していた人が二人もいた。血で汚れてはいるけれど、特徴の獣耳と白い肌ですぐに分かった。


「メラニーさんッ!! オードリーさん!!」


 大慌てで鳥籠を開けて救出する。外から(かんぬき)が差してあるだけだったから助かった。刺のある鳥籠にメラニーさん達を入れ、揺らすことにより怪我を負わせた、ってところかな?


 怪我の具合を確認しつつ、考察する。問題なく発動した治癒魔法の効果か、オードリーさんが薄く目を開けた。


「ど、なた……?」


「オードリーさん、しっかり!!」


「あぁ、……夢、かしら? 私た、ちの、正体を知っても、助けると言ってくれた、友だち、の声が……する……わ」


 それだけ言うと、限界だったのか意識を失った。

 焦って残りのメンバーも探す。


 ドワーフのジェイクさんは、漏斗(ろうと)をくわえさせられた形で、異常に腹部を膨らませたまま見つけた。周囲には水溜まりが出来ていた。

 チャーリーさんは妙な形の簀っぽい板に仰向けのまま拘束され、両手は頭の上に、足は膝から下には板は無く、足首には重い鉄球をぶら下げられていた。


 怒りの余り装置自体をぶち壊して二人を救出し、同じように治癒をかける。二人とも意識はなかった。


 残りはリックさんと、アリッサさんだ。見つけた他の自由の風さん達の惨状をみて、焦りが募る。

 マップを頼りに奥に向かった。豪華な格好をした神官がいた辺りに、二人ともいるみたいだ。


「……ッ!!」


 あまりの衝撃に声を出ないまま、それでも私の口は悲鳴の形をしている。


 最も酷く責められたのだろう、アリッサさんは怪我をしていない箇所を見つける事が出来ない。直角の椅子に手足と首を拘束されて神官と向かい合う形で座っていた。力無く垂れた頭には、町で見たのと同じ、捻れた角が硬質な輝きを放っている。

 鋭い何かで全身を引っ掻かれたのか、何ヵ所も肉が裂け、立派だった胸も無惨に切り裂かれている。


 見ていられなくて無意識に視線を反らした先、満身創痍のアリッサさんの斜め前、顔が動かせなくても視界に入る場所に、リックさんも座らされている。


 こちらは、何処まで耐えられるか試されていたのだろうか。細い木枠に無理やり入れられた両足の間に、ハンマーで杭を叩き込んでいたのだろう。泡を吹いて気絶しているリックさんの膝から下は骨が砕けているようだ。


 二人の拘束を壊して、治癒魔法の中でも特に強力なモノを選ぶ。傷ひとつ、痕ひとつ残すものか。綺麗さっぱり、せめて身体につけられた傷くらい、治してやる。


 私の意思を反映したのか、強い輝きを発して治癒魔法が発動した。完全に治った二人を浮かべ、残りのメンバーと合流させる。


 意識はないが、私の周りに自由の風さんたち6人が揃った。これでここにはもう、用はない。ただ、これだけの事をしてくれた神官に、怒りが沸く。


 眠っている相手を殺したいと思ったのは初めてだ。右手を上げて攻撃魔法の狙いをつける。必要以上に力が入っているのか、指先が震えた。


 全員殺そうと決意する私の脳裏に、さっき見た祈る青年神官の姿が過った。頭を大きく振り、当初とは別の魔法を唱える。


『来よ ここに汝を求める者あり

 来よ ここに汝への贄あり

 心赴くまま ラルヴァとなりて

 導きのままに レムレスと変じ

 彼らに裁きを!!

 因果応報(カーマ)


 覚えたときには一生使わないでおこうと思っていた魔法のひとつだった。どちらかと言えば、(のろ)いに近い。まぁ、仮にも聖職者集団だし、何とかするだろう。


 私の呼び出しに応じて、この部屋で眠る人の数だけ、黒い靄が現れた。陰湿な性質を持つ、取り付いた相手の野心を喰らう悪霊たるラルヴァになるか、強力な守護霊へと進化するレムレスとなるかは、本人たち次第。


 ー……私がコレを食らったら確実に、取り殺されるんだろうな。物欲強いし、決して善人でも正義の使者でもないからねぇ。

 神様に仕える、ここの人たちの実力を拝見しましょ。


 肩を竦めて移転を唱え、この場を後にした。







 *******


 自由の風と共にデュシスの町中だけで数ヶ所、更に草原入り口、森、山の裾、クレフおじいちゃんの住むケミスの町に続く谷に続く道、次々と移転する。


 最後に日中整えた実家の前に到着した。誰にも知られずに匿える所なんて、ここしか思い付かなかった。


 実家を離れたのは夏だから、一年近くも時間がたっているのに、私が作った両親の墓も家も思ったほど痛んではいなかった。元々魔物避けのハーブや木が周囲には植えられていたから、ここが新しい魔物の巣になることはなかったんだろう。


 結界を解除して、室内に入る。自由の風さんたちは浮かせたまま、我が家に招き入れた。


 ここは冒険者ギルドが認める、高レベルの魔物が出るフィールド、第6境界の森の中だ。誰が偶然通りすがる可能性は低いだろう。とりあえず身体と心が落ち着くまで休んでもらって、今後を考えてもらえばいい。


 すっかり聞くタイミングを逃してしまったけれど、本当に逃走して良かったのかも確認しないといけないだろう。逃げたくないって言われたらどうしようかな、移転で軍神殿の中庭にでも送ろうか。あの牢屋の中には二度と戻ってほしくないな。


 今後の事を悩みながら、両親のベッドにはアリッサさんとオードリーさんを、私が使っていた(らしい)子供用のベットには、一番小柄なメラニーさんを寝かせる。


 男性陣はそれぞれの妻か恋人が眠るベット近くの床に寝かせた。一応床も拭き掃除したから綺麗だし、寝床もないから勘弁してもらいたい。


 入り口すぐのリビング・ダイニングとして使っていた部屋のテーブルに、以前市場で買い込んだ屋台の食料や、水を並べた。その後、少し悩んでもう使っていない装備、アルが昔使っていたサイズ調整可能な鎧や、剣、数本の短剣を置く。万一私がここに戻れない場合は、コレを使って森を抜けてくれればいい。


 使い古しの布に、両親のお古の洋服の在処、置いていく食べ物や装備品は自由に使って欲しい事を箇条書きにする。

 裏にはこの場所から、街道に抜ける地図も書いた。リックさんたちなら、これで何とかするだろう。

 布が飛ばないよう、ポーションを数本出して重石に置く。


 出来たら誰かが目覚めるまでここに居たいが、そうもいかない。追っ手が来ているなら、始末しなくてはいけないし、何より私の不在を気取られてはならない。


 せめてもの守護に、もう一度、実家の周囲を結界で覆ってから町に戻った。





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