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70.冒険者達の帰還

 朝、ダビデにワンピースの後ろを留めてもらっているときに、その事件は起きた。


「あれ、お嬢様。そのペンダント、中央の石はそんな色でしたか?」


 ダビデが指差しているのは、転生時にGETしてきた首飾りだ。

 言われるがまま確認して、絶望する。


「お、お嬢様! どうしたんですかッ?! なんで手足を床につけて踞るんですか!!」


 ダビデが私の肩を揺らしながら、必死に声をかけてくれるけれど、今はそれ所じゃない。


 ー……やっちまった!! あぁ、まったく、やっちまったよ!!

 油断してた。どうしよう。


 私の頭の中ではそれだけが高速で回っている。


【無効】名脇役の首飾り:装備者がどんなに目立つ行動を取っても、主役になれない首飾り。絶対に目立ちたくない、そんな、シャイで引きこもりなあなたにぴったり。

 目立ちすぎ、もう脇役ではいられない!!【効果無効】


 絶望の訳はこれだ。何度見ても、無効の文字が消えない。首飾りの中央にあった宝石も輝きを失い、コンクリートの塊の様になっている。


 更に両手で頭を抱えて小さくなる私に驚いたのか、ダビデはジルさんの名前を連呼しながら駆け去った。


 神様お手製なのに、こんなに早く無効になるなんて何でよ。これじゃ、目立っちゃう。今回も、脇役で行くつもりだったのに。

 今まで、何だかんだで目立たずにいられたのはこのお陰だと思って安心していた。


「ティナ! どうした?!」


 慌てたダビデに呼び集められたんだろう、ジルさんを初め、アルオルまで勢揃いしている。何でもないと、手を振りながら起き上がった。


 ダビデが半分まで留めていたせいで全部は脱げなかったが、両肩からワンピースが外れ、大慌てで引き上げる。ヤバイ、見え…た、かな? ……ま、いっか。気にしなーい。


「とりあえず、着替えちゃうよ。その後に町に行こう。今日の何時に自由の風さん達が戻るか分からないから、早目に行って城門で待とう」


 首飾りを外し、ダビデに服を留めてくれる様に頼む。ジルさん達は、私のポロリに動揺したのか、さっさと部屋を出ていった。




 ****



「お、来たな、悪辣娘。ギルドが呼んでるぞ。

 速やかにギルドに出頭しろとさ!」


 何とか精神的ダメージから回復して町に着いたら、今日の門番からそんな風に声をかけられた。城門に詰めていた冒険者のひとりが、私が町に来たことを知らせにギルドに走る。これは、逃げられないか? 出来たら、一段落ついてからが良いんだけど……。


「え、少し忙しいので明日以降行きます。ほら、今日、神殿と冒険者の人達が戻るでしょう? 私も見物したいし……」


「ああ、悪辣娘の世話役はスカルマッシャーだしな。そりゃ、心配だよな」


 ウンウンと頷く冒険者だが、何故そこでスカルマッシャーさん達が出てくる。私が気にしているのは、自由の風さん達だよ!


「スカルマッシャーもサミアド遺跡の依頼を受けてたしな。連絡も取れないとなると、不安だよな。大丈夫だ、あいつらだって、経験豊かな冒険者だからな。これくらいの事には経験がある」


 はい? 最近見かけないな、と思っていたらスカルマッシャーさん達も、サミアドに居たんだね。あれ、ならスカルマッシャーさん達も捕まってる?


「それに、神殿からの先触れで帰還は昼過ぎになるとさ。今からなら十分に時間はある。ほれ、さっさと行った、行った。逃げても無駄だからな? ちゃんとギルドに行けよー」


 無理やり背中を押されて、中に入れられてしまった。町の中を歩くと方々(ほうぼう)から、挨拶の声をかけられる。私自身は面識が無くても、相手は分かっているらしく、みんなフレンドリーだ。


「うーん……」


「どうしたんですか?」


 いつものように手を繋いで歩いているダビデが、私が小さく唸っているのに気がついて、問いかけてきた。


「いや、出来たらサクラを雇いたかったんだけど、こんなに有名になっちゃ無理だよなーとね」


「キャット、サクラとは?」


「ん? 町に神殿と冒険者が戻ったら、早く解放しろって一番初めに言う人が欲しいなーって。もしくはサミアド遺跡を解放しろか、サミアドの欠片を寄越せでも可」


 とにかく、この状況を町の人たちが認めてないよってことを、帰って来た神官達に伝えたい。本当は、子連れのママさんとか、おばあちゃんとか、非力そうな良心に訴える系の人が良いんだけど、そんなアテもないしなぁ。どうしたもんか。


 迷いながらオルに言うと、自分が探して手配すると話し、先日と同じ幻影を掛けて欲しいと頼まれた。


「え、でも、こんなに短時間で手配なんてできるの?」


「蛇の道は蛇。任せてくれ。人を集め、その中から、声を上げさせれば良いんだろう? 報酬も払い、ハニーバニーが後ろにいることを感づかせない。他に条件はあるかい?」


 自信をみなぎらせて問いかけるオルに、暴走が起きないこと、そして万一にも逮捕者や、怪我人が出ないように念を押した。そう言ったパレードや集会って暴徒化すると危ないからね。


「了解。では行ってくる。ご主人様は、何処で神殿の帰りを待つ予定なんだ?」


「入り口から戻ってきた人達と一緒に出来る限り移動するつもり。どこで仕掛けるかはオルに任すよ。決まったら連絡頂戴」


 そう言って、前にスカルマッシャーさん達にも渡していた通信機を持たせ送り出した。


「なんと言うか、頼りになりますね」


「適材適所とは、アレの事を言うんだろうな」


 普段はツッコミに忙しいジルさんも、オルがこういったことにはプロフェッショナルであるのが分かったのだろう。呆然と同意してくれる。


「さあ、ティナお嬢様参りましょう」


 アルだけが、ごく当たり前に状況を受け入れると、ギルドに向かって歩き出す。そのアルに着いて、私達も歩き出した。




 いつものようにギルドに顔を出したら、そのままクルバさんの執務室に通された。今回はアルを初め、全員一緒にだ。珍しいと思いながら部屋に入ると更に珍しい顔ぶれが揃っていた。


「あれ? パトリシア君にマダム。それにドミニク神官様に……一体どうされたのですか?」


 挨拶もそこそこに切り出した。その他にも数人見たことのない人がいる。


「とりあえず座れ。

 コレがティナです。ティナ、こちらは美神殿と知神殿の高神官殿だ。ドミニク殿は先日会ったから、大丈夫だな?」


 クルバさんが手早く私達を紹介する。パトリシア君は、謝罪する様に小さく手を合わせていた。


「初めてお目にかかります。冒険者ギルドの臨時薬剤師様。

 私は美神殿に勤めておりますシェーンと申します。どうぞ良しなに」


「同じく知神様にお仕えするサビオと言います。どうぞよろしく」


 シェーンさんは、バッチリメイクの華やかな中にも優しさが漂う25歳前後の美人さん。サビオさんは見るからに学者って感じの老人だ。


「はい、私こそよろしくお願い致します。マスター・クルバからご紹介を頂きましたティナです」


「さて、ティナ。お前は一体何を企んでいる?

 何故あれほど町の住人達を助けた?」


 クルバさんは私を睨み付けたまま、詰問してきた。確かに私が動いた事で迷惑をかけたから怒られても仕方ない。


「あら、マスター・クルバ。この子を叱らないで下さいまし。ティナちゃんのお陰で、町の人々も助かったのですわ」


「そうだな。本来であれば我々が諫めねばならなかったのだが、力が足らず軍神の徒の思うがままだ。そうだろう、ドミニク殿」


 二人に挟まれて、小さくなっているドミニク神官は話を振られて、ソファーの上で小さく跳ねると身を乗り出して話始めた。


「はい、先日のポーションといい特効薬といい、ティナ殿は慈悲深い。神よ、この娘に御身のお慈悲があらんことを」


 敬虔なる神官さん達は、ドミニク神官の祈りに合わせて手を組んで祈りを捧げている。


「コホン。

 ……それでティナ、お前が神官様達に会いたがっていた理由はなんだ? 特効薬を町に配って何がしたかった?

 軍神殿の皆様が戻るまでもう時間がない。話したいことがあるなら、今ここで話すんだ」


「分かりました。マスター・クルバ。まずは特効薬の件では迷惑をおかけして申し訳ありません。

 そして、軍神殿以外の神殿の皆様にお伺いします。今日こちらに来ていただいたのは、私が特効薬を町で配布した事に興味を持っていただけたからですよね。間違いありませんか?」


 口々に同意する神官達を確認して本題に入る。


「では、お願いがあります。一刻も早く、サミアド遺跡を解放し、不当に拘束されている冒険者達を自由にするために協力してください。じゆ……サミアド遺跡にいた冒険者の中に魔族がいたと噂になっています。その真偽を確かめ、もし間違いなら解放を、そうでなければ無関係な冒険者達の解放に尽力してください」


 難色を示す神官達に、マダムやパトリシア君は町の窮状を訴えて一刻も早く特効薬が必要なことを訴えている。


「神官様方、私は何も表立って軍神殿に反旗を翻してほしいとは言っていません。ただ、特効薬を発見し、作り、町に配布したのが冒険者であると言うことだけは忘れないで欲しいと話しているのです。

 ……もしも、軍神殿に接収されたサミアドの欠片を返していただけるなら、私が特効薬に致しましょう。その特効薬を神殿の名前で配れば、皆様の神殿の名前で徳も上がるのではありませんか?

 マスター・クルバ。一度は諦めたドロップ品です。もし速やかに拘束された冒険者が解放された場合、そのお礼として『退色なりし無』を神殿の方々に譲ることをお考えいただけませんか?」


 ここでクルバさんは、否とは言えないだろう。所属冒険者の早期解放と、神殿のメンツ。双方の落とし処としては悪くないはずだ。


 沈黙が流れる室内の空気に緊張して、生唾を飲み込んだ。


「く……」


「うふふ……」


 しばらくして、クルバさんの執務室に低く笑いが響く。


「いや、マスター・クルバ。君の提案とほぼ同じ事を言ってくるとは思わなかった。流石ギルド秘蔵の冒険者」


 サビオさんは堪えきれないと言うように肩を震わせたまま、先を続けた。


「ティナ、我々神殿有志と冒険者ギルドは現状を憂い、話し合いを持っていた。そんな中、君が町で特効薬を配り、かつ我々に接触したがっているのをそこにいるパトリックに聞かされ、何を考えているか試したんだ。

 軍神殿を妥協させるのに、何を渡すかと言うことで揉めていたが、君の提案で結論が出た。『退色なりし無』をエサに軍神殿を交渉のテーブルに引き摺り出す。協力してくれ」


 んー……少し計画と違うけど、まぁ、何とかなるか。今は軍神殿以外と接触を持てた事で良しとしよう。


 後は自由の風さんが本当に魔族なのかどうかにかかっているね。




 *****




 怒号が響く中、軍神殿の旗が風に揺れその後ろを輝く鎧の神殿騎士達が整然と列を作り歩いていく。


 中央に差し掛かると、檻を載せた荷馬車が遠くに見えて来た。先触れの神官は、狂信的に魔族だ、反逆だと捲し立てている。


 神官達との打ち合わせを終えて、トイレに行く振りをしてオルランドに連絡を取った。もうすぐ仕込んだサクラが動き出す頃だ。

 ただ、サクラを頼まなくても、もうすでに大通りの両脇には市民が押し掛け、手に石を握りしめ叫び声を上げている。


「魔族! 魔族を殺せ!!」


「疫病をもらたした魔族を殺せ!!」


「特効薬を!!」


「冒険者達が集めたアイテムを!!」


「人族の裏切り者に罰を!!」


 耳が痛くなる程にその声が高まった所で、ようやく荷馬車の中が見えた。


 荷馬車の檻、中央に置かれた柱に手足を縛られているのは、捻れた角を持ち顔を伏せたままの成人女性だ。


 その荷馬車の後ろから伸びる縄に手を繋がれて、引き摺られる様に歩いているのが、多分リックさんとチャーリーさんだろう。二人は歩くのもやっとという雰囲気で、よろめきながら前に進んでいる。


 その後ろには、狭い檻に3人が寿司詰めになっている。尖り耳の美人と褐色の肌に団子鼻のおっさん、それに猫耳の女の子だ。


 神殿の言うことを信じるならば、この人達が自由の風さん達なんだろう。面変わりし過ぎているから、危険を承知で鑑定を行った。


「お嬢様?」


 手を繋いで見物していたダビデには、私の受けた衝撃が伝わったのだろう。驚いて私を振り返っている。


 アリッサさんの種族は、確かに魔族、それも半魔族だった。







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