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69.情報の共有をしようか

 町で症状が重い人から案内して貰い癒す。私の周りを囲んだ商人さん達に遠慮しているのか、向かう際に感じた嫌な視線は見付けられなかった。


 比較的症状が軽いと思われる人達には、謝りながら町を歩き、偶然、冒険者ギルドの前に通りかかった。


 珍しく固く扉を閉めて、入り口の前に数人の冒険者が立っている。そこに町の住人だと思われる中年男性が近づき、何かを話していたが、冒険者達に追い返されていた。


「ああ、薬剤師殿、あれが気になりますか?」


「はい。一体?」


 ギルドが閉まっているのもおかしいし、町の人を追い返すのはもっと変だ。


「特効薬を分けてくれと、頼みに行っているのです。冒険者ギルドは決して、与えはしませんが、それでもすがりたい者は多いでしょう」


 え……、うわ。そっか、確かに私は「冒険者ギルドの薬剤師」だ。なら、ギルドにはもっと沢山の『退色なりし無』があるって判断するよね。不味い、クルバさんに迷惑をかけちゃった。そしてきっとアンナさんに叱られる。


 せめて言い訳しておこうと思って、周囲の人々に話しかけた。


「冒険者ギルドでも、余剰にはないのです。今あるものは、サミアドが解放された時に、中に入りドロップ品を集める冒険者達用です。それがなくなったら、例え神殿がサミアド遺跡を解放したとしても、今度は素材を集める人手がいなくなります。

 ごめんなさい。私が無理を言って特効薬を外に出したから、そんな風に希望を持つ人達がでてしまいました……」


「薬剤師殿……、さぁ、参りましょう」


 謝る私に同行者達は、なんと言ったらいいか分からないでいる。そんな中、優しく私の背を押して商人さんのひとりは、また別の患者の元に誘導した。


 昼を疾うに過ぎた頃に、アルの特効薬が壊れて消えた。周りでは息を飲む音がする。私としてはそろそろだろうと覚悟していたから、衝撃はなかった。そして、私の手持ちもその数件後で壊れた。


「……ここまで、です。ごめんなさい」


 噂が噂を呼び、集まって来ていた住人たちに謝罪する。一部は暴徒化しかけたけれど、今日1日付き合ってくれていたアムルさんや商人達、そしてその商人の護衛達が静めてくれた。


「帰ります」


 そう宣言して帰路に着く。私の顔を見て、そして周囲の反応から特効薬が尽きたのだと思った町の住人達から失望のため息を受けつつ、町を歩く。


「お嬢様」


 城門近くで待っていたらしいジルさんとダビデも合流する。もう少しで日も暮れる。オルランドも帰ってくるだろう。


「二人とも『退色なりし無』は?」


「使いきりました」


 予想通りの解答だった。これで、特効薬は最後の1個を残すのみだ。これは余程の事がない限り、使うつもりはない。


 頷いて、城門に向かう。私達を囲むように着いてきていた住人達は、ひとり、またひとりと帰っていき、城門に着いた時には、最初の商人達だけが残っていた。


「薬剤師殿。これで終わりですか?」


「商人様方、2日に渡りお付き合いくださり、感謝します。

 明日には神殿の方々が戻ります。その結果次第です。私もこちらに来る予定ですが、何事もなく、そして一刻も早く元通りになってくれることを祈るのみです」


 帰る私に別れを告げ、戻っていく商人たちを見送り、城門に近づく。門番たちの小屋に隠れるように昨日纏わせた幻影の姿のままのオルランドが見えた。私に向けて、合図をするオルランドの魔法を解除する。


「やぁ、ハニーバニー。町で随分と噂になっていたよ」


 いつもの雰囲気で合流するオルランドに、沈んでいた空気がいくらか浮上した。


「オル、お嬢様のお側を離れていたくせに、その挨拶はなんだ?」


 ジルさんも軽くツッコミをいれているけれど、今回は何もする気はなさそうだ。


「オルランド、お疲れ様。さて、城門が閉まる前に帰ろう」


 城門でひとり増えた事を何か言われるかもと身構えたけれど、特に何も言われることはなく外に出られた。



 ****



「さて、情報の共有をしようか」


 隠れ家に戻って、ダビデに夕飯の準備を頼み、残りのメンバーは私の部屋に集合する。オルランドが疲れてそうだから、早目に終わらせたいけれど、どうなるかは分からない。


「はい。畏まりました。

 何からお話になりますか?」


 アルが議長役を買って出てくれる。


「まずは、昨日二人には話した内容をオルにも話してくれる?

 その上で、オル、昨日今日と動いた結果を聞かせてもらうよ」


 同意したアルは手早くまとめて、オルに説明している。私が自由の風さんたちを助けるつもりだと知ったときには呆れた視線を向けられたけれど、最後には納得してくれたみたいだ。


「さて、私のやりたいことは分かってくれたよね? なら、オルランドの掴んできた情報を教えてくれるかな? 大小問わず、詳細にお願いね」


「ああ、承知した。

 まずは、キャットに頼まれた神殿の情報だが、今の神官長は元軍神殿の出だ。中々に過激だったらしく、王都での行いを問題視されて、数人の弟子と共にこのデュシスの町に来たらしい。

 その弟子の中の一人が、疾風迅雷が連絡を取った神官のメントだ。筋金入りの人間至上主義者にして、軍神殿の狂信者。それがメントの評判だな」


 やはり今のデュシスの町の宗教を牛耳ってるのは、軍神殿の連中かぁ。


「次に敵対勢力だが……、やはり筆頭は豊穣神殿。美神殿にしろ知神殿にしろ、庶民には馴染みが薄いからな。まぁ、美神殿は色街と繋がりがある。知神殿は領主の家庭教師を代々勤めている。

 力がない訳ではないが、表立っては動けないだろう」


「うん、それで?」


「神殿内部の地図は、ここにある。見張りの時間についても聞き出せるだけ、聞き出した。後は、一般人が人目に付かず入れる範囲なども聞いてきた。

 ……そして、キティが一番知りたがっているだろう、囚人達が入れられる建物の詳細がコレだ。神殿に盗みに入って失敗した盗賊と偶然知り合えて、かなり詳しく聞くことができた」


 そう話ながらオルランドが差し出してきた布を覗きながら、更に打ち合わせを続ける。ひとしきり聞き終わって、いつの間にか力が入っていた肩を回す。


「お疲れ様。思った以上の成果で驚いたよ。

 オルランドって、有能だったんだね」


 しみじみと話したら、オルランドが吹き出した。


「ハニー、酷いな。俺はこれでも、有能で鳴らした従者だぞ?

 これくらいは当然だ。それで、町で聞き捨てならない噂を聞いたんだが、教えて欲しい事がある」


「ん? 何?」


 気楽に聞き返したら、オルランドから明確な怒気が溢れだしてきた。びっくりしてオルを見る私の前に、サッとジルさんが割り込んでくれた。


「ハニーバニー、アルフレッド様に何をした?」


 ジルさんに剣を向けられてもオルは怯むことなく問いかけてくる。私はアルとオルランドが怒っている意味が分からずに、顔を見合わせた。


「ん? ごめん、何をって何かしたっけ?」


「特に、何かをされた記憶はありません」


 疑問で一杯の私達を見て、オルは更に怒りのボルテージを上げたようだ。


「マイ・ロード!! 町で噂になっています。悪辣娘に調教された、元公爵はすっかり牙を失ったと!

 自ら平民に膝を屈し処罰を求める程になったと、そう言われているのです。一体、私が離れた1日で、何があったのですか!!」


 え? なにそれ?


「あぁ、アレか。大したことではない。

 オルランド、お前が思っている様な事ではないよ。安心しろ」


 アルには何の事かわかったようで、解答を変わってくれた。アルの説明を聞いて、オルは拍子抜けをしている。そうだね、確かに町でアムルさんにツッコミスリッパを渡した事が広まれば、そう言う風に言われるかも。


「オル、ごめん。話の流れでそんな事になったの。まぁ、スリッパ位ならいいかなー? と思ったんだけど、ジルさんに殴られて、目が覚めたよ。アレ、結構痛いんだね。今後は使わないようにするから、今までパコパコ叩かれてるのに、止めなくてごめんなさい」


 頭を下げて謝ったのに、オルは何も言わない。変だと思って顔を上げたら、オルが変な顔のまま固まっていた。目の前で掌を振って見るけれど、それでも視線ひとつ動かない。


「えーっと、オル? だから、ごめんなさいってば、許さなくても良いけど、せめて何か反応して?」


「ジルに殴られた?」


「うん、スリッパでパッコーンとそれはそれは良い音で殴られたよ。案外痛くてビックリした。そして反省した。ごめんなさい」


 オルは音が立つんじゃないかと思うほど勢いをつけて、ジルさんに向き直ると詰め寄っている。


「ジルベルト! 何をやってるんだ!

 それでもし、ティナの機嫌が悪くなって、マイ・ロードに八つ当たりでもしたら、どうする気だった!!」


「そんなもの知るか。ただ勢いとはいえ、ご主人様を殴ったのは悪いと思っている」


 噛み合わない会話を続ける二人を見つめていると、アルまで参戦し始めた。


「オルランド、もし八つ当たりされたとしても私は構わない。我々は奴隷だ。全てはご主人様の望みのままに」


 ふんわりと笑いながら言いきると、私に向かって頭を下げる。これ以上この話を続けさせると、また変な事になりそうだから割り込んで終わらせることにする。


「ジルさん、昨日の事は私が悪いんです。だからジルさんは気にする必要ありません。いいですね?

 オルランド、もし私が八つ当たりするなら、それも諌めてね?私だって完璧でも、絶対に強い訳でもないから、いつかは何かやると思う。その時は構わないからしっかり叱って。ジルさんもアルもだから、そのつもりで。

 前にジルさんやダビデには話したけれど、例え奴隷と言えども、誇りを失う必要はないよ。私と同じ人間で、生き物だ。ただ周りの目があるところでは、弁えてね。それがお互いの為だから。

 さぁ、少し考えたいんだ。夕飯まで自由時間にしよう。

 明日は自由の風さん達が戻ってくる。本当の勝負はこれからだ。

 協力してもらうから、そのつもりでね」




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