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5.ミッション終了。とうとう転生!




『ミッション! 負傷者達を癒し、神の慈悲を示せ!」


 何度も通った西棟に向かう。外から行くのは初めてだ。

 高速飛行のまま低空を飛び西棟に入る。西棟に入りきらない負傷者も多いのだろう。空け放たれたドアの隙間からは、周囲にテントを張り、思い思いに休む人影が見える。


 例によって例のごとく、広域治癒と個別の大治癒を繰り返す。魔力枯渇状況になれば、ギリギリまで我慢してからポーションを使った。

 先の戦闘で魔力全回復ポーションをおよそ40個使った。効果拡大すると、トリプルスペル2回で私の魔力は尽きてしまう。まだまだ在庫はあるけれど無駄にはできない。かえすがえすも、魔力ポーションいっぱい作っててよかったよ。


 西棟にいるのは相変わらずの人族たち。

 人間、小人、尖り耳。

 今回は兵士ばかりだ。


 さっきのしんがり部隊には、獣耳がいたけれどここにはいない。西棟を3周して新規の負傷者が運び込まれることはなくなった。


 でも変じゃない?

運び込まれるのは、人間をはじめとした、人族と呼ばれる種族のみ。ケモ耳や爬虫類系の亜人族と呼ばれるものたちは一度も見かけていない。怪我人がいない訳ではないのは、さっき外の戦闘を見て確認済。


 どうなってるんだ、一体?


 今日は外から入ってきたし、また外に出ても良いよね?

 正面の扉に向かって歩き出した時、また声が聞こえた。


『ミッション、『負傷者達を癒し、神の慈悲を示せ』クリア条件達成を確認。帰還しますか?』


 ー…いいえ。まだ帰れない。


 扉を開けて外に出る。休息をとっている軍関係者達は、扉から出てきた神の代理(私の姿)をみて一斉に膝をついている。そういうの要らんから。退いて欲しいなぁ。


 目につく範囲には、亜人はいない。魔力節約の為に浮遊呪を唱えて、上空にゆっくりと飛び上がった。

 360度ぐるりと見渡し、明らかに冷遇されている一角を見つける。


 ……あそこ、かな?


 地面に降り、先程見つけた一角に向けて足早に進む。何やら止めようとしてくる兵士達もいるけれど、満員電車や通勤時間帯の駅の人混みで鍛えられた私の敵ではない。私を止めたければ、縄ででも拘束するがいいわっ。


 足を止めることなく進むと、そこにはきちんとした手当てすらされていない負傷者達と、疲弊しきった亜人達がいた。


 ほとんどが亜人だが、人族も小数混ざっている。ただし、人族は皆一様に首輪をつけていた。これが、奴隷…か? 亜人達は首輪はつけていないが、扱いは大して変わらないようだ。

 放って置けば致命傷となるキズを受けているものも多い。


「何故西棟の中に運び込まない! もしかして、今までも、こうやって見捨てられた人員がいたの?!」


 聞こえないとはわかっていても、つい激昂して後ろを向いて叫んでいた。ついてきたじゃらじゃらと派手な装飾を着けた人族の高位軍人が驚いて動揺しているけれど、構ってられるか!!


 おばちゃんはお怒りです!!


 なぜ、自分達が何かをするわけでもないのに、彼らを西棟に入れないのか! 亜人だからかっ?! 奴隷だからか?! それに何の違いがある!!


 何よりも、自分に腹が立つ! 何故、今までも西棟に人族しか運び込まれていないことに気がつかなかった! なぜ、一度でも扉を開けて外を確認しようとしなかった! クソっ!!


 強く強く拳を握り、細くゆっくりと息を吐く。

 今は怒りよりも、癒す方が先だ。落ち着け、動揺しても彼らが治る訳ではない。


 魔力ポーションの残量を確認する。うん、まだ十分にある。大丈夫、全員治せる。

 後は時間との勝負だ。


  『……癒しの雫、過ぎ去りし時の欠片、失われし一片(ひとひら)

  ……我は祈り、我は捧げる

  ここに、傷つけり勇猛なる(つわもの)ありて……』


 胸の前で手を組み、両膝をつけ頭を垂れる。

 普段は直立のまま機械的に唱える呪を、初めて心底祈った。いつもの比ではなく、急激に魔力が吸いとられるのが分かる。最近は6割程の消費で発動できていたはずなのに、何故??

 私の魔力、9割9分を吸い取り広域治癒が発動する。

 いつもの柔らかい金の輝きではなく、白い閃光が辺りを染め上げた。


 目眩と吐き気がヤバい。このままでは気絶する確信があり、慌ててポーションを飲み干す。口の端から少し溢れたが、危険域は脱した。


 口を乱暴に拭いながら立ち上がり、周りを見渡す。


 閃光から目を庇うつもりか、腕をかざし、顔を伏せている者達が多い。見える範囲の怪我人たちは、皆、治っている。普段と発動風景が違ったから、失敗したかと焦ったが大丈夫の様だ。安堵に溜め息が漏れた。


 近隣の負傷者は治ったが、奥にまだ怪我人達がいる。個別に治癒を行いながら、呆然とする周りを無視して歩みを進める。

ついてきていた人族は、私が亜人達の中に足を踏み入れると、嫌悪感も露に去っていった。




 ……痛ったぁ!


 しばらく歩き、そろそろ次の広域治癒をと考えていた時に、足首に鋭い傷みが走った。


 視線を下げれば、若い獣人が噛みついている。

これは、オオカミ、かな?

戦闘時、彼らは完全な獣身をとることがあるという。そのまま戻っていないのだろう。獣の頭のままで、人間の胴体がくっついている。

 両手と右足はなく、おそらく出血のため視力も失っているのだか。虚ろな瞳のまま、それでもギリギリと顎に力を入れているのか、無性に哀れだ。


  もう戦いは終わったんだよ。休んでもいいんだから、気を楽にして、もう少しだけ我慢していて。今、治すから。


 オオカミ君を、周りにいたまだ動ける仲間達が引き剥がそうとしている。けれど、彼は頑として放さず、それどころか小刻みに頭を振って、私の足を噛み千切ろうとしてきている。


 無理に引き剥がすのを諦めて、そのまま魔力回復ポーションをあおり、広域治癒を唱えた。


 みる間に、オオカミ少年の手足が甦り瞳に光が戻る。


 噛み締められていた足首に走る傷みが少しずつ軽減してきた。どうやらオオカミ少年は混乱しているらしい。


 今回の治癒は通常通り、金の輝きだった。


さっきのは一体なんだったのやら。残念ながら、噛みつかれたままの私の足は治らない。継続ダメージ中ってやつだ。


 柔らかく足を引き、理性を感じるようになった彼に、口を放すように促す。おずおずとオオカミ少年の牙が離れたとたん、彼は周りにいた仲間達に抱え込まれ、力づくで引き剥がされた。


 大丈夫だよ。と、そう伝えるつもりで彼の毛皮の首筋を軽く撫で、次の治癒に向かった。



 ***


 ようやく全ての野営地を巡り、治癒が終わったのは、辺りが夕焼けに染まる頃だった。

 戦闘前は中天に太陽が輝いていたから、半日近くもミッションを行っていた計算になる。良く働いたよ。


 そろそろ帰還しようと空を見上げた時、私を囲んだ兵士の群れが割れ、立派な虎のケモ耳中年がボロボロの犬ケモ耳少年を引きずってきた。


 あの立派な方のケモ耳は、しんがり部隊から訪ねてきた3人のうちの一人だ。軍の指揮官クラスだったのかな。


 ボロボロで顔色真っ青のケモ耳少年は、初顔のハズ。

 ボロボロって、全員治したつもりなんだけど、漏れたのがいたのか。悪いことしちゃったなぁ。

 こういう時、会話出来ないと不便だよね。他にまだ治っていない人居ませんかー!! って叫んで歩きたい。

 でも、そんなに乱暴に連れてこなくてもいいのではないのかな?ちゃんと治しますよ。


 指揮官ケモ耳が、少年を突飛ばす。立っていられずに少年が倒れると、自分も土下座スタイルになった。そのまま、何かを話しているのは肩や背中の震えで分かるが、だから、聞こえないんだってば!


 戦闘時の魔物の声や足音は聞こえるのに、意味ある言葉だけが聞こえないってほんとに不便!


 ひとしきり何かを言うと、おもむろに身体を起こし、動かない少年の上半身を引き摺り起こす。手には鋼の輝き。


 ちょ、ちょいまち! なにしようとしてるの! 指揮官さん!


 とっさに手を広げてパタパタと動かす。威厳なんぞあったものでない。

 パントマイム技能が、今、この瞬間、切実に欲しいです。


 とりあえず、指揮官さんは少年から手を離して、一歩下がってくれた。力なく俯く少年を近くで観察しようと、しゃがみこむ。


 あれ、この子、オオカミ耳だ。

 え、もしかして、さっき噛みついてきた子?!

 でも、完全に治したよね。なんでまたボロボロになってるのよ?


 よくよく見れば殴打の痕がほとんどだ。これはまさか、私に噛みついたせいで、味方にやられたのかな。そして、罪を償わせる為に、目の前で殺す気だった…とか?


 勘弁してくれ! せっかく治したんだぞ!!


 私が目の前にいることに気がついたのだろう、少年はゆっくりとブーツに手を添え、刃渡り20㎝ほどのナイフを取り出した。

 ナイフが出た瞬間に周りの獣人達がざわついたが、私がひと睨みで黙らせる。こう言うのは何故か通じるんだよね。

 オオカミ少年はのろのろと持ち手を私に向け、ナイフを渡そうとしている。魔力付与も装飾も、なにもない、ただの鉄のナイフ。


 何がしたいんだ? この子は??


 差し出したまま動かないから、とりあえず受け取ってみた。少年は身じろぎをして姿勢をただし、首を伸ばす。そしてそのまま動かなくなった。


 え、もしかして、斬れってこと?! 無理無理、こんなちゃちなナイフじゃ人の首なんて斬り落とせないからっ、そもそも、斬りたくないし!!


 グルグルと思考が空回っているのが分かる。

 うーん、でも何かやらないと、これ、終わらないよね。どうしよう。帰還して、逃げちゃおうかな、でもそうしたら、この子、味方に殺されるよねぇ。


 ひとつ思い付いたけど、これでいいの?

 これはアリなの?

 目の前で死なれるよりはいいし、イチかバチかやってみるか!


 どーしよーもなくなったら、推定神さまの管理者様、何とかして下さいよ!


 と、責任転嫁しつつ、思いつきを実行に移す。


 立ち上がり、受け取ったナイフを口元に近づけ、あたかも祝福を与えている様に見せかける。

 唱えているのは、個別の治癒。

 首を伸ばしたままの少年の両肩に、ナイフの腹を押し当て、そして横に持ち、少年が受けとるのを待つ。


 分かる人には分かるよね? なんちゃって地球での、騎士叙勲の儀式です。

 でも、これだけじゃ弱いかなー。なんか、特別感のあるアイテムとかなかったかしら?


 目を白黒させている少年に周りが何かを言い、躊躇いがちにナイフを受け取った。

 すかさず、治癒を発動し怪我を直す。少年の身に輝くエフェクトもおまけでつけた。

 少年に視線が集中している間に、短距離移転呪で上空に逃げ、自分に浮遊と隠蔽をかけて隠れる。


 あ、思い付いた!


 アイテムボックス内のワイバーンの死体から、掌大の鱗を1つひっぺがす。


 原始のワイバーンの鱗(炎):強い火性を帯びており、所有者を炎から守る。弱い破邪の効果ももつ。

 

 鑑定で確認した効果は微妙だけど、見た目は紅に黄金の縁取りで、とっても綺麗。これなら十分かな? 腐らないだろうし。


 いやぁ、フィールドボスのドロップ品大活躍ですね!


 浮遊呪を鱗にかけて、ふよふよと少年の前に落とす。彼が震える手で鱗を押し抱く姿を確認し、今度こそ帰還することにした。私に出来るのはここまでた。


 少年よ! これを上手く使って、生き残るんだよー!!


 やりたい放題やり過ぎた様な気もするが、最後だし、いいよね!




 ***





『隠しミッション『虐げられし種族を助けよ!』の達成を確認。これにて、訓練期間の全てのミッション終了を確認しました!』


 いつものホワイトアウトから回復すると、そこは真っ白でした。


 ただいまです。ユリです。

 好き勝手やって緊急ミッションから帰ってきたら、そこは最初にたどり着いた空間でした。ホテルに帰って夕飯の続きするつもりだったんだけどな。


 目の前に寂しそうなハロさんがいる。出掛けの夕飯も何処にもない。残念。食べ物の恨みは怖いんだぞー! 折り詰めにして寄越してよね! 最後のお袋の味だったんだから!!


「ユリさん、お帰りなさい。緊急ミッション、隠しミッション共にクリアおめでとうございます。これで訓練期間も終わりです。最後にポイントの付与と、ポイント消費をして、旅立ちとなります」


 こりゃまた、いきなりですね。これじゃ、悲しむ暇もない。

 別れを哀しませない為にわざとしてるのかな?


「まずは、ポイント付与です。

 前世より持ち越しのカルマポイント相殺分、技能(スキル)ボーナス、緊急ミッションクリアポイント、隠しミッションクリアポイント、フィールドボス初戦撃破ボーナスポイントを合算し、刑罰レベルプラス1を掛けたものが、付与ポイントとなります。詳細を確認されますか?」


 流れるように数式を言われたけど、私は理系じゃないから理解できません! せめて表にしてください!!


「ハロさん、ポイントだけでお願いします」


「わかりました。ユリさんに付与されるポイントは1,619,700ポイントとなります。」


「ひゃ、百六十万?!」


 声が裏返りました。どんだけだよ! それともこれが普通なの?


「はい、161万です。最高値ではありませんが、これはかなり多い方です。今までの移動者の皆様の平均が20万となっておりますので、それを考えていただければ分かるかと思います」


 うわー、平均の8倍? やり過ぎた。


「では、次にポイントの消費をお願いします。今回消費しきれないポイントは、スキルポイントとして1ポイントごとの等価交換で持ち越しが可能です。スキルポイントは、能力値増加ポイントと技能ポイントでの使用が可能です。

 今回のポイントの消費はカタログからお願いします。アーテイファクト系アイテムは今回限りの取得となります。作製系技能での取得は不可能です。後悔なさらないようにお選びください」


 どさっと広辞苑ほどの厚さのカタログが渡された。

 こういうところアナログなんだね。タブレットにしようよ。


 重いし床に置いて眺める。最初のページを捲ると、大文字で、『管理者オススメシリーズ♪♪ 全てコミコミ100万P! 今なら期間限定、大特価80万Pで大、大、大奉仕!!!』のポップな丸文字が。せっかくのシリアスが台無しですよ、ちょいワルおやじ様。


 管理者オススメシリーズ(装備品):管理者が心血を注いだ、4形態ずつ形を変えるアーティファクト。頭部、胴体、腕、足の四種類。これがあれば他にいらない?(セット価格35万ポイント)


 管理者オススメシリーズ(武器):使い手の意思を元に形を変える武器。これ1つあれば、他の武器はいらないかも?(25万ポイント)


 管理者オススメシリーズ(住居):携帯型豪華で安全な隠れ(セーフハウス)。初期(居間、台所、風呂、主寝室1、寝室2、客間2、書斎、調合室、武器庫、尋問室)。部屋の数や種類は、魔力消費で増やすことができる。部屋の種類は100種類以上。何処でも設置可能。移動可能。招かざる客は入ることが出来ない。(5万ポイント)


 管理者オススメシリーズ(調味料):各種調味料が毎日最大一キロずつ出てくるアイテム。尽きることはない。味噌と醤油もあるよ?(5万ポイント)


 等々……


 あれば便利系が目白押し。風呂用品とか歯磨きセットとかを作るアーテイファクトとか、自動パン焼き機とか。全部読んではいないけど、オススメシリーズを全制覇すると、個別に買うよりかなりお安くなるし、他にも、劣化版の細かいアイテムを仕入れたら、残りは40万ポイントくらいかな?


 技能系は詠唱破棄系、消費軽減系、回復大アップ系をメインに、ダンジョン攻略系技能等をチョイス。私はどっちかと言うと、魔法適正が高いらしい。

 あとは、初期所持金に一部変えられたから金貨、銀貨、銅貨、各100枚にチェンジして、オススメシリーズの無限バック(大、中、小)の小に入れる。これがこれから私の財布変わりだ。


 金銭価値と、どんな技能を追加したかの詳細は、追々余裕が出たときにでもまた語ろうと思う。


 残りスキルポイントは32170ポイント。


 アーテイファクト系アイテムを手に入れられるのは今回だけと言われたから、がっちりアイテムGETしました。文化レベルも低いって言われてるし。後は、転生後、必要な能力値やスキルに振っていこう。アイテム作成技能もあるし、何とかなるさ。


 目指せ、自由なスローライフ! これだけ準備したんだから、大丈夫でしょ♪ 今度は死ぬときに後悔しない人生を歩むぞっ!


「では、ユリさん、旅立ちの時です。……グズッ。ごめんなさい、笑って見送ろうと決めたのに。管理者様からの御伝言もまだあるのに。私はダメなナビゲーターです。」


 終わりに近づいてきて、とうとうハロさんが耐えきれない様に泣き出した。出会ってから初めて私からハロさんを抱き締める。相変わらず、柔らかくて温かい。前回は、ハロさんから私に飛び付いて来たんだっけなぁ。


「ハロさん、死んで何も分からない私に、色々教えてくれてありがとうございました。お蔭で何とか来世も生きていけそうです。これで会えるのは、最後、ですか?」


 私も堪えきれずに涙声だ。元々涙腺は弱い方だから、こういうのを泣かずにやり過ごすのは無理なんだよね。

 私の胸に顔を埋めながら、ハロさんは答える。


「はい、最後です。次にユリさんがこちらに来るときは、一般の死者と同じ扱いになり、お会いすることもありません。

 最初は普通の人かと思いましたが、お付き合いする間に、どんどん変な人だというのがわかって、管理者様すらも引きずり出したユリさんは、やはり普通ではなく、とても、とても、変な人でした」


 おい、ハロさん。ラストでそれですか?!


「でも、変な人なりに、一本筋を通した変人でしたから、私もついつい応援してしまっていました。だから、来世でも、ユリさんらしく、楽しまれてください。」


 こっそり頭を撫でていたら、素敵な泣き笑いの顔でそう言われてしまいました。そんなにヘンかなぁ、普通のつもりなんだけど。


「では、ユリさん、管理者様からの、御伝言板です。


『前回の約束通り、うっかり知られてしまった余計な知識は他人に話せない様に封印させてもらう。

 便利系のアイテムは気に入ってもらえたか? かなり力を入れて作成したからな、積極的に使えよ。

 転生後の見た目だが、せっかくだから俺が手ずから修正を加えた。かなりの美人だぞ。感謝しろ。

 では最後に、ファーストネームを決めろ。長い名前にしろよ? 格好がつかん。セカンドネームは俺が決めた。家名は転生先の家族名だから諦めろ』


 以上です」


「はい? こんな長文の伝言残すくらいなら、直接来ればいいのに。しかもセカンドネームの名付け親が神さまとか。アリなの?」


 ハロさんは困ったように笑って、ないです。と答えた。ちなみに、別の大陸にいた、太古の時代の忘れられた英雄の名前らしいですよ? と、更に何とも言えない顔で付け加えられて、私自身も苦い顔になっているのが分かる。


 ハロさんに急かされて、ファーストネームを考える。まさか自分でつけられると思わなかったから、全く考えてなかったわ。


 ……うん、これにしよう。特に意味はない。思い付いた音だ。もしかして、管理者様に思考誘導されてるかな? こんなお姫様っぽいの思い付くハズないのに。


「ハロさん、本当にお世話になりました。管理者様にも、私が感謝していたとお伝えください。訓練を担当してくださった、オニ……師匠達にも、伝えられるなら、感謝を。では、行ってきます。

『私の名前は、"リュスティーナ"』です」


 足下の床が抜け、私は分解された。








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