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49.卵を集めよう!

「ティナお嬢様!! 一匹逃げました!!」


「はいよー! 逃がさないから大丈夫!!」


 深い森の中、ぽっかりと空いた空間に私とダビデの元気な声が響いた。

 私が武器防具を町から持って帰って来て数日。今日は石化ダンジョンで、食料(卵)採集大会を開催している。近くにジルさんやアルオルはいない。





 どうしてこんなことになったかと言うと、まぁ、ぶっちゃけケンカだ。隠れ家を出る時点でも、ジルさんとアルオルは険悪ではあった。それは認める。ただ、危険の伴うダンジョンで、取っ組み合いのケンカは頂けない。しかもそれに巻き込まれて、ダビデが殴られた。


 もちろん、即キレましたとも。森の中、危険な石化ダンジョン内だってことも忘れて、正座させて叱りつけた。


「ティナ! コイツらと連携するなど出来ない!!」


「キャット! アル様と犬っころを同じ前線に出すなど!」


 ほぼ同時に、私に反論してくる仲良し叱られ二人組を睨み付け、右足で地面を全力で踏みつけた。


「うるさーい! オルは中衛なんだから、アルばっかり援護してないできちんとバランスを取って! ジルさんも今までの事を考えると、背中を預けろと言っても無理なのはわかりますけど、少しは信頼して下さい! もしもオルがあんまりにもあんまりだったら、こっちで指導をいれますよ!」


 二人のケンカの原因は、連携不備だ。朝からずっと、ジルさんとアルのツートップ、中衛オルランド、後衛ダビデと私って形でダンジョンを歩いていたけれど、戦闘時の度重なる不公平でイラついていたジルさんは、とうとう後衛の私とダビデの所に敵が抜けてきてキレた。

 それまでもオルランドには注意してたんだけどね。どうしても、アルが危なくなると、アルの安全だけを考えて行動する癖が出てしまうようだ。


「「しかしっ!!」」


 二人ともそう言ってまた火花を散らす。

 こりゃガス抜きが必要だね。


「ティナお嬢様、申し訳ありません」


 板金の鎧を身に纏ったアルは擦れる金属音を鳴らしながら頭を下げる。この金属音も、ジルさんやダビデにとっては辛いらしく苛つきの原因だ。アル曰く、魔法化した鎧ならば、余程でないと音が立たないらしく、早急に買い換えを検討中だ。親の遺産に手を出さないと、お金がないけどね。最悪、私一人でダンジョンに籠ろうかな。


「この音! ティナ、素材の採集ならば俺がやる。アルオルがいなくても、十分に集めてみせる」


「犬っころ! リトル・キャット、お願いだ。犬っころとは別れて採集をさせてくれ。その方が、キャットの輝く笑顔が見られる。キティだって争いの中で採集なんて嫌だろう? ほら、美しいその眉間のシワが物語ってるよ」


 オルランドに指摘された眉間のシワを揉み解しながら考える。確かに今日このままってのは、少しキツイ。ダビデもすっかり怯えているし。


「……なら、誰が一番採集できるか競争しようか。

 ここで獲れるのは、鶏肉、鶏卵、くちばし、羽根、虫系ドロップアイテム。ただし食材ゲットが目的だから、虫系とかの食べられない物は除外。天然の木の実や薬草なんかも数に入れて良いことにしよう。私が欲しいから、卵はカウント2倍ね。

 どう組んでもいいけど、採集物は人数割り。今日の夕方までに集めた数の多い人が勝者でご褒美。一番少なかったメンバーには罰ゲームとかどうかな?」


「面白い」


「勝利してキティの笑顔を貰おうか」


「ティナお嬢様、楽しそうですね。ボクも参加しても良いですか?」


 乗り気な皆に対して、アルだけは呆れた顔をしている。


「ただし、危険なダンジョン内だから無理は禁物。ポーションは各人に十分に渡すから、ケチらずに使うこと。状態異常に強くなる様に、魔法は時間を延長して全員に掛けるよ。

 ダビデは一人だと危ないから、誰かと一緒に行動してね。ジルさんとアルオルは、油断さえしなければ遅れは取らないだろうから、自由でいいです。ただし、魔物溜まりに気を付けてください。囲まれると流石に危険です」


 その後細かい打ち合わせと、万一の時用の通信器を渡して、アルオルとジルさん、私とダビデの3組に別れて一時解散となった。

 一応、所有奴隷は魔法で大体の位置はつかめるし、即死さえしなければ何とかなるさ。一応、状態異常抵抗力アップのついでに、物理防御アップもかけておいたし…。


 魔法やスキルの利用は自由って事になったから、手加減せずに技能を使う。他のメンバーに「魔物溜まり」に気を付けろと言った手前、少し気が咎めたが、勝負に手加減は禁物。ダビデが罰ゲームなんてごめんだから、さっさと狩ることにした。


 日の光も差し込まない木々の間を抜け、コカトリスの巣となっている区域に向かう。


 そこだけは木々がなくぽっかりと空が見える広場の地面のあちこちに鳥の巣があった。コカトリスはダンジョンで湧くか、それ以外では稀に卵でも増えるらしい。ドロップ品は、主に肉。たまに羽根やくちばし。ごく稀に卵だ。


 再度ダビデに防御魔法と抵抗力全アップをかけて上書きし、更に素早さアップの魔法も掛ける。私自身はジルさん達と同じままだ。


「お嬢様、ここは数が多すぎます」


 木の陰に隠れてコカトリスを観察するダビデが小声で注意してきた。


「大丈夫。やれるよ。ダビデ、これから何を見てもジルさん達には内緒だよ」


 止めようとするダビデに笑いかけて、アイテムボックスからオススメシリーズを取り出す。今回は弓ではなく、剣にした。相変わらず何処ぞの英雄が持ちそうな、派手な装飾が効いた剣を鞘から抜き放つ。


 ここに転生してきてからは初めて使う魔法を唱えた。確か、最後に使ったのは緊急ミッションだったかな? 返しが付いた槍の様な物を大地から作る魔法だ。


 グルリと広場を囲い、コカトリスが逃走出来ない様にする。それと同時に、ファイヤーボールも広場中央に着弾させた。


「ダビデは後衛待機! 逃げる鳥がいたら教えて!!」


 そう叫んでコカトリスの注意を引き付けながら、囲いの中に飛び込んだ。


 コカトリスの怖さは、その嘴や足等にある石化攻撃だ。それさえ封じてしまえば、ただのデカイ鳥に過ぎない。


 以前は生き物所か虫を殺すのも嫌だったけれど、もうすっかり馴れた。なぶる趣味もないから、一撃で即死する様にオーバーキル気味に攻撃する。こういう所は、ドロップアイテムに変わるこの世界は便利だ。どんなに挽き肉にしてもちゃんと綺麗なドロップ品が出る。


「お嬢様、一匹逃げました!!」


 私が剣を使うところを見るのは初めてのダビデは驚いていたが、それでも指示を忘れずに、警告してくれた。


「はいよー! 逃がさないから大丈夫!!」


 あまり空を飛ぶのが得意ではないコカトリスだけれど、この囲いの中にいたら殺されると気が付いたのだろう。最後の一羽が必死に羽ばたいて囲いを出ようとしている。


「ファイヤーアロー!!」


 中に浮くのは悪手だ。私の魔法の格好の的になる。威力も本数も増した魔法で焼き鳥にした。

 囲いを解除してダビデを招き入れる。ドロップ品はあちこちに散乱しているが、これを私のスキルで集めてしまうと、どれが今回の勝負で集めたものか分からなくなる。多少タイムロスだが、ダビデに預けた大許容バックに入れていく。肉、肉、肉、くちばし、肉、羽根、卵、肉、肉、肉、肉、羽根、肉……………。


「お嬢様、いっぱい集まりましたね」


 嬉しそうにドロップ品を集めるダビデの尻尾は高速で揺れている。ダビデだって勝負には勝ちたいのだろう。しかし、卵が出ない。


「うん、そうだね。集め終わったらすぐに移動しようね。少し行ったところに、薬草や木の実があるみたい。多分それを餌にしていたから、あんなにコカトリスも集まってたんだろうね」


 コカトリスの巣には、食べかけの虫系のドロップ品が散らばっていたけれど、見ないふりをしつつダビデに伝える。


「はい!」


 元気な返事を聞きながら、ドロップ品を拾う速度を上げていった。




「わぁ!! お嬢様、ここ凄いです!! ほら、あちらにあるのがリコの実、それにル・ポポの実に、ノリスの実もあります! 栄養価が高くて中々手に入らないんですよ! 」


 ー……ん? なんか嫌な名前が聞こえた。


「ル・ポポの実……」


「お嬢様?」


 甦る嫌な思い出に表情が歪むのか分かった。


「ダビデ、お願い。絶対、ぜーったいに、クク草は採集しないでね? 食べ物に混ぜたら嫌よ??」


「はい? 分かりました。でもなんで……」


「詳しくは聞かないで。ル・ポポの実は美味しいから、サラダにでもしようか? 鶏肉と混ぜてサラダにしよう」


 そう言えば、混ぜられた野草の名前は言ってなかった。混ぜ物はともかく、ル・ポポの実単体ではアボカドっぽくて好きだから、採集するのは歓迎だ。

 顔を疑問符で一杯にしたダビデと共に、最低限の次世代を作るのに必要な実を残して、軒並み採った。


「ダビデ、そろそろ時間だし、集合場所に向かおう」





 帰り道でも、採集や避けきれなかった魔物との戦闘をこなして、集合場所についたのは、太陽が傾いてきた所だった。ジルさんもアルオルもまだ来ていない。


「あれ、少し早かったかな? 休憩して待とうか。危なくないように、結界をはるね」


「お願いします。ではボクは、皆さんが揃ったらお茶が飲めるように準備しておきます。お嬢様、今日はここに泊まるのですか?」


 隠れ家に随分慣れたダビデは、夜間の移動よりもここに隠れ家を設置してしまった方が安全だと判断したんだろう。問いかける瞳で、私の方を見ている。


「うん、本当はダンジョンの外に設置するつもりだったけれど、ここに一泊しようか。ダビデは隠れ家のキッチンの方が準備も楽だよね。今出すから少し待ってね」


 アイテムボックスから、隠れ家を取りだし魔力を注ぎ込んで適当に地面に突き刺した。瞬時に隠れ家の入り口が現れる。

 ダビデはお茶の準備と夕飯の仕込みもすると言って、中に入っていった。ジルさん達が揃ったら結果発表で呼ぶから、夕飯は簡単なものでいいと告げ見送る。


 さてと、他のメンバーはどうしたのかな?


 日中も開きっぱなしにしていたマップで、ジルさんとアルオル反応を確認する。ジルさんは順調にここに向かってきているけれど、アルオルに動きがない。もしかして石化したか?


 慌てて詳細に確認すると、狭い範囲で動いてはいる。ただしかなり大きな敵対反応と一緒にだ。


 あちゃー。あのバカ共、何にケンカを売ったんだ。


「ダビデー!! ちょっとジルさんとアルオル迎えに行ってくるから隠れ家の中にいてね!!」


 風魔法でダビデのところまで声を飛ばすと、返事を待たずに走り出す。


 まずは近くまで戻っていたジルさんと合流した。


「ティナっ?! どうした、何かあったのか??」


「アルオルが何か不味いモノにケンカを売ったみたいです。確認してきます。

 集合場所に隠れ家を設置しました。ダビデはそこにいます。ジルさんも隠れ家で待っていてください」


 すれ違い様に伝えて駆け去ろうとしたけれど、ジルさんは獣相化して追ってきた。


「ジルさん?! 隠れ家で待っていてください!!」


「そんな訳には行かない。さっきは頭に血が昇ってしまって悪かった。こんな危険な場所で、主人の護衛を止めて、離れるなどあってはならないことだ」


 そう言うと、私の斜め前に出て先導する。


「気にしないで下さい。ジルさんはとても我慢してくれています。感謝こそすれ、怒ることなんてありません。

 一人になって少しは落ち着けましたか? プライベートの時間は大事ですから、またいつでも言ってくださいね」


 その後は速度を上げて走った。ジルさんは絶対に私が前に出ることを許さず、アルオルのいる方角を指示する様に私に告げた。


 アルオルがいる場所に近づくに従って、木々がなぎ倒される音や地面を何かが走る衝撃が走った。


「アルオル!!」


 突然森が切れ、視界が広がり、目の前に戦闘風景が広がった。


 アルオルは生きてはいる。ただし、オルランドの片手と片足は、灰色に変わっている。どうやら石化しているらしい。アルも剣を握る腕が、その持った剣ごと石化していた。


「ティナ様、来てはいけません!! これは変異種の緑樹コカトリスです! 石化能力は他のコカトリスと比べ物になりません! お逃げください!!」


 私達が乱入してきた事に気がついて、アルは必死に叫んだ。

 ジルさんはその警告を無視して、緑樹コカトリスを足止めするために飛び出していく。


 通常のコカトリスのおよそ2倍の大きさ、頭には緑色に輝く鶏冠を持ち、尻尾は木の枝の様になっている。節くれだった脚もまた年輪を重ねた古樹のようで、禍々しく光る漆黒の瞳は乱入してきた私達を観察していた。


「ジルさんっ! 援護します。少しだけ耐えてください! アルオル、ポーションはもうないの?!」


 アルオルへ問いかけながら、無詠唱でジルさんに効果を倍増させた状態異常抵抗力アップをかける。

 ジルさんは緑樹コカトリスを睨み付け、剣を構えてた。警戒するような、鳥の雄叫びが辺りに響く。


「すまない、キャット。全て使いきった。少しでも採集をしようと深部に入りすぎた様だ。コイツの縄張りを荒らしてしまったらしいくてね。追われてこの様だ」


「ならこれを使って! 回復したら即退避!!」


 それぞれにアイテムボックスから取り出した万能薬を投げ渡しす。二人とも躊躇なく飲み干している。


 一瞬石化部位が輝き、通常通りになったアルオルの手足を確認してから、意識をジルさんに戻した。


「ジルさんっ!!」


 ジルさんは紙一重で何とか攻撃を避けつつ、少しずつダメージを入れている様だ。鍛冶屋のおじいさんの所で買った装備に変えてから、ジルさんの強さは一段上がっている。


「オルランド、我々も行くぞ」


 そんなジルさんを見て、火がついたのかアルフレッドも剣を握り直して前線に戻っていった。

 自分の隣にきたアルを見てジルさんは驚いた様だが、今は何かを言っている余裕がないのだろう。すぐにコカトリスに向き直る。

 そんな二人の少し後ろで、オルランドは鎖鎌の鎖を回し始めた。


 私が魔法で始末してしまおうかと思っていたけれど、それも野暮かと考え直して、三人に任せる事にする。アルオルにもジルさんと同様の援護をかけ直した。


「アル様、犬っころ! 俺が動きを止める! そこを狙え!!」


 そうオルランドは叫ぶと、宙に浮こうとしたコカトリスの翼に鎖を絡め、地面に叩きつけた。

 すかさずアルが羽根の付け根を狙って斬撃を入れる。


 甲高いコカトリスの悲鳴が森に響いた。仰け反って剥き出しになった首を狙い、ジルさんが潜り込む。


 流石に一撃で首を落とすまではいかなかったけれど、有効打にはなったようだ。血を流し、必死に反撃してくるコカトリスの動きに余裕はない。


「防御壁!」


 オルランドがジルさんに向けて繰り出された突っつき攻撃を、鎖を引くことでずらした。だがそのせいでアルに流れ玉が向かってしまう。かわしきれないと判断して、防御壁を展開した。


 感謝の視線を送ってくるアルに笑顔を見せて、さっさと狩れと言うように緑樹コカトリスを指差した。


 それから数ターン攻防は続いたが、お互いに拙いながらも連携し始めたジルさん達の敵ではなかった。最後にはオルランドに首を落とされて、緑樹コカトリスはドロップ品へと姿を変えた。エメラルドに輝く、見事な魔石だった。


「お疲れ様」


 ドロップ品を拾い私の方へと戻ってくる三人に、声をかける。


「あぁ、ティナ、援護を感謝する」


「ティナお嬢様、助けて頂きありがとうございました」


「ここにキャットが来てくれなかったら死んでいた。運命を感じるよ」


 口々にお礼を言う三人に首を振る。


「私の援護なんて、なくても何とかなったでしょう? お礼を言う相手が違いますよ?」


 にっこりと笑いながら、そういった。3人とも分かってはいたようで、居心地が悪そうにしている。


「ジル、加勢に感謝します。君が来てくれなかったら、ポーションを使うことも出来ずに、完全に石化していました」


 最初に口火を切って感謝を伝えたのはアルだった。


「……こちらこそ、緑樹コカトリスの討伐協力に感謝する。お陰で楽が出来た」


「犬っこ…、いや、ジル、危ない所を助けてもらった。感謝しておく」


「ふん、お互い様だ。石化攻撃を逸らしただろう?」


 まだ何処かぎこちないけれど、どうやら少しは打ち解けてきたみたいだ。


「さて、ほら帰りましょう? ダビデも心配してると思いますし、私はお腹が空きました」


 そう言ってさっさと歩き出す。すっかり、夕暮れだ。早く帰らないと、夜行性の魔物達が活性化してしまう。

 小走りで隠れ家に着いたときには、夕陽の最後の一筋が闇に消えるところだった。なんとか間に合ってよかったよ。



「お帰りなさいませ! 皆さん御無事でしたか??」


 隠れ家の扉を開けた途端、ダビデの声が響く。やはり夜になるのにさっぱり帰ってこない私達を心配していた様だ。


「すまない。遅くなった」


「お怪我はありませんか? 大丈夫でしたか??」


 心配そうに私達を見るダビデを連れて、リビングに集まった。その間に、変異種の魔物と戦っていて遅くなった旨を伝える。


 ダビデが手早く入れてくれたお茶を各自飲んで、ようやく一息つけた。


「今日はびっくりしましたね。これからはパーティー分割はやめましょう。心臓に悪いです」


 今になって早鐘を打つように、忙しなく動く心臓を持て余しつつ、話しかけた。間に合ったから良いようなものの、本当に危なかったよ。


「我々が敵を見誤ったからです。申し訳ありません」


「すまない。そもそも俺があんな提案をしなければ…」


 どうやら3人も後悔しているようで、俯いている。


「まぁ、皆無事で良かったです。反省は次回から生かしましょう。さて、結果発表といきましょうか。それぞれ、採ってきた物を出して下さい!」


 せっかくの勝負を曖昧にしたままで終わるのも嫌で、わざと明るく言う。


 そんな私に驚きつつも、全員が採集物をテーブルに出した。ジルさんの山が一番少ないけれど、残りの二つの分は、それぞれ二人分だ。圧勝かと思ったのに、結構良い勝負なんじゃないの? 


 それぞれに数を数え確認すると、僅差で一位アルオル、二位私&ダビデ、最下位がジルさんになった。ジルさん、今回のカウントは食べ物だけって言ったのに…なんで虫系ドロップまで持ってくるのさ。虫の目玉なんて、食べるの??


「勝者アルオル。罰ゲームはジルさんだね。そう言えばご褒美の内容も罰ゲームも決めてなかったっけ。どうしようか?」


「ティナ様、少しよろしいでしょうか?」


悩む私に対して、アルが控え目に声をかける。


「なに?」


「私とオルランドは規定時間までに戻れなかったので失格です。ですから、勝者はティナお嬢様とダビデで、我々が最下位です」


 迷うことなく、勝者から敗者になると言うアルを見つめる。この子はまだ精神を病んでるのか?


「ハニー・バニー。アル様の仰られる通りだ。今回、ジルとハニーが来てくれなければ、我々は死んでいた。最下位は我々だろう」


 オルランドまでがそういってきて驚いた。オルならば勝者のご褒美に待遇の改善でも要求してくるかと思ったよ。


「それとこれとは話が別だ。勝負は勝負。俺が敗者だ」


 うーん、それは、負けるが勝ち理論ですか? それともお笑いの鉄板ですか?


 ただどちらを敗者にしても、しこりが残る。


「あの、ティナお嬢様、ボクが勝者ですか?」


 どっちが負けるが言い争っている3人に遠慮しつつも、ダビデは確認してきた。何か欲しいものでもあるのかな?


「うーん……そうだねぇ。トップのアルオルが失格だとすると、繰り上がりでダビデが優勝かな?」


「本当は、ボク、ほとんど何もしてないし、こんなこと望んではいけないんですが、ご褒美、お願いしても良いですか?」


 ダビデから何かを望むなんて珍しい! アルオルおねだり事件からこっち、さっぱり自己主張をしなくなっていて、心配していたんだよ。


「もちろん」


 身を乗り出して肯定した。勝負のご褒美じゃなくても、出来るだけ叶えるよ!


「あの、ジルさん、オルさん、アル様、勝者の要求です。

 お願いですから、仲良くして下さい。お嬢様を困らせないで下さい。戦いの時だけでもいいです。協力しあってください…」


 三人に見詰められて、耳を伏せ尻尾を丸め、消え入りそうな声になりながらも、そう言った。


 勝者のご褒美が同居人同士が仲良くすることって、中々ないよね。可愛らしい要求に、全員が撃沈した。


「あー……悪かった」


「すまない。気を付ける」


「犬に諭されるとはなぁ」


 三者三様にダビデに対して謝っている。困った表情のまま、顔を合わせている姿なんかはすっかり仲良しだ。


「では、罰ゲームも決めないとな。ティナ、もう一人の勝者として決めろ。どうせお前は自分の褒美など要求するつもりないだろう?」


 ダビデを見てほっこりしていたら、ジルさんから名指して罰ゲームの内容を決めるように言われる。

 正直、何も考えてなかったよ?


「罰ゲーム……よくあるのは、歌うとか踊るとか、恥ずかしい思い出暴露とか、恋ばなを話すとかですけど…なにが良いですか?」


 あとはシッペとかデコピンなんかもあるけれど、痛い系だと鞭とか持たされそうだから、言わない方向だ。この世界の痛い系罰ゲームは洒落にならない。


 ダビデほど可愛らしくはないけど、これでも一応気は使ってるんだよ!




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