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47.何、その嫌な、自給自足

「さて、それよりも、少し話しておきたいことがあるの。

 聞いてもらえる?」


 呪印が消え綺麗になったアルオルとジルさんに声をかける。


「正直、アルオルの同居についてはどうしたら良いか分からなかった。でも、こうなったら、このまま行くしかない」


 うん、さっさと何処かに消えてほしかったんだけど、こうなっちゃったんだから、無理だよね。


「私の考えが間違っていたら教えてほしい。

 アルオルを私が転売した場合、恐らく二人は長く生きる事は出来ない。そして私も、この国に目をつけられ、最悪、殺される。

 だから、二人を簡単に手放す事は出来ない」


 ここまでは確認だ。問題はないだろう。


「ジルさん、教えて下さい。

 この国に嵌められた可能性が有るとは言え、ジルさん達を奴隷に落としたかもしれないアルオルを、やっぱり殺さないと気が済まないですか?」


 昨日の話し合いを考えれば可能性は低いとは言え、ここでイエスと言われたら、詰みだ。ジルさんとアルオル、どちらを取るのかの究極の二択をしなくてはならなくなる。選ばれなかったらアルオルは死亡確実。ジルさんは虐待の危険がある。いや、やらせないけど。


 心情的にはジルさん一択なんだけど、色々考えると身動き取れなくなるんだよね。人を殺す選択は、私にはまだ出来ない。かといって、ジルさんを不幸にするのは論外だ。まったく我ながら我が儘だよ。


「……ご主人様は、アルオルではないと考えているんだろう?

 真実が分かればその時はまた別だが、(あるじ)の悲しむことはしない。思うところはあるが、落とし処を探すさ」


 まだ納得は出来ていないだろうけれど、そう言うと神経質に頭を掻き、アルオルに向き直った。


「おい、俺はお前達の言うこと全てを信じたわけではない。町でお前らとお前らの死んだ仲間がやった事も忘れない。俺はご主人様ほど甘くはない。

 ……だが、主人が悲しむからな。取り敢えず保留だ。もし怪しい動きをするなら、殺す。(あるじ)に害を成すようなら、容赦はしない。

 覚えておけ、俺はお前達を信頼しない」


 ジルさん……、ホントごめん。ジルさんには謝ってばっかりだね。いつか、ジルさんの敵に会う事が出来たら、私も出来る協力はするから。今は我が儘を通させて貰う。


 頷くアルオルを見ながら、トドメとばかりに話しかけた。


「町では、虐待されている奴隷の演技をしてもらうよ? いちいち肉体を傷付ける様な面倒はゴメンだから、精神的にでも痛め付けられてる風を装って。

 出来るよね? 失敗したら、二人共引き離されて、野垂れ死にだからね? わざとらしくならない程度に、暗い感じでいて」


「そんな事で良いのかい?」


「ええ、後ここにいるのは10ヶ月弱だし、町にアルオルを連れていくのも最低限にする。何とか誤魔化そう」


「ご主人様は何処かに御移動されるのですか?」


「あ、ご主人様呼びは止めてね。名前で呼んで。悪いけど、吹き出しそうになるんだわ。

 色々見たいから、成人したら迷宮都市国家連合に行ってみようかと思ってるんだ。アルオルの今後も悪いようにはしないから、大人しく従って欲しい」


 流石にダンジョン踏破報酬で、ジルさんとダビデの奴隷解放を目指している事は言えなかった。ついでにコイツらも野に放つ予定。


「しかし、それでは……」


「後、これは私からのお願いで、希望なんだけど。

 アルフレッド、策を作るのは構わない。ただし、その策を実行した時に、不幸になる人の事をキチンと考えて作って。

 今回の策で、何人不幸になった? 何人死んだ? 敵や味方だけじゃないよ。無関係の市民もだからね? どれだけの人が哀しんで、どれだけの影響が出たか分かる? 残りの人生破壊された人だって出たんだよ?」


 話ながら興奮してきたのが、自分でも分かった。アルフレッドは伏し目がちに床を見て動かない。それが無性に腹が立って、襟元を掴んで引き上げた。


「自分で尻も拭けない程の、策を作るな!! 自分だけが良ければそれでいいのか?! どんな主張があって行った事でも、それが無関係の人を不幸にするなら、下策だろうがっ!!

 成功しても失敗しても、周りの怨みしか買わない。そこまで分かっていてやったのか?! 未来の味方を全て失う覚悟は出来ていたと?! このバカがっ!! 少しは世の中を見ろ!!」


「キャット! 言い過ぎだ」


「オルランドも同罪よ!」


 ガンガン揺さぶりながらアルフレッドを責めていたら、オルランドが割り込んできた。

 正直ね、私はあんたにも腹が立っています。

 今度はオルランドを揺さぶる。


「あのねぇ、自分の主が道を誤りそうになったら諌めんのが、年長者の役目でしょうがっ! 未成年者が追い詰められたら、思いもかけない暴走すんのは、予想できたでしょ!!

 従うのが当然?! 主の希望を叶えるのが従者の役目?! ふっざけんじゃないわよ!! それで将来に渡って、汚名を被る事を考えたら、どっちが主の為になるかなんて、子供でも分かるわっ!!」


 年下の上司って相手もだろうけど、こっちも一応、気を使うのよ。常に自分は下って態度で表していないと、周りが勘違いするし。それでもさ、相手がどうしようもなく勘違いしてるなら、例え自分の評価がどうなろうとも、駄目なもんは駄目! って、言わなきゃいけない瞬間はある。

 それが、出世も望まず、のんべんだらりんと日々を過ごすおばちゃんの役割だと思っていた。


 この世界の主従がどうかは知らん。ただし、私はそう思う。言いたい事は言った。後、どう考えて行動するかはコイツら次第だ。


「……それでも、私は」


 思いつめてアルが口を開く。うん、そうだろうね。少し話しただけで、私の価値観を押し付けられるとは思ってないよ。だから悪いけど、保険をかけさせて貰う。


『アルフレッド、私の所有奴隷でいる間、何か策を練り実行する場合は、初めに私の許可を取ること。実行する、しないに関わらず、私に報告する前の策を何らかの方法で他の者に伝える事も禁止する』


『オルランド、アルフレッドから直接何らかの提案を受けない限り、アルフレッドの真意を勝手に解釈して、それを果たす為に行動することを禁止する』


 ダビデから始まり、怒涛の如く増えた所有奴隷の中で初めて明確にその行動を制限するために命令した。

 何か起こってからじゃ遅い。恨まれてもいいさ。

 




 あの後、あまりにも遅くなったからダビデまで心配して探しに来た。大丈夫だと言い張るアルオルに押しきられ、全員で微妙な雰囲気のまま朝食を済ます。


「今日は休み!! 私は部屋に籠るから、何あったら声をかけて。それ以外は全員自由に。危ないことはしないでよ!!」


 さっき怒ったのが恥ずかしくなって部屋に逃げ帰った。


 ベットに倒れ込み、枕を被ってうつ伏せになる。


「あー……、やっちゃった。悪い癖が出た。こっ恥ずかしい。

 この世界に馴れるまでは、自我を出すのは止めようと思ってたのに。何が考えろだよ、何が諌めろだよ。世の中を見ろは私の方だよ」


 頭に血が昇ると、性格変わるのは昔からだ。これでも年をとって少しは良くなってたんだけど、こっちの世界に来てからまた悪癖が再発している。


「……お嬢様?」


 ぐるぐると思考が回ってベットに沈んでいたら、ダビデが覗きに来てくれた。

 無言で服の上から撫で回して精神の安定を図る。


「ダビデ、ごめんね。なんでこんな大事になっちゃったんだろうね。ダビデの恩人なのに、好きにさせられなくてゴメン。許してー」


 力を込めてお腹に抱きついて頭を擦り付ける。何故かダビデに頭を撫でられた。少し落ち着いてから、甘味と夕飯は運びますからご心配なく。と、そう言ってダビデは下がった。


 恥ずかしさに1日中身悶えて、翌日を迎えた。朝は早目に起きて、洋服を着替える。

 髪をどうするのか悩んだまま、朝食の時間になり、リビングに向かった。


「おはよう、ティナ。どうしたんだ? その格好」


「おはようございます。可愛い御衣装でお似合いですね」


「おはようございます。ティナお嬢様。久々に私服ですか? どうしたんです??」


「おや、ハニー・バニー。いつもの服以外も持ってたのかい。それもハニーの素朴な美しさを引き立てていて、とても素敵だよ」


 それなりに身構えてリビングに入ったのに、同居人達は全員普通でした。昨日のアレコレがなかったように、何事もなく朝食の準備が進んでいる。


「おはようございます、昨日はごめんなさい」


 それでも一応謝ったけれど、全員にノーコメントで受け流された。


「そんなことよりも、その格好。今日も外には出ないつもりか?」


 今の私の格好はお久しぶりの、村娘の服(冬物)だ。髪は慣れてないせいか、どうしても上手く結い上げられず、後ろに流している。


「ちょっと町まで一人で行ってきます。武器はともかく、アルオルの防具がないと、まともに外にも出られないので不便すぎます」


「どうしておひとりで行かれるのですか? ボクはともかくジルさんだけでも、お供に連れていかれてはどうでしょう?」


 ダビデが不思議そうに聞いてくる。


「昨日の今日ならぬ、一昨日の今日だからね。用心に変装。

 コレなら普段と全然違うし、一人なら町を歩いても、私の事をあんまり知らない人なら゛悪辣な娘さん゛だと分からないかと思ってさ。髪型も変えたかったんだけど、どうも苦手で。ハーフアップと一本結びくらしいか出来ないんだよね」


 顔にまとわりついてくる髪をかき揚げながら伝える。こんなところで前世のぶきっちょが足を引っ張るとは思わなかった。洒落っけもなかったから、潔く、髪型を変えるときは美容師さんにお任せだった。


「危険ではないのですか? 万一、ティナお嬢様だと露見した場合、どうなさるおつもりですか?」


「ん? どうもしないよ。町の人達も、アルオルを連れていない私なら、手出しする理由ないから大丈夫だろうし。万一襲われたら、魔法で撃退する」


「その様な危険な事をしていただく訳にはいきません。我々でしたら、どうかお気遣いなく。このままの装備でも問題はありません」


 きっぱりとアルが断ってくるけれど、このままって布の服とそこらの木の枝で戦うつもりですか? あり得ないわ。でも、アルオルの為に、武器防具製作技能をわざわざ使おうって言う気にもなれなかったりする。


「気にします。それに気分転換も含んでるから気にしないで」


「ティナ、気分転換ならせめて後1日待ったらどうだ? そうすれば、町の入り口に晒されたアレコレも移動されるだろう。

 一昨日のアレをまた見たいのか?」


 直接表現を避けて聞いてくれるのは、私に対する優しさかな?

 そう言えば、3日程度で撤去されるんだっけ。


「見たくはないですけど3日程度って話でしたし、本当に明日には片付けられるのか不明ですから。まぁ、出来るだけ見ないように頑張ります」


「恐らくだが、遅くとも明日には、罪人の谷へ捨てられる。あそこは町からも少し離れているし、移動も危険だ。雪が積もり足場が悪くなる前に捨てるだろう。……毎年恒例の行事もあることだしな。もしかしたら、風物詩のついでに運ぶ事になるかもしれない」


 嫌な事でも思い出した様にジルさんは口を閉じた。


「ジルさん、風物詩って?」


「死人狩り。領主館から冒険者ギルドに毎年冬に発注される、アンデット退治だ。

 谷へと捨てられた死体や、生きたまま落とされた連中は高確率で魔物になる。谷へと雪が積もる頃に、間引きも兼ねて冒険者達が総出で狩る。ドロップ品も悪くないし、中には装備や装飾品をわざと残したモノもいる。

 冒険者達の格好の餌食だな」


 無表情でアルオルを見ながら、ジルさんは教えてくれた。

 うーん、つまり、デュシスの町で死罪となった人や、落っこちた人は罪人の谷でアンデット化。それを冒険者が狩る。素材はデュシスの町で売買される、と?


「何、その嫌な、自給自足。毎年って事は、損益分岐点に乗ってるって事ですか?

 もしかして、一昨年ゾンビ、去年スケルトン、今年ゴーストとか、平均三回くらい死ななきゃいけないとか、言いませんよね?」


「よく分かったな。大体そうだ。ゾンビくらいだと駆け出し、スケルトンやゴーストで中堅相手をする。稀にレイスにまでなるのもいて、その時はベテランが召集されるらしい」


「うわー、骨の髄まで利用しますって感じですね…。なんでそんなに詳しいんですか? っと、あー、アルオルごめん、目の前で話す話じゃなかった。配慮が足りなかった」


 まだ気になるけれど、仲間がそんな目に合うのが確定しているアルオルの目の前でこれ以上質問するのは、どうかと気がついて謝った。


「いえ、ティナ様、出来ればもう少し私も教えてほしいと思います。ジル、私の仲間達はどうなる運命なんだ?」


 許可を求めてジルさんがこっちを見るのに頷いた。


「さっき言った通りだ。ゾンビとして、腐肉や腐った指をドロップする魔物として狩られ、翌年スケルトン系の魔物として、腰骨や肋骨を狙われる。最後はゴーストとして、低確率ドロップの魔石や霊布の為に魔法で消滅させられる。稀に上位種族のレイスとして現れるのもいるが、そう言った上位種はギルドのベテランが複数出てきてなぶり殺しだな。

 冬の罪人の谷への遠征は、ギルドの新人育成イベントの一環でもある。俺も去年、前の主人に連れられて参加した」


 それを聞いてアルオルは瞑目している。確かに自分の仲間が死して尚、利用されるのをただ傍観するしかないって、きっと辛いよね。


「……ティナ様、もしお許し頂けるのであれば、食事がお済みの後に御髪を整えさせて頂けませんか? 妹の髪を時々結っていたので多少は出来ます。その自由な髪のままではお邪魔でしょう?」


 しばらく瞑目していたアルが、控え目に話しかけてきた。


「へぇ、貴族って髪を自分で結ったりする事もあるの? 私は凄く苦手だから助かるけど、いつもと雰囲気変えたいから、一本結び以外でお願いしたいわ」


 アルはありがとうございますと答えると、朝食を持ってくると言うダビデについてキッチンへ消えた。


「ジルさん、アル何か変わりましたか?」


 ジルさんと二人っきりになったリビングで話しかける。


「あぁ、昨日あの後少し話した。奴隷の序列として、最上位にダビデ、次に俺、アルオルは最下層と言うことで話はついた。今後は最下層の奴隷として、ティナに仕えるそうだ」


「序列って、なにそれ。大人数って程じゃないし、普通で良いじゃないですか」


「まぁ、気にするな。俺達の話だ」


「まぁ、それでジルさん達が上手く生活できるなら、何も言わないですけど……。あ、そうだ、そろそろ報酬の分配率とかも決めないと駄目ですよね? 頭割りでいいですか? ドタバタしていてすっかり忘れてましたけど、そろそろダンジョンとかにも本格的に潜るつもりですし、レベリングもしたいですから」


 私としては当たり前の事を話したつもりなんだけど、またジルさんが頭を抱えた。


「あのな、ティナ、俺達は奴隷だ。報酬などない。分かるか? 報酬はお前の総取りだ」


 どうやらジルさんは報酬を受け取る気がないらしい。それは慣れない手付きで配膳を手伝うアルやダビデ、オルも同じようで全員に否定された。


 食事が終わって髪を整えて貰いながら、さっきの話を蒸し返す。

 確かエジプトとか古代ローマとかって、奴隷の労働条件とか日当とかも決まってたし、お金貯まれば自分を買い戻す事もあったって話だし、報酬支払うのもおかしくないと思うんだよね。


「皆、聞いてください。報酬ですが、ダンジョンのドロップや受けた依頼の成功報酬は、参加不参加に問わず、頭割りにしようと思います。これに最低限の生活費は含まれません。居住費は掛からないし、食費は、デュシスにいる間は、私のポーション代金で賄う予定です。デュシスから移動する時はまた相談させて下さい。同意して貰えますか?」


 いや、アル、髪を引っ張んないで! ダビデ、お茶溢れてる!!


「キティ、熱でもあるのかい? 我々に報酬を払うと?」


「ええ、そのつもりです。というか、全員そんな反応って事は、普通はどうなんですか?」


 あまりに周りが驚くから、逆に不審に思って問いかけると、この中で唯一以前は沢山の奴隷の保有者だったアルが背後から教えてくれた。


「一般奴隷は、期間中は無報酬で働き、期限が来たら解放されます。ただ無一文で自由の身になっても、また奴隷に落ちるだけですので、一定期間低賃金で追加で働くことが多いですね。

 我々のような特殊奴隷は、生涯無報酬で働きます。満足に食事が与えられれば、所有者の慈悲に感謝するべきです。働けなくなったら処分(ころ)されるか、別の場所に叩き売られるか…。その様な感じです。お分かりいただけましたか?」


「なら、皆が欲しいものや買いたいものがあったらどうするの? 申告してお金を貰うとか?」


 なにそれ、めっちゃ面倒なんだけど。皆、買い物くらいは出来る年なんだし、勝手にやってよ!


「我々奴隷が何か欲する事はありません。主人に与えられた物に感謝を捧げ、使わせていただくのみです」


「あ、無理。私、気が利かないから、皆が今、何が欲しいとか、消耗品で何が足りないかとか、一々気づかない自信がある。

 だから、金銭は渡すからさ、勝手に必要な物を買ってよ。嗜好品とか、服とか、色々あるでしょ?

 それと、アル、髪、引っ張んないで。抜ける、ハゲる、痛い」


 更に無理なことを言われて、早々に白旗を上げる。

 けっこうな力で私の髪を引っ張っていた事に気がついたアルは、慌てて髪を放す。そのまま私が座った椅子の前に回ったと思ったら、膝をついた。


「申し訳ございません。どうぞ、こちらを」


 恭しく差し出してきたのは、15センチ定規ではなく、平たい棒。またこいつは何処から拾ってきた!


「アル、ナニこれ」


「叱責用です。ご利用下さい」


 無理に私に棒を持たせると、両方の掌を揃えて私の前に差し出す。コレで殴れと?


「えーっと、同居のルール、追加。ジルさん、ダビデ、二人には前に頼んだよね? 留守の間にアルオルにも教えておいて貰える? 

 土下座をしないに体罰を求めないも追加しといてね。

 さぁ、早く整えてくれる? 帰りに髪止めとかリボンとかピンなんかも買ってくるね。今は雰囲気が変わればいいから、ほら、早くたって!」


 無理にアルを立たせて、髪を整えて貰いました。ヘアバンドのように、編んだ髪を頭に沿わせて残りは後ろに流す、どこぞの乙女のようなデキになりました。魔法で氷を出して磨きあげ、鏡変わりに覗き込んで驚く。

 うわっ、上手! 普段と全然違うよ!! これなら誰か分からないだろう。


「このような簡単なもので申し訳ありません。お気に召しましたか?」


「召した、召した! ありがとう!! また頼んでいい??」


「勿論です。喜んで」


 控え目に微笑むアルと心配そうなジルさん達に見送られて、隠れ家を出る。出掛けにもう一度ジルさんとダビデには、同居ルールの説明を頼んでおいた。





 さて、所変わって、デュシスの町。

 入り口にいた今日の門番役はお久しぶりの自由の風さん達でした。出来心で、知らん顔をしたまま順番を待つ。


 あー、門の脇にはまだ、ありましたよ、アレコレが。寒いから腐敗しないのがせめてもの救いかな??


「ほい、次ー……お、可愛いお嬢ちゃんじゃねぇか。嬢ちゃん初、だよな? さて、この町にきた目的か、身分証を見せてくれ」


 極当たり前に、私に聞いてくるリックさんの顔を見て吹き出しそうになる。そんな私の微妙な顔をみてリックさんも不審そうだ。


「ん? 嬢ちゃん、どっかであったか?」


「リックさんヒドーイ! 私の事忘れたんですか?」


 少しだけ甘えた声を作ってからかってみる。周りには自由の風のメンバーもいる。私を見てすぐにピンときた人もいれば、分からずに変な顔をしている人もいる。


「リック、このバカ。脳筋男。ダメリーダー。

 護衛対象の顔を忘れるな」


 小柄な軽鎧戦士兼盗賊のメラニーさんが、リックさんに叩きつつ私の方を向いた。


「はぁーいティナちゃん。今日はいつもと違うね。可愛いよー。

 ギルドに何か用事? もしかして、マリアンヌちゃんに呼ばれた?」


「え、おい、ティナ? ってあのティナか? 非常識娘、ちびっこ女王サマ。規格外薬剤師の残念娘!」


 驚いてリックさんが恋人のアリッサさんに尋ねている。


「こんにちは、メラニーさん。今日も素敵な黒髪ですね。アリッサさんもお元気そうで何よりです。でも、騙せたのがリックさんだけって、そんなに分かりやすいですか? 何処で私だって気がつきましたか??」


「ん? 匂い、かなぁ?」


「私は魔力ね」


 驚くリックさんをスルーして、会話が続く。


「あらら、残念です。驚かせたかったのに。町の人達にもバレますかね? 今日は気分転換と買い物にきたんですけど…、お隣のアレコレは明日には片付けられるハズだから、もう1日待てとはみんなに言われたんですけどね」


「大丈夫だと思うよー? 町の人達なら多分ウチのバカリーダーよりも察しは悪いから♪ さっき執行局も出立したっぽいし、買い物って、護衛はいる? なら誰かつけるよ??」


「大丈夫ですよ、メラニーさん。さて、入れて貰えますか?」


「待て待て! ティナ、お前、俺をスルーすんな!」


「うるさいですよ、リックさん。誰が規格外薬剤師の残念娘ですか、それよりも何よりも、ちびっこ女王サマなんて、変な呼び名つけないでください!!」


 このままスルーして町に入るのも面白いかと思ったけれど、一応全力で突っ込みをいれた。定着されると困る。


「ん? 事実だろ。今日は手下はどうしたんた? 何か他に命令でも下したのかよ」


「手下って……」


 否定出来ない所がツラい。


「まぁ、いいや。ティナ、せっかく来たんだから、ギルドに顔出せや。お前が原因で親子喧嘩が発生してな、他の連中が困ってる。なんとかしていけ」


 さっさと行けとでも言うように、指を振られて中に入る。親子喧嘩って、何が起きたんだろう? ギルドで親子って、マスター・クルバとマリアンヌちゃんくらいしか知らないんだけど…?








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