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45.浮気亭主を見る目で見ないで!!




 膝立ちのままのアルオルを眺めながら考える。しかし、なんでまた、アルの辿り着いた結論が、コレ(朱茨の枝)なんだ??


「あのさ、なんでコレなの??」


「……? 素手で打っては、お手を痛めます。もっと攻撃力が高いものをお望みでしょうが、近隣にはそれしかなかったもので」


 んー? なんか会話が成り立たない。根本的にすれ違ってる気がする……。


「なら、話は変わるけど、この一月、毒の影響下にあると思われてた私に、『休め』しか言わなかったのは、なんで?」


「魔法を解けるようになるまでは、身の安全が最優先でした。幸い、貴女は我々を殺しにはかかってこなかったので、危険の無いように引き籠っていて頂くだけで十分でした」


 そりゃぁね。初めまして、殺します! って人の方が珍しいと思うよ?? どこの快楽殺人鬼だよ。


「あの、お嬢様、毒って?」


「あ! ……うん、大したことはないんだけど、ちょっとアルオルに毒を盛られていてさ。影響はなかったから大丈夫だよ?」


 そう言えば、心配かけないようにダビデには黙ってたんだっけ。領主館でクルバさんが話したところにはダビデもいたから、すっかり詳細話した気でいたわ。……うっかりしてたなぁ。せめてダビデが作ったご飯やお茶に混入されてたことは、言わない方向で頑張ろう。


「え、でも、ボクらは所有者(おじょうさま)に害を及ぼすことは出来ないですよ? 一体どうやって??」


「単体では害はなかったんだよ。結合して成分変化が起きる感じ??」


「ティナ、きちんと話さないとダメだ」


 曖昧に答えていたら、ジルさんにダメ出しを食らった。


「ジルさんは知っているのですか?」


 ダビデは真剣な瞳で、ジルさんを見ている。こりゃ誤魔化すのは無理かなぁ。許可を求めるジルさんに、それでも本当の事を話すか迷っていると、諦めたのか、勝手に話を始めた。


「お前が作ったお茶や食べ物等に入れていたんだ。時間差もしくは別々の皿に個別に二種類の野草を混ぜる手口が一番多いな。おそらくオルランドが、配膳を手伝った時に混入したんだろう。……ティナを怒るなよ? 知ったらお前が心配して哀しむと言って、隠していたんだ」


 あっちゃー、そこまで言いますか。


「あー、ダビデが気にすることないからね?? ダビデは悪くないんだから。悪いのは野草を混ぜたアルオルと、ダビデにそれを知らせなかった私。いいね? ダビデは気にしないの」


 否定しても無駄かなぁと思って、フォローに回る。余計な事まで話したジルさんを見る目がついついキツくなる。


「お嬢様……」


 へたった耳と巻かれた尻尾、潤んだ瞳で見詰められて、気にするなと言っているのに、それでも自分を責めているのが分かる。こうなるから、黙ってたんだよ。


「ジルさん、詳細を話す必要はなかったですよね? ダビデが気にしたら嫌なんですけど」


「いや、いつか事実を知ったときを考えれば、今、話しておいた方がいい。けじめは一気につけてしまった方がいいだろう。

 俺も少々腹に据えかねているしな……」


「ジルさん?? アルオルの件で怒ってるのは分かってますから、落ち着いて下さい。ジルさんまで普通じゃなくなったら、私はどうしたら良いんですか」


「違う。アルオルの件は当然だが、他にも色々とな」


 首を振り簡潔に伝えてくるジルさんは、これ以上言うつもりがないのか、そのまま口を接ぐんでしまう。


「ん? とりあえず、アルオルの方を片付けてからでいいですか? 後で何に腹を立ててるか教えてくださいね? 私が原因なら謝りますし、改善するように努力はしますから」


 ジルさんには、アルオルの件では随分負担かけちゃったし、私で出来る事なら埋め合わせをしたいからね。


「……お前は、本当に」


 呆れた顔をして私を見るジルさんに、こちらも小首を傾げた。一体何だってんだ。


「お嬢様……」


 ダビデの声がして意識を戻せば、アルオルに並んでダビデまで跪いている。


「どうしたの!? なんで正座??」


「お嬢様、お嬢様がお優しいのは良く分かっています。でも、今回はどうかボクにも罰を。アルフレッド様、オルランド様を助けて欲しいとお願いしたのに、そのお二人がお嬢様に危害を加えるのを止められず、更にはそれすら知らずにのうのうと……。

 お嬢様に日々美味しい食事をお出しするのが、ボクに出来る唯一の事なのに、それすらも、毒を混入されて気が付きもしない。

 どうか無能なボクを許してください」


「はぁ?? 許すも許さないもないよ!」


 そもそも怒ってないから!!


「そうですよね、許されるハズがない。ボクはいつ、転売されますか? 出来たら最後にもう一度だけでも、お嬢様にお食事を出させて下さい。無論、目の前でボクが御納得頂けるまで、毒味を致します……」


 ちょっと待て! ダビデの思考までもが突っ走ってる!!

 何なのよ、このカオス!!


「話を聞いて!! ダビデの事、怒ってないから、それどころか悪かったなぁって思ってるから!!」


「そんな…全てボクが悪いんです。どうか、所有して下さる間だけでも罰を……」


 がぁ!! 話が進まない! あっちもこっちも、混乱の極地って、誰か助けて!!


 私の話を全く聞かずに、己を断罪するダビデを宥めている間にも、アルオルは跪いてこっちを伺ってるし、ジルさんは我関せずだし、まったくもう!!


 私の中で、何かがプチッと音を発てて切れた。


「ウフフフフ……、もういいわ。みんな、私の話を聞いてくれないのね? 全員、立ちなさい」


 有無を言わせずに全員を立たせる。長く膝をついていたアルオルが少し辛そうだけれど、そんなのに関わってある暇はない。手近にあった机に、渡された枝は放り出した。


「全員、一緒に。異論は認めない」


 自分でも完全に据わっているのが分かる視線をそれぞれに向けてから、先頭に立って部屋を出た。


 リビングに戻ると、ソファーに掛けるように命令して、私自身は食事用の椅子を持ってきて座る。

 椅子の方が高いから、自然と全員を見下ろす形となった。


「私が許可するまで、席を立つことを禁じます。全員、冷静に、嘘を吐くことなく、誠実に話す事。良いわね?」


「ティナ、お前こそ落ち着け。この二人をソファーに座らせてどうする? 罰するなら、それに相応しい場所があるだろう」


 ただ一人落ち着いているジルさんが、私を宥めてくるけれど今それを聞くわけにはいかない。


「ジルさん、こんな風になったのは、ジルさんのせいでもあります。ダビデに口を滑らせたのは、ジルさんです。確信犯なのかもしれないですけどね。

 私はダビデが一番です。それは前から知っているでしょう? ダビデがこんな風に悲しむなら、お話し合いが必要な案件です!!」


 言い切ったら周りがポカンとしていた。そんなに変な事は言ったつもりはないよ。前々からずっと、ダビデ第一主義なのは話してたからね!!


「お嬢様……」


 ダビデが困ったように私を見ているけれど、おばちゃんは止まりません! 止める気もありません!!


 ピンと人差し指を立てて、問題点を列挙していく。


「私の考える今の問題点は

 1、ジルさんがアルオルを殺したいと思っている。

 2、ダビデが自分の作った食事に毒を混入されているのを知り、己を責めている。

 3、アルオルが私に危害を加えていた為、ジルさんは私とアルオルが同居するのに不安がある。

 4、町の住人に被害が出ていて、今後の活動に支障が出る可能性がある。

 5、私は、体罰を含む、処罰や折檻を、何故所有奴隷が望むのか全く理解できない。

 他に何かありますか??」


 ムッと膨れながら、全員を見た。纏めてみれば簡単、とは言わないけれど、何処がネックになっているかは明白だ。


「ご主人様にかなりの迷惑がかかっているのに、町の住人にしろギルドにしろ、ご主人様を利用するだけだ。ここにいて良いのか?」


 低い声でジルさんが問題提議をしてくる。私を利用って、何かされたっけ?? 面倒はかけたけど、利用された記憶はない。

 小首を傾げ、反応のない私を見て、業を煮やしたのか、ジルさんはもうひとつ話した。


「そもそも、筆頭奴隷であるダビデが、何故ご主人様をそんなに信用していないんだ? お前は、ティナお嬢様にこれ以上ないほどに甘やかされ、寵愛を受けているだろう? 何が不満だ??」


 はい? 筆頭奴隷って何?


「ジルさん…」


 冷静に責められて、ダビデは下を向いている。


「答えろ、ダビデ、何故ご主人様を第一にしない? 前の主人であるアルフレッドがそんなに大事か??」


「そんなことは! ただ、ボクはお嬢様にとって、ただの代替物でしかないんです。それも、代理になれているかどうかも分からない、粗悪品です!

 いつか出ていきたくなったら、出ていけと、ボクはそう言われています。ボクは、お嬢様にお仕えしていていいんでしょうか?」


 粗悪品で代替物? なんの事??


「え、ダビデ、何の事??」


「お嬢様、お怒りは覚悟で伺います。ボクごときが聞くべき事ではないと、仰られるなら諦めます。ですが、どうか教えて下さい。……マール様とは、どんな方だったんですか?」


 マールって、誰?


 キョトンとする私を見て、ダビデは更に悲しそうになった。


「えーっと、ゴメン、ダビデ、ちょっと心当たりない。マールって誰?」


 必死に私を見つめるダビデには悪いけど、本気で誰だか分からない。こっちに来てから、マールなんて知り合いはいないよ??


「お嬢様!! 初めてボクと出会ったとき、お嬢様はマール様とボクを間違えて、ボクを助けて下さいました!

 泣きながら抱きついて、マール様の名前を呼んでいらしたでしょう!! …次にボクが目を醒ましたときに、ボクが仲間を見つけるまで、何処か行きたいところが出来るまでは、とこちらに置いてくださいました。

 ……そこまでお嬢様が愛する、マール様とはどんな方だったんですか?」


 すがり付く様にそう訴えられて、記憶を漁る。ジルさん達の、浮気者を見る目が痛いよ。私は浮気したことなんかないわ! ダビデ一筋だよ。こっちに来てからは……、って…。


「あ。」


 記憶が繋がって、ダビデが誰のことを言っているのか分かったけれど、何の勘違いなんだろう?


「マールじゃなくて、マルね? まんまる身体のお坊っちゃま。私の最愛のぼっちゃま。我が家、待望の長男君」


 懐かしい名前に、状況も忘れて優しい気持ちになる。あの子がいたから、決して短くはない社会人生活も頑張れた。


「お嬢様……」


 ダビデからこの世の終わりの様な声を出されて、正気にかえる。


「あ、ゴメン。マルは、確かに見た目はダビデに似てたよ。最初に会ったときには、間違えたし…」


「ティナ…」


 だから、浮気亭主を見る目で見ないでってば!!


「ダビデとマルは全く違うからね? 第一、マルは何にも出来なかったし」


 慌てて言い訳の様な事を言い募る。アルオルの断罪中だったはずなのに、なんなのさ、コレ。


「お嬢様、やはりマル様も、ボクと同じ様に料理がお得意だったのですか?」


「へ? 料理? 無理無理。だって、料理でしょ? あのコが?? あり得ない! 私が作ったのを食べる専門だったよ! しかも美味しくないと、残すし、食べないし、匂いだけ嗅いで、プイッと何処かに歩き去るのよ??」


 あまりにとんちんかんな事を言われて、笑いながら手を振る。だってさ、ガチの犬だよ? この世界みたいな、犬妖精(コボルド)なんていないんだから。もし日本に料理が出来るワンコがいたら、テレビ来るよ! 賞金貰えるよ!!


「どんな生き物ですか、それは」


「ん? 可愛いワンコ」


「その駄犬、ここに連れてこい。犬属としての心得を叩き込んでやる」


 あれれ? なんか、懐かしい思い出に浸ってたら、ジルさんとダビデがお怒りだよ??


「えーっと、二人とも落ち着いて? 何を怒っているの?」


「ご主人様の手料理を残す? そもそも、食べない? あり得ない。その上何処かに消えるなどと言語道断。きつめの躾が必要だろう」


「そうです! お嬢様の寵愛を良いことに、その様なワガママ、許されることではありません!!」


「んー……そのワガママ、気ままな所も可愛い所だよ。そもそも、お手すらも教えなかったのは私達だし…」


「ハニー・バニーは男を駄目にするタイプかい?」


 へ? 男を駄目?? なんでそうなる。復活したと思ったら、変な事言わないでよ。


「オルランド、ようやく調子が戻ったみたいで何よりだけど、男を駄目にって何でよ。私は普通よ?」


 犬馬鹿だけど!!


「お嬢様、ボクら犬妖精を可愛がって下さるのは、とても有難い事だと思いますが、それは行きすぎです。叱らなきゃダメです!」


「………へ? あ、そう言うこと?? うわぁ、何の行き違いよ。

 ダビデ、良く聞いて、マル君はね、犬なの。犬妖精じゃないの。本物の犬。分かる??」


 この世界にも、犬も猫もいるし分かってくれるよね? と言うか、いつから、ウチのぼっちゃまをコボルドだと思ってたのさ! 相談してよ。すぐ答えるんだから!!


「ェ、エ、え? い、イヌ? ボクと同じ、コボルドじゃなくて、犬? 狩人さんとかが、飼っている犬??」


 ダビデはひたすら混乱していた。ジルさんは頭を抱えてるし、アルオルは立場も忘れて興味深そうに見ている。


 私も頭を抱えたいよ。アルオルへの対処を考えるつもりが、すっかりそんな雰囲気なくなっちゃったわ。


「そう、そのイヌ。言葉も喋れないし、二足歩行も出来ないワンコだよ。……安心した?」


 いまだに混乱しているダビデはしばらくそっとしておく事にして、調子が戻ったアルオルに向き直る。さてと、雰囲気を戻して、メインイベントだ。


「アルオル、教えて欲しいの。正直に答えて? 二年ほど前、この国と隣国で和平の話し合いがあったでしょう? その事よ」


 ジルさんがピンと耳を立てて、緊張している。


「ねぇ、何で過激派に情報を売ったの? それが公爵家の為に本当になることだったの? 何故、貴方達はそんな穴だらけの策を、準備不足のまま行ったの? そんなに王座が欲しかったの? 本当に魔族に内通していたの??

 何だかアルオルと話していると、違和感しか感じないのよ。そんな愚かな事をするようには思えなくてね」


 少し考えれば、公爵家にとってその時に仕掛けるのが最良とは言えない事位は分かる。何かがおかしい。


「……お嬢様は貴族に連なる方ですか? それとも、学者でしょうか?」


 警戒した顔で、アルフレッドが聞くけれど、前にも言った通り、ただの冒険者です。


「違うよ。ただの何処にでもいる、未成年冒険者。何で?」


「普通の市民はそんなことは気にしないからです。噂や執行局が発する情報を鵜呑みにして、己で考えることなどありません。

 もし本当に、ただの未成年冒険者だと言うならば、稀有な才能だと言わざるおえません」


 あー、中身は、昭和平成と生きた社会人ですから。言葉尻の裏を取ったり、与えられた情報の正誤を調べたりは当たり前だったしなぁ。女社会って怖いんだよ? 遠い目をして、昔を振り返っていると、またアルフレッドが話し出した。


「どんな事を言っても、言い訳にしかならない事は承知しています。その上で、質問された事には答えます。

 私は当時、まだ当主ではなかった為全てを知っているわけではありません。ですが、我々は過激派に情報など売っていない。魔族と内通など、愚の骨頂。王権を奪取するなどと、その様な恐ろしい…」


「ふざけるな! あの時、襲撃者達は公爵家の名前を出していた!!」


 ガタッと音をたて、椅子から立ち上がったジルさんは、剣に手をかけている。


 視線で問いかけられて、改めてジルさんの紹介をした。


「アルオル、ジルさんは二年前の和平協議に護衛として参加してたんだ。赤鱗騎士団、だったっけ? そこで捕らわれて、捕虜となり奴隷に落とされた。そうだったよね? ジルさん」


「あぁ、何かあっても和平の礎になれるなら、と、多くの戦友が志願した。それをお前達は、騙し、策に嵌め、捕らえ、拷問し、寝返らせ、我々の誇りすらも汚した」


 獣相化したジルさんは牙を剥き出しにして、アルオルを威嚇している。オルはアルフレッドを背後に庇って、ジルさんを睨み付けている。


「本当だ、犬っころ。本当に我々は、知らないんだ。王都でキナ臭い噂が流れ、警戒を始めた所で、御当主が大逆罪で捕らわれた! マイ・ロードはその後、お父上の疑いを晴らそうと奔走されたが、何らかの力が働いている様に、救いは既になかった!

 だから、家族の命だけはと、非常時の策を作られたんだ!」


 必死に話すオルランドの表情に、嘘は感じられない。


「んー、ジルさん、座って? なんなら、奴隷紋を使って質問するから……って、え、ウソ、マジで? うわ、マズイ、かも?」


 ジルさんを落ち着かせそうと話していた時に、脈略なく閃いて血の気が引いた。


 そもそも、そもそもだよ? アルオルか、アルのお父さんに奴隷紋をくっつけて、尋問すればすぐに正しい結果が出るんじゃないの? もしくは前に一度だけクレフおじいちゃんが使ってた「真実の口」とか言う、秘薬ならもっと簡単に、事実が分かるよね?


 なのに、何で王都の人達や、執行局はそれをやらずに、死者が出るほどに肉体を責めた?

 他の貴族や、民からの非難を浴びる覚悟で、殆ど全ての公爵家の人間を処刑した?

 生き残ったのは、当時成人して間もない、アルフレッドとその従者のみ。これは何を示している?


 寒気がする結論しか、頭に浮かばない。どうか私の勘違いであって欲しい。


 顔を上げて周りを見ると、全員が私に注目していた。


「アルフレッド、正直に答えて。『公爵家(あなたたち)をハメたのは、この国?』」


 瞠目してから、アルフレッドは無言で頷いた。


「やっぱり……。間違いで欲しかったけど、そうなんだね。

 ジルさん、考えてもみてよ。そもそも、自白させる方法なんて、魔法も含めて一杯あるんだよ。なのに、なんで、反逆罪で捕らえた相手に使わない? 使わないんじゃなくて、使えなかったんじゃないのかな? 本当に無実だから。

 なら和平を望んでいた、と言うのも、ウソ? 何らかの国内勢力を炙り出す為の囮??

 ……止めよう! 薄ら寒くなってきたわ。私はこれ以上、この件は考えない。いいよね??」


 藪をつついて、特大のヒュドラが出るのはゴメンだ!


「はい、それがよろしいかと。

 お嬢様はやはり頭がいいですね。私はそれに行きつくまでに随分かかりました。もちろん証拠はなにもない。だからこそ、泥を啜ろうが、地べたを這おうが、必ず生き残る覚悟が決まりましたが」


 良く出来ました、とでも、言うようにアルフレッドは笑うと、ジルさんに話しかけた。


「ジル、我が国が貴国との約定を反故にし、貴殿を捕らえた事実を私は謝罪します。けれど、先にお嬢様に毒を盛った事、自由になるための行動を謝罪する気はありません。

 私は必要とあれば、何度でも非情の策を作り、実行するでしょう」


「何故?」


「私は死ぬ訳にはいかない。特に、目の前で私を助けてくれようとした者達が、無念にも殺された今となっては、絶対に。

 生き残り、いつか、必ず、真実を」


 覚悟を決めた顔でそう言うアルフレッドを見ながら、ジルさんは獣相を解いた。


 やれやれ、これで一件落着かな?


「…ならば何故、お前は先程ティナに罰を求めた? オルランドを犠牲にすれば、確実に助かるだろう」


 はい? ジルさん、まだ納得してないの??


「それは、お嬢様は何だかんだと言っても、甘そうですから。私から罰を求めれば、最悪でも二人とも命だけは助かると思いまして」


 無邪気にすら思える、笑みを浮かべながら、アルフレッドは言い切った。


「ふん、ティナを理解していないのかと思ったが、案外良く見ているんだな。……で、そんな甘そうなご主人様はどうするつもりだ?」


「え、うん、どうしようか? アルフレッドって、案外腹黒だったんだね。策略家なんてそんなもんなのかなぁ」


「いえ、私は策略家程の才はありません。現にお嬢様を見誤り、このような事態を招きました。……最初から全てを話し、すがっていれば助けてくださったのではありませんか?」


 うん、そうだねぇ、多分、積極的に逃がそうと頑張ったかな?


 沈黙する私に何を感じたのか、アルフレッドは力なく下を向いた。


「…さて、ではお分かり頂けた所で、改めて処罰を。私はどのようにしたら宜しいですか?」


 しつこいわっ! もう、なし崩しでいいじゃん!!


「ナシで」


「しかし……」


「ナ シ で!!」


 キッパリ言いきる私に、それでも食い下がるアルフレッドをぼんやりと見る。痛い思いなんぞしなくて済むなら、それでいいじゃん!


「ティナ、お前にとっては理解不能でも、必要なこともある。何かやったら、処罰は当然。処罰すらされないと言うことは、存在の価値すらないと言うことだ。年端もいかない子供だって教師や師匠から、罰せられるんだぞ。

 今回だけと言うことでもいい。何か決めろ。枝を使うか? それとも新しく作った部屋を使うか?」


 えーっと、逃げられない系ですか? 枝と部屋の二択ですか? 部屋に何があるのかも分からないんですけど! 反省室と拷問部屋と、牢獄だっけ? 地雷の匂いしかしませんがっ?!


 助けを求めて周りを見回すけれど、誰も助けてくれなさそう。


「分かった。ティナは今までそう言った罰を受けたことも、罰した事もないんだろう? だから決められない。

 ……なら、アルオルは反省室に1泊だな。身体を傷付けては、ティナの事だ、さっさとポーションを使って治すだろう?」


「当然。なんで怪我人が目の前にいるのに、治さないのよ。大した手間じゃないのに」


 ポーション作るのも、素材集めも大した手間じゃないのに、何で放置する選択肢があるのさ。

 だからどうして、そこで全員ビミョーな顔をするのかな??


「それでは罰にならないだろうが!」


「罰する気なんかありませんからっ!!」


 あのねぇ、体罰は何も生まないんだよ! なんでこの世界の人って、罰=怪我になるのさ!!


「お嬢様、では、夕飯の仕度が終わったら、ボクも新しいお部屋に行きます」


「断固拒否!」


 ダビデが何を思ったのかそんなことを言うから、脊髄反射で拒否した。

 なんでダビデが反省室なんて、ワケわからん物に1泊しなきゃならんのよ!!


「お嬢様!」


「ダメ! どうしても、自分の部屋で寝たくなければ、今日は私の部屋で寝る事!! うん、それが良いよ、ダビデは抱き枕の刑です!!」


 全員の目が点になった。この世界に、抱き枕の刑はないらしい。何処の世界にも、ないかもしれないけどさ。


「ティナ、この馬鹿がっ!! 非常識娘! 少しは恥じらいというものを持て!」


 そう言いながらジルさんはソファーから立ち上がる。久々のアイアンクローを喰らった。


「ティナお嬢様?」


 ジルさんのアイアンクローで、陸に上がった魚のようにのたうつ私を、アルオルが呆然と見ている。


 うん、ゴメン、この1ヶ月見せてた光景は殆ど演技なんだよね。これがここの普通です。


「ジルさん、放して! 痛いから!!」


 ジルさん獣相化してるし、本気だよ。頭、割れるから!!









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[一言] このオバチャン・・・。女社会を生きてきたという割に、自分の主観でマイペースお化けだ。
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