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39.トラブルもここまでくると手に余ります

「では、移転します。いいですね?」


 ぼんやりとした口調で皆に話すと、隠れ家を元のアイテムに戻して無限バックに入れた。暖かい南の森から、おそらくは寒いであろうデュシスに向かうため、全員厚着をしている。


 ジルさんは相変わらず警戒しているようで、常にアルオルと私の間に立つようにしてくれていた。


 昨日、町へ行くと告げた後にもまた薬を盛られた。今回は、サラダソースと風呂上がりの飲み物に仕込まれていて、時間差があっても成分変化が起きることが確認できた。なんだかどんどん余計な知識が身に付くよ。まったく。


 もちろん、即解毒済みだ。常習性も今のところ出てないから、まぁ、問題ないかと思っている。……そうジルさんに言ったら、無言のアイアンクローで吊るされたけどさ。


 全員を私の周りに集めて、移転を唱える。目を開けると、そこは純白の世界だった。遠くに見える城壁も半分くらいは雪に埋まってないか? コレ??


「え? 雪?! こんなに降るの??」


 優に私の身長の2倍はある積雪に両足が埋もれながら、呆然と呟く。ブーツの裾から雪が入ってきて、地味に冷たい。


「いや、去年はここまでではなかったハズだ。今年は凄いな」


 装備で重いため、他のメンバーよりも更に埋もれたジルさんが、雪の上によじ登りつつ答えてくれた。胸まですっかり雪まみれだ。


 このままだと城壁に辿り着くまでに遭難しそうだから、全員に浮遊魔法をかけて雪の上に浮かび上がる。空からは、まだ雪がちらついていた。一体どれだけ降るんだろう。


 上空に浮かび上がり、ゆっくりと周りを見渡すとデュシスの町を中心として積雪量が多いのが分かる。変なの。


「ティナお嬢様、早く町に行きましょう。ボク、寒いです」


 震えながらそう言うダビデに抱きつき、私が羽織っていたマントでくるむ。ついでに周りを見渡せば、ジルさんはこの雪に不審を感じているのか、辺りを警戒するように見渡していた。アルオルは当たり前の様な表情をしていて、動揺は一切感じられない。まぁ、この町の冬はお互いに初めてだから、分かってないだけかもしれないけど、違和感があるね。考えすぎかな?


「確かに寒いね。急ごう…」


 そこまで確認してから、ぼんやりとした口調のまま速度を上げて城門を目指した。ちょっと素が出たけど、アルオルにバレてないといいなぁ。





「お、薬剤師のお嬢ちゃん! 納品かい? 寒い中、ご苦労なこったね。ギルドからのお迎えが待ってるぞ」


 城門に着いてギルドカードを見せると今日の門番役が、詰所に手を振りながら、そう伝えてきた。


「……」


 無言でのっそりと詰所から出てきたロジャーさんは、相変わらず口を開く事はなく、片手を上げて挨拶してきた。


「あ、ロジャーさん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします」


 頷くと先を立ってギルドに向かう。何処か緊張してるのか、ロジャーさんの表情が硬い。

 えーっと、どうしよう? 誰かに雪の事を聞きたかったんだけど、ロジャーさんじゃ会話にならないしなぁ。


 困って辺りを見回しながら歩いていると、気になる物を見つけた。


 普段は気を止めることもない、物置小屋にうっすらと発動中の魔力を感じる。物置小屋には、うず高く雪が寄せられていて入ることすら難しそうなのに、なんで??

 不審に思って足を止めて見つめていると、そんな私に気が付いたのか、皆が足を止めた。


「ハニーバニー、どうしたんだい? あそこが何か気になるのかな?」


「ええ、オル。ちょっと気になったの。……何故かしら?」


 わざと右手の人差し指を顎に当てて小首を傾げ、ぼんやりと答えた。そんな私を見て、ロジャーはおやっ? と言った顔をする。


 無言のまま私の肩を抱き、強引にギルドに向かって歩き出しながら、問いかける様に顔を凝視された。


 アルオルの死角に入る様に立ち位置を変えて、一瞬だけニンマリと笑いながらウインクをする。


 それで私サイドでも何かあったことに気がついたのだろう。ロジャーさんは表情を変えずに、ギルドへと足を早めた。




「いらっしゃいませ! ようこそ、デュシスの町の冒険者ギルドへ!!」


 羽織っていたマントに雪が積もる頃になってようやくギルドに着いた。暖炉に火は入っているけれど、やはり足元から冷えるギルドの受付に近付くと、変わらない元気なマリアンヌの声が響いた。


 うん、ギルドは変わりないみたいでよかったよ。


「あ、ティナ!! いらっしゃい! 心配してたんだよ?! 町の外はもっとずっと雪が多いから大変だったでしょ?? こんなに降ることなんて普段ないのにね」


 雪を幌い、フードを取る私達を見て驚いた様な顔をして息を飲むと声を潜めて話しかけてくる。


「ティナ、人数増えてる。その人たちが、新入りさん? あのボロボロだったって噂の……」


 言い辛そうに言葉を切るマリアンヌに軽く頷く。一応、二人にはあの悪趣味老貴族から贈られた、地味で安っぽい質の悪い首輪を着けさせている。肌に触る部分も処理が甘かったから、今頃は赤くなっているだろう。


「そうなんだ……。えーっと、ティナが来たら上に声をかけるように言われてるんだけど」


「うふふ、いらっしゃい、ティナ。待っていたわ。ロジャーもお疲れ様。さっ、上に行きましょうね」


 今日も迫力美女のアンナさんが、マリアンヌの後ろから声をかけてきた。ロジャーさんは、さっさと階段を上がっていってる。


「おはようございます、アンナさん」


 出来るだけ平坦な口調を心がけて挨拶する。アンナさんはそれだけで何かあると気がついたのだろう、軽く眉間にシワを寄せて私の顔を覗き込んだ。


「ティナ、大丈夫かしら? 疲れているの? ……貴方達はここで待ちなさい。奴隷が同行する所ではありません」


 移動を始めた私と一緒に動き出したメンバーに、そう釘を刺す。


 あら、珍しい。いつも、ジルさんとかはクルバさんの部屋まで同行しても怒られないのに。アンナさんも、アルオルを警戒してるのかな?


「大丈夫、ちょっと行ってきますね。すぐ戻るからイイ子で待っていてね? マリアンヌ、悪いけどダビデをお願いします」


「あ、うん、もちろん、任せて!! ダビデ、外は寒かったでしょ? あっちであっかいお茶飲もう。ジルベルトも良かったら来てね。新入りさんたちはどうしようか?」


「我々の事はお気遣いなく」


 ギルドに入ってからは大人しくしていたオルが静かに答えた。あら、女の子相手に話すのに、口説き文句を言わないなんて初めてだわ。なんだ、普通にも話せるんじゃない。

 アルは下を向いたまま、微動だにしていないし。普段の図太さは何処に行った。お茶ですか? 私は〇〇の茶葉で、位は言いそうなのに。


「……アルフレッド、オルランド、ダビデ達と同行しなさい。マリアンヌ、悪いけど何があるか分からないから、目の届くところに」


「あ、うん。分かったよ。確かにこの二人だけにしてたら、何されるか分からないもんね。なら全員こっちに」


「え? 何されるか?」


 何だが不穏な単語が聞こえてつい聞き返していた。


「うん、この人たち恨んでる人、いっぱいいるし、目を離すと危ないよね? ここは人目もあるから大丈夫だとは思うけど……」


 あー、そういう判定ですか。私は、アルオルが何を仕出かすか分からないから、監視をお願いしたつもりだったんだけど。なら、マリアンヌに任せるのも悪いかなぁ。


「ティナ、大丈夫よ。ギルド内で、受付嬢に手を出す愚か者はなかなか居ないわ」

 

 悩み始めた私にアンナさんはそう言うと背中を押して、二階に歩き出す。仕方ないから、後はお願いします、って気持ちを込めてジルさんを見つめる。

 気が付かれない様に、軽く顎を引くだけで答えたジルさんを信じて、アンナさんと一緒に上に上がった。




「さて、ティナ、何が起きているのかしら?」


 てっきりクルバさんの執務室へ行くのかと思いきや、二階の応接室のひとつに案内される。中に入るや否や、クルリと向きを変えたアンナさんに詰め寄られた。


 最初に先行したロジャーさんは窓際に立っている。部屋の中にスカルマッシャーさん達全員がいるのかと思っていたけれど、いたのはカインさんだけだった。


「おはようございます、カインさん」


 アンナさんから視線をずらし、いつもの口調で挨拶をする。心配そうに私を見ていたロジャーさんも、安心した様に頷いている。



「あぁ、おはよう、ティナ。今日は悪いな」


 片手を上げて挨拶するカインさんを遮って、アンナさんが迫力のある笑顔を向けてきた。


「ティナ? 無視するんじゃありません。質問に答えてちょうだい」


「分かってます。ただ、こちらの状況を教える代わりにデュシスの状況も教えてもらえるんですよね? なんか、町の雰囲気、変でしたよ? それにこの雪。まるで町を中心とするように降ってます。この町こそ、何が起きているんですか?」


 町に着いてから疑問に思ってた事を率直に聞いた。雪のせいもあるのかも知れないけれど、今日の町は活気が無さすぎる。いつもは元気な呼び込みのおっちゃんや、道を走り回る子供の姿もない。雪のせいだけじゃないよね? 必死に首を縮め、嵐が過ぎ去るのを待つ野性動物のような雰囲気を感じていた。


「はぁ、勘がいいな。アンナ、とりあえず座らないか? ティナ、情報交換といこうか。この1ヶ月、この町も結構大変だったんだ」


 カインさんが誘導して席につくと、ロジャーさんも移動して今度は扉に寄り掛かる様にして立った。


「さて、デュシスの町は色々あって長くなるからな。ティナから聞こうか。何があったんだい?」


「そうね。ティナ、ギルドに来たときの口調は何? ジルが平然としていたから、大丈夫なのだとは思うけど……」


 心配そうに聞いてくる大人たちに、この1ヶ月あったことを手短に伝える。蟻と戦い、蜂の巣を襲撃して、毒蜘蛛の巣にアルオルを蹴り落としたと話したら、呆れられたけどさ。ダビデに手を出して、その程度で済ませたんだから誉められて良いと思う。


 そんな中、ぼんやりとした口調を説明するために、薬の話をしたのが悪かった。


「馬鹿かっ?! その薬、危ないものならどうするつもりだっ!!」


「ティナっ、このお馬鹿!! どんな効果も分からないものを飲み続けたって言うの?!」


 怒声を浴びせられて、思わず首を竦める。


「え、大丈夫ですよ? 大して影響なかったし。最初は気が付かなくて飲んだんですけどね。その後も結構巧妙で、上手く回避できなかったんです」


「最初はって事は、その薬が何なのかは知ってるのね?」


「あー、ル・ポポの実とクク草の同時摂取による、中毒症状です」


 その私の答えを聞いて、大人達は絶句している。


「ティナ、本当に、ル・ポポの実とクク草なのかい?」


 しばらくして、カインさんが深刻そうに口を開いた。


「はい。最初は頭がボーッとしてビックリしましたけど、すぐに解毒しましたし、影響出てないですよ?」


「あり得ない。ル・ポポの実とクク草の中毒はかなり常習性が強いんだ。一度、ただ一口飲んだだけでも、一生その薬に囚われる。先に待つのは幻覚による廃人か、死だけだ」


「ティナ、嘘は駄目よ? 今も薬が欲しいでしょ? 無理はしないで。それとも、ティナの勘違いで他の中毒なのかしら??」


 妙にカインさんが中毒に詳しいなと不思議に思ったけど、思えば狩人で森の植物とかにも詳しかったっけ。

 心配して打ち合わせを始める大人達の会話を遮る。


「大丈夫ですよ。

 カインさん、ロジャーさん思い出してください。私は初めて会ったときに、ギル達『女神の慈悲』に薬を盛られても、自力で目覚めた人間ですよ? スカルマッシャーさんたちや、クレフおじいちゃんが抵抗できなかった薬で、です。

 実は私、物凄く毒とか効きにくい体質なんです。だから今回も、本当に平気なんで、心配はご無用ですよ?」


 なんたって、状態異常全耐性だからね。まぁ、こんなに頻繁に毒を盛られるなら、状態異常全無効を目指せば良かったなーって、後悔はしてるけどさ。ポイントで取得出来ないかな? 今度確認してみよう。


「……とか?」


 扉から、ぽそっと声が聞こえた。って、ロジャーさんがしゃべった!!


「毒とか……」


 ビックリして勢い良く振り向いたら、ロジャーさんはもう一度、私の目を見て繰り返した。


「あはは」


 とりあえず、笑って誤魔化してみる。


「ティ~ナ~? 毒とかって、他に何が効きにくい体質なのかしら??」


 地を這うアンナさんのツッコミが入る。さて、どうするかな。もう面倒だし、基本スペックは話しちゃおうかな? でもなぁ。


「あー、良く分からないんですけど、状態異常に対する耐性持ちらしいですよ?」


「何で疑問系なんだ。ちゃんと鑑定……、そうか未成年か、なら鑑定は成人の時だもんな」


 とりあえず、誤魔化す程度に答える私に、カインが疑問をぶつけようとしてセルフで納得する。


 そのまま全員遠い目をしたまま、しばらく沈黙が流れた。


「ええ、そうね。ティナだものね。気にしたら負けよね。

 さぁ、ならあの二人に毒は盛られたけれどティナには影響がなくて、そして二人はティナが自分達が盛った薬の影響を受けていると思っているって事で間違いないわね?」


 私がアイテムボックス持ちだと知っていたアンナさんが、早々に理解を諦めて話を進めた。常識人のカインさんはまだ辛そう。ロジャーさんは、壁の置物に戻っている。

 うん、常識外生物でごめんなさい。


「はい、まぁ、どうなんでしょうね? 私は女優じゃないから何処まで信じてもらえてるか分かりませんよ? さて、こちらの状況は答えました。デュシスの事を教えて下さい」


 私がそう言うと、カインさんがデュシスの状況を教えてくれた。


 曰く、

 デュシスの町にいる執行局は、証拠もないまま町の人達を拘束している。だから、町の人達は怖がって外に出ない。


 拘束された人達の半分は殺され、解放された数少ない住人も五体満足の人はほとんどいない。


 今、現在も、執行局に捕らわれたのかどうかも分からない失踪者が沢山出ている。


 町に降り続いている雪は、公爵派のマジックアイテムが原因。このままだと、この町は雪に埋もれて凍死者がでる。


 原因のマジックアイテムを引き渡す代わりに、公爵達を引き渡せとデュシスの町の首脳陣に要求してきている。


 マジックアイテムの所在地は分かった。隠していた人に協力を仰ぎ、これから公爵派を釣りだす。


 ついては私にも、公爵達を連れて別ルートの囮になってほしい。


 以上。


 ……はいっ?! 一体全体、何事が起きてるのよ!! ここまでトラブルが大きくなると、理解不能、対応不可、流されるしかないじゃないの?! この前、流され過ぎたって反省したばっかりなのに。


 事が大きすぎてポッカーンとしている私の目の前で、カインさんがプラプラと手を振っている。


「ティナ、大丈夫かい? いきなりで驚いただろうけれど、理解できたかな? 最悪、ティナ達は同行しなくても良いんだ。我々に公爵達を貸してくれないか? もしかしたら、そのまま不幸な事になってしまうかもしれないが、その時は埋め合わせを考えるから」


『不幸な事』で前にジルさんが話していた内容が頭に過った。このギルドは、アルとオルを殺す可能性もあったんだっけ。


「まぁ、良いですけど、そうなると私も同行した方が良いですね。呪印、私の魔力も混ざっているから、解除には私の協力も必要になるし」


「あら? ティナ、呪印なんて解除させる気はないわよ??」


 当然の如く、アンナさんに言いきられた。


「はい、わかっています。ただ別れても私もどうせ狙われるってことです。……あ、上級隷属魔法の使い手はどうなってますか? 全員無事ですか?」



 ふと思い付いて確認する。アルオルを自由にするなら、上級隷属魔法の使い手の協力が必須だ。そうじゃないと、所有権って言うか、生死を含む命令権はずっと私が持つことになる。


「……数人、分からないの。町を出たのなら良いんだけれど、そうじゃなければ、執行局か公爵派に捕らわれているのかも知れないわ。だから、猶予がないのよ。お願い、ティナ、協力して頂戴」


 ありゃ、これは確かに余裕がないね。なら私で出来る事なら協力しようかな。ただ私の手を離れたら、アルオルの生死は気にしないつもりだったけど、手を離れる前に何かになったら、どうしたもんか。考えるの疲れてきたし、出たとこ勝負でいいかな?

 いつもの悪い癖がでて、最後には思考を放棄した。

 その後、簡単に打ち合わせをして階下に戻った。



「あ、ティナ! お帰り。上はどうだったの?」


 下に戻ると、マリアンヌが私を見つけて手を振ってきた。受付ホールの片隅に置かれたテーブルに、人数分のお茶が並べられている。アルオルにもちゃんとお茶出したんだね。マリアンヌは良い子だわ。


「マリアンヌ、ありがとう。今から頼まれ事をされて、少し出かけることになったよ。アルオルも連れていくね。ジルとダビデは寒いし、ここで待っていても良いけれど…」


 公爵派の誘いに乗って、アルオルを引き渡しの場所に連れていくことになった。時間は指定されず引き渡す気になったら、町外れの墓地に連れてこいと言われていたらしい。

 護衛は見えないようにするけれど、しっかりつくから心配するなと言われる。私達の他にも、アイテム回収班が同時期に囮になるらしい。ちなみにスカルマッシャーさん達はそっちの護衛役らしくて、ここでお別れだ。


「同行する」


 ジルさんがキッパリとそう言って、立ち上がった。ダビデは手早く自分達が使った茶器を片付けている。


「なら、皆で行こうか?」


 本当は危ないからダビデだけはここでお留守番させたかったんだけど、うまい言い訳が思い浮かばなかった。マリアンヌに見送られながら、ギルドを後にした。




 のんびりと歩きながら、少し回り道をして北にある墓地を目指す。雪で足が取られて正直歩きにくい。


「リトル・キャット、我々は何処に向かっているのかな?」


 軽くオルランドが探りを入れてくるけれど、ぼんやりとした私はすぐに答えることはない。地図を展開して確認すれば、確かに冒険者達が付かず離れず私達を囲んでいた。


「オル、北の墓守さんに、コレを届けに行くの」


 そう言って、アンナさんに持たされたアイテムを入れた袋を振る。誰かに聞かれたら、コレを届けに行くのだと答える様に打ち合わせで言われた。


 墓って言う単語を聞いたときにオルの瞳が一瞬輝いたのは、気のせいではないだろう。どうやってかは知らないけれど、アルオルは公爵派と連絡を取り合っている。


 それよりも、町のあちこちで、発動中のマジックアイテムの気配を感じる。普通の民家なら気にしないけれど、その気配があるのは人が寄り付かない様な場所だけだ。


 しかも、どこか共通する気配を感じるし。何だろうね、一体?


「着いたな。さて、墓守の番人小屋は何処だ?」


 広い墓地に着いて、辺りを見回した。変な人影はないけれど、マップでは丸わかりだ。左手にある、立派な墓の影に二人。その先に五人。


 分からない振りをして、そちらに向かう。面倒だしさっさと片付けちゃおう。


 立派な墓に近付くと、影から手が伸びてきた。余裕で避けようとして、後ろから押される。驚いて振り返れば、そこには柳眉をしかめたアルフレッド。オルランドは2歩後ろでダビデとジルさんを牽制している。


「なっ! あ、いっつぅ!」


 振り向いて文句を言おうとしたら、後頭部に衝撃を受けた。咄嗟に後ろに向けて回し蹴りを放つ。軽く後ろに飛びすさり避けている影が見える。追撃したいけど、今はその余裕がない。


「ジルさんっ!!」


 オルランドが回り込んだ不審者から武器を投げ渡されて、構えた。あれは何?! 鎖分銅をつけた鎌、鎖鎌ってヤツかっ!!


 オルランドは絡み武器の本領発揮とばかりに、ジルさんの足元を絡めて転ばせる。ダビデは回り込んだ影に足止めされていた。武器は抜いてないから、無理さえしなければ怪我をすることはないだろう。私達が戦闘を始めたのを確認して、囲んでいた冒険者達も慌ただしくなる。


「ジルベルト! ダビデ! 怪我をしないように防御優先!! アル、オル、『二人に怪我をさせたら許さない!』いいわね!」


 戦況が不利だと判断して、時間稼ぎに切り替えた。うちの誰かが怪我でもしたら割りに合わない。


 他人に気を取られていたせいか、私自身に仕掛けられたのに気がつくのが遅れた。


 足元に石が叩きつけられて、魔方陣が展開する。


 ー……移転石っ!!


 私が移転石に捕らわれたのを確認して、襲撃者達も各々移転石を使う。アルオルの足元にも同じように移転石が投げられている。


 移転するまでの一瞬物陰から出てきた護衛役の冒険者を睨み付ける。


 ー……分かってんでしょうね? 護衛対象のダビデとジルさんに何かあったら、本気で暴れるからね!!


 怯んだ顔を睨みながら移転した。




 移転した先には、数人の人影。

 私を皮切りに、次々と襲撃者達が移転してくる。首には剣が突きつけられていた。少しだけチリチリとした痛みを感じるから、切れてるね、こりゃ。


 混乱している風を装って、辺りを観察する。同時にマップも展開、墓守に届ける予定の小袋が腰についているのも確認した。


「なんのつもり……?」


 私を縛りながらも口を封じようとしない、襲撃者達を睨みながら尋ねる。アルオルも大人しく手を縛られている。


「すまない、リトル・キャット。こうするしかなかったんだ」








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