表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/250

36.前略 茶番劇は疲れます

 とりあえず一時解散にして、お客さん達の部屋の復元をすることにした。自分でやった事とは言え、爆発はちょっとやり過ぎたかなー。


「見ていてもいいか?」


 そう言えば、ジルさんにはカスタマイズ風景見せたことなかったっけ。


「別に良いですけど、見て楽しいものじゃありませんよ? あと私の部屋でやるので土足禁止です」


「分かった」


 口数少なく頷くジルさんを引き連れて部屋に戻る。この部屋で寝るようになって、入口の脇に手作りの下駄箱兼スリッパ置きを作ったんだよね。隠れ家を片付ける時に毎回アイテムボックスに入れなきゃならないのが難点だけど、お陰で部屋が汚れないですんでる。


「いつ来ても、凄い部屋だな…」


 滅多にこのボス部屋には、人は入らないからジルさんも驚いている。正直、私も未だに慣れないんだよね。さ、それよりも、お風呂からお客さん達が上がってくる前に、さっさと部屋を直さなきゃ。


 寝室から、カスタマイズ用の水晶を持ってきて、ジルさんに見せる。所在なさげに立ったままだったから、とりあえずダイニングソファーに掛けるように促した。


「ほら、これがカスタマイズ用の端末です。これに手を置くと、頭の中にカスタマイズ可能な内容が浮かぶので、選択して魔力を込めると、あら、不思議。変更の完了ですね!」


 水晶に手をかざして、サクッと実行して見せた。今回は壊れた客間を一度撤去してそのまま再度展開するだけだから、特に悩むところはない。ひとつの作業で撤去、展開するから少し多く魔力を喰うだけだ。


「……これで部屋が直ったのか?」


「はい、バッチリです。見に行きますか?」


「いや、それよりも俺にもソレを触らせて貰えないか?」


 思いがけないジルさんの申し出に、少し戸惑った。前々からこの水晶を私以外の人間が使えるのか気にはなってたけど、実験するタイミングがなかったんだよね。多分、寝室にある使い方マニュアルを熟読すれば何処かには書いてあると思うけど、まだ見つけられてなかったりする。毎日少しずつは読んでるんだけど、調べものとかもしてるからさっぱり進まないんだよね。


「あー、何が起きるか分からないので、それはちょっと……って、ジルさん、ダメ!!」


 断ろうとしたら、無造作に手を伸ばされて水晶を掴まれた。


「……ッ!! グッ」


 ジルさんは掴んだ瞬間に苦痛の声を洩らしてから水晶を投げ捨て、身体を二つ折りにして震えている。


「だ、大丈夫ですか!? だから駄目だと言ったのに、何で触ったんですか!!」


「すまん。だが、これなら万一の場合でも、アルとオルに乗っ取られることはなさそうだな」


 しばらくしてダメージから回復したのであろうジルさんがまた話し出した。


「アルとオル? 何言ってるんですか!!」


「俺がこれを掴んだ瞬間、電撃と、なんと表現して良いか分からない、本能的な不快感が身体を襲った。ティナはカスタマイズ内容が頭に浮かぶと言ったが、それはなかったな。そのかわり、警告が来たぞ。今すぐ離さなければ、今感じている以上の苦痛が襲った後に、死ぬそうだ」


 やれやれ、と言った風にジルさんは話しているけれど、結構ヤバイ状態だったんじゃないの?


「びっくりさせないでください。わざわざジルさんが実験台にならなくても、調べれば多分、分かることです。危ないことをしないでください。

 さっきのアルとオルを尋問室に運ぶ時といい、今といい、今日は少し暴走が過ぎますよ。あの二人を殺せなくて、ストレス溜まってるのは分かりましたけど、落ち着いてください」


 ため息を吐きつつ、これ以上危ないことをしないようにお願いした。ただでさえ、これから負担が増えて申し訳ないんだ。


「ああ、すまない。……殴るか?」


「殴りません!!」


 たまぁに出るんだよ! 耳引き千切れの時とかの、このワケわからん自傷癖!!

 一体全体、どういう思考回路してんの! 頭、パカッと割って中身見てみたいわっ!! 下手に言ったら本気で割りそうだから言わないけど!

 冗談も言えないってどういうことよ!!


「怒るな。……分かりやすく叱責の傷でもつけていた方が、新入り二人にティナを誤解させるのには良いかと思ってな」


「がぁ! 殴りません、傷つけません、虐待しません、飢えさせません! 何度言えば分かるんですかっ!! 例えそれが有効な手段であってもやりません!! いい加減にしてください、泣きますよ!?」


 半ば本気で脅しつけた。うん、目に見えて動揺してる。ジルさんはいい人だから、泣いた子供は苦手らしい。


「分かった、悪かった、泣くな。だが、なら悪辣女主人としてはどう行動するつもりなんだ? 今、やらないと言ったことをやらなければ、悪辣とは言えないと思うが?」


「へ? 大して助勢もせずに、危険なフィールドに無理やり連れていって闘わせて、後ろから見物するだけで十分でしょ?」


 なに? その世界の悪辣って、更に酷いの?!


「それは普通だ。基本的には奴隷の主人は戦ったりしない。

 町で買った装備も与えるつもりだろう? きちんとした装備で定期的な食事を与えられて、無理のない程度のフィールド探索。それの何処が悪辣だ? それどころか、かなり優遇された扱いだぞ?」


 ジルさんは心底不思議そうにしている。だけど、私だってびっくりだよ。何、命の危険がある場所に否応なくつれていかれるのがこの人たちの普通なの? 勘弁してよ、マジでさぁ。


 人には、最低限の文化的生活を営む権利があるんだよ? もちろん、生存する為に行動する権利も、自分の信教、行動、思考の自由もあるんだからね!

 日本の昔の偉い人がそう言ってたんだから、きっとあるんだよ! あるんだからね!!………分かって貰えないんだろうなぁ。


 なんたって産業革命の遥か前、中世だもんねぇ。私の常識押し付けちゃいけないよね。そうだよね、……だよねぇ。やだなぁ。


「ハァ。ジルさん、それなら私は悪辣主人じゃなくてもいいです。ともかく、行動プランはそのままで。二人がお風呂から上がってきたら装備と着替えを渡しましょう。ただし武器は、ここを出る時にしましょうか」


 居たたまれなくなって、ジルさんに声をかけて上に戻る。




 しばらくしてリビングに新しい服に着替えた二人が戻ってきた。私達を見ると微妙に嫌な顔をして中に入ってくる。ダビデは夕飯の支度を始めると、キッチンに籠ったままだ。


「おかえりなさい。お風呂はどうだったかしら?」


 悪辣女主人モードスイッチON! 


「素晴らしかったよ、スイートキティ」


「ここは一体なんなのですか?」


 相変わらず軽薄に伝えてくる従者と、警戒心も露にここの事を質問してくる公爵をゆっくりと観察する。あら? 公爵殿、口調が変わってるね。どんな心境の変化なんだか。


 ジルさんより少し小さい、元公爵アルフレッドは大理石の様な白い肌、ハニーブロンドに大きめの新緑の瞳だ。顔立ちは、幼さを何処かに残した柔らかで端正なもの。なんと言うか、少女マンガの王子サマって感じで、後ろにキラキラエフェクトが見えるよ。もしくは某国の少年合唱団卒業生。


 そして、その公爵の後ろに立っているのが、ジルさんよりも拳ひとつ分くらい大きな、従者オルランド。同じく白色系の肌だけど、こっちは少し日に焼けている。髪は肩につくくらいまで伸ばしていて、色は濃紺。瞳は金茶。軽薄な表情を浮かべているのがよく合う、いわゆるホスト顔だ。甘いマスクなのに油断出来ない雰囲気とか、まんまだわ。


 私に思いの外じっくりと観察されて、居心地が悪そうにしている二人に笑いかける。


「あら? 何でも良いでしょう? それに誰が質問して良いといったの? 貴方達は、私の命令に従っていればいいの。私の質問には答えなさい、それ以外で口を開くのは禁止よ」


 わざと魔力は込めずにそう言うと、私の後ろに控えてくれていたジルさんに合図を出した。一礼して、テーブルに買ってきた防具と着替え類を並べ出す。


 ちなみに、最初にジルさんとダビデの冬服はとったから残っているのはこの二人の私物予定品だけだ。マリアンヌの趣味は確かで、お洒落な新品ばっかりだった。


「ソレは貴方達のモノよ。管理は自分でなさい。そこにある大容量バックを使う事。一人ひとつよ。

 防具を着けてみて、感想を教えなさい」


 ノロノロと気が進まないように歩いて装備に近づくと、革製のそれを近くで見ている。一応、要所には金属補強がある西洋甲冑だ。多少ならベルトで大きさを調整できるようになっているから着れないと言うことはないはず。


「子猫ちゃん、これは??」

 

 話すなって言ったのに、さっそくオルが聞いてくる。んー、普通なら鞭でも飛ぶんだろうけど、私はそういうのやるつもりないから、どうしようかな?


「ご主人様の命令だ。口を閉じ、さっさと着ろ」


 悩んでいる間に、ジルさんが凄んでくれた。軽く剣を鳴らすのも忘れない。


「あら? ありがとう、ジルベルト。その防具は明日から貴方達の身を守る為のものよ? せっかく買ったんだもの。有効に活用しないとね。そうそう、二人とも武器は何を使えるのかしら? 

 剣とそうねぇ、短剣くらいは準備出来るけれど扱えるの? まぁ、もし扱えないと言われても、やることは変わらないけれどね」

 

 着替え終わって、微妙な顔をしている二人に、軽い口調で問いかける。二人とも問題なく防具が着れて良かったよ。町には出禁食らってるし、合わなかったらどうしようかと思ってた。まぁ、武器は貴族だし剣くらいは使えるでしょ。


「私達に武器を与える、と?」


「アルフレッド様、私の質問に質問で返さないでいただけますか?」


 にこりと笑って釘を刺す。いや、今までもこんな感じで受け答えしてたなら、そりゃ、オルランドが大変だっただろう。普通なら、主に口答えって鞭打ちくらいじゃ済まないらしいよ?


「申し訳ない。私は剣が、オルランドは様々な武器が使える」


 私の口調から不穏なものを感じたのか慌てた様に答えた。


「様々、ねぇ」


 ジルさんが言ってた様に少し変わったタイプの戦士らしいね。


「ご主人様、質問をお許し頂けませんか?」


 悩んでいると、アルフレッドが意を決したように話しかけてきた。その姿をみたオルランドが慌てている。


 ご主人様と呼ばれた瞬間、寒気走ったよ。その呼ばれ方嫌いなの。ジルさんやダビデも時々間違えて呼んでくるしさ。


「ええ、良いわよ? でも、そうねぇ、一人に付き1つまでにしましょうか? それと、私は貴方達の主人じゃないわ。ティナと呼んでちょうだい」


 本来なら、名前呼びも色々と不味いんだけど、ご主人様と呼ばれるダメージよりはマシだ。驚いて私を見つめるジルさんに視線で謝りつつ、新入り達に質問するように促す。……後でまた、ジルさんのアイアンクローかな?


「では子猫ちゃん、オレから質問をしようか?

 一体、何を企んでいる? 奴隷にこんな立派な防具に防寒具、それに着替えだと? 何故優遇をする」


「あら? 口調が変わったわね。その方が好感が持てるわよ?

 さて、質問の答えだけれど、特に何も。折角の人手だもの、別れるその日まで有効に活用しようと思っただけよ?」


 欠片も納得していない顔で、私を睨んでいるが怖くないやい。隣にいるアルフレッドも真剣な瞳で、頬を朱に染めて見つめてきてるし。


「さぁ、次はアルフレッドね。何か聞きたいことはある?」


 しばらく悩んでから、ようやく質問が決まったのか口を開いた。


「ご主人様は何者なのですか? これだけ見事なお住まいを所持し、獣人を従え、かつまだお若いようにも見えます。……歳をとらない魔女か何かなのですか?」


 はぁ? ぶっ飛んだ発想しないでよ。コラ、ジルさん、吹き出さない!!


「アハ、ハハハ、アルフレッドは夢想家なのかしら? 私が魔女? あり得ないわ。

 私はティナ・ラートル。デュシスの町の冒険者ギルド所属のDランク冒険者兼臨時薬剤師。ただそれだけ」


「さあ、質問の時間はおしまい。装備を脱いで、部屋に片付けていらっしゃい。部屋はさっきまで休んでいたからわかるわよね? その後は、夕飯まで待機よ。仕度が済んだら呼ぶわ」


 部屋が壊れているから、取り替えさせて欲しいとオルランドに言われたが拒否して意味深に笑ってやった。何か言いたげにこちらを見ている二人に手を振って退出させ、ようやく気を抜いく。


 ー……ああ、疲れた。


 その後は何事もなく、部屋が直ってるのに気が付いた二人の物言いたげな視線を無視して、ダビデの美味しいご飯を堪能する。今日からは、私だけがハーブティ。残りのメンバーは町で仕入れたお酒をつけた。どうやらこれも驚かせちゃったみたい。


 元貴族だし、嫌がるかな? と思って内心緊張してたけれど、平民用の服も、ダビデの夕飯も問題なく食べていて助かった。


 翌日は早い時間からフィールドの探索に出ると言うことを伝えて、全員が部屋に下がった。


 ……さて、少し夜の散歩と洒落込みますかね。




「……何処に行く」


 静かに隠れ家から出たところで、ジルさんに呼び止められて、文字通り飛び上がった。


「ジ、ジルさん、ビックリさせないで」


「コソコソと何処に行く?」


「いや、おさんぽ?」


 怒りが漂うジルさんの顔を伺いながら、躊躇いながら答える。


「馬鹿か? 夜の森に、後衛ひとりで、おさんぽだと??」


 隠れ家の中では、アルフレッド達がいるから遠慮して何も言えないせいか、昼間のジョンさんの悪影響か、ジルさんが怖いよぅ。


「え、見逃して下さい! 明日からの効率的なフィールド探索の為にはどうしても必要なんですよ!!」


 今のうちに、毒蜘蛛の巣と、手頃な大きさの蟻の巣と、将軍蜂がいるけど小さい蜂の巣ってレア物見つけないと、当てもなくさ迷うことになるのよ。


「あー、ティナの特殊技能か。もしかして、リーベ迷宮でも使っていた、目的地を探すやつか?」


 あ、バレてら。


「よく分かりましたね? 私がマップ探索&誘導技能持ちだって、いつ気が付いたのですか?」


「ん? ただのカンだ。リーベでも不思議に思ってはいたがな。ここからでは出来ないのか?」


 勘かいっ!! ワンコの勘は馬鹿に出来ないなぁ。それとも隠すの下手なのかしら?


「出来ればいいんですけどね。距離があるとなかなか詳細には分からなくて。やっぱりそれなりに近づかないと。

 飛行していきますし、危ないことはしないですから」


 着いてこようとするジルさんを説得して、半ば無理やり逃げ出した。


 夜半までかかって、目的地を全てに当たりをつけてベットに潜り込んだ。


 あー、眠っ。



 ******




「……ここか」


「はい! ここです。入口はこっちですよー」


 連れの顔がひきつっている気がするけど、気にしない♪

 私達は今、蟻塚の前にいます。

 五階建てのビルくらいの大きさだから、まだ控え目だよね。周りには頂上見えないくらいのもあるし。赤茶の砂で作られた円錐形の山には所々で穴が空いていて、でっかい蟻ンこがギチギチと顎を鳴らしながら、巡回していた。黒光りした頭部が朝日を浴びて輝いている。


「お嬢様、本気ですか?」


 しっかり装備を整えて同行したダビデが怯えている。大丈夫だよー、ダビデはご飯担当だから、前に出ないし、怪我するとしたら、ジルアルオルだから。


 鬼の様なことを考えながら、入口に案内する。


「ハァ……、なら入るぞ」


 入口を守る門番蟻を睨みながら、ジルさんが合図を出す。

 ちなみに、ジルさんは鍛冶屋のおやっさんのところで買ったフル装備。アルフレッドは量産品の防具に剣。オルランドは同じ防具に短剣2本と投擲用のナイフが数本だ。投擲ナイフを渡すかどうかで少し揉めたんだけど、最終的には中距離攻撃も必要だと渡すことになったんだ。


「がんばれー」


 かなり気楽に声援を送る。ダビデも前線に出ようとしていたから、そこらで拾ってきた小石を持たせてそれを投げるように言う。マントの裾をしっかり握って万一にも前線に出ないように確保済だ。


「ハニーバニー、手伝ってくれる気はないのかな?」


「危なくなったら手伝うかも知れませんよ? その時の気分次第です。さ、こんなところで話していても、時間の無駄です。始めましょ。目標は今日中に、女王退治です!」


 眠いし、あんまり今日はやる気ないんだよね。


 門番蟻を倒して中に入る。結局危なげなく勝ったから、私の出番はありませんでした。


 今日の私はドロップ品も拾いません。地面に落ちたドロップ品はダビデが拾って、恭しく差し出してくれます。あー、楽チン。でも堕落しそう。


 螺旋状の登り坂を上がり、頂上につくとそのまま下り始める。途中、一度止まって軽食休憩を挟んだけど、まだ夕方には程遠い時間だ。順調だね。


 この坂を下りきった所が女王蟻の住まいだ。


「襲ってくる蟻の数が異常に少ないな」


 ようやくこの巣の異常さに始めに気が付いたのはジルさんだった。


「子猫ちゃん、この巣には本当に女王がいるのかい?」


「さぁ? いなかったら他の巣に突撃ですね」


 不安に思ったのか、問いかけるオルにそっけなく回答しながら、内心はやり過ぎたかと動揺していた。


 ー……昨日、寝不足になるほど間引きしたからね。ついでにかるーく女王蟻の寝室にもお邪魔してたりもするし。あー、眠っ。


 欠伸を噛み殺しながら先に進む。アルフレッドは油断なく周りに目を配っていてこの中じゃ一番緊張してるかな?

 ダビデは危険はないと判断したのか、私の側で寛ぎ始めていた。


 その後も大した抵抗はなくサクサク進んで、女王蟻の部屋の前に着いた。流石に、部屋の中には満杯に蟻ンこがいるらしく、部屋の外までギチギチとした顎が鳴る音が響いてきている。


 あー、昨日も入った途端に、蟻玉に飲み込まれそうになって、悲鳴上げたっけな。私は遠い目をしたまま、ジルさん達の覚悟が完了するのを待つ。流石にこの部屋は手伝わないと駄目かしら?


「ティナ様、お恥ずかしい話ですが、加勢をお願いします」


 ジルさんが振り向いてそう言ってきた。


「ええ、何をすればいいのかしら?」


 流石に本気で攻撃魔法を使うのは駄目だけど、開幕オープニングにファイアーボール連打くらいなら許されるかな?


「我々全員に各種防御及び攻撃強化をお願いいたします。おそらく激戦になりますので、ティナ様は下がっていて下さい」


 え? そんなんでいいの??


「あら、そんな物でいいの? いっそのこと、私がこんがり燃やしてしまおうかと思っていたのだけれど」


「いえ、それではティナ様の負担が大きすぎます。どうか我々にお任せください」


 一礼してジルさんが覚悟を決めた顔で言うけれど、そんなに大事にしなくても大丈夫だよ? ここの女王はまだ若いから大して強くなかったし。


 ー……あー、ネタばらししたい!!


 でも、考え方を変えよう。女王退治の乱戦なら、アルとオルも本気は出さなくでも余裕はなくなるだろうし、手の内を観察させてもらいましょ。ついでに、みんなに余裕がなくなったら、アルとオルを鑑定してしまおうと思う。


 それなりに強力な支援魔法を唱えて入口を開ける。黒い津波の様に溢れだしてきた兵隊蟻達を叩きのめしながら、ジルさんが部屋の中には飛び込んだ。続いてオルとその後ろからアルが入っていく。


 遅れることしばし、戦闘音が激しくなってきたのを確認してダビデと共に部屋に入った。


 ジルさんは数匹の蟻を相手に危なげなく戦っている。時々はスパンと首斬り成功してるし。本当に安定して強いね。


 さて、新入り達はどうかな?


 オルは身軽に動き回りながら、切り刻んでいる。おう、蟻ンこの腹を蹴った反動で他の蟻の頭に飛び乗って、身体との継ぎ目に短剣刺してるし。このホスト、強いよ。あ、倒れた蟻から飛び退いて、噛もうとしていた蟻達を同士討ちさせてる。


 影の薄いアルフレッド様はどうしてるかな?

 …一番堅実に戦ってるね。自分に向かってくる敵を冷静に判断して、優先順位をつけて一匹ずつ撃退してる。決して深追いはしないで、冷静にチャンスを待つ感じ。なんか装備に戦い方が合ってない気がする。


「オルランド!!」


 ぼんやりと戦闘を観戦していたら、アルフレッドが悲鳴に近い声をあげた。


 驚いてオルランドを見ると、死角から飛だした羽蟻に脇腹を切り裂かれていた。


 アルが手早く自分の敵を片付けて、オルランドの方に向かう。オルも血を流しながらも戦闘を継続している。根性あるなぁ。


 気のせいかな、アルフレッドの剣が輝いている様に見えるよ?

 あれ、魔法剣じゃないし、私も属性付与はしてないんだけど??


「少しの間だけでいい! 防いでくれ!!」


 悲鳴に近い懇願を受けてしまった。こっちの事は気にせず、剣を立てて何かを唱え出す。


 私は適当に蟻達を牽制しつつ、このチャンスにアルとオルの鑑定をする。まぁ、死ぬ様な怪我じゃないし、大丈夫、大丈夫。


 アルフレッド(♂)

 年齢:16歳

 職業:異端奴隷 聖騎士 軍師

 レベル:27

 称号:異端の公爵、異才の策略家、犬妖精の守護者


 以下略。

 …………


 オイ! ツッコミ箇所が複数あるよ!!

 ああ、でも動揺してる場合じゃないか。次、オルランド! 何が来ても驚かないぞ!


 オルランド(♂)

 年齢:18歳

 職業:異端奴隷 暗殺者 忍者

 レベル:42

 称号:異端の従者 主を定めし者 毒手 闇夜の食人鬼 すけこまし


 同以下略。


 ……


 称号多いな!! すけこましって久々に聞いたよ。なにより忍者や暗殺者とか忍ぶ系職業なのに、忍ぶ気ナシかっ?! 情報収集の方法としては有効かも知れないけど、駄目だよね? 忍ぶ気ゼログラムで有名な、アメコミの忍者かよ、あんたは!


 全力で突っ込んでいるとようやく、アルフレッドの魔法が発動してオルランドを癒す。聖騎士って、治癒魔法と属性付与を使えるんだっけ。


 治ったオルランドはさっそく戦線に復帰して、さっきまで以上に虐殺を始める。どうやら怒ったらしい。


 怪我人も出ちゃったしそろそろ終わりにしようと、私も少しだけ攻撃に加わる。

 兵隊蟻を切り捨て、指令蟻の首を飛ばし、親衛隊の蟻を切り刻む。女王までの通路ができたら、それで詰みだ。


 昨日お邪魔したときにこんがり焼いたから、片羽は穴だらけだし、戦闘力は落ちている。

 ジルさん達の即席連携攻撃でも難なく倒せた。


 さて、これでひとつ目、女王蟻の核をゲット!!

 残りの目的地は、蜂の巣と蜘蛛の巣と鳥の巣(?)だ。

 先は長いなぁ……頑張ろう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ