32.お前は妹分だからな
「なんだよ? Cランクにもなっておつかいかよ」
案の定アンナさんに対して不満を言っている。すいませんねぇ。
「高額商品なのよ。しかも依頼人はティナ」
「非常識娘? それこそなんだよ、自分で買いに行けばいいだろ。ああ、その護衛か?? ケビン達じゃ駄目なのか」
そこで、アンナさん、ケビンさんによる状況説明が再度行われた。
「ティナ、お前何やってんだよ。馬鹿だろ?」
ひとしきり理解した後のコメントは呆れ返ったものだった。脳筋に馬鹿にされてしまった。くそぅ。
「皆さんからツッコまれましたよ」
「マスター・クルバと私で説教済よ」
「わーった。で、何を買ってくりゃ良いんだ?」
「お願いしたいのは拡張型のバックよ。詳しい数と内容はティナに聞いてちょうだい」
「あー、確かに駆け出しには頼めねぇな」
高いし駆け出しには垂涎の的だから下手したら盗まれると言いながら、私の方に向き直った。前にジルさん用のバックを買ったときの値段を参考に、少し多目に金貨を準備してからリックさんにお願い事をする。
「出来るだけ大容量の拡張型バックを3つほどお願いします。これ、お金です。アンナさん、そう言えば、マリアンヌにもニッキーにもお金払ってないですが大丈夫なんですか?」
「うふふ、大丈夫よ。そう言えば依頼料も伝えてなかったわね。まぁ、ティナには回復薬作成技能で払うって手があるから問題ないけど」
「もう、やめてください。洒落になりませんよ。で、いかほどですか?」
「そうねぇ、ニッキーとマリアンヌに頼んだ買い出しで諸々合わせて銀貨30枚。リックさんの方が、自由の風の取り分として銀貨10枚かしらね? 町中でのティナに対する護衛は、ギルドが勝手にやることだから報酬は不要よ。感謝してくれるなら、薬の納品で表して欲しいわね」
茶目っ気たっぷりに話すが、やはり目は笑っていない。これは本気にしないとダメなやつだ。帰りがけに臨時納品していこう……。
「さて、これで大体、頼めるものは終わったわ。後はティナが直接行かないと。護衛はスカルマッシャーさんに頼んであるから、ほら早くいってらっしゃいな」
狩人のカインさんと、盗賊のジョンさんが同行してくれるらしい。一応、遠慮をしたんだけど押しきられた。私たち以外のメンバーがいると、ジルさんが話さなくなるから本当は嫌なんだよ。
ー……そんな風に思ったときもありました。
ジョンさんのコミュニケーション能力がスゴすぎる。笑いながら、なんて事はない様に、会話にジルさんを巻き込んで違和感なく交流が進んでいます。こんなに話すジルさん見るの初めてかも。
ついついポカンとして、口半開きのまま先行する大人達の後を着いていく。
主な話題は私の事かな? ジルさんと出会う前の事をジョンさんが面白おかしく話している。
「ったく、最初はどうなるかと思ったけどよ、ジルも好い人そうで良かったわ。ティナは俺達の可愛い妹分なんだ。悪いけど頼むな。あ、着いたぞ、ティナ。ここがオススメの武器屋だぞ」
ギルドから離れて、裏路地をいくつか入った辺りにある一軒の店の前でジョンさんが話を切り上げて到着を告げる。
「なんか地味、ですね? こんな所に武器屋さんがあるなんて知りませんでした」
達筆な文字で掲げられた看板は煤で汚れ、入口は小さく中は薄暗い。ひとりなら絶対に入ろうとは思わなかっただろうな。
「おやっさん、邪魔するぜ」
「帰れ、小僧ッコども」
中に居たのは、ちんちくりんなおじいちゃんだった。真っ白お髭とつぶらな瞳がとってもキュート。ただし、筋肉は凄い。
「そう言わないでくれ、おやっさん。ほら、これが前に話した妹分のティナだ。ティナ、このオヤジは多分デュシスの町一番の鍛冶屋だ。俺達スカルマッシャーの武器は大体ここで揃えている。
今日はティナの予備武器だろ? 是非紹介したくてね」
ジョンさんの顔を見たとたん、皺を寄せて怒鳴ったおじいちゃんに取り成しつつ、カインさんが私を紹介してくれる。
「へぇ…、こんにちは。冒険者のティナです。よろしくお願いします」
私とジルさんを値踏みするおじいちゃんのつぶらな瞳を見つめながら挨拶する。頑固な職人さんなのかな?
「嬢ちゃん、その防具、どうした? ちょっとこっちに来い」
目敏く私の装備の特異性を見抜いたのか手招きしている。バレると不味いかなと思いながら、まぁ、神様お手製だし、何とかなるかと、高を括っておじいちゃんに近づいた。
私のローブの素材を確認してから、その場で回るように言われて、言われるがままゆっくりと1回転した。気分はマネキン。
恐いくらい真剣に見ていたかと思うと、おもむろに片眼鏡を装着して再度観察された。
真剣な表情は熱に浮かされた様なものになり、そして真っ青になる。巨驚に目を見開いたまま固まられた。
「おーい、おやっさん。どうしたんだよ!」
ジョンさんがおじいちゃんの目の前で手をプラプラさせているけれど、全くの無反応だ。
「お嬢さん、教えて欲しい。そのローブは何処で手に入れた?」
「おやっさん?」
あっちゃー、こりゃバレたかな?
「えっ? 貰い物ですけど」
「お嬢さん、それがどれ程の物だか分かってるのか? ダンジョン最深部でも、滅多に出ない、レア中にレア。レジェンドクラスの防具か更にその上の物だ。ワシのアイテムでは正確には鑑定できなかったが…」
ー……正しくは、神様お手製のアーティファクトです。
ぶっちゃけたら、騒ぎになるだろうし、どうするかな。ここにいるのは、スカルマッシャーさんとジルさんだけだし、……うん、こうしよう。
「他の人には内緒にしてますが、実はウチの両親、元冒険者なので…。それよりも、いきなり許可なく鑑定って、失礼ですよ」
わざとちょっとだけ膨れっ面で言う。それで自分がどれくらい常識外れをしたのか思い出したのか、おじいちゃんが慌て出した。
「す、すまん! 素晴らしい逸品だったからつい。悪気はねぇんだ。許してくれ!」
「もう。…武器と防具、見せてもらえますか? お留守番してるメンバーの分も買いたいんですけど、いいですよね」
「本当は相手を見ないで売るのなんざゴメンだが、まぁ、今回は詫びもある。しゃーねーな。ただし、汎用品になるから、一点物よりは落ちるぜ」
おっ♪ やった。
貴族と言えば、剣かな? とイメージで武器を決めて、それなりに高品質の一本を選び出した。次に従者の分と思って、似たような剣を探そうとしたところで、ジルさんに止められた。
着替えをさせたときに見た感じだと、長剣よりは短剣、しかも双刀じゃないかと言われたのだ。後、それにも違和感があるらしくて、メインが剣ではない変わった武器の可能性もあるとの事。
「そうなんだ、ならどうしようか? 短剣なら使い勝手も良いだろうし、ダビデや私が使っても良いから、とりあえず二本買う? もしメイン武器が違うならまた買いに来ればいいよね」
「はい、おそらく使えないということはないと思います。それで問題ないかと。ですが、お願いできるなら、使い捨ての投擲ナイフも準備しておいた方が良いかと思います」
「はーい。じゃ、おやっさん、お願いできますか?」
武器を選んでいる間、ジョンさんカインさんと話していたおじいちゃんに声をかける。
「おう、決まったか? しかし嬢ちゃんのメイン武器はなんなんだ? 防具を見る限り魔法使いだろうが、短剣も使えるのかよ?」
頼んだ品を準備しながら尋ねられる。最初に簡単に留守番組の体型を伝えてサイズ調節が可能な革製防具を頼んでおいたから、カウンターの上はいっぱいになっている。
「えーっと、メインというか、一番よく使うのは弓ですね。それ以外も、一応色々な武器を扱えます」
「なら、メイン武器は今持ってないのか? あるなら是非見せて欲しいんだがなぁ」
おじいちゃんの上目遣いのおねだりなんて可愛くないですよ。ついでにチラチラ見られても、残念なだけです。
「おや? ティナは俺達と会ったときは短剣を装備していたと思ったけれど、メインは弓なのかい? それでよく、冒険者パーティーと殺り合えたね」
「おいおい、ティナ。お前、武器すら非常識かよ。お前の両親はどんな風に育てたんだよ」
「ジョンさん、カインさん五月蝿いです。両親は大事に育ててくれましたよ。
おやっさん、武器はお見せする気ないですよ。また鑑定する気でしょ??」
「いや、うん、まぁ、きっとすっげぇレア物使ってんだろうしなぁ…」
諦めきれないようにぶつぶつ言っているけれど、聞こえなーい。
「さて、ではメインイベントです!! おやっさん、ここにいるジルベルトに武器と防具を見立ててくださいな。魔法品もあるんでしょ?予算は今まで買った物を含めて金貨30枚です」
ジルさんの今の装備は、やっつけで買った汎用品だし、私が武器防具を作るのも面倒臭くて嫌だ。素材採集から始めるって気が遠くなる。手持ち資金で足りるなら、買ってしまおうと思ったんだよね。
「ブッ! 嬢ちゃん、金銭感覚大丈夫か?? それにそんな風に言ったらぼったくられらぜ」
噴き出すおじいちゃんに顔を近づけて、鮮やかに微笑む。イメージは気合いの入ったアンナさんの微笑みだ。
「あれ、おやっさんはそんな方なんですか? 私は、ご自身の作る武器にも、売る物にも、誇りと自信がある、そんな職人さんだと思ったから言ったんですけど」
怒られるかな、と内心怯えながらも表情には出さない。笑みも崩さない。これで怒って叩き出されるなら、別のお店で買うか、私が自作すればいいだけさ。面倒だけどね。いっそのこと、転生前にフィールドで収集した素材で作っちゃおうかな?
なんか、規格外品が出来そうで、この世界の普通がわかるまで自粛してたんだけど。
「くく、おやっさんの負けだな」
「あぁ、ティナ大丈夫だぞ。おやっさんは金だけとって屑を掴ませるようなことはしない」
私の笑顔を見て、ジョンさん、カインさんは堪えきれないと言うように笑い出した。
「……はぁ、しゃーねーなぁ。流石小僧っコ供の妹分だ。
本来なら叩き出してるぞ。で、そこの獣人、メイン武器はなんだ? 今は何を使っている?」
「これです」
よそ行きの口調のまま答えるジルさんを見て、首をかしげてからチラリと私に視線をよこす。
「ああ、俺に対する口調なら気にしなくて良い。そっちのご主人様さえよけりゃ、普段の口調で話せ。その方が話が早い」
どうやらジルさんの主人は私だと気がついたのか、そう話した。私の方を向き、許可を求めるジルさんに頷き、普通に話してもらうようにする。
スカルマッシャーさんといい、このおじいちゃんといい、獣人差別しない人っているんだね。獣人=奴隷って図式、好きじゃないから助かるわ。
「普段は長剣を使っている。元々は、曲刀を使っていた。だが武器には大して思い入れはない」
「そうかい、なら予算内で扱えそうな物を何点か出す。確認してくれ。防具は? 革か? 金属か?」
「革ベースで金属補強があるものだな。速度と手数で戦うタイプだ」
「わーった。ちと待ってろ。おい、お嬢ちゃん、魔法武器も候補にして良いんだよな?」
「もちろん。出来るだけ良いものをお願いします」
うん、おじいちゃんの職人気質に火が付いたみたいだし、良いものが買えそうだね。
「おい、ティナ。買い物は他にないのか? おやっさんがああなったからには時間がかかる。何ならジルだけここに残して、買ってくるのも手だぜ」
「え。特には……あ」
「どうした? なんか思い出したか??」
ダメ元で頼んでみるか。
「アンナさんには止められたんですけど、首輪の新調と、後、前々から貴族街にお茶の葉を買いにいきたいと思ってたのと、人数増えてきたし、寒くもなってきたからアルコールが欲しいなと思ってはいたんですけど」
アルコールは私は飲めないけどね。飲める人達まで付き合わせるのは申し訳ない。
「首輪は却下。その他なら付き合うよ。俺達が一緒なら貴族街でもなんでも入れるしね。さて、ならジルにはここで選んでいて貰うことにして、俺達は少しだけ出てこようか」
「待て。そう言うことならオレの武器の新調はいらない。元々今ので十分だと思っていた。護衛につく」
ジルさんが慌てて割り込んでくるけれど、スカルマッシャーさん達は連れていく気がないみたい。宥めてここに残るように説得してしまった。
「ホレ、ティナ。行くぞ」
「はい、ジョンさんちょっと待ってくださいね。ジルベルト、出来るだけ早く戻るから、終わってもここで待たせてもらってね。構いませんよね、おやっさん?」
「構わん。しばらくかかるからな、ゆっくり買い物してこい」
「あはは、そんな事言うと戻ってきませんよ? 女の子の買い物は長いんですからね」
うへぇ! って顔をしたおじいちゃんに見送られ、店を後にした。
*****
裏路地を歩いて行った方がアルコールの豊富な店に近いからと、通ったこともない道をジョンさん達に連れられて歩いた。細かく何度も曲がるから、はぐれたら大変なことになりそう。
しばらく歩き、ぽっかりとそこだけ空が見える空き地に出る。なんか変だな? 私達三人以外の気配もする。
「ジョ……」
疑問をぶつけようと口を開きかけたら、カインさんに止められた。ジョンさんは無言で背後の気配を探っているみたい。
「シ、静かに。つけられてる。振り向かない、余計な事を言わない、しっかりついてくるんだ。いいな、ティナ」
空き地の出口でいきなりカインさんに手を引かれ、走り始める。曲がり角を使って、ジョンさんは巧妙に道から消えた。流石、盗賊。音もたてずに屋根に上がる人とか、テレビ以外で初めてみたよ。
狭い路地に、私たち以外の足音が響く。こっそりマップを確認して敵対反応を探す。少し後ろにたくさんの赤い反応がある。更に離れたところにも、いくつかの中立反応。ただしこれも私達を追っている。
袋小路に間違って追い詰められた振りをして、カインさんと二人で飛び込んだ。カインさんは素早く私を背中に隠して、背中に担いでいたクロスボウに矢をつがえている。
「何者だっ!!」
袋小路の入口に人が集まったのを確認して、カインさんが口を開く。それに対する回答はなかった。
人数は15~20人。成人男性。獲物は町で簡単に手に入りそうな角材や鉄の棒。草臥れた服装に、隠す気のない顔。
貧民街の武装強盗かな? と思いつつ、睡眠魔法の準備をする。身を守るための魔法なら、町の中で行使しても、怒られることはない。せいぜいが、やり過ぎ注意! と言われる程度だ。
今まで縁がなかったけれも、実はこの町にも、スラムは存在する。裏路地を歩いていたから気がつかなかったけれど、マップ上は近かった。艶町の奥、郊外に広がる墓場の間がスラム地区だ。
「カインさん、眠らせても?」
小さな声で確認すると、振り向かずに微かに顎が動いた。
「眠りをもたらす砂よ。
砂塵となりて かの者達を眠りに落とせ。
スリープ」
砂嵐が辺りに巻き起こる。目を開けていられなくて、軽く瞑ると重く何かが落ちる音がした。
「お見事。さて、逃げるぞ」
眠りに落ちて地面に転がる人々を容赦なく踏みつけながら、カインさんに手を引かれ大通りに出た。
「あの……カインさん。ジョンさんは??」
あと、寝せたまま放置してきた人達はどうする気なのさ?
「ちょっと待て。……大丈夫そうだな。悪かったな、ティナ。ジョンなら見張っていた奴が逃げたからな、後をつけたんだ。後は俺達に任せてくれ」
「え? どういう事ですか…?」
え、何? 何か含みあるよね? なんだ?
「あ! もしかして、囮にしましたか!?」
ひらめき、叫ぶように問いかけた。
「とと、シー。静かに。おそらく最初からギルドを張っていたんだろうが、ティナとギルドから出たところで、監視が付いていた。だからわざと、ジルと離してティナと俺達が繋がっている事を印象付けたんだ。悪辣な薬剤師さんの住み家や交流関係は、情報統制でほぼ謎だからな」
さすがに気まずいのか、目を合わせずに先を続ける。
「おそらく、敵側の人間なら護衛が少なくなったら動くと踏んだ。……案の定で助かったよ。
大丈夫、武器屋にはロジャーが、さっきの襲撃現場には、ケビンとマイケルが行く手筈になっている。
ティナが心配することはない。俺達、スカルマッシャーとデュシスのお局様であるアンナが関わってるんだ。抜かりはない。
さぁ、今度こそ買い物を済ませよう。酒屋は俺達がよく利用するし、茶葉専門店は妻と娘がよく行くよ。俺も時々荷物持ちで連れていかれる。心配しなくていいからな」
その後、酒屋と貴族街にある茶葉専門店に連れていかれて、買い物を済ます。
酒屋はスカルマッシャーさん達がよく来るせいか、珍しいお酒やらも出してもらえた。私を見て、女の子向けのお酒をオススメされたけれど、そういったのは少量、申し訳程度にして、大人たちが飲むお酒を主に仕入れた。
茶葉専門店はカインさんの家族が時々買いに来ていたお店に連れていって貰ったから、一見さんお断りに合うこともなく、常連さんが連れてきた新規顧客扱いしてもらえた。支配人さんに今後もよろしくお願いしますと挨拶してきたから、これからは私一人でも買いに行ける。おそらく非常に高価な品であろう、ガラスか水晶の瓶に詰められた茶葉が、壁一面に陳列されている所で、圧倒された。
どうやらさっきの襲撃が私に悪いと思ってくれていたのか、支払いはスカルマッシャーのパーティー資金から出してくれた。流石はスカルマッシャーの金庫番。公私混同と思わなくもないけど、迷惑料だと思っておこう。
茶葉専門店がある貴族街からの帰り道、武器屋を目指し裏路地に入った辺りで足を止める。
「どうした?」
「カインさん、聞きたいことがあります」
買い物の間、考え続けて、ようやくまとまった内容を口に出す。
怪しい人影がないのと、魔法系の盗聴、監視がないのはスキルと魔法で確認済だ。ついでに、人避けの魔法と声が外に漏れない様にする結界も張る。
「答えられないなら、それでも構いません。
私の他のオークション参加者も怪しいと思ってますか? いえ、もしかして、私も敵側の人間かと思われていて、監視対象なのかもしれませんね。
そもそも今回のオークションは敵の協力者を炙り出す、その足掛かりにと計画されたものではないのですか? 襲撃等と言う危険を犯さなくても、買い取り解放してしまえば、それがもっとも安全な解決方法でしょう?
それを私が台無しにしたから、ギルドとしても執行局としても予定が狂った。執行局の問い合わせとはそう言うことではなかったのですか? そして、一応私は敵側ではないと判断された。
だから、冒険者であり荒事にも対応可能な私を囮に手がかりを掴もうと、引っ張り回す予定だった。ただし、相手が不明だから万一の身の安全を考慮してスカルマッシャーさんが護衛に付き、更には他の一般市民を巻き込まない為に人気の多い所には、依頼と言う形をとり、私を近づかせまいとした。
……違いますか?」
あまりにも手際が良すぎる対応に疑問を持ち、買い物しながら町全体のマップを確認し続けて、ようやく至った結論だ。ジョンさんは、貴族街某所に張り付いている。ケビンさん、マイケルさんは冒険者ギルドと、裏路地を行ったり来たりしているし、慌ただしいことこの上ない。
今話したストーリーはただの勘だけれど、大きく外れていると言うことはないはず。
「あー…、すまん。俺からは何も言えない。どうしても知りたいならギルドを通してくれ。
ただお前は俺達の可愛い妹分だ。冒険者として登録している以上、必ず守ると約束は出来ないが、゛受けた依頼゛にも関係するしな。最善は尽くす。しばらくは頼むから、アンナやマスター・クルバの言うことを聞いて、大人しくしていてくれ」
つまりは、スカルマッシャーさん達は、執行局からの依頼を受けていると。しかも協力者のあぶり出しと、排除の両方を受けていると見た。
「わかりました。どの時点からかは分かりませんが、仕事の邪魔してごめんなさい。妹分と思ってくれていてありがとうございます。さ、早くジルベルトの所に戻りましょう」
マップで確認する限り、買い出し組の動きも終わったようだし、自由の風さんたちもギルドにいる。
留守番している三人の事、と言うか、ダビデの身の安全も心配だし、さっさと帰ってフィールド深部に引っ込もうっと。




