31.しばらく出禁な
参ったなぁ。と思った翌日、私は今、デュシスの冒険者ギルド、そのギルド長執務室にいます。
いや、昨日は結局新入りの二人は目を覚まさず、着替えもないから仕方なくジルさんの予備の服を着せて客間に運んだ。サイズはほぼちょうどとブカブカだったから助かった。小さいよりはいい。
おかげさまで私が寝るところがなくなったから、カスタマイズして部屋を増やそうと思ったんだけど、ジルさんに地下二階、主寝室の存在がバレてね。……主人は主人らしく、ここで寝ろ、と怒られました。お陰で今日は寝覚めがイマイチ。根っからの庶民だからさぁ、豪華すぎると落ち着かんのよ。
目覚めない二人を待ちつつ、今日はどうしようかな、と相談していたら、スカルマッシャーさん達に渡していた通信機の片割れが鳴った。
気楽な気持ちで出たら、ブリザード吹き荒むアンナさんの声で、「今すぐギルドまでいらっしゃい。大急ぎの大至急よ」と言われて今に至る。なんでスカルマッシャーさんの通信機をアンナさんが使ってるのよ。怖いじゃないか。
ちなみに、ダビデとまだ目覚めない新入り二人はお留守番。私の護衛だと言って、ジルさんだけが無理やりついてきた。首には昨日の黒歴史が燦然と輝いています。……ゴメン、帰りに新しいの買うから。
「ティナ、聞いているのかしら?」
絶対零度の微笑みを浮かべたまま、アンナさんが聞いてくる。
「聞いています。だから、他意はないんです。ダビデに頼まれたから、訳も分からず落札して。まだ落札した二人は目覚めていません。何も話せていないんです。
まさかあそこに、うちのコの昔の主人がいるなんて思わないし、老貴族に気に入られるなんて考えてもみませんでした。しかも変な誤解をされて、私も困ってるんですよ!!」
何度目か分からない事実を告げる。着いた途端に引きずられるようにここに連れ込まれて、何故買い取ったのか問い詰められたのだ。
「アンナ、もういい。
ティナ、やってくれたな。あの二人は、ギルドでも扱いに注意が必要と、厳戒体制を敷いていた相手だ。これから危険な目に会うかもしれん。最低限は知っておけ」
「どう言うことだ?」
珍しくジルさんがマスター・クルバに噛みついている。そんなジルさんを睨み付け、マスター・クルバが口を開く。
「リーベ迷宮のスタンビートが起こった時、ここのギルドの上位陣が軒並み留守にしていたのは覚えているな?
実は、ほとんどの上位陣は今回のオークションの為に動員されていた。あぁ、心配することはない。兵士にとられた訳ではなく、ただの依頼だ。
オークションの商品を運ぶ護衛、先行して待ち伏せ等を潰すメンバー、デュシスの町に残って怪しい奴らを叩き出したりとな。それは全て、あの元公爵と従者がいたから起きた事だ」
相変わらず、マスター・クルバは冷静だ。でも、いつもに比べて少し声が低いかな?
「あの二人には、まだ救出しようとする動きがある。だからこそ、執行局副長官がこの町に滞在し継続調査している。今までも何度か救出をと襲撃があったが、全て撃退済だ。そろそろ、後がないだろうと我々は予測している。
ティナ、お前の事も執行局から既に問い合わせが来たぞ。まぁ、事実しか話していない様だったから、相手の望む様に"正直に"話しておいたがな。
……ステキなご趣味の悪辣な薬剤師どの」
うぎゃ! マスター・クルバにまで伝わってる?! もしかして、皆知ってるの?
しかも、正直にって、正直に話してないでしょ!! 相手の望む情報だけを選別して、嘘ではない範囲で誤解を助長するように話してるよね?!
「クルバさん! なんて事をしてくれたんですかっ! せめて誤解を解いてくれればっ!!」
「無駄だ。おそらく誤解だと気がつかれた時点で、お前も異端審問行きか強制徴用だ。諦めろ。もうこのまま誤魔化すしかない。
こうなったら、ティナが町に住んでいないのはある意味僥倖だ。今回の件が落ち着くまでこの町には近づくな」
「ええ、ティナ、下手を打てばギルドでも守りきれないのよ。お願いよ、こちらでも対処の依頼を受けているし、早目に片付けるわ。それまで町に来ないで頂戴」
「依頼ですか? どんなものが来ているんですか? 私達は一体いつまでこの町に近づかない方が無難なんですか??」
「誰が何を受けているかは言えないわよ? でもそうねぇ、領主と執行局サイドからの依頼で、残党の調査と処理、それと町の中に入り込んだ協力者の排除とかかしらね。終わったら執行局の人員もいなくなるわ。それまではこの町に来るのは最低限にしてちょうだい。
大丈夫よ、そんなに長くはかからないわ」
「アンナ、話しすぎだ。ティナ、お前が知る事ではない。今回の件は政治も絡む。大人しくしていろ。片付いたら連絡する」
そう言って渡してきたのは、覚えのある通信機だった。
「あれ、これ?」
「一般的な通信機だな。お前もスカルマッシャーや、自由の風達に渡している様だがな。何か動きがあったらこれを使い連絡する」
なんだか大事になっちゃったなぁ、と思いながらギルド長室を後にした。
下に降りる間に、一緒に降りるアンナさんが今後の予定を確認してきた。
「ねぇティナ、食料なんかは余裕があるのかしら? 買い出しは必要??」
「えーっと、人数が増えるので追加で買おうかと。あと、服と外套とかの冬物を人数分、追加の食器、拡張型のいっぱい入る系のバックなんかも欲しいです。ジルベルト、他には何かあったっけ?……あ、首輪」
ジルさんを振り返り思い出す。そうだよ、最優先で買い直さなくては。
「いえ、それでよろしいかと思われます。ですが、長くかかるようでしたら、予備の武器もあった方が良いかと…」
ジルさんは相変わらず他所行きの口調で控え目に伝えてくる。
ん? そうだね、今寝てる人達にも、武器と防具も必要だしね。これ、大丈夫かな? 町に出禁喰らったのに、足らないもの多すぎないか?
「ティナ、なら相談よ。冒険者を雇いなさい。そして、自分で選ばなくてもいいものに関しては任せてしまえばいいの。
食料とかは大体買うもの決まってるのよね? なら一覧にして渡して買ってこさせればいいわ。
予備の武器や防具は命を預けるものだから自分で選びたいだろうけれど、拡張型カバンについては任せられるわね。あと食器や服に関しても任せてしまいなさい。サイズさえ伝えれば、大丈夫でしょう。なんなら、マリアンヌに頼むといいわ。あの子そういった物に関してはとても詳しいから。
それと首輪だけれど出来たら今は奴隷市場には近づかない方が無難よ。悪辣な娘さんは噂の人だから」
「今は出歩くのは最低限にした方が良いと言うことですか? でも、首輪、ジルベルトのモノだからどうしても新しいのが欲しくて」
「え? 昨日新調したばかりでしょう? 何を言っているの! てっきり新入りの二人用だと思ったわ」
「あー、実は、うっかり私が女の子用買っちゃいまして。申し訳なさすぎるんで男性用を」
うわ、そこでジルさんの首輪まじまじと見ないでよ。恥の上塗りじゃないか。
「確かに、珍しい作りだとは思ったけれど、そう、女の子用。……でもねぇ、しばらくは諦めた方が良いわよ。あの貴族の耳に何処から入るか分からないもの。ほとぼりが冷めるまでは、目立つのは厳禁よ」
難色を示すアンナさんに食い下がる。
「え、なら私が行かずに誰かにお願いすることは出来ませんか? それこそ誰か奴隷を所有されている人とかに、買ってきてもらうとか。新しい人達はどれくらい一緒にいるか分からないですけど、ジルさんは長く一緒ですから、こんなの付けておいてもらうのは申し訳なくて」
私が"ジルさん"と呼んだところで、軽く咳払いが聞こえる。
「うーん、今は難しいわね。執行局の監視が厳しいのよ。あと、呼び名、気を付けなさい。まぁ、確かに新しい人達は始末を含めて、長くはティナの所に滞在しないとは思うけれど」
「始末?」
堪えきれないと言うように、ジルさんが割り込む。
そうこう話している間に、下についてそのまま応接室のひとつに連れていかれた。部屋の中にはスカルマッシャーさん達が勢揃いしている。
「おう、ティナ、お疲れさん。絞られたかー?」
相変わらず気楽にジョンさんが話しかけてくる。
「もう、大変でしたよ! なんでスカルマッシャーさん達に、通信機渡してるの、アンナさんにバレたんですかー」
お気楽なノリのジョンさんに合わせて、私も冗談めかして答える。ジョンさん以外のメンバーは深刻そうなんだよね。
「はは、わりぃ、わりぃ。仕事上がりでこっちに来たらよ、アンナが困っててな。聞いたらティナ絡みって話だろ? で、ケビンが通信機の事を話したら、引ったくられてなー。今に至る」
至るな。
内心ツッコミを入れながら、促されるまま席についた。ジルさんは安定の私の背後。
「ティナ、久しぶりだな。それが噂の狼獣人か? 今日はコボルドは連れていないんだな」
ケビンさんが口を開くと全員の視線がジルさんに集中する。そんな中、アンナさんは少し外すと言って外に出ていった。
「はい、最近一緒に住み始めました。狼獣人のジルさんこと、ジルベルトさんです。ダビデは昨日の人達がまだ目覚めないから、お留守番です」
あらー、ジルさん、スカルマッシャーのメンバーに思いっきり値踏みされてるわ。
「大丈夫かい? 何かコイツから、嫌なことはされてないのかな?? リックから大体の事情は聞いたけれど、我々がいない間に随分ヤンチャをしたんだろう?」
「大丈夫ですよ、マイケルさん。お陰様で食材採集もしやすくなって、大助かりです。って、思い出した!! ちょっと、カインさん! 不凍湖、なんて中途半端に教えてくれたんですかッ!! すっごいびっくりしたんですからね! ジルさんがいなかったら大変でしたよ!!」
今度会ったら文句を言おうと決めていたから、全力でツッコミを入れた。不凍湖の事を教えてくれた時、カインさんは大して危険はないようなこと言ってたんだよ。
「え、ティナ、まさか本当に不凍湖に魚取りに行ったのか?? 冗談だったんだが」
私にいきなり噛みつかれたカインさんは、目を白黒させている。
「冗談?! こっちはそんな事知らないから、取りにいきましたよ! もう、本当にびっくりしたんですから。お魚は美味しかったですけど」
膨れっ面でそう言い募る私に対して、ケビン達の反応は微妙だった。
「あー……美味しかったのか。それは良かったな」
「ビックリで済むのか…あそこ」
「大変って、辿り着かないだろ、普通。って言うか、ギルド員、誰か止めろよ」
「嬢ちゃん、相変わらずだねぇ。おもしれぇー」
「……」
口々に納得いかない感想を話すスカルマッシャーさん達を睨み付ける。
「もう! スタンピードには巻き込まれるし。最悪でしたよ!! お陰でジルさんと出会えたから、まぁ、感謝もしてますけどね! と、言う訳でお裾分けです!!」
常に身に付ける事にした無限バック(大)の中から、バカデカイ魚の切り身を人数分取り出して渡す。一応、いれる前に魔法で急速冷凍済。
「おー、豪勢だな! 良いのか、ティナ嬢ちゃん。これ、町でも結構人気の魚だぜ」
「はい、どうぞ! 家族持ちの皆さんはどうぞご家族でお食べください。それ以外の方は処分方法はお任せします。売ってよし、想い人にプレゼントするもよし、お世話になった方に渡すもよし、自分で食べるもよしです」
いそいそと魚の切り身を片付けるメンバーにそう告げる。スカルマッシャーさんたちレベルになればいつでも獲りに行けるだろうに、みんな、嬉しそう。
「ところでケビンさん達はなんで待っていてくれたんですか? 仕事上がりなんでしょ? 私を呼んだ所で用事は終わってるし、アンナさんも怒らないと思うのですが」
「ん? 何も聞いてないのか?」
「ええ、しばらくギルドに出禁喰らったので、これから冒険者に依頼を出して簡単な買い出しを頼む予定ですけど、スカルマッシャーさんたちは関係ないでしょ?」
そこッ! ジョンさん! 出禁と聞いて噴き出さないで!!
「ああ……、そう言う認識なのか。あのな、ティナ、真面目に危ないんだ」
疲れたような口調でカインさんが伝えてくる。
先を続けようとした時、アンナさんが数人の冒険者と共に戻ってきた。
「お待たせ、ティナ。さぁ、依頼の話をしましょうか? まずは必要な食料の一覧を作ってちょうだいね。Fランク冒険者達が喜ぶわ」
部外者が入ってきたという判断をしたのか、カインさんは口を閉じてしまった。アンナさんに急かされるまま、必要な食材を板に書き出していく。
「Fランク?」
「そうよ、冬の間はほとんど依頼がなくて、あの子達も生活が大変だから、この依頼は大喜びよ。なんと言っても、ギルドから市場までのおつかい任務だもの。小さい子でも出来るし、危険もないし、体力的にも辛くない。しかも急ぎだからお駄賃も良いわ」
嬉しそうに笑いながら、私が書き出したメモを確認している。元々、ダビデに買い物メモを作って貰っていたからそれに少し足しただけだ。大して時間もかからなかった。
「あ、なら、アンナさん。市場で店を出している、ニッキーってFですか? 出来たらあの子も入れて欲しいんですけど」
ニッキーは毎日早朝市場で店を出しているし、おそらく市場の中も精通しているだろう。おつかい任務には最適な人員だ。
ニッキー、ニッキー……と、しばらく虚空を見上げてぶつぶつと考えていたアンナさんはポンと手を打ち笑顔を浮かべた。
「ええ、あの子はEだから今日は声をかけない予定だったけれど、ティナと知り合いで市場にも詳しいはずだから、お願いしましょうか。確か、奥にいたはずよ」
一度外に顔を出して、ニッキーもメンバーに入れるように他のギルド嬢に指示を出すと、次に連れてきた冒険者達を示す。
「さて、ティナ。マリアンヌが洋服、外套、食器とかを買いに行くんだけど、この中で、今来ていない二人に誰が一番体格が似てるかしら?」
縦横厚み的に随分差がある冒険者達から、比較的似た体型のメンバーを選び出す。私の主観だけだと間違いそうだから、ジルさんにも手伝ってもらった。…昨日の着替えについては、私にはやらせられないと言われて、ジルさんとダビデでやったから、正直、サイズはよく分からなかったんだよね。
「オーケー。じゃ、マリアンヌに頼んでくるわ。あぁ、大丈夫よ。荷物持ちも別に手配したし、今日はあの子、半休でね? 買い物に行くついでにかなり早いけれど、もう休める事になったのよ。本人は大喜び。でも、接触はしない方が良いから、ここには連れてこないわね」
連れてきた冒険者達をアンナさんが追い出し…いえ、丁重にお礼を言って退出してもらってから同じく、衣類として何がどれくらい必要なのか目安を書いて渡した板をプラプラさせながらそう言うと、足早に去っていった。
「あの、危ないって…」
話が途中になってしまったが、カインさんに続きを促す。
「ティナが落札したあの二人、訳有りなのは聞いたな? 救出に過激な方法をとってくる可能性が高い。周囲の人間の殺害を躊躇わない程には…な。
更に、貴族共がお前の能力に目をつけて拉致する可能性もある。だから、町中では護衛をつける事に決まった」
カインさんではなく、パーティーリーダーのケビンさんが口を開いた。
「本来なら24時間の護衛をとの意見も出たが、外、特にティナが住み家を展開しているのは、町から遠い深部だ。下手に人員を増やすより、お前が定期的に住み家の設置場所を変えて、誰とも接触しない方が余程安全と言う結論が出た」
「はい?」
「つまりだ。魔物が出る外の方が、今、町にいるよりも安全なんだよ。貴族に拉致されれば、お前は未成年だ。いくらクレフ老が後見に着いているとは言え、介入は厳しくなる。更には、元公爵一派が何処まで根を張っているか分からん。
良いか? ティナ、お前は数少ない、この町の冒険者ギルドの高位薬剤師だ。俺達、デュシスの冒険者は、なんとしてもお前を奪われたくない。信頼のおける口の固い古参達にはもう話が回り始めている。
万一、全てが片付く前にこの町に来るしかなくなったら、必ず俺達か、自由の風に連絡しろ。連絡がつかないなら、町に入る前に城壁で冒険者ギルドに連絡をとれ。必ず誰か信頼のおける人員がつく」
こんこんと諭された。
「えっと、もしかして、結構、深刻??」
まだ事態が把握しきれていない私への、これ以上の説得を諦めてケビンさんたちの矛先はジルさんに向かった。
「狼獣人、ジルベルトだったか。聞いての通りだ。お前の主は今、かなり危険な状況だ。その上、何処か危機感が足りない。
悪いがお前も目を配ってやってくれ。俺達は直接守ってやれはしない。いくらティナが後衛としては規格外に強いとは言っても、単独ではどうしても隙が出来るからな。
…新しく買った二人に対しても、油断するなよ? 一年近くも、殺す事を前提とした売買で生き残ってきた連中だ。どんな隠し球があるか分からん」
無言でジルさんが深々と一礼する。何か口を開こうとしたけれど、ジルさんの耳がピクリと動いて、元の姿勢に戻った。
「よう! 非常識娘!!」
「誰が非常識娘ですかっ! 誰が!! 失礼ですよ、リックさん」
中の雰囲気を一切気にすることなく、リックさんが入ってきた。私も脊髄反射に近い速度で言い返す。続いてアンナさんに連れられたニッキーも入ってきた。
「あれ? ニッキー、おっひさー」
大人達が考える現状では、私に接触するのも危険と判断しているっぽいから、てっきり会うことはないと思っていたニッキー達の登場に正直驚いた。
「久しぶり。ティナお前、何やってんだよ。まぁ、冬に依頼を貰えるのは嬉しいけどよ」
「うふふ、ごめんなさいね、ティナちゃん。ニッキー君にティナちゃんからの依頼だと伝えたら、どうしても会いたいと言われてしまって。
随分仲が良いのねぇ」
笑いながら柔らかくそう言うアンナさんの瞳は、余計な事を言うな! と釘を刺している。
「あ、な、ち、ちげぇよ!! 前に世話になったから、ティナの依頼なら会っときたいと思っただけだ!」
真っ赤になったニッキーを更にアンナさんがからかっている。
「あはは、ニッキーが依頼受けてくれるなら、安心だよ。流石に量が多くてさ、買い出しも大変なの。悪いんだけどよろしくね」
「ああ、任せろ! だけどよ、ティナ、危ない事に関わってたりしないよな? アンナさんにスカルマッシャーさんたちと一緒って、真面目に大丈夫か?? なんか昨日からギルドの雰囲気も違うしよ」
声をひそめて、ニッキーが確認してくる。おう、良い勘してるね。
「大丈夫だよー。って言うかなんの事? 寒くなるし、冬ごもりするつもりでさ、ポーション卸すのと挨拶に来たのよ。しばらく町に来ないから、食材なんかも大量に欲しくて、アンナさんに相談したらニッキー達に頼もうって事になったの」
巻き込む訳にもいかないから、もっともらしい嘘をついた。まだ疑ってるかな? 表情だけは笑いながら、ニッキーを観察する。
「ふーん。なら良いけどよ、なんかあるなら声かけろよ? 俺はここ育ちだからお前よりは詳しいからな?」
「ほらほら、ニッキー君。早く行かないと買い出しが間に合わないわよ? 今回の買い出し依頼のリーダーはニッキー君なんだから、しっかりね」
アンナさんが少々強引にニッキーを追い出した。振り返り私を見るニッキーに気楽そうに手を振り挨拶に変えた。
「良い勘してるなぁ、あのボウズ」
「全くですね。一瞬ヒヤリとしました」
口々にニッキーの勘のよさを褒めるスカルマッシャーさん達に、リックさんは驚いている。
「おい、なんだよ、ケビン。何か起きてるのか?」
「ここに、ランクは高い癖に全く気がついていないのもいるけどな」
首を振りながらこれ見よがしにため息をつき、カインさんが突っ込みを入れる。
「なんだよ、カイン。何が言いたいんだよ!」
じゃれ合う様に言い合いを始める二人を驚いて見つめていると、ケビンさんが事情を説明してくれた。
「いや、実はな。コイツは元パーティーメンバーだ。自由の風を作るときに女の尻を追っかけて別れたんだ。スカルマッシャーで一番の脳筋…本能に忠実なやつだった」
「へぇ。なら自由の風さんって最近出来たパーティーなんですね。それでCランクって凄いですねー」
「おう、非常識娘! 分かるか!! 俺達は最高に凄いんだぞ!」
昔の仲間の中にいるせいか、リックさんがいつも以上にはしゃいでいる。
「ええ、私の事を非常識娘と呼ばなくなったらもっと分かると思いますよ」
なげやりにそう合いの手を入れた。
「それよりもリックさん、他のメンバーはどうしてるんですか?」
本能に忠実な戦士のリックさん、力持ち魔法使いのアリッサさん、男性としては小柄だけど筋肉質な斧使いのジェイクさんに、優美な弓使いのオードリーさん、研究家肌のアルケミストであるチャーリーさんに、軽鎧戦士兼盗賊のメラニーさん。ちなみに前からペアで付き合っている、もしくは結婚済のリア充パーティーだ。夫婦喧嘩でパーティーが崩壊しないか、そればかりが気になるよね。
「ん? 外にいるよ。なんだか俺以外のメンバーは人見知りでな。こういうところは来たくないって逃げられた」
あー、そう言えば自由の風さんは私並に目立つの嫌いだったっけ。私だけの時はしゃべるんだけど、ギルドの中で口開いたの見たことないや。
「ただいま。ニッキーは買い物に出たわよ。待たせたわね、リック。おつかいに行って欲しいの」
席を外していたアンナさんが戻ってきた。私が大量の買い物を依頼したせいだけど、忙しくてごめんなさい。




