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27.魚釣り、え、……さか、な?

「あ、お帰りー。ちゃんと入れたかな?

 お湯の温度とか熱くなかった? 広さは大丈夫だと思うんだけど」


 しばらくして風呂から上がってきたダビデ達を迎える。

 大浴場には全身毛皮用の巨大ドライヤー、三方から温風が吹き出すドレススペースがあるから、ダビデの毛皮を乾かすのも簡単のはず。

 問題は湯温だけど、これも水風呂からぬるま湯、チョイ熱、江戸っ子まで多様な湯船があるから、どれかは入れただろう。寝湯、外ではないけど気分だけ露天風呂、腰と足の裏辺りから空気が出るジャグジーなどなど、湯船自体の種類も豊富。泉質も、硫黄、塩、ラドン等々選り取りみどりだ。


 ちなみに女湯は、それに加えて、エステ湯(湯圧でシェイプアップ効果がある)、ミストサウナ、足つぼが刺激される立ち湯なんかもある。


 推定神様の管理者(ちょいワルおやじ)様、絶対日本人の風呂文化を研究の上でこの隠れ家作ったんだろうと、確信を持った瞬間だった。


 水着ではなく、裸、もしくは湯着着用の上入るところからも、分かるんだけどね。


「お嬢様、お待たせしました。はい、大丈夫です。ジルさんは凄くビックリしてましたけど」


 新しい服に着替えたダビデはやっぱり可愛らしい。進化して少しだけ精悍さが増したかな?……可愛いけど。


 あと、ジルベルトのこと、ジルさん呼びになったんだね。落とし所が決まったみたいでよかった。


「ジルさ…、ジルベルトはどうでしたか? 嫌いじゃなかったら毎日入ってくださいね」


 魂抜けてる? 茫然自失って感じでフラフラしてるわ。


「いや、なんと言うか、凄すぎてなんと表現していいやら……。なんとなくだが、ティナの規格外の一端をみた気がする」


 あはは、確かに盥風呂からいきなり現代温泉施設だからねぇ。さすがに自販機は備え付けられていないから、喉は乾いてるはず。


「ダビデ、ジルベルト、二人共、テーブルについて、ちょっと待っててね」


 一応、風呂上がりと考えて、冷えたハーブティーを準備したんだよ。魔法って本当に便利だわ。


「お待たせ! 少しだけキッチン借りたよ。

 ダビデ、種族進化おめでとう! あと、ジルさん、いらっしゃい。ようこそ、我が家へ! これからみんなで仲良く暮らしましょう!!」


 よく考えたら、ジルさんの歓迎会もしなきゃいけなかったんだよ。本格的なご馳走はダビデに期待するにしても、私も何かしたかった。


 という訳で、ちょっと頑張りました。

 ダビデが好きなリンゴっぽい果実を一度焼いてから生地を乗せて更に焼く、タルト・タタン。

 どうやらジルさんは森の実り系が好きみたいだから、森で自作したドライフルーツと、前に町で買っていたフルーツを混ぜて、パウンドケーキの生地に入れて焼き上げたフルーツケーキ。ついでに、蒸留酒で香りも付けてある。アルコールを飛ばせば料理には使ってたから、買ってない訳じゃない。だからまぁ、分類的には、ブランデーケーキなのかな?

 残ったら、アイテムボックスに入れて、そのうち食べよう。


 いや、しかし、お菓子作りなんて、学生の頃にハマって以来だから、味が不安。あと男性って甘いものキライな人もいるから、どうだろう。一応、両方とも素材の味を生かす系で作ったつもりなんだけど、不安しかない。


 二人とも固まってるし。


「ダビデ、ジルさん、えーっと、もしかして、マズイ匂いでもしてますか? 久々に作ったので、失敗してるかも知れないんです」


 犬属だし、コレ食い物じゃない! って臭いでもしてたら申し訳ない。飯マズ属性はなかったハズなんだけど。

 ブンブン首を振る二人を見ながら、テーブルにケーキを並べる。

 カトラリーも準備してあるし、さて、お茶を飲みながら、まったりしようか。


「お嬢様、コレ……」


「ん? お祝いに焼いてみたの。少しドライフルーツ使っちゃったね。丸いのが前にダビデが美味しいって言っていた果物のフルーツタルト。

 細長いのが、ドライフルーツとフレッシュフルーツを混ぜたケーキにブランデーで薫りをつけたもの。

 どっちを食べる? 両方でもいいよ? ただし、久しぶりに作ったから、味の保証は出来ない」


 美味しくなかったらゴメンね。と謝りながら、お茶を入れてまわる。そもそも、異世界産果物で作るのは初めてだし。


「昨日の食事といい、この焼き菓子といい、ティナは料理人なのか?」


「えっ? 違いますよ、なに言ってるんですか。私よりダビデの方が料理上手です。ここの食事番はダビデですからね、怒らせるとゴハンが出てこなくなるかも知れませんよ?」


 一周して戻っても、どちらが良いか言わない二人に、味見の意味で両方とも小さめに切って渡す。


「本当はクリームとかもあれば良かったんですけど、ごめんなさい、時間なくて作れなかったの。 味見してみて、口に合う方を食べてね。あと、本当に美味しくなかったら食べなくて良いから」


 えーっと、二人とも無反応なんだけど、これ、どうしたら良いの?


「ダビデー、ジルさんー、何か反応して欲しいんですけど」


「お嬢様!!」


 おう!


 椅子を蹴倒して、ダビデが抱きついてきてくれました。

 よしよしと自分と同じ高さになって、少し撫でにくくなったダビデの頭を撫でていると、顔を押し付けてくる。しっぽはヘリコプターの様にグルグル勢い良く回っているし、うん、分かりやすくて良いね。


「あはは、喜んでくれてありがとう。ジルさんもね」


 よく見れば椅子に座ったままのジルさんの尻尾も、控えめに揺れている。ここの椅子、背凭れの下部には大きな穴が開いていて、何でだろうと思ってたんだけど、尻尾が外に出せる様に作られた獣人対応なんだろう。ちょいワルおやじ様、グッジョブ!!


「さて、食べよう!」


 その後は、和やかに会話が進んだ。ジルさんの過去も少し聞いたけれど、話難そうにしていたからダビデと私の日常生活が主な話題だった。


 明日以降、魚釣りをメインに過ごしたい旨を伝えると、驚いた様だけど快諾してくれる。ようやく当初の目的が果たせそうだ。


「あ、そうだ、ダビデ、首輪小さくなっちゃったし、良い機会だから付けるの止めない?」


「え、お嬢様……ボクを」


 嬉しそうに笑っていたダビデの目がみるみる潤む。


「え、ゴメン! なに、なんで泣くの?!」


「ティナ、俺達が首輪をしなくなるのは、手放される時だ。ダビデを売る気か?」


「違いますよ!! ダビデは首輪なんかなくても、ウチのコです! ただ邪魔そうだな、と思ってたから付けなくてもいいなら、そのまま外しちゃえと思っただけです」


「これだから……」


「ダビデ、ビックリさせてごめんね! 他意はないの!!」


「お嬢様、確かに入らなくなりましたから、申し訳ないのですが、ボクに新しい首輪を与えて頂けますか?」


「うん、もちろん!! あ、でも首輪って何処で売ってるんだろう?」


 表現が変だった気はするけれど、それ以上にダビデを安心させてくて即答した。前世では首輪はホームセンターとか、ペットショップとか、通販とか購入手段は色々あったけど、デュシスの町では見かけてないなぁ。


「市場で買える」


「へぇ。中央市場で買えるんですか? 何回か野菜を買いに行ってますけど、見つけたことないですね」


 だからどうして、頭を抱えるのかな?


「……奴隷市場だ。俺の更新と一緒に買っても良いだろうし、個別に買いに行っても良いだろう。悪いが俺の分も頼む。コレを外したら必要になる」


 金属製の首輪を指差し、自分の分もついでとばかりに頼んでくる。え、成人男子、首輪付き?? 嫌過ぎる。せめてデザインを考えよう。……チョーカー? うん、チョーカーくらいなら我慢できる。


「あー…、あのバイオレンス空間ですか。あんまり得意じゃないんですよ。せめて昼間行きましょうね」


 夜はマジで勘弁。ダビデの登録時で懲りたわ。


「あぁ、子供連れで行くなら、基本的に護衛が必要だしな。今後は俺がつくからいいが。仕置きやら、奴隷の躾やらが見たくないなら、昼を狙って行くのも手だぞ。昼間、特に貴族のお茶の時間前後は、高級顧客が来るからな。市場も一番お上品だ」


「へぇ、詳しいですね。ありがとうございます。では、お昼に行きましょう! ダビデ、出来たら奴隷市場に行くのは最小限にしたいから、ジルさんの更新と一緒に諸々するってことで良いかな?」


「はい! もちろんです、お嬢様」


「ありがとう!! その時に、何か町でお祝いをプレゼントするから、何が良いか考えてて!」


「いりません!! お嬢様はボクらに甘すぎます!!」


 ダビデの悲鳴と、堪えきれずに吹き出すジルさんの笑い声が響く。


 そんな一幕もありつつ、食べ物も飲み物もなくなったからお開きにした。この後は各自、自由行動にして解散した。


 ジルさんは買った荷物の整理、ダビデは夕食の支度、私は明日の為に、簡単なダビデの防具を作る予定。本格的なのは、また今度だ。


 なし崩しで、ジルベルトをジルさん呼びにしているけれど、本人からのクレームもないし、このまま定着しないかなぁ。やっぱりさ、言い辛いんだよね。



 *****


 一夜明けて、今日も快晴です! 絶好の釣り日和。さて、一週間で冬の間の魚GETを目指します!!


「おはよう、ダビデ。おはようございます、ジルさん」


「おはようございます、お嬢様」


「おはようございます、ティナ様」


 ジルさん?! 何があった!?


「え、どうしました?」


「ティナ様が俺の呼び名を変えられたからな。俺も弁えた口調に切り替えただけだ」


 にやりと笑って言ったって、説得力ないよ? 完璧に面白がってるよね??


 うん、なし崩しにしようとしたの、バレましたか、そうですか。


「ジ~ル~さん。呼び難いんですよ、勘弁してください」


 朝から涙目だ。そのままジーっと、見つめる。

 …見つめる。まだまだ見つめる。


「他人がいるところでは、ジルベルト、な」


 よっしゃー! 勝った!!


 視線逸らしたまま、ジルさんはぶつぶつ話しているけど気にしない。


「ジルさん、弱すぎます。お嬢様、あまりワガママはダメですよ?」


 初めてダビデに怒られた。三人っていいね。生活に変化がでてさ。


「ごめんね、ダビデ、ジルさん。さて、朝ごはんにして早く釣りに行こう!!」

 



 家を出て少し歩けば、そこは漁場。とうとう不凍湖で釣り大会です! って、ジルさん?! また、何を持ってるの!!


「なんだ? 不凍湖で魚を捕るんだろう?? そう聞いたから、昨日作ったんだが」


 そう言うジルさんの手には、先端に石が括り付けられた棍棒。例えるなら、原始人ハンマー。手作り感が半端ない。


「魚ですよね? マンモスじゃなくて、魚獲るんですよね??」


 不信感を滲ませて確認するけれど、ジルさんはまったく動じずに肯定する。以前、カインさんから不凍湖の話を聞いた後に冒険者ギルドで買ってすっかり忘れ去っていた、ノーマルな釣竿を持った私とダビデはジルさんの装備についていけない。


「お嬢様、魚ってハンマーで釣るものなんですか?」


「分かんない。少なくとも、私の常識では釣竿で釣るものなんだけど…」


 ジルさんに促されるまま、不凍湖に着いた。近くの昆虫でも探して餌にしようと石を引っくり返す私を止めて、ドロップ品の肉を針に付けるようにジルさんが促す。


「まぁ、いいですけど。肉食の魚もいるでしょうし」


 意味もわからず、言われるがままに餌を付け湖に投げ込んだ。この湖の魚って、ピラニア系なのかしら。


 しばらくするとダビデの竿に当たりが来る。数回浮きが揺れたと思ったら、釣竿ごと持っていかれそうになる。


 慌てて自分の竿を上げてから、ダビデのヘルプに入った。


 なに? ここ、何がいるの?! マグロか、サメ??


 強烈な引きに耐えながらジルさんを見るとこちらを手伝う気はないようで、竿の先を凝視している。


「ダビデ、せーので引くよ!」


 息を合わせて竿を上げる。竿の先についていたのは、狂暴そうなシーラカンス?! うそ、あれ深海魚じゃん!!

 足の代わりの鰭、上下に飛び出した牙、その一撃で小動物なら即死させられそうな、立派な尾。鱗も厚く、陽光を受けて輝いている。宙を舞っているから、大きさはわからないけど、50センチ以上はある。


 そして、そのお魚(?)さんを追うように、水面から飛び出してきた更に凶悪な水棲生物。

 頭は馬にも似た、何だろう、タツノオトシゴ的な何か。西洋的なドラゴンを彷彿とする顔立ち。身体は丸く、大きな胸鰭がついている。足と言うか下半身があるべき場所には、蛇の胴体から尻尾にかけてが長々とつながり、纏った水が光を反射してとっても綺麗。


 ゲッ! エンカウントしたよ。なに、これ、魔物??


 魔法を準備するより早く、後ろから影が飛び出す。良く見れば、獣相化したジルさんだ。いきなり本気モードで、ハンマーを振りかぶると馬蛇ドラゴンに叩きつける。


 陸地に叩きつけられた、ソレは力尽きた様でドロップ品へと姿を変えた。デカイ輪切りの魚の切り身、1個。


「お嬢様ー!!」


 ダビデの叫び声に振り替えれば、凶悪なシーラカンスが陸で暴れている。


 ジルさんの真似をして、魔法でそこらの石を持ち上げて脳天に叩きつけ始末した。ドロップ品に変わらないから、コレは普通の生き物らしい。普通、か??


「ほら、な? 必要だろう、コレ」


 原始人ハンマーを掲げながら、戻ってくるジルさんは得意げだ。


「なんなんですか!? コレ!!」


 陸に上がったら70センチくらいあった深海生物の面影を残した仮定・お魚さんを指差す。


「何って、旨い淡水魚。

 大体不凍湖で釣りをすると、コイツか、川蛇モドキか、底雷海老(そこらいえび)が釣れるからな。全部旨いぞ。攻撃されると地味に効くから注意も必要だから、素人には釣りは厳しいがな。

 あと、コイツら釣ると知っての通り、大体魔物がくっついて来る。一人は魔物対策で打撃武器を持つのが基本だな」


 当たり前の事を聞かれたとばかりに、何処かキョトンとした顔で話すジルさんに、全力で突っ込みを入れたい!!


 それより、なにより、ここの事を教えてくれたカインさん!!

 何が「川魚と魔物のドロップ品が取れる湖」よ! 普通なら危なすぎて近づけないわ!!

 常識人だと思ってたのに、とんだ地雷を埋めてくれたわね。


 今なら、自由の風さんたちを初めとしたリーベ迷宮で出逢った冒険者達が、頭抱えてた気持ち分かるよ。うん、認める。ここ、後衛のお子供様と獣人系最弱種族のコボルドが、お手て繋いで魚釣りとか言う場所じゃないわ。非常識娘と言われる訳だ。


「お嬢様どうしました? このお魚アイテムボックスに入れておいて欲しいです」


 落ち込む私を不思議そうに見ながら、ダビデが話しかけてくる。ダビデには全てではないけれど、良く使う技能については話してある。鑑定、アイテムボックス、ポーション作成技能に、他にも色々作れるよー。魔法も得意で色々出来るよー。武器もそれなりには使えるよ! ってくらいだけど。


「アイテムボックス?」


 ー…あ、ジルさん。


 そんな訳で、ジルさんにもカミングアウト。また頭ガリガリ掻きむしっていたけれど、最後には「ティナだしな」で終わりだった。勿論、隠れ家とかのアイテムも含めて、私の個人情報は秘密にして貰う約束。


「さて、話が逸れましたけど、頑張って魚釣り続行しましょうか! 目指せ、冬の間の魚類GETです!!」


 こうなりゃヤケだ。いっぱい釣ってやる!


 その後は、順調に漁が続いた。これ、魚釣りとか可愛げあるものじゃないし、漁だよ。漁。


 次に釣れたのは、川蛇モドキ。見た目は、太刀魚とリュウグウノツカイを足して、割らずにサイの角をつけた様な感じ。サイズは、最大で約五メートルにもなるらしく、不凍湖で一番食いでのある生き物らしい。その分味は大味だから、刺身とかではなくて、しっかり味をつけて食べるのがオススメとのこと。魔物は安定のジルさんハンマーで一撃だった。


 底雷海老は、黄色と黒のシマシマが目にも鮮やかなエビだった。この配色、何処かで見たことあるなぁ、って考えてたら、スズメバチそっくりだった。ちなみに大きさは小さいもので一メートル。髭の先から電気を発して、敵を倒して食べる、もしくは撤退するらしい。これ、群れでいるらしく、底は魔物も近づかない危険地帯だそうだ。


 なんでこんな危険な湖の中がそんなに知られているかと言うと、北にある山のダンジョンの1つをクリアすると、ここの湖底にあるダンジョンの入口に強制移転されるからだそうだ。


 昔、山からじゃなくて、いきなり湖に潜った無謀な冒険者(ゆうしゃ)がいたそうで、その時の体験談はギルドの大切な資料になっているのだ、と、後でアンナさんに教えてもらった。


 初日の漁は大漁だった。午後いっぱいかかって数えきれない魔物と仮定・魚類を手に入れた。一番多かったのは、狂暴なシーラカンス、次に川蛇モドキ、最後にエビだった。エビ、もっと欲しいな。エビフライ、好きなんだよね。小さく刻まないと揚げらんないけど。あー海老天丼もいいな。米欲しい。

 魔物の肉…魚肉も大量だし、もう今日で漁は最後にしてもいいかも。


「お嬢様、今日の夕飯は獲った魚料理で良いですか? 町で買った野菜と合わせます」


「うん、お任せで。ジルさんもかまいませんか?」


「ああ、それと夕食まで少し出てきても構わないか? 出来れば今の時期にしか取れないキノコを採ってきたい。旨いが痛みやすいもので扱いが大変なんだが、ティナのアイテムボックスに入れておけば、問題ないだろうしな」


 一日中、ハンマー振り回してたのに、ジルさんは元気だねぇ。でも、キノコ。私も採ってみたいかな?


「え、なら私も一緒に行きましょうか?痛みやすいなら採ってすぐに入れた方が良いでしょうし」


「いや、そこまでじゃない。それに、二人は湖に落ちただろう。風呂に入った方が良い」


 実は一度ならず、川蛇モドキが釣れた時に、湖に引き摺り込まれたんだよね。新品だったダビデのレザーコートも、水に濡れてすぐに浄化はかけたとは言え、染みになってしまったし。まだ身体が微妙に生臭い気もする。もしかしてジルさんにはキツイ臭いなのかな?


 あー、洗濯どうしよう? 今まではお風呂場でついでに洗っていたんだけど、今日は汚れ物多いし。よし、久々に隠れ家をカスタマイズするか!


「なら、キノコはお任せします。そのうちに一回私も採りに行きたいですけど。留守番してる間に、少しだけ隠れ家をカスタマイズします。帰ってきてから驚かないで下さいね!!」


「……あまり、派手なことはしないでくれ」


 どんな予想をしたか知らないけれど、そう言ってジルさんはハンマーを右手に、そこらの蔦で編んだ目の荒い袋を左手に持って森の中に消えていった。


 ダビデと二人で隠れ家に戻る。


「お嬢様、今日の夕飯のメニューはヒミツです。覗いたらダメですよ?」


 そう念を押してから、ダビデはキッチンに籠ってしまった。さて、私は地下二階にあるボス部屋、もとい主寝室に向かおう。


 相変わらずの威圧感がある扉の前で靴を脱ぎ中に入る。向かうはベットサイドの水晶球だ。


 水晶に手を翳すと、中から光が漏れ頭のディスプレイ状に選択肢が展開される。今回選ぶのは、使ってない尋問室の変更って、あ、初期配置は変えられないんだ。残念。前回はキッチンを動かしただけだから、気がつかなかったよ。


 では、改めまして部屋の追加。洗濯室(ランドリールーム)ってあるかな? あとついでだから、いちいち風呂場まで行くのも面倒だし、部屋の近くにお湯も出る洗面所も作っちゃえ。


 ダビデを驚かさない様に、キッチンは変更しないように気をつけて、隠れ家をカスタマイズする。本来は一度アイテムに戻してからやるべきなんだけど、魔力消費が上がるだけで即時変更も可能だ。


 まずは、地下一階の寝室の奥、下り階段の手前に洗面所、反対側の壁際に男女別のお手洗いを作る。

 そして、今までは水回りのほぼ全てが集中していたお風呂場、男女別の脱衣場からそれぞれの洗濯室に直接入れる様にした。勿論廊下からも入れる。お年頃な男性もいることだし、私に見られたくないものもあるだろうから、洗濯室は男女別に作った。

 タイル張りの床に、壁際に設置された大容量斜めドラム、乾燥機能付き。その斜めドラムが3つと、昔あった縦型の上から入れるヤツが2つ。これは布団も入りそうな大きさだ。

 広く作られたランドリールームには物干し台と竿のセットが3組ずつ置いてあり、空気が動くようにか天井にはプロペラがゆっくりと回っている。

 地下、それも風呂場隣接だとは思えない、カラリと乾いた空気だ。


 ー…ちょいワルおやじ! 自重せい!!


 この新しい部屋を見て、堪えきれずに心の中でツッコミを入れる。確かに衣食住、特に住はこの隠れ家さえあれば問題ないだろうが、オーバーテクノロジー過ぎだろう!!


 沢山の茸を抱えて泥だらけになり帰って来て、案の定頭を抱えたジルさんと、驚きすぎて反応出来ないダビデに説明するのが非常に面倒だった事だけは、ここに明記しておく。


 ちなみに、その日の夕飯は、アビージョ(魚介の油鍋)でした。焼きたてバゲットと、ニンニク風味で食べる海老の味がとっても美味しかった。



 *****


 そんなこんなで一週間、瞬く間に過ぎた。時々、ジルさんが頭を抱えていた以外は平和な毎日だった。魚も茸も大量に保存したから、今日町から帰ったら、また住み家の設置場所を変える予定だ。


「ダビデ、ジルさん、準備はいいかな? そろそろ、デュシスの町に向かおう!」


「はい、お嬢様」


「あぁ、問題ない」


 さて、では、行きますか! って、大雪だ!!




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