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お子さまたちと食事会(本編終了直後)

感想でダビデ成分が足らないと言われたので(*・∀・*)ノ

「みんなの頑張りで、パレードが大成功しました。私からの感謝の気持ちを込めて、お料理を準備しました。楽しんで下さいね」


 出来るだけ優しく微笑んで、穏やかに開会の挨拶をする。目の前には、パレードに参加した子供たちと、ジルさん家の子供を初めとしたリベルタ政府で働く親を持つ子供達。そしてガイスト村のコボルド達が緊張でガッチガチになりながら座っている。


 マナーなんかうるさく言わないから大丈夫だと、ご招待の時に念を押しておいたけれど、それでも女王臨席の食事会はみんな緊張してしまっているようだ。


「うん。美味しいね。いつもありがとう」


 だれも口をつけないから、率先してスープを一口。そして隣に座っているダビデにお礼と感想を伝える。今日の食事会はダビデもフル参加だ。久々の一緒にご飯で私も嬉しい。


「いえ、そんな。当然の事をしているだけです」


 ダビデはパタパタとリズミカルに尻尾を振りながら、言葉だけは謙遜した。私たちの会話を待っていたように、引率のマイケル先生が次にスプーンに手を伸ばす。それと同時にあちこちのテーブルで食器を手に取る音がした。


 あー……コボルドさん達は、ダビデの動きを模倣してるね。


「おいしぃー」


「わぁ!」


「うまうま」


「ビミでございまぁす」


「美味しいワン!!」


 一口スープを含んだ途端に、子供達やコボルドが歓声を上げる。一部の子供は目を見開いてから、無言でがっつき始めていた。あの子供達は、スプーンも握り持ちだし、もしかして大変な生活なのかな? 後で誰かに確認して貰おう。そう決めて壁際に控える大人たちに目配せしてから、他のテーブルを確認した。


 コボルドたちにも料理は好評のようだ。「食いしん坊のアニキ、やっぱスゲェ」って声が聞こえる。


 テーブルには、今日出される料理がデザートを除いて全て並んでいる。給仕は必要ないけれど子供達と犬妖精がお客様だ。何が起きてもいいように、各テーブルに一人以上の大人が配置されていた。


 もちろん食材も子供向けに切ってあり、味付けも刺激の少ない、子供の舌に受けそうなものだ。今日の料理はイングリットさんを初めとしたリベルタ城下のママさん連合が全面協力してくれた元で、ダビデが精魂込めて作り出した自信作だった。細やかな心配りに感謝しつつ、食事を楽しむ。


 もちろん作成者がダビデだから、犬妖精のウケもいい。あっちこっちで揺れる尻尾が可愛いわぁ。ピコピコご機嫌に動く耳も可愛いし、もう、撫で回したい!!


 内心悶えながら確認を続ける。


 食事会を開くきっかけとなったジルさん一家の子供達も楽しめているみたい。それに他の子供たちも。食事会を開いて良かった。


 パレード終わりに、イングリットさんに泣きつく子供達を見つけたときには焦ったわ。なんで自分達はパレードに出られないのかと泣く子供達を慰めるのに忙しく、周囲は私の帰還に気がついていなかった。それを幸いに詳しい事を立ち聞きしたのだ。


 そこで初めて、ジルさん一家を初めとしたリベルタ中枢にいる子供達や赤鱗騎士団の子供達は、マイケルさんの学校に通っていない事を知った。


 中枢にいる子供達はもっと早くから高度な教育を施される。騎士を目指す子供達は赤鱗の養成機関で過ごすことが決まっているそうだ。


 子供達は、読み書き、信仰心、忠誠心、護身術に礼儀作法等々、国に直接仕える者に相応しい教育を幼少期から徹底的に叩き込まれる。その中から更に選別されて、私の側に上がる子が決まるそうだ。


 日本でも私立と公立があったからそんな感じなのかと一瞬納得しかけたけれど、それが差別になっても嫌だなと思い直す。何より疎開先で仲良くなった子供達と、また会いたいと泣いている。


 それでまあ、今回の再会をお膳立てしたった訳だ。各家庭の教育方針に口出しは出来ないけど、せめて再会くらいはさせてあげたい。それにダビデも家族と再会させたかったしね。


「これ、かわいい!」


 ウサギの人参を見つけた女の子がスプーンでくすって見つめている。


「こっちはくまだ!」


 熊型のハンバーグを見つけた子供が、フォークを刺すと同時に近くの子供が悲鳴を上げる。


「な、なんだよ! びっくりさせんな」


「くまさん、かわいそう……ひっぐ」


 今にも泣きそうになっている子供の目には一杯の涙。ありゃこの子、くま耳だ。しまったなぁ。

 周囲の大人たちに動揺が走る。


「あらあら、森のくまさん、お兄ちゃんに食べられちゃったね。ほら、こっちのくまさんも美味しいから食べてみてってお嬢さんに話してるよ」


「え、でもくまさん、痛くない?」


「大丈夫、ほら、ぼくの耳を食べておいしいよって」


 子供を持つ一人が素早く近づき話している。あそこはあのまま任せておけば大丈夫そうだね。


「……少し可愛らしく作りすぎましたか?」


 私の助言を受けて、日本的デブォルメされた可愛い動物達が遊ぶ皿を見ながら、ダビデは悩んでいる。

 可愛らしいのは食材だけじゃない。色とりどりのソースで絵を描いたのは、普段は絵描きをしている住人だ。女王自らの要請って事もあり、物凄く気合いが入った結果、一種の芸術作品になっている。


 ファンシーな素材の可愛らしさと盛り付けの芸術性で、食べるのを躊躇するレベルに仕上がっていたけれど、そうか、子供にとっても食べにくくなっちゃったか。


 目にも楽しくって思ったのに、空回っちゃったなぁ……。






 ………………そんな心配をした時もありました。


「待てー」


「ボクの~!!」


「食わないの? もーらい!!」


 会場は現在カオスと化しております。


 いや、最初は大人しかった子供達ですが、大人に怒られないと分かった瞬間、少数の悪ガキが暴れだしまして。今ではワイワイ、ギャーギャーと耳を刺す音に満ちています。


 大きな音にビックリしたコボルドたちが椅子の上で小さくなってるし……。これはそろそろ止めないとな。そう思って、仕上げのデザートを出すことにした。


 大人達が空いた皿を下げて、新しい皿を準備する。その間に私たちは一度廊下に出た。


 ボンッ!!


 扉が閉まった瞬間に、魔法の気配がして飛び上がってしまった。この気配はマイケルさんだ。


 静かだけれど、威厳のある声が漏れ聞こえている。


「びっくりした……」


「驚きましたね、お嬢様」


「流石、マイケル殿」


「ん? ジルさん?」


 ダビデの逆立つ毛並みを撫でつつ、早鐘を打つ鼓動が落ち着くのを待つ。その間、中の音を聞いていたらしいジルさんが、感心した様に頷いている。


「マイケル殿が指導した。中は静まったな」


 あの騒ぎを一発で静めるのか。凄いな、流石小学校の先生!! いや、違うか。


「おう、待たせたか?」


 奥の廊下からワゴンを押したマギラス殿が表れた。大きな晩餐会でダビデ一人では回らないと、ワハシュに人手を貸して欲しいと頼んだら、宮廷料理人がお弟子さん達を引き連れて来てくれたんだよね。


 今日の子供達の晩餐会の噂を聞き付けて、更にヘルプに来てくれた、いい人だ。お陰さまでダビデも食事会に参加できた。


「ほれ、陛下ご希望のプチケーキだ」


 この世界では甘味は高価なものだ。でも私にはオススメシリーズという強い味方がいる。調味料を出すアーティファクトから砂糖を取り出す事数日。二回の晩餐会を賄う十分な量が確保できた。ついでに赤鱗のエッカルトさんが熊獣人らしく、蜂型モンスターの巣を攻略して大量の蜂蜜もゲットしてきてくれた。


 負けじと別の師団が牛乳や卵と言ったお菓子作りに欠かせないドロップ品を集めてきてくれた。牛乳や卵が獲れる事を知らなかったから驚いたけれど、ハルトが解放した所から更に奥地に進むと、ドロップする魔物が出るそうだ。


 そんな訳で、今回のデザートは豪華版です。


 輸入品のフルーツをふんだんに使ったプチケーキ達。イチゴ、キウイ、オレンジ、リンゴ、桃メロンにスイカ味等々、季節感丸無視のケーキ達が可愛らしく並んでいる。これから好きな物を選んで貰って私が配るんだよ。ちなみに何故かババロアやフレッシュフルーツも混ざっていた。


「さぁ、お嬢様、配りましょう!!」


「そうだね! 早くしないとマイケル先生効果もなくなっちゃうかもしれないから」


 静かな今の内が勝負だ。


「……多分、大丈夫だと思うが」


 ポソッとジルさんが何かを呟いていたが上手く聞き取れなかった。


 ダビデに手伝って貰いながら、ワゴンを押して中に戻る。マギラスさんもおかわり用のケーキを運んでくれている。


「わぁ……、ぁ……」


 元いた席に行儀良く座り、沈黙が支配する部屋に戻る。全員の視線が私には集中して驚いたわ。


 ケーキを見つけた子供達は歓声を上げそうになったけれど、はっとした様にマイケル先生を窺う。


 えっとマイケルさん、ナニやったの。こんなに子供に怯えられるなんて。それに壁際の大人達。感心してないでフォローして。


「これは美味しそうですね。皆さん、頂きましょう」


「「「「ワァ!!」」」」


 微笑むマイケルさんを確認してから改めて歓声を上げる子供達のテーブルをひとつずつ回って希望のケーキを配る。


 最初は一人三つまで。食べ終わったらおかわりは自由だ。今日のデザート食べ放題について親御さんの許可はとっている。


 私一人では手が回らないから、アガタさんやらレイモンドさんやらにも手伝いを依頼していた。


「「「「「いっただきまーす」」」」」


「「「「「おいしい!!」」」」」


「「「「「「ワンワン♪♪」」」」」」


 子供達に圧倒されていたコボルド達もケーキはお口にあったみたいた。すぐに食べきって中央にあるケーキワゴンに殺到してくる。


「大丈夫です、一杯あるからゆっくり食べてください」


「えー! でもコボルドさん、無くなりそうで」


「どのケーキがいいですか?」


「そ、そんな、陛下手ずからなんて」


 子供達はダビデが、コボルドさんたちには私がおかわりを盛る。


「いつもありがとう」


「ガイスト村で一生懸命働いてくれていると聞いています」


 一言ずつでも言葉を交わしたくて、話ながら給仕をする。周囲からは凄く抵抗されたけれど、やって良かった。最初こそ恐縮して会話にならなかったけれど、慣れてきてくれたし。


「陛下は食べないの? 美味しいよ」


「コボルドさんも食べよう?」


 何度目かのおかわりの時に、そう子コボルドと街の子供に誘われてテーブルを囲む。給仕はレイモンドさんたちが変わってくれた。


 楽しい時間は瞬く間に過ぎて満腹になった子供達は迎えに来た大人と一緒に帰っていった。ダビデも今日は久々の家族水入らずで過ごすらしい。





 隠れ家に戻り自室に向かう。


「陛下、今日はありがとうございました」


 一日護衛として控えてくれていたジルさんが、控え目に話しかけてきた。


「ん? 何が? 今日は楽しかったですね。子供と犬。癒されたわ」


「パレードに参加出来なかった子供達の為に、この会を開いてくれたんだろう?

 そうでなかったら、我々や神官たちの子供まで招待する必要はない」


 ありゃ、やっぱり気がつかれたか。


「…………赤鱗騎士団や、文官たちとも話をして、今後、子供達を城下の学校に通わせることにした。マイケル殿に許可もいただけた」


「また急ですね」


「我々の教育法を聞いたとき、陛下が微妙な顔をしたからな。アルフレッドにも相談して幼児教育の一環として通わせることにした」


「え、何故そこでアルフレッド」


「国の一体感を作るために、幼少期同じ環境で過ごすことも重要だと言われた。通学前の朝や、学校が終わった昼から今までの教育を行える」


「そう……アイク君達が喜びそうね」


「ああ、来年からは通わせるからな。友人も出来るだろう。

 それで、頼みがある」


「何ですか?」


「学校の専門教育に、神職科と騎士科を作りたい」


 おーい、ジルさん、またいきなりだね。まだ専門課程は計画段階でしょうが!


 マイケルさんも本格稼働は来年の予定のはず。


「無論、俺達の子供達だけと限定はしない。才能ある子供を集めたいからな。講師は引退した騎士や神職が勤める。駄目か?」


「いや、こちらからお願いしたいくらいですけど……。うん、そうですね。今日くらいは仕事から離れようと思っていたんですけど、仕方ないです。

 ガイスト村分校も来春くらいから作りたいんですよね。とりあえず先生はカルデナル神官に頼むとしても、色々打ち合わせなくちゃならなくて。

 ちょうどいいから、アルフレッドも呼びましょ」


 今日くらいは癒された気持ちのまま寝たかったけれど、出来立ての国だからそうもいかないか。


 私の部屋に向かっていたけれど、方向転換して執務室に向かう。道にいた騎士の一人にアルフレッドを呼び出すように命じた。


「遅れて申し訳ございません」


 執務室に戻り、ほどなくしてアルフレッドが現れた。お風呂を済ましたのか、お湯の匂いがする。


「休みのところごめんね」


「いえ、その様な。すぐに呼び出しに応ぜず申し訳ございません。この怠慢の罰はいかようにも」


 私たちを待たせていた事に気がついたアルフレッドは私の前で跪く。


「そういうの、要らないから。ほら立って。

 来年からの教育改革の話し合いをしたいんだ」


「は、かしこまりました」


 頷くアルフレッドを見て、私も気合いを入れ直す。ジルさんたちの希望もガイスト村分校も問題なく決まった。


「全校、全教室に陛下の肖像画を飾り、授業が始まる前に感謝の気持ちと誓いを述べさせるべきでしょう」


「当然、銅像も必要だろう? 剣を捧げる主の姿は子供の頃から知っておいた方がいい」


「いりません!! 政治と宗教と教育は分離すべきです!! 第一、肖像画とか銅像とかって、何の罰ゲームですか!!」


 私たちの議論は白熱し、深夜まで及ぶことになった。眠かったし翌日の仕事も大変になるけど、負けられない戦いがここにあった。








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