SS-ダビデの日常
ボクはダビデと言います。
心優しいお嬢様に文字通り拾われて、お世話になっています。
お嬢様は、基本的にのんびりと暮らされる事を望んでおられるせいか、滅多にボクらへ命令しません。あ、ボクらと言うのは、狼獣人のジルベルトさん、ゲリエの国の元公爵アルフレッド様とその従者のオルランド様の事です。全員が特殊奴隷に分類される、永年奴隷です。
そんなボクらですが、お嬢様の命令で同居人と言う扱いになっています。そしてボクらのご飯は、恐れ多い事ですが、お嬢様と同じものを頂いています。
お嬢様がお持ちだった、様々なマジックアイテムや見たことも聞いたこともない、それも貴族として美食を常としていたアルフレッド様すらも食べたことのない、沢山の調味料を毎日使わせて頂いています。
あ、アルフレッド様の事は、アル様。オルランド様の事は、オルさんと呼ぶように命令されているんでした。申し訳ありません、お嬢様。
ここにはいないお嬢様へ、ペコリと頭を下げてから今日のご飯を考えます。
…先日お嬢様は、故郷の料理の話をされていました。はんばーぐやぎょうざ、あと、しちゅーやかれーなど聞いたことのない名前の料理でした。お嬢様の好物は、「ひれかつどん」と言う名前だそうです。お作りしますと言うボクに、お嬢様は食材が足らないから無理だと淋しげに笑われました。お作りしたかったのに、とてもザンネンです。
そう言えば、お嬢様は食材の名前も時々変になります。ボクらは奴隷ですから、疑問に思っても尋ねることはないのですが、なぜモンポの実を「じゃがいも」、ラハノを「にんじん」と呼ぶのでしょう? 他にも頻繁に違う名前で呼ばれます。
話が逸れてしまいましたが、はんばーぐをでみぐらすソースで煮込んだ物が食べたいと先日仰っていたので、今日はそれを作ってみたいと思います。
幸運な事に、調味料の中に「でみぐらすソースの素」はあったので、お湯で溶かして使おうと思います。
メインのお肉ですが、ドロップ品のお肉と町で買ってきたお肉を、お嬢様のマジックアイテムに入れて粉々にします。それに、野菜と古くなって乾いたパンを砕いたものを混ぜて、みんなで競争した卵をひとつ入れました。
お嬢様いわく、たわらがた?と言う形にして、掌に打ち付けて空気を抜くそうなんですが、たわらがたってなんでしょう?
……ッ!!
考え込んでいたら、いきなりシッポをふんわりと撫でられて、飛び上がってしまいました。
「お嬢様!! びっくりさせないでください」
いつの間にかキッチンにいたお嬢様を見上げて、文句を言います。これも本来は許されざる事なんですが、お嬢様はボクが文句を言うと、嬉しそうにします。
「ゴメン、ゴメン。魅力的な尻尾が目の前にあったから、つい、ね」
嫌な事はイヤだと言うこと。ボクは肉球パンチでも、キックでも良いよ。ある意味ご褒美だからと、かなりアブナイ事を前に仰っていたお嬢様は、今日もボクに怒られて、嬉しそうに笑っています。恐れ多い事ですが、お嬢様に尻尾があったら、嬉しそうにパタパタ揺れていることでしょう。
「お嬢様、折角のはんばーぐを落としてしまうところでした」
ボクが耳をへたらせて、そう訴えると、慌てて謝ってくださいます。万一落としてもお嬢様分だけ作り直して、ボクらは落とした物を頂くだけなんですが、お優しいお嬢様はそういったことも嫌がられます。
結局、お嬢様に作り方を伺いながら、美味しそうに煮込みはんばーぐが出来上がりました。
付け合わせの野菜や、スープも合間に手早く作ります。はんばーぐの火加減を、お嬢様が見ていただけるという事で助かりました。
付け合わせの野菜やスープも、お嬢様用とボクら用を分けて以前作ったら、叱られてしまいました。
お嬢様がお食べになる食材の、皮を分けて頂いて、調味料少しだけ頂戴して作った、永年奴隷が食べるには恐ろしく上等な食事だったのに、何故だったのでしょう?
それ以来、付け合わせやパンすらも、お嬢様と同じものを頂いています。
「ダービデ。何を考えているの?」
いけない、過去を思い出していたら、お嬢様をお待たせしてしまいました。盛り付けをして、お食事にしなくてはいけません。
「いえ、お嬢様、はんばーぐはひとり何個かと思っていました」
「あはは、いくつでも良いよ。煮込んだのはひとり1個だけど、焼いたのは一杯あるし、ソースを変えてみんなで楽しもう。
シソと大根おろしで、和風ハンバーグも良いよね」
朗らかに笑うお嬢様に、感謝の念は絶えません。ただ、お嬢様、ボク、少しだけお嬢様が『和風』って言うときに使う、オダシの薫りが苦手なんです。
嫌いなものは食べなくて良いと仰ってくださるお嬢様の、優しいお言葉を盾に、和風の料理を作っていないのですがお許し下さいますか?
その代わり、普段の料理は美味しいもの、お嬢様のお好みの物を出すように頑張りますので、お許し下さい。




