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エピローグ

「女王陛下、万歳!」


 そう口々に叫びながら、この日の為に選ばれた国民たちは大通りへの繰り出していく。思い思いに着飾った姿は誇りに満ち晴れやかだ。


 小売りの商人達は稼ぎ時だとパレードへの参加を断ってきたが、その代わりに歓楽街から芸人達が参加していた。


 パレードの先頭を飾る彼らは特に華やかだ。腕に下げた篭から、時折花吹雪を撒き散らす。


 それ以外にも集団で優雅に踊る者。数人でコミカルに動き、子供達が歓声を上げ追いかけるピエロ達。妖艶な美貌で男達の視線を釘付けにし笑む者。ルールを守る歓楽街の住人たちは、国民達からの支持も受けていた。


 軍人にはない線の細い優美さで、女性達の黄色い声を一身に浴びる青年が見物客に花を渡す。花吹雪を撒く回りとは対照的に、妖艶な美女は捧げられた花束に顔を近づけていた。


 そんな衆目を集める集団の後ろからは、様々な種族の子供達が、数人の大人に引率されて手に持った小さな花束を振りながら歩いている。


 沿道に駆けつけた親達や近所の住人を見つけた子供達はピョンピョンと跳び跳ね喜びを示す。


「マイケル先生、みんな見てるよ!」


「父ちゃんだ!!」


 羞恥の中でも、口々に喜びを口に出す子供達にマイケルは微笑んだ。


「みんな、広場に入ったら花束を高く掲げるのを忘れないように」


「はい!」


「うん! 神様に捧げる花束だもんね」


 真面目に頷く獣人の少年に、訳知り顔で話す人間の少女がいる。


「ほら、君も笑って」


 緊張で強張った顔のまま、命綱のように花束を握りしめる少年に向かってマイケルは話す。


「え、でも、ボクは……」


「ヨーゼフ、君は半魔の村から来た大切な友達だよ。大丈夫、誰も何もしないし、させない」


 側頭部から生えた角を隠すように、フードを被ったままの幼児といってもいい少年をマイケルは抱き上げた。


「あー! ヨーちゃんずっこい!!」


「先生、ヨーちゃんばっかり」


 ヨーゼフが抱き上げられたことに気がついた生徒達から声が上がる。子供達の一部は半魔の村に疎開していた。ヨーゼフとも仲が良い。


「私の生徒が村でお世話になりましたからね。これくらいはしますよ。ほら、ヨーゼフ。これで誰も君には手を出せない。それに、ほら、見てください」


 パレードが進む道で待っていた一人の少年が、ヨーゼフを見つけて駆け出す。護衛の騎士に止められかけたが、身ぶりでマイケルが通すように指示を出す。


「ルフ!」


「ヨー坊! 久々だな!!」


「誰が坊やだよ! 同じ年だろ」


 怒ったヨーゼフはマイケルの腕から飛び降りると、ルフと呼ばれた少年と手を繋いで歩き出す。獣人族の中でも成長の早い山羊族と成長の遅い半魔の少年。同じ年でもその見た目は大きく違う。だが二人は親友だった。


 山羊族であり家族で行商を営むルフ……ルフトゥーもまた、女王から急遽参加を頼まれたらしい。それを知り大人の腕の中でも怯えていたヨーゼフに笑顔が戻る。


「何やってんだよ、お前。せっかくの晴れ舞台、カッコイイのにもったいない!」


 そう言うと角を隠していたフードを強引に下ろさせた。大人達に一瞬動揺が広まるが、子供達が笑顔でルフトゥーとヨーゼフを囲むと、嫌な気配は霧散した。


「ほら、な!」


「うん!」


 子供達は自身も気がつかぬまま、歴史に残る瞬間を仲良しの友達と共に迎えていた。




 隊列は進む。

 子供達の後ろからは、晴れ着の街の住人たちが通りすぎた。


 その後ろから現れた可愛らしい集団に観衆達は笑顔で答える。


「お兄ちゃん、みんな見てる」


「大丈夫だよ。リベルタの人達はいい人だ。それに食いしん坊にも頼まれただろ。あいつ今日の晩餐を作るのに忙しいから、こっちは頼むってさ」


 小柄な芝犬一族がヒソヒソと話している。


 ようやく実った恵みを手に、大通りを歩く数十人の村人。その半数は犬妖精で、残りの半分が人間と妖精だ。小さな妖精に耳やヒゲを引っ張られて困る犬妖精の姿はどこまでも微笑ましい。


「大丈夫です。ほら、皆さん手を振ってくれていますよ」


 柔らかく微笑んで犬妖精を誘導するのは、カルデナルだ。後ろからは緊張でガチガチになったガイスト村の村長たちが続く。


 幻想的だが微笑ましい風景こそが、リベルタの農村部。それを象徴する隊列は滞りなく進んでいった。


 次に現れた人影を見つけて、観衆達から大きな歓声が沸き上がる。


「勇者!」


「ハルト殿!」


「ステファニーちゃん、こっち向いてくれ」


「バカ、ここはケーラさんだろうが」


 女王から贈られた勇者の旗をパーティーメンバーの二人が持ち、残りの二人もまた着飾り勇者の先導を果たす。美女、美少女揃いの勇者パーティーはそれだけで視線を集めた。


 数歩離れ勇者ハルトが、神から与えられたと言われる武器を装備し、マントをはためかせて歩く。マントの背中には、勇者の紋章とされ旗にも描かれた狩りをするグリフォンの姿が描かれていた。


 光を反射し輝く白銀の飾り鎧と、背後を飾る踊り猛るグリフォンのマント。まるでお伽噺の一場面を切り取ってきたかのようだ。


 そこのすぐ後には冒険者達が続く。先頭はギルド職員。マスター・クルバが先導だ。行進とは言え、隊列すらも作っていない自由に歩く冒険者達。彼らには、住人たちから日頃の感謝の言葉がかけられていた。


 冒険者達の最後に、少し離れて歩く一団がいる。その姿を見つけ、一瞬静まった歓声だが一拍おいて更に音量を増して響き渡った。勇者を称える声と同等の熱を帯びている。


「リベルタの冒険者!」


「俺たちリベルタの象徴!」


「故郷の誇り!」


「いつもありがとよ!!」


「これからもよろしくな!」

 

「る・つ・ぼ! る・つ・ぼ! る・つ…………!!」


 最後はパーティー名を高らかにそして繰り返し叫ばれた。坩堝が足を進める先に、そのコールは伝播していく。住人たちの歓迎の声を聞いた異種族混合パーティーの坩堝達は、圧倒されつつも感動しているようだ。


 六人が視線を交わし、タイミングを合わせて武器を頭上に掲げる。その衣装はいつもの冒険者としての物だが、たすきの様に掛けた布だけが違っていた。


 今回の祭りの為に発表された「リベルタ国旗」と、女王の記章が刺繍されてその飾り帯こそが『リベルタの冒険者』の証であり誇りだ。


 坩堝が去った後からは、赤鱗の旗が見え始める。


 こちらは冒険者たちとは違い、一糸乱れぬ行進を見せつけた。警備にも人員を出しているため、参加しているのは千名程度だが、それでも精鋭揃いの行軍に市民達は感嘆の声を上げる。



 そんな遠くからの歓声を聞きつつ、待合室にて座る姿があった。急遽建てられたらしい仮設の建物であるが、それでも頑丈に女王が自分の出番を待つ間、少しでも快適に過ごせるように工夫が凝らされている。


 女官や侍女達の技術の全てを注ぎ込まれて、着飾ったその姿は天上の美貌と言っても過言ではない。


 この日の為に作られた薔薇色のガウンを羽織ったドレス。その胸元やドレスから覗くスカートの部分はクリーム色の地にに黄金の刺繍が施され、袖口から覗くのは純白で繊細な総レースの袖だ。


 動くのにも気を使いそう。そう話した女王は、準備されたお茶にも手をつけずに、ただ静かに座している。


「リュスティーナ様」


 恭しく頭を下げるレイモンドへティナは視線を向けた。


「時間?」


「はい。ようやくこの日が参りましたな。私の息がある間に、このような立場を得られるとは夢にも思いませなんだ」


 そう話すレイモンドの姿は貴族の装いである。それも上級と呼ばれる他国では伯爵以上しか身に纏う事を許されないだろう華美なものだ。


 二対の角、一対の羽を背にしたその姿はまさしく伝承における『魔族』のものだ。その姿を見た女王は、頼もしげにレイモンドを見上げ口を開く。


「大げさだよ。それにこれは、まだ始まりの一歩だ。

 私はもう悩まない。逃げない。私の望みの為に行動する。そのためなら何でも利用しよう。見世物にくらい喜んでなってなる。

 私がやることの評価なんか、ずっと後の歴史家と呼ばれる人間がすればいい。これから世界がどう変わるのか、変わらないのかは私も分からない。でも、後悔はさせないよ

 さぁ、頑張ろう」


 気合いを入れて立ち上がる女王にレイモンドは腕を差し出した。


「既に国交を結んだのが四ヵ国。

 今日までに条件を呑む事を前提に、国交樹立交渉に入ったのが六ヶ国。

 態度保留が十ヶ国。明確な反対、もしくは敵対が七ヶ国。

 それ以外の国は沈黙を貫いてるからね。今もアルフレッドが各国大使をおもてなししてるけど、夜の晩餐会で頑張って切り崩さないと……」


「晩餐会には二十ヶ国以上が参加の予定でございます」


「晩餐会の料理はダビデだけじゃ荷が重いから、マギラス殿にも加勢をお願いしてるし、侮られることはないと思う。国力を見せるためのパレードだけど、本当はそんなの関係なく、みんなが楽しめればいいのにね。

 私たちは脅威ではない。世界中がそれをこのパレードで分かって貰えればいいけど……」


「…………いつの日は分かってもらえる日がまいりましょう。既に我々半魔も含めて、異種族混合国家が認められ始めています。それだけでも夢のようなことです」


「これだけじゃ終わらせないよ。今のままだったら、私が死んだら……いや、王の位を退いたらすぐにひっくり返される。そんなことはさせない。必ず変えて見せる」


 決意を込めて語る女王に、国民を代表してレイモンドは頭を下げた。


 レイモンドの手を借り、女王はこの日の為に作られた馬車に座った。華美な装飾を施され、座席は高位の魔物の毛皮で飾られた一目で高価とわかる品だ。それを純白のユニコーンが二頭でひく。


 女王が座ったことを確認して、レイモンドも急いで騎乗し全員が配置につく。


 女王の馬車の前にはレイモンドの他に、近衛隊の将軍であるジルベルトが立った。そのジルベルトの合図で女王旗が立てられる。


 準備万端整った事を確認し、出発の合図が出された瞬間、一陣の風が吹き抜けた。



 ―――――「絶対なる悪辣女王」「世界を救う救世主」「新たなる価値の創造者」等、捧げられた異名は数知れず。変わり者の一人の女王に率いられたリベルタは世界にその名を刻んでいく。時に軋轢を生み、時に血を流しつつも歩みを止めなかったその国が、地上の覇者となる未来はそう遠いものではなかった。



 FIN。


長い間のお付き合い、ありがとうございました。これにて悪辣本編は終了です。

おまけをひとつ載せますが、読まない方が読後感は良いかと思います。読む、読まないはお任せします。


思えば二年半前に投稿したときには、感想を頂けるともレビューを頂けるとも思わずに、ただ書きたいという欲求だけで突き進んでいました。

長い連載期間、エタる事もなく続けることが出来たのは、読んでくださった皆様、感想を下さった皆様、そしてファンアートやレビューをプレゼントして頂いたユーザー様のお陰です。


完結をもちまして、閉じている感想、レビューは解放しておきます。今まで頂いた感想は全て大切に読んでいます。


本当にありがとうございました。


special Thanks

酔勢 倒録先輩

明。様

港瀬 つかさ様

藤 くまりよ様

感想を下さった全ての皆様

読んで頂いた皆様



see you again!!


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