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228.いっそイベントでも開こうか

「あー……どうしようか、これ」


 目の前に重ねられた手紙の山をアルフレッドに指し示す。


「ご随意に」


 頭を下げたまま静かにそう言われて返答に困った。


「…………怒ってる?」


「何がでございましょうか」


「いや……うん、何でもないよ」


 ジルさんも二人でデュシスに行ってきてから、アルフレッドの機嫌が悪い。何かされるわけではないけれど、ビミョーなトゲを感じるんだよねぇ。女王が他国(デュシス)に遊びにいったのが許せないんだろうな。


 今後はしないと約束もできないし、今回みたいに聞いても、特になにもと返されるだけだから、気にしても仕方ないかと割りきって仕事に意識を切り替える。


「宰相、これらは他国からの公式な書簡。返答を考える為に、知恵を貸して欲しい」


 意識して変えた私の口調に反応して、アルフレッドも姿勢を正す。


 書簡の中身は、リベルタへの公式訪問のお伺いだった。デュシスのマリアンヌと領主の叔母であるアンナマリア……アンナさんを招待した事が広まってしまったのが原因だった。


 地理的に近い国、影響力が大きい国、縁がある国等々、何処から招待しても今後の外交に影響しそうで怖い。


 マリアンヌとアンナさんは、あくまで女王が『私的な繋がりで』公式にご招待したという体勢を整えたから何とかなったけど、本気でどうしよう。


「陛下は何処の国から招待なされたいのでしょうか」


「正直、どこでもいい。強いて言うなら、ワハシュ?」


 虎の王様は見事王様に返り咲いた。まだまだ人心掌握に時間が掛かりそうだと先日手紙がきた。手紙の返事と同時に、リベルタに残っていたワハシュの兵士たちを帰還させたら驚かれたみたいだけどね。もちろん、フィーネ王妃や王子様もお帰りいただいた。


「……あぁ、面倒。いっそのこと一気に片付けられるように、イベントでも開こうかな」


「イベントでございますか?」


「そう。イベント。国家の代表が一同に会しても違和感がないイベントでも開こうかな。その時に国交交渉してる国々から返答を受ける形にすれば、面倒もないでしょ」


 デュシスも含めたリベルタと国交を結びたい国々には、リベルタからの最低限の要求を伝えてある。自国民の安全確保。犯罪者引き渡し協定。商業圏の設立。渡航者の権利保護。それと戦争時の協定なんかだね。


 まあ、初めから全て呑まれるとは思ってないから、自国民の安全確保と渡航者の保護くらいで手を打つつもりだけどさ。その『自国民』の範囲が問題になって、交渉が進まなくなっていた。


 リベルタは『半魔』も含む全ての種族を自国民として認めてるからねぇ。結局魔族は一度もお目にかかれなかったけれど、魔族もリベルタに住みたくて、和を乱さないいい人なら自国民として認めようと思ってるくらいだし。


 それが他国にとっては信じられない暴挙なんだそうだ。リベルタと国交を結ぶってことは、その半魔の存在も認めるということ。それは困ると各国首脳部が揉めているらしい。


 そんな中でもいち早く国交を結びたいと連絡が来たのが、デュシスと混沌都市だった。デュシスは古巣だし、混沌都市は前から種族を問わない国だ。意外性はないけど、内心は少し引っ掛かりがある。女王が個人の感情で外交をどうこうしちゃ駄目だと思うから、今は我慢してるけど警戒は続けなければなれないだろう。


 次に返答がきたのは、何故そんな書簡を送ってきたのかと疑問を呈するワハシュとゲリエだった。そして実効支配中のケトラの書簡がそのすぐ後に届く。これらの国々は我々リベルタの言うことに逆らうことはない。裏の意図を考えすぎて反応出来なかったらしい。


 逆に書簡を破り捨てる勢いで否定したのがペンベバンと冒険者運営市国。この二つの国に近ければ近い程、リベルタへの拒否反応は強くなる。これは影響力の違いだろう……。


「冒険者運営市国はクレフおじいちゃんが掌握するって話してたから、少しはましになるかな?」


「左様で御座いますね。ですがその規模のイベントとなりますと、かなり大掛かりな催しになりそうです。どのようなイメージをされておられますか」


 ポツリとこぼした言葉へ反応しつつ、アルフレッドに問いかけられる。イベントのイメージねぇ。国連の会議か安保理か、G20か。そんなイメージだけれど、何と表現すれば良いのやら。


「軍事パレード? いや、それだと力を見せつけるだけで危険? ならワハシュとゲリエとの国交樹立イベント? 嫌味しかないよね。そんなの。かといって閲兵式だと地味だし。周年イベントはまだ早いしなぁ」


 ぶつぶつと話している間に閃いた。


「よし! 建国祭をしよう!!」


 建国記念日は地球でも祝日になるくらいの祝賀行事だし、今回は初回という事で少し派手にやってもいいだろう。


「建国祭でございますか?」


「そう。城壁も捕虜の人たちのお陰でもう少しで直し終わるし、ようやく平和になったお祝いってことでやろうかなと。

 住民達のパレードに赤鱗騎士団の行進。冒険者達にも声をかけて、集団で歩いてもらって、先頭は勇者に頼もう。きっと見栄えするよね。

 住人の中にはもちろん半魔の人たちも入るし、お祭り騒ぎしよう」


 商人達も儲かるだろうし、着々と増えている住人の交流のきっかけにもなるだろう。私の提案を黙考していたアルフレッドは大きく頷くと、フォルクマーやファウスタを呼ぶようにと指示を出す。


「夜に晩餐会を開き、陛下にご臨席を賜るようにすれば何処が一番先という問題はクリアできますね。それぞれの国に招待状を渡す際にでも、リベルタとの国交を結ぶ意志があるかどうかを確認すれば、良いプレッシャーになるでしょうし」


 闇笑いを浮かべつつ、アルフレッドがそう語る。


「席次はワハシュ、ゲリエ、デュシス、混沌都市を優遇すれば、国交樹立した先を優遇してるって理由もつくしね」


 捕虜達の一部も恩赦という形で帰ってもらえば、リベルタの真実を広める良い宣伝塔になってもらえるだろう。


 そんな打ち合わせをしている間に、慌ててきたらしいフォルクマーとファウスタが入室してきた。


「突然の呼び出しに応じてくれてありがとう。実はお祭りを開く事にしたから、日程の調整とか参加人数の確認とかもしたいんだ」


 突然の私の話を聞いて驚いた二人だったけれど、アルフレッドから説明を受けて納得したようだ。


 ファウスタからは街の何処をパレードするのか、他にどんな出し物をするのかと聞かれる。フォルクマーは城壁の完成予定日時を報告される。


 城壁の完成予定日から十分に余裕をもって、パレードの日を設定する。数ヶ月後だから、いっそのこと一周年行事にしようかとも思ったけれど、それだといくらなんでも遅すぎるしねぇ。もちろん、これから冒険者ギルドに内々に相談して本決まりになるけれど、日程はほぼ決まりだろう。


「忙しくなるね」


「ええ、全くです」


 そう話ながらもみんな楽しみにしているみたいだ。おそらく祭りに乗じて諜報員やら何やらも入り込んで来るだろうから、オルランドにも頼んでおかなきゃな。そう思いながら、これからの予定を思い浮かべる。


「宰相閣下、陛下のお衣装はいかがされるのですか?」


「それは女官や侍女に任せることになるでしょう。しかし時がありません。急がなくては駄目ですね。アガタを呼びますか」


「へ?」


 思いもかけない所に飛び火して、変な声を出してしまった。


「陛下、パレードの最後は陛下の乗る馬車でございましょう。馬車は職人たちに仕立てさせ、馬はフォルクマー団長にお任せすれば良いとはいえ、陛下のお衣装だけは我々ではいかんともしがたいのです」


 街の中に精通するファウスタが頭を下げる。この感じだと、既にパレード経路が浮かんでるんだろうな。


「いや、私は貴賓席で見物しておくよ」


「何をおっしゃられているのですか。

 新たな住人の中には陛下の顔を近くで見たことがない者もおります。それに建国祭ならば主役は陛下でございます。パレードのトリは陛下にお願いしなくては」


 フォルクマーからもそう言われてしまった。


 確かに続々と移民が到着しているから、私の顔を知らない人も多いだろう。でも、目立つの嫌だなぁ。


「諦めてください。パレードを見れないのが嫌ならば、陛下の前を通ってスタートさせ、隊列が進み出番が近づき次第、馬車にお乗りになればよろしいかと」


「陛下の護衛はジルベルトの配下である近衛隊が勤め、従者としてレイモンドどのが馬車の後ろにつけば半魔の認識も高まるな」


「ええ、半魔の村から人々を呼ぶにしても、住民との数が違いすぎます。埋没しては意味がない」


 チラチラと私を見ながら話し続ける三人をため息混じりでみつめた。


 確かに女王の側近に半魔がいて、その人が近衛隊とも友好的に過ごしてる所を見せれば、凄いアピールになるだろう。


「……………他国の参加人数次第で考える。四か国以外の国が来ないならアピール効果も半減だしでないよ」


 私をパレードに引っ張り出したかったら、交渉を頑張ってという意味だ。多くの国が参加してくれるなら、恥のひとつくらい我慢しよう。


「かしこまりました。全力を尽くします」


「では、貴賓の皆様に関しては強制は出来ませんが、城予定地に席を設けましょう。他国と比べればまだまだではありますが、外観は出来始めております。内装にも力を入れ、泊まれるレベルに整えて見せます」


 やる気を漲らせているのはファウスタだ。フォルクマーも城壁が出来次第、捕虜たちを城予定地へ動員すると約束している。


 当初はお伽噺のお城のような造りの予定だったけれど間に合わないから、とりあえず平屋で建てて増築していくように変更するみたいだ。


 まあ、任せてしまえばいい。どうせ自室になった場所に、隠れ家を出すだけだ。


 そんな投げやりな気分で熱く語る三人を私は見つめていた。



(C) 2016 るでゆん

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