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214.リベルタを頼んだ!

 翌日、緊張しながら朝食を取る私に、オルランドの仲間から連絡が入った。


 ――連合軍およそ13万。行軍を開始。昼前には接触すると思われる。


「さあ、戦争だ」


「我が君、どうかそのように緊張されずに。大丈夫です」


 強ばったままの私の顔を見て、アルフレッドが苦笑している。宥めるように落ち着くからとダビデに持たされたハーブティーが目の前に置かれた。


「今からそのように力が入ったままではお疲れになってしまいます。ダビデ殿のお茶でも飲んで、少し肩の力をお抜き下さい」


 苦笑するレイモンドさんにお礼を言って、一口啜った。







 ******




「なんか、騒がしいね。来たのかな?」


「失礼いたします」


「入れ。何事だ」


「草原の先に土埃。連合軍が接近してきております」


「わかった。下がれ」


 兵士から報告を受けたアルフレッドが私を見る。何となく騒がしいのは、敵を見つけた仲間達が迎撃を準備しているからだろう。


「外へ。私も見たい」


 立ち上がり外へ向かうと、フォルクマー達が既に控えていた。


「敵は?」


「あちらでございます」


 フォルクマーに案内され、少しだけ小高い場所についた。ここからなら森も草原もよく見える。


「報告によりますと、敵は一団となりこちらに向かっております。別動隊の動きはないとの事です」


「それは良かった。でも挟み撃ちは怖い。引き続き警戒を……っ、地震?」


 ……ゴゴゴゴゴゴ。


 最初は地響きを微かなものだった。それでも日本で慣れ親しんだ、それから大きく揺れる予感がする震動に警戒をする。この世界では地震は酷く珍しい。周りにいる騎士達も驚いているようだ。


「うわっ!!」


「揺れる!!」


「陛下っ! あちらを!」


 地震に驚く悲鳴に交じり、騎士の一人が森を指差す。


 深紅の光が上空を切り裂いている。光が届いた空は急速に濁った厚い雲に覆われ、奇妙な帯が現れる。渦を巻く雲はどんどんその範囲を広げていた。


「……リベルタより通信!!

 マスター・クルバ殿です!!」


 禍々しい空を見ていたら、地震に足を取られつつも、通信機を掲げて一人の騎士が私を目指して走ってきた。


「女王陛下。このような時に通信をし……」


「挨拶は結構です!

 何事ですか? リベルタは無事?」


 禍々しい雲はリベルタがある辺りを目指してその範囲を広げている。


「三方全ての境界の森が溢れた。各地を警戒させていた冒険者達は既に移転石で撤退済みだが、このままではリベルタが囲まれる」


「タイミング最悪!!

 何で溢れるのかなっ! ギリギリまで勇者や冒険者達が狩ってたのよ。魔物濃度やらなにやらは大丈夫のはずでしょうがっ」


 正面は連合軍。後ろは魔物。

 挟み撃ち。


 焦りを隠せずに問いかける。


「落ち着け。リベルタの城壁が壊されることはない。残った赤鱗殿達には冒険者や住人達も協力し迎撃を準備している。

 もうすぐ開戦だろう? 一戦したら撤退のはずだ。こちらに戻る途中に本隊が下手な消耗を避けるために連絡したまでだ」


 冷静なクルバさんの声を聞いて、私の一度落ち着こうと手を額に当てる。そのまま瞳を閉じて考えをまとめた。


 地面からはまだ細かい揺れを感じる。これが魔物の影響ならば、大がかりなスタンピードと思わなくてはならない。


「…………勇者を帰す。冒険者達も共に。

 魔法職は残って欲しいけれど、パーティー分割は悪手だから、仕方ない。

 フォルクマー、赤鱗から二千名抽出して、リベルタへ戻す。人員の選定を」


「ですがそれでは!!」


「残る兵は連合軍と開戦後、一戦して即森へ撤退。軍を森に引き込む。アルフレッド、策を修正なさい」


 リベルタ防衛に残してきたのは、赤鱗の半数、四千余騎。そこにこちらからの抽出で二千を戻す。冒険者達で同行してくれているのは、対人戦も厭わない熟練者たちおよそ五百。そして勇者パーティー。


 ここに残るのが、赤鱗二千余騎。そして半魔の住人数人と私達国の中枢。この中の何人が街まで戻れるだろうか。

 出来ればジルさんかアルフレッドに街に戻って指揮をとって欲しいけれど、説得は無理だろうな。


「勇者を呼んで! いえ、こちらから向かう!!」


 歩き出した私につられて、騎士達も移動する。


「フォルクマー、抽出が完了したら移転で帰す。一ヶ所に集めなさい」


「残る者達は陣地の縮小を急げ!」


 私とアルフレッドの指示が飛ぶ。


「クルバさん、聞いての通りです」


「無理はするな、こちらはお前達が戻るまでなら何とでもなる」


「帰るところが無くなったら大変ですから。それに決戦は街です。帰した人員で撤退路の確保をお願いします」


「移転で戻らないのか?」


「連合軍の鼻先をチョロチョロして、せいぜい引き込んでやります。この森の恐ろしさを感じればいい。では」


 足早に歩く私達を冒険者達が見つめている。


「ハルト!!」


「何が起きてるんだよ!」


 駆け寄る私にハルトが気づいた。


「スタンピード!! 冒険者と騎士の半数をリベルタへ戻す!!

 荷物は諦めて!」


 驚いた表情を浮かべた冒険者達は、次々と私達を囲む。


「でも敵が!」


「こっちは私に任せて!!

 冒険者の方々のほうが、魔物に詳しい。移転で跳ばす!!」


 話している時間が惜しいと移動の準備を頼む。


「陛下! 兵の選定が終わりました。率いるのはエッカルト。一ヶ所に集めております」


 駆け寄ってきたフォルクマーに告げられて、上空に浮かび上がる。陣地の一角に騎士達が密集している場所がある。そこに見慣れた熊さんを見つけて移転した。


「リベルタへ!」


 無言で敬礼するエッカルト達を四度に分けて移転させた。前に赤鱗の集団移転でコツは掴んだ。それに今回跳ぶのは勝手知ったるリベルタだ。最大人数を連れて跳べる。


 手早く全員を移転させて冒険者達のところに戻った。


「準備出来てるぜ!!」


 顔役らしい冒険者のおっさんが早く移転させろと急がせてくる。


「一気に行くよ!!」


 隠れ家の前にある広場に移転した。騎士達も邪魔にならない場所に固まっている。突然戻ってきた騎士達を見つけた住人達から、状況を聞かれていたようだ。


「陛下!!」


 私を見つけた住人達が不安の色を隠さずに呼び掛けている。


「大丈夫です。私の騎士と冒険者殿たち。そして勇者がリベルタに戻りました。

 皆さんは少しでも安全なところに、隠れ家へと避難していてください」


 移転で戻った私達に気がついたのか、文官数人と騎士達が走ってきた。その人達に住人の避難を頼む。


 さて急いで戻ろうと思った所で、私を見つめる目に気がついた。


 いつの間にか、全員の視線が私に集中している。不安そうなモノ。心酔しているモノ。信頼しているモノ。決意を秘めたモノ。自信に満ちたモノ。覚悟を決めたモノ。様々な目、目、目、目……。


 このまま移転する訳にはいかない……か。


「リベルタの騎士よ!

 冒険者達よ!

 勇気ある守護者達よ!」


 守護者のところで戦えない人々を見つめた。戦闘は出来なくても、リベルタをリベルタたらしめているのは、ただの住人である彼らだ。逃げることを否定し、ここに残った勇気ある人々を私は守護者と呼びたい。


「私は世界と話さねばなりません!!

 この地の守りは、皆に任せます!!」


 長々と演説している時間はない。近づいてくる禍々しい雲は気になるけれど、今の私にここまで腕を伸ばす余裕はないんだ。ごめん。


「ハルト!!」


「はっ!」


 空気を読んだのか、ハルトがピシリと姿勢を正して頭を下げた。この姿勢は、ジルさんが仕込んだな。


「勇者よ!

 リベルタを頼んだ!!

 我らに勝利を!!」




 ハルトの返事も聞かずに草原へと戻った私を、フォルクマー達が今や遅しと待ち構えていた。


「陛下! リベルタは」


「大丈夫、まだ魔物は来ていなかった。

 それで連合軍は?」


「あちらを」


 アルフレッドに指差され、地を埋め尽くす大軍を初めて認識した。


「遠からず開戦のはずですが、相手側から使者を送る気配がありません。いかがいたしますか?」


 開戦の使者を送るのは、相手に一定の敬意を払う事に他ならない。もしや……そう思いながら魔力の動きを探る。


「……はは。あちらは私達を国として遇する気はないらしい」


 それで分かったのは、既に攻撃魔法の準備が始まっていた事だ。


「ならばこちらから攻め入ってやりましょう」


「…………駄目だよ。私達は国だ。国として対応しよう」


「ですが」


 難色を示す周囲に笑いかけて、待っているようにと命じ、上空を目指す。


 戦装束の私を敵も見つけたようで、兵士達が指差している。


『私が盟友たる精霊王よ』


 呼び掛けに応じて四人の精霊王の気配が現れる。


 四種の力を纏ったまま、私は静かに連合軍を見下ろした。


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