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213.空が青いね

「間に合わなかったか……」


 私はその報告を受けて静かに目を閉じた。


「……迎撃を。計画通り草原で広域破壊後、森に呼び込んでゲリラ戦を行う。最後はリベルタの城壁に寄って戦うことになるだろう」


「かしこまりました。ではフォルクマーに出兵の命令を出します」


 頷いたアルフレッドの指示を受けて、赤鱗の騎士の一人が足早に去る。


 坩堝のリックさん達は無事にワハシュのギルドに接触。身元を明らかにして、ワハシュのギルドマスターを口説き落としている最中だ。

 メラニーさんを中心とする探索班は、イエネコ族黒猫種の獣人達に接触し協力を要請。ようやくフィーネさん達が囚われている場所を特定できた所だと、つい数日前に報告が来ていた。

 虎の王子様は何処かに連れ去られたそうで、こちらの居場所も黒猫達が追っている。

 黒猫は密偵や暗殺者、それに呪術者などのあまり陽の目を見ない職業についている人達が多い。助け合う身内は大事にする。だから安心して欲しいニャと伝言を聞いたばかりだ。メラニーさんが族長一族の娘だと聞いたときには驚いたけれど、その伝もあって協力要請はスムーズに受け入れられた。


「連合軍がケトラを出発したのが二日前。大勢だから到着時間は読みにくいけど、森の外へは五日から一週間で到着する。開拓村の住人達を逃がさないといけないね。あちらに駐屯している騎士達と連絡は出来る?」


「可能です。ですが村人の多くは避難するのに抵抗を示しています」


「なんで? 危ないから逃げてよ」


「せっかくここまで村を作ったのに、みすみす壊されるのは悔しい。村と運命を共にすると、村長を通して連絡がございました」


「命さえあれば村は作り直せる。……ちょっと行ってくるよ」


 直接村まで行って説得しようと立ち上がった。顔に風を感じた気がして立ち止まる。


『使徒様』


 高位の風の精霊と土の精霊が現れた。私の動きが止まって不審そうな顔を向けるアルフレッド達に精霊が来たことを伝える。


「どうしました? 村で何かありましたか?」


 現れたのが開拓村を守護している精霊達の代表だと気がついて問いかける。


『使徒様、村はご心配なく』


『我々精霊が守ります』


「え、でも」


『我らの王は御身と共に。ですが我々はガイスト村を守りましょう。火と水の兄弟もその心は同じ。どうかご安心下さい』


『水の姉妹は光を曲げ、そこに村があることを隠しましょう。そして村と畑を我らの土妖精が囲みます。風はカマイタチとなり近づく敵を払いましょう。

 囲みの上には火の兄弟が。我々が突破されても、敵を燃やし尽くしましょう。鉄壁とは言えずとも、簡単には突破させません。

 そしてリベルタの精霊使い達が我らの助勢を望むなら、その呼び掛けに応じましょうぞ』


 ちっさい妖精さんが自信満々に語る。


『これは我らの王のご命令でもあります。そして村人達と共にいた我らの願いでもあります。

 どうか使徒様、お許しを』


 可愛らしい見た目に思わず和んでいたが、アルフレッドに説明を求められて、精霊達の言葉を伝えた。


「それは助かります。村人達を逃がすとしても、リベルタ国土に安全な場所などございません。精霊殿達に守っていただいた方が、生き残る確率が上がります」


 私の視線を追って、精霊たちがいる場所に当たりをつけたのだろう。少しずれた場所にアルフレッドが頭を下げる。


「ならお願いします。対価は」


『いりませんと申しても、使徒様は気になさるでしょう』


『では、村の作物を少し。皆、あの力に満ちたモノを好んでおります。そして我々が休む精霊島の作成をお許し下さい』


「精霊島?」


『精霊村のようなものです。我らが見えぬ者達は、精霊溜まり等とも呼びます』


 ああ、あれか。力が偏り易くて、何故か魔力が高い場所がある。それが精霊村な訳ね。


「分かりました。では村をお願いします」


 私が頼むと、ドンと胸を一度叩いて、精霊さん達は消えた。それを確認して、アルフレッド達と出兵の準備を進める。


 オルランドの仲間はケトラとワハシュの軍に入り込んでいる。それ以外のメンバーは続々と戦いの準備を整え、集まってきていた。









 リベルタから軍を整えて出陣するまでに三日。森を抜けるのに一日。陣を張るのに一日。リベルタに続く道には出来る限りの隠蔽をかけ、更には、冒険者や精霊使い達が罠を仕掛けていた。


 …………風が気持ちいい。


 早ければ今日にも、連合軍が現れる。こんなに穏やかなのは今だけだろう。


 アルフレッドにワガママを言って陣を出て草原に来ていた。私の希望を受けて、護衛達は少し離れた場所で警戒している。


 久々の一人の時間を噛み締めながら、直接地面に座り込んだ。


 …………ああ。空が青い。


 ゴロンと地面に横になって見上げた空は、抜けるような青だった。


 思えば最後に空を見上げたのはいつだっただろう。空がこんなに蒼いことを私はすっかり忘れていた。


「陛下」


 足音を忍ばせて近づいてきたレイモンドさんに声をかけられた。離れた場所から私を見て、昼寝でもしていると思ったんだろう。驚かせないように静かに話しかけられる。


「どうしたの? ジルさんも」


 今回は総力戦と言うことで、赤鱗騎士団の他にも、冒険者や半魔の村の戦える住人達が同行してくれていた。半魔の村は希望者を募り、疎開者の受け入れもしてくれていた。幼い子供とその世話をする少数の女性達が私達の出発と前後し、村に向かっていた。ジルさんの子供達もその中に含まれる。今頃あの狭い村は人で溢れているだろう。


「何をしていたんだ?」


「空を見ていたの」


「空でございますか?」


「うん。空が青いね」


 雲の流れを何となく目で追いながら、ぼんやりと答えた。久々に見た美しい空をもう少しだけ見ておきたかった。


「…………そうだな」


 ドサッと音をたてて座ったジルさんもまた空を見上げる。


「私には少々美しすぎる蒼でございますね」


 レイモンドさんは立ったままで肩越しにちらりと視線を上げた。


「……ハルトや冒険者達も準備が完了した。

 馬対策の遮蔽柵の設置も終了した」


「オルランド殿から連絡があり、明日の昼前にはこの地に表れるだろうとの由。宰相閣下より御伝言でございます」


「そう……。もう時間がないか」


 少し先の丘で今日は夜営をするようだと続けて報告を受けて、瞳を閉じる。


「ティナ?」


「陛下?」


 眠ったのかと私の名前を呼ぶ声がする。


「…………ねえ、私を愛し子と呼ぶならば、どうかこの願いを聞いて欲しい」


 瞳を閉じたまま日本語で続ける。


「静かに生きるのは諦めた。自由に生きるのも諦めよう。

 どうせ今も見てるんでしょ?

 やるだけの準備はした。打てるだけの手も打った。それでも駄目なら、考え続け足掻き続けて見せよう。

 開戦すれば沢山の仲間達が死ぬだろう。沢山の住人達が悲しみに沈むだろう。それでも私はこの選択を避けることは出来なかった。後悔はしない。

 私はいい。もう……いい。

 だからメントレ。ちょい悪オヤジ殿。私の民にその慈悲を。私の仲間にその加護を」


 オーナメントにでも行って祈った方が効果的かも知れないけれど、ハロさんいわく見ているらしいし問題ないだろう。


「ついでにハルトもよろしくね」


 言い切って残った息を吐く。これは自己満足。困った時の神頼み以外の何物でもない。それにメントレのおっちゃんが地上に手が出せない事など、百も承知だ。それでも今は祈りたい。


「戻ろうか」


 …………迷いは捨てた。これ以上、悩みはしない。ただリベルタの未来の為に動き続けよう。




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