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211.別れなんてポイしよう

「ああ、そうだった。ジルベルト、バルド殿からコレを預かってきた」


 そう言いながら、オスクロは布の袋を取り出した。無表情でジルさんに差し出している。


 訝しげな顔で受け取ったジルさんは、袋を開き、自分の手の中に金の輝きを見つけて驚いている。


「あれ、それ……」


「っ!! すまない。これはバルド殿に献上……」


 やっぱりそれ、私が贈った逆鱗だ。私に見られたと知ったジルさんは、顔色を変えて謝っている。


「なんで謝るんですか? ジルさんにプレゼントしたモノですから、捨てようが譲ろうが売ろうが、それはジルさんの自由ですよ」


 苦笑しながら話す。それでも気にしているらしいジルさんのフォローのつもりか、オスクロが口を開いた。


「これはジルベルトが旅立つ少し前に、赤鱗騎士団を通して献上されたものだ。その頃、少しずつだが法王の立場が強くなっていた。

 そしてバルド殿と赤鱗騎士団との間にも、溝が出来始めていてな。二心なき証にと捧げられたものだ。ジルベルトを責めないでくれ」


「いや、だから責めませんって」


 苦笑を深くし首を振る。本気かと尋ねるオスクロにもう一度うなずくと、安心したように息を吐いた。


「そうか。良かった。

 せめてこれだけはそちらへと戻したいと、バルド殿から託された。赤鱗騎士団もその領地もを守る事が出来ず権力の座から追われたが、友からの贈り物は守りきると、王都から去るときも肌身離さず隠し持っていた甲斐があったと仰られるだろうな」


「苦労をかけたようですまない」


「いや、こちらこそ、すまん。我々がもう少し神殿を御せれば、ワハシュがリベルタと敵対することもなかった。何より赤鱗を逐う事もなかっただろう」


 遠い目をして話すオスクロは、何かを振り切るように一度空へと視線を向けた。


「これで我々は敵味方。容赦はしない。次は戦場で会おう。

 お前達も決して迷わないでくれよ」


 無表情で別れの言葉を口にするオスクロに、ジルさんもまた無言で頷いた。いや、カッコつけて締めようとしても、そうは問屋が卸さないよ。お別れなんてポイしよう。


「お断りします」


「おい」


「ティナ?」


「別れの言葉はお断りします。そちらの立場は分かったし、どうしようもないのも知りはした。でも、だからと言って私がそれに乗ってやる理由はないよね?」


「……どうする気だ?」


「さあ? でも、そうだねぇ。オスクロ隊長、変わりにコレをどうぞ」


 ヒョイっとアイテムボックスから取り出したのは、デュシス時代に坩堝さんに渡していた通信アイテムの片割れだ。


「…………」


 受けとるか悩むオスクロ隊長に無理やり握り込ませた。


「まあ、持っててくださいな。非常識規格外娘の面目躍如。何が出来るか考えてみましょ」


 上手くいったら攻撃は止めてくださいねと笑いかけ、オスクロを残し逃げるようにリベルタへと移転した。


 帰ってすぐに飛んできたアルフレッドの説教を聞き流しつつ、オルランドへの繋ぎを頼む。一応、誓約経由なら伝えられなくはないけれど、指揮命令系統は大事だよね。


 予想外に早く、翌早朝、執務室に現れたオルランドにオスクロから聞いたワハシュの現状を伝えた。その上で手の者を忍び込ませられるかと尋ねたけれど、否定される。


「申し訳ない、我々は人間がほとんどだ。ワハシュへの潜入は厳しい」


 姿を変えるアイテムを利用しても、匂いでバレる可能性がある。それにケトラやペンヘバン、ゲリエへと人を配しているから、割ける人員もいないと頭を下げられた。ならば他の手を考えなくてはと悩みつつ、日中を過ごしていたら、珍しい謁見申請を受ける。本来であれば数日は待たせる申請だけれど、相手が相手だったから、即日許可を出した。


「ティナちゃんや。ワシらの出番じゃないのかね?」


 入ってくるなり、悪戯っ子の笑みを浮かべたクレフおじいちゃんに問いかけられる。後ろには何故か坩堝さんとフォルクマー、ついでにジルさんがいる。


「クレフおじいちゃん?」


「ふふ。今は冒険者ギルドリベルタ派の首魁として来ておるよ」


「はあ……?」


「ティナ! 水臭いニャ!」


 ピョコンと顔を出したメラニーさんがニンマリと笑った。


「ティナちゃんや。思い出してみぃ。国の境を越える組織はどこじゃね?」


「は?」


 クレフおじいちゃんが視線で指すのは、坩堝さん達だ。リベルタでは本来の姿に戻っているから、半魔、人間、エルフ、ドワーフ、そして猫()()……。


「あ!」


「分かったかね?」


「依頼するニャー! 頼むニャ!!」


「でも危険ですよ?」


「まあ、人間にとっては危険だろうがワシらには関係ない。なあ、オードリー」


「ええ、そうね、ジェイク。エルフやドワーフはワハシュと同盟関係だもの」


「身バレしたら……」


「大丈夫ニャ! 染め粉で白猫になるニャ!!」


「そもそもメラニーは二度と戻れねぇ覚悟で出てきてる。バレたってどうってことはねぇよ」


「妻の国に足を踏み入れる事はないと思っていましたからね」


「いや、それ言ったら人間の二人とアリッサさんはどうする気ですか」


「「「留守番???」」」


 ヲイ!!


 私に疑問を返すな!


「申し訳ございません。同じ獣人として、誰か繋ぎを取れる者はいないかとメラニーに連絡したところ、このように……」


 小さくなったフォルクマーが謝罪を口にする。あー……あれか。獣人ネットワークか。


 悩む私に控え目にアルフレッドも進言してきた。


「陛下、お願いすべきかと」


「うん。お願いするのは仕方ないんだけど、何をどうお願いすべきかと……」


「ティナちゃんや、ざっくりとで良い。希望を話しておくれ」


「何処まで知ってるんですか?」


「ジルベルトが知る全てじゃな」


 確認のためジルさんを見れば微かにうなずいている。ならまあ、いいか。


「虎の王様の奥さん。フィーネさんとその息子さんの救出及び、同じく囚われている人達の解放及び安全確保。バルド派のとりまとめ。法王派の内部分裂。ワハシュをリベルタとの戦争どころではなくしたい」


 そうできれば、五万以上の兵力が減る。


「大きく出たのぅ」


「あら、不足はございませんわ」


「腕がなるニャ!」


 エルフなのに好戦的な微笑みを浮かべたオードリーさんにメラニーさんが抱きついている。

 そのメラニーさんを引き離して、夫であるチャーリーさんに引き渡したジェイクさんは重い口を開いた。


「方法は?」


「任せます」


「ならば、お主らは冒険者ギルドの切り崩しをせい。アリッサは姿を変えられたな?

 三人とも獣人の幻影を被り、ワハシュの冒険者ギルドと接触せい。なに、着いてさえしまえば、人とバレても構わぬ。ワハシュの冒険者ギルドはどちらにつくか揺れておる。派手に動け。その方が身の安全が計られよう。

 メラニー達はリック達に注意が集まっている間に動け。こちらは目立つな。黒猫ならば、獣人の手を集めることも出来よう」


「任せるニャ。猫は月夜と仲良しニャ。そしてカワウソとも仲良しニャ」


「カワウソ?」


 突然出てきたカワウソについ反応してしまった。まあ、猫と月夜は鉄板ですが。


「今のギルマスは川獺だニャ!」


「これこれ、川獺ではない。イタチじゃよ」


「似たようなもんニャ!

 あのうにょうにょした胴体の生き物とは仲良しニャ!!」


 ウニョウニョ……、不安だなぁ。そもそもメラニーさんは冒険者ギルド担当じゃないでしょうが。


 私の不安を見越したのか、オードリーさんが微笑んで任せてほしいと口にする。


「ええ、それではお願いしますね?

 依頼料は……」


「出来高でいいぜ」


「そうじゃの。坩堝への依頼は二つ。ひとつはワハシュ冒険者ギルドをリベルタ派とする事。もうひとつはバルド派の救出じゃ。

 よいな」


 ニヤリと笑って受けた坩堝さん達に迷いはなかった。出発の準備に二日欲しいとの希望を受けて、三日目のまだ夜も明けきらない内に移転で送ることにした。場所は少し揉めたけれど、オルダバンの丘。私が処刑されそうになった丘の片隅となった。


 朝靄の中、王都に消えていく坩堝さん達には、万一の場合に備えて、リベルタの冒険者ギルドから通信機を支給したらしい。もし危険が迫ったのならば、通信機を目印に冒険者ギルドお抱えの魔導師が移転で救う手筈になっている。


 さて、ワハシュの事は冒険者ギルドに任せるしかない。私はそれ以外の戦争準備を急ごう。



(c) 2016 るでゆん



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