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210.敵の敵は味方?

 リベルタへの物資供給が止まり、二ヶ月近くがたった。邪気を糧に育つ葉物野菜は、リベルタ近郊でも問題なく根を張り初めての収穫も目前だ。


「へえ、連合軍ねぇ」


 オルランドの部下からの報告を受けて、私は目を細めた。執務室にいるメンバー達もそれぞれ表情を変えている。


 幸か不幸か、境界の森から収穫してきた野菜達の栄養価は恐ろしく高い。風邪ひとつひかずに、気力体力共に充実した仲間達が目の前に揃っていた。


「数は?」


「総指揮官は?」


 敵の内容を問うのは、好戦的な表情を浮かべるフォルクマーやジルさん達赤鱗組。夫や恋人達が元気すぎてツラいと、護衛達やイングリッドさんを通じて陳情が上がってきていたから、良い発散場所って事なのかもしれない。


「やはり冒険者ギルドもくるか。あの愚かもの」


「だが切り崩しは順調です」


 動揺せずに低い声で打ち合わせをするのはクレフおじいちゃんとクルバさん。こちらも艶々している。眼光鋭く呟くクレフおじいちゃんに至っては、少し若返った気がしなくもない。


「これでますます物資を手にいれるのが難しくなりますね」


「リベルタの名を出さずに大口取引をするのは難しい」


 愁いを帯びた口調で呟くアーサーとオルランドの部下の商人さん。こちらは境界野菜をあまり食べていないのか顔色が悪い。商人達への支給量を増やすかなぁ。


「とうとう破門ですか……」


「獣人と人間の総本山双方から同時に……」


「住人に動揺が広がらないようにせねばなりませんな」


 これは赤鱗の神官さんと移住者の中にいた人間の神官代表。ついでに街の長であるファウスタだ。この人達は可もなく不可もなくって所かな?


 重要な報告があるとアルフレッドに言われて、それならばと集めたリベルタの首脳部だ。


「ゲリエ五万。ワハシュ五万。ケトラ一万五千。ペンヘバンから神官二千、神殿騎士が四千。冒険者ギルドより五千。総勢十二万六千の軍勢です」


 冷静に告げられた数を聞いて、ファウスタ達一般人に動揺が走る。


「リベルタの総戦力は一万にも届きません。十倍以上の敵を何とか出来るのですか?」


 アルフレッドに向けてすがり付くように問いかけるファウスタだったが答えはなかった。


「流石に十倍はきつい?」


 沈黙するアルフレッドに私が問いかけた。しばらく黙考していたアルフレッドだったけれど、結論が出たのか重い口を開いた。


「……陛下のご助勢を頂き、住民の全てを犠牲にする覚悟をすれば、勝利は容易いでしょう。ですがそれは陛下のお心に沿わない。違いますか?」


 逆に問いかけられて言葉に詰まった。住民全て……か。それは受け入れられないな。だからと言って今すぐに全てをなんとか出来る最善の策なんて思いつかない。

 室内にいる全員の視線が私に集中する。


 途方に暮れたままアルフレッドを見た。

 それでも私は「王」だ。弱っているところなど見せるわけにはいかない。


「流石宰相。よく分かってるね」


 にっこりと微笑みを浮かべて、アルフレッドを褒める。私の反応を待っていたみんなが安堵の息を吐いた。


「陛下……何か策が?」


「ファウスタ達は住人に不安が広まらないようにお願いね。フォルクマーは赤鱗をお願い。クレフおじいちゃんとクルバさんは今まで通りに。アルフレッドは残りなさい。今後の打ち合わせをします。

 大丈夫、リベルタは負けません。そして私は決して住民を見捨てない。お願いする事が出来たら連絡します」


「神子姫様のお心のままに」


 詳しくは何も話さずに、住人達を宥めて、この場は解散させた。神の娘っていう誤解もたまには役に立つもんだ。


「さて……どうしたものか」


 オルランドの部下とアルフレッドを残し、全員が退出して、人払いを済ませてから改めて問いかけた。


「今の段階で出来ることはあまりないかと思われます」


「そうだね。あちらさんが動くのはいつになりそうなの?」


「連合軍とは名ばかりの烏合の衆。誰が指揮権を持つのかで、ワハシュとペンヘバンが激しく対立しております。ゲリエは我関せずを貫き、領土に駐屯させているケトラは板挟みにあっているようでございます。

 進軍開始まではまだしばらくかかるかと……」


「はは。それはありがたい。蛇の頭が多いほど、動きは鈍くなるからね。リベルタにとっては吉報だよ」


 敵側の余裕さに渇いた笑いが漏れた。指揮権を争うってことは何処が一番甘い汁を吸うか争っているってことだ。リベルタの敗北はあちらにとって予定調和なのだろう。


「陛下」


「レイモンドとラインハルトを呼んで、隠れ里に何人疎開可能か確認しよう。

 赤鱗騎士団は各自のレベルアップ優先。種族進化未了で、団長もしくは師団長が許可するなら、私が強制進化させる。

 冒険者達には今まで通りに食べ物の確保を依頼。勇者ハルトもそちらへ組み込む。勇者は未解放地の攻略をさせよう。

 ファウスタには籠城となった場合に備えて準備を命じる。アーサー達にも協力を要請しよう。

 ガイスト村は……どうしようか。防壁はまだ出来ないよね? 進軍が確認され次第、リベルタに収容かな」


 穀倉地帯になるはずの村は、精霊達も多く滞在している。大丈夫だとは思うけれど、一応、疎開させたほうがいいよね。


 思い付くままにアルフレッドに指示を出す。


「リベルタ周辺に、魔物溜まりを作れればねぇ。ゲリラ戦法の天然トラップになるんだけど」


「前回ケトラ相手に行ったものですね。レイモンド殿やラインハルト殿に問いかけて見ましょう」


 大体の流れは決まった。更に細かい状況を確認してその日は解散となった。


 戦意高揚の為に、リベルタやガイスト村を視察したり、赤鱗の強制進化を手伝ったりと忙しく日々を過ごしていたある日。ガイスト村の護衛に出していた騎士から、私とジルさんにお客さんが来ていると報告を受けた。内々での訪問だから、正式な謁見ではなく、人目につかない方法で会いたいとのことだ。私たちに会うまでは名乗れないと尋問されても沈黙を続ける相手にしびれを切らした騎士が、本部を通して私に知らせてきたのだ。


 心当たりがあるかとジルさんに問いかけても否定される。珍しい獣人ってだけで、種族も不明。まぁ、ガイスト村の騎士達は、駆け出しを一歩抜けただけの、若者達が経験の為にいるからねぇ。これが巡回任務の騎士なら話は違ったのかもしれない。


「……とりあえず行ってみますか?」


「危険だ。俺だけ行ってくる。すまんが移転を頼めるか?」


 ジルさんか私を名指しならば、知り合いの可能性もある。顔を見れば流石に誰かわかるだろうと、仕事上がりに移転することになった。


 最初はジルさんだけが、その正体不明のお客さんに会い、誰か分かってから私が会う手はずになった。


 案の定、アルフレッドにバレてついて来る、来ないの言い争いになったけれど、最後は移転でサクッと逃げた。後の事は戻ってから考えよう。


「では、大人しく待っていてくれよ?」


 本当は村長さんの家で待たせてもらう予定だったけれど、あまりに恐縮するから植樹した辺りで妖精さんたちと戯れている事にする。


 うっかり妖精王達まで出て来て、夕暮れ時に大騒ぎになってしまったけれど、小さい妖精さん達が可愛かったから後悔はない。


 日が暮れて、いい加減まだかなと地面に直接腰かけて待っていると、下草を踏む音がする。


「どうでした?」


「ああ、知り合いだった。解放させるのに時間がかかった。待たせてすまない」


 歯切れの悪い口調で話すジルさんに、既視感を覚える。あー……あったよね、こんなの。前に。


「出てこい」


 警戒して私を囲む妖精さん達が発する柔らかい光に照らされて一人の男が現れた。


「あら、お久しぶりー」


 ボロッとした格好で現れた相手に、ヒラヒラと手を振る。


「お久しぶりでございます。女王陛下。

 敵味方と別れた今でもお会いくださり感謝致します」


 疲れた様に頭を下げる相手は、この数年で明らかに窶れていた。


「ずいぶんとまた変わりましたね。オスクロ隊長。ジルさん家に余計な事を吹き込んでくれて、お陰で大変になりましたよ?」


 オスクロの変わりように内心動揺しつつ、至って軽く微笑みかける。


「それは悪かったな」


 私が以前のままだとわかったからか、オスクロもまたワハシュで会った時の口調になった。


「それで何のよう?」


 妖精さん達に盗聴防止を含めて防御をお願いしてから、オスクロに問いかけた。


「ああ、ここは安全だよ。精霊王が四人、揃い踏みで力を行使してくれてるから」


 悩むオスクロに当たり前のように話す。精霊王と聞いた途端、かなり怯えた気がするけれど気のせいだろう。


「それはお前の父から引き継いだのか?」


「へ? ああ、妖精王の二つ名ね。違うよ。いや、精霊魔法の素養は引き継いだとも言えるのかなぁ……」


 首を捻る私に諦めた様にオスクロは苦笑した。


「相変わらずの規格外娘か。

 精霊王を従え、境界の森を解放し、半魔を懐に入れた」


「何か問題でも?」


「いや、俺たちとしては特にないな。バルド族長としてはかなり困ったことになるだろうが」


「バルド、族長?」


「今の俺は国に仕えてはいない。バルド殿個人に膝を屈した。バルド派と呼ばれるものたちは皆、王宮を去ったからな」


 当たり前の様に話されるけれど、バルド……、バルド。誰だっけ?


「ティナ、虎の王様だ」


 見かねたジルさんが教えてくれた。あ、そうか。虎の王様がバルドさんか。


「おい」


「ごめん。だって名前あんまり呼ばなかったし。王さまで通じたし」


 半目になったオスクロから視線を反らして言い訳をする。


「……まったく。リベルタまで忍んで行こうと思ったが、魔物が強くこの村まで撤退を余儀なくされた。村についたら着いたで、精霊村と言っても良いほどの濃度か」


「あれ、オスクロ隊長って精霊魔法の適正あるの?」


「カルカラ族は風の精霊と親和性が高い。力を感じとることくらいは出来る」


「ふーん」


「そんな事はどうでもいい。我が君、バルド殿からの伝言がある。リベルタの女王よ、どうか聞いてほしい」


 話が脱線しそうになったところで、オスクロが無理やり戻してきた。そのままヒタと私を見据えて膝をつく。


「ワハシュから派遣された軍は、バルド殿を筆頭とする反法王派。それとほぼ同数の法王派からなっている。反法王派は女達を人質に取られている。特にバルド殿は奥方以外にも、息子を連れ去られた。手の者からの報告ではご子息は既にワハシュ王都から何処かへ連れ去られているらしい」


「随分、古典的な手だこと」


 驚きながらも感想を言えば、悔しかったのか拳を握り込まれた。


「古典的だからこそ、よく効く。

 我々反法王派は、リベルタを攻める事に乗り気ではない。特に国を救ってくれたリュスティーナ様へ剣を向けるのは避けたい。だが、許してほしい。今のままでは……」


「オスクロ、お前たちの誇りはどこに消えた?

 獣人の戦士として、牙を抜かれたままでいいのか?」


「……どうとでも言うがいい。赤鱗から落ち延びた者達は、草原狼族と名を変えてバルド殿に膝を屈した。

 俺はただ、国を救ってくれた相手に礼儀を尽くしに来たのだ」


 んー……これは敵の敵は味方理論が通じないかしら? 戻ったらオルランドに相談だけど、女の人達と虎の王様の息子さんを助けられたら、二万近い兵力を削げるって事にならないかな?



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