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19.こりゃ、バレてるね。



 二十人に浮遊魔法をかけて、私の後をついてこさせる。

 ぱっと見、ハーメルンのラストみたいな風景が出来上がった。

 ダビデには何も言ってこなかったけど、すぐ帰るし、恐らく問題ないさ。


 高速飛行で近くまで行き、見つかる前に着地、最後は敏捷を上げて走りきった。


「と、とまれ!」


 城壁の入り口で不審者扱いされた。まぁ、砂塵避けにフードを被って顔を見せてなかったし、当然と言えば当然の事か。


「Fランク冒険者、ティナです。草原で戦闘不能になった冒険者を発見し、連れてきました。ギルドに報告願います」


 フードを脱いで名乗ったのに、全く警戒が弛まない。ハーメルンだし仕方ないのか?

 こんなときこそ、誰か知り合いいないかな? 身元保証してもらいたい。


 しばらく武器を向けられながら待っていると、アンナさんとスカルマッシャーさん達が走ってきた。


「ティナ! なにやってるの!!」


「アンナさん、いや、草原で見つけて。放っておくと死人が出そうなんで連れてきました。

 そろそろ魔法も解けるので、運ぶの手伝って貰えませんか?」


「ぶっ! ティナ嬢ちゃん、相変わらず規格外すぎるぜ。二十人近く、プカプカ浮かせたまま歩いてきたのかよ!」


 盗賊のジョンさんが腹を抱えて笑っている。狩人のカインさんは呆然としてるし、魔法使いのマイケルさんは浮遊魔法の解析に忙しい。あー、あんまり見ないでほしいなぁ。

 非常識なのはわかるけど、他に運ぶすべ思い付かなかったんだもん。仕方ないよね。浮遊する絨毯でも準備しておけばよかった。


「ジョン、笑いすぎだ。アンナ、とりあえずここでは目立つ。ギルドに移動しよう」


 ケビンさんが冷静にそう指摘すると、門番役の冒険者から大八車を借りて、手早く分乗させてギルドを目指した。

 ギルドまでの道行きは思い出したくない。

 これ、何の羞恥プレイ?! って思うほど、注目を浴びたことだけは宣言しておく。


 ギルドに着くと、いつものブースではない場所に連れていかれる。広間か倉庫かな? 大きな板の間の何にもない部屋だ。


「さてと、ティナ、何があった?」


 床に全員寝せてから、ケビンさんが私に聞いてくる。


「いや、いつものように草原を散歩してたら偶然見つけただけですよ? 見たところ未成年っぽいし、私と同じ駆け出しだろうなと当たりをつけて、連れてきただけです」


 町に向かう途中で考えた言い訳を並べる。ギルド員同士のケンカはご法度だ。隠せるものなら隠したい。


「ティナ、嘘はいけませんよ。彼らは全員、眠りの魔法をかけられている。草原には、状態異常を起こさせる様な魔物は深部にしかいません。この人数が迷い込むとは考えづらい」


 魔法使いのマイケルさんにはお見通しか、でも、下手に私闘(ケンカ)と言うか、実質、襲われたって話したら、この子らが処罰対象だしな。


「さぁ? どうしてかは知りませんけど、見つけたときにはこうでしたから」


 もう少しだけ誤魔化す方向で頑張ってみよう。


「なら、こいつら起こして聞けばいい。おい、マイケル、解呪出来んだろ」


 マイケルさんはひとつ頷くと解呪を唱えた。うめき声を上げて、皆が起き出す。


「おはよう、皆さん。ここが何処だかわかるかしら?」


 起き出してきた子供相手に、アンナさんが尋ねる。声に静かな怒りが滲んでいた。起き抜けの子供が息を飲む迫力。流石です。


「あ、スカルマッシャーだ……」


 ケビンさん達を見つけた大柄の少年が呟く。その声で覚醒したのか、ケビンさん達を見つけた駆け出したちは、まとわりついた。

 部屋が一気に騒がしくなる。


「おう、小僧ども、草原で何があった?」


 そんな中、気さくにジョンさんが聞く。

 誰も答えずに、目配せを繰り返すだけだ。


「まさかとは思うが、ティナを襲ったりはしていないよな?」


 笑顔のままカインさんも尋ねているが、同じく答えはない。いや、それだと認めてるようなもんだから!

 サラッと、「何の事でしょう??」くらい言えよ!!


「私が見つけた時にはもう眠ってたから、襲うのは無理ですよ」


 カインさんに反論するフリをして助け船を出す。

 これで気がつきなさいよ! まったく。私は大事(おおごと)にするつもりないんだからね!!


「ティナちゃんは黙ってましょうか?」


 弾かれたように私を見つめる駆け出し達を観察しつつ、アンナさんが釘を刺してきた。

 肩をすくめることで返事に代える。上手く誤魔化しなさいよ、あんたら。


「あ、あの、その、俺たちみんなで薬草取りに……でも気がついたら次々と倒れて……目が覚めたらここにいたんです。正直、何が何やら……。そっちのヤツが助けてくれたのか? ありがとう」


 お、うまいぞニッキー!! さすが市場で口先を鍛えているだけのことはある。


「あら、そうなのね。場所はどの辺りかわかってるかしら?」


「わかりません。薬草を探して迷ったので。かなり奥だったと思います」


 困惑した雰囲気のまま答える。この子達、深部だって事は知ってて、それでも襲いに来たのか。ずいぶん嫌われちゃったな。


「そう、なら仕方ないわね……。貴方達、運が良かったわ。このティナが見つけなければ全員死んでいたわよ」


 当たり前の事実を伝える口調でさらりと脅しつける。女の子を中心に何人かは涙ぐんでる。可哀想に。

 あー…、でも他の数名はまだ諦めてないか。憎悪に近い色を瞳に乗せて睨んできていた。


「ティナちゃん、今日は納品はないのかしら?」


 唐突に私に話を振ってくる。また、いきなりですね?!


「はい? 昨日納品したばかりですが??」


「え、納品??」


 駆け出し達から呟きが漏れる。もしかして私が臨時のお抱え薬剤師だって知らないのかな?

 ケビンさんを除く四人が四隅にある扉をこっそり開けている。逃げる気か? いや、扉を開けたらそのまま戻ってきている。何がしたいんだ、一体??


「ええ、ティナはこのギルドの薬剤師兼冒険者よ。

 未成年だけれど、マスター・クルバがティナのご両親に、どうしてもとお願いしてこの町に来てもらったの。

 だから万一の事が無いように、後見を元本部ギルドマスターのクレフ殿に、この地での世話役をスカルマッシャーにお願いしているわ。むろんデュシスのギルドもティナに対する責任がある。

 最近、ローポーションを中心に少しずつ在庫があるようになったでしょ? あれは全部ティナのお陰よ。


 今も冬に向けての備蓄を、無理をして作ってくれているの。そんなティナが、草原を散歩して、しかも貴方達を偶然見つけるなんて、本当に運のいいこと!!」


 ……こりゃ、何かあったってバレてるわ。でも大事にしないように配慮して説教している感じ? 流石ギルドのお局様。半端ないです。


「周りで立ち聞きしている皆さんも、覚えておいてくださいね」


 ってえええぇぇぇぇぇ!!

 鈴なりの人だかり。扉を開けたのも効率良くこの話を広めるため? うわっ! 羞恥プレイagain。目立つのヤなのよ!


「あの、アンナさん、後で時間ください。指名依頼の分も出来たので納品します」


 しばらくギルドに寄り付きたくないし、納品しちゃおう。入口からの視線が痛い。


「え、もうできたの? 早いわね。ならマスターの執務室に一緒に行きましょう。

 スカルマッシャーさん、後の事を頼みます」


 さらりとここを放置して、後始末をスカルマッシャーに押し付けた。ケビンさんたちは諦め顔だ。


「え、なぜ? 上に??」


「あら、累積ポイントを考慮すると、達成で2ランクUPのDランクに昇格でしょう? 出来ることも増えるし、しっかり説明をしないといけないわ。

 後、マスターからも達成時にはお礼を言いたいから連れてくるように言われてるのよ。ほら、行くわよ」


 あー、ここでそれを言いますか。

 でも、良かったのかな。目立ったけど、憎悪を込めて睨んでた子達も、ビックリし過ぎて戦意喪失してるし。


 スカルマッシャーさん達に頭を下げて、すれ違い様に話したい事があるから後で時間をとってもらいたい事を伝える。

 ケビンさんが軽く頷いて、待ってるから行ってこいと背中を叩かれた。残ったメンバーは駆け出し達とお話し中みたいだ。安定の無言ロジャーさんは格好の弾除け? 女の子達が陰に隠れている。


 入り口を塞いでいた見物人達は、アンナさんが近づくと2つに別れて壁際にくっつく。おー、モーゼの十戒みたい。あの海割ったやつ。


 私が通る時に、小さな声で「ありがとな」「助かってるぜ」と冒険者達が伝えてくるのが無性に恥ずかしい。


 ここで「貴方達のためじゃないんだからね! 依頼だからやってるの!!」と叫びたいけど、顔真っ赤にして叫んでも効果なさそうだしな。本気でやったら、何処のツンデレさんだ! になるし。


 下を向いて無心で足を動かしていると、ようやく執務室に着いた。

 アンナさんが中に声をかけて二人で入室する。


「マスター・クレバ。失礼します。ティナ・ラートルの指名依頼、達成報告に参りました」


「……下の騒ぎはそのせいか?」


 机に座ったままのクルバさんが聞いてくる。私とアンナさんは対面に立ったままだ。確かにここにも、微かにだが喚声が聞こえてきている。


「いえ、ティナが草原で戦闘不能の冒険者を保護してきたからでしょう。……20人程」


「……何があった?」


 アンナさんがわざと人数を後に教えて驚かそうとした。それでも顔色を変えずに詳しい内容を問うクルバさんに、悔しそうに再度さっきの説明を繰り返す。まぁ、アンナさんもマスター・クルバも眉唾だと思ってるみたいだけどね。公式にどうなるかが大事なの!


「……以上です。今回の保護は"善意"で行われたと判断し、ペナルティ等は発生させない旨、判断いたしました」


 ピンと背筋を伸ばしたまアンナさんが報告を締めくくった。


「まぁ、真実はどうあれ、ティナがそれでいいなら今回はこれで終わりにする。だが、次はないと、伝えておけ」


 わざと「誰に」を抜かしてアンナさんに指示を出す。うん、子供のお世話は大人の役目だし。頭ごなしに叱るよりも反発は無いハズ。今頃、ケビンさんたちがお説教してるのかな?


 そこからようやく納品の確認となる。バスケットを取りだそうとして、はたと気がついた。


 …ヤバい。アイテムボックスの中だ。ドタバタしてて、すっかり無限バックに移すの忘れてたわ。と言うか、今日はバック自体持ってないし、どうしよう?


 この世界でアイテムボックス持ちはそれなりにいるけれど、運搬に便利な能力のため、領主のお抱えや軍に所属することが多い。

 容量にもよるけれど、バレたら強制徴用の可能性が上がる。

 背中に冷や汗が流れ落ちるのが分かった。


 移転魔法で手元に出すか、アイテムボックスをバラすか。どちらにしろ不味い。この年で移転魔法を使えるとバレたら、それも強制徴用コースだ。

 地雷ばかり埋まってるわ、ホントに。


「どうした? 手持ちにバスケットはないようだが、何処かに仕舞っているのか?」


 えぇい、ままよ!


「アイテムボックス、オープン! こちらになります。ご確認ください」


 自棄になり、アイテムボックスをクルバさんの目の前で開いた。最悪、容量が少ないってことにするつもりだ。


「アイテムボックス?!」


 アンナさんが押し殺した声を上げる。流石に驚かせたみたい。

 マスター・クルバは……なんだ? 呆れた視線かな?


「アンナ、今見たことは誰にも言わない様に。

 ティナ、お前も気を付けているようだが、アイテムボックスはレアスキルかつ、権力者に狙われやすいスキルだ。運用には注意しろ」


「マスター・クルバ。驚いていませんね。まさかご存知でしたか?」


「昔、見たからな。

 覚えていないだろうが、初めて会った時に持っていった玩具を、お前はアイテムボックスに放り込んだ。両親も俺も、あの時、コイツは規格外に育つと思ったもんだ」


 えっ、そんな思い出知らんがな。幼い頃の物心つく前の記憶って、ある訳なかろう。こっぱずかしい。


「あー、他に何か私の黒歴史ご存知ですか?」


「安心しろ。お前に会ったのはあの時一回だけだ。まぁ、実戦訓練もさせるとフェーヤが話していたからな。恐らくレベルも高いんだろうが……能力値を解析するのは成人の本登録でだ。

 まぁ、それまで楽しみにしておくさ」


 男前ですね、クルバさん。規格外の怪物と予想して尚、ギルドの利益の為に利用しますか。

 アンナさんも、もう落ち着いたのかいつのも表情だ。


「あはは、なんか、すみません。

 今日でDランクにランクアップなので、住み家を西の森に変える予定です。これで今回の様なことは無くなるでしょう。

 あと、これから寒くなるので、納品周期をもう少し長くしたいと思います。大丈夫ですか?」


「構わん。その代わりこちらからも提案がある。

 定期納品だが、下位魔力回復薬(ローマナポーション)中位魔力回復薬(ハーフマナポーション)中位回復薬(ハーフポーション)高位回復薬(フルポーション)の四種類に変えてほしい。もちろん、それ以外の下位回復薬等も買い取りは大歓迎だ」


「わかりました。ただ、これには口止め料も含まれていると思ってください。アイテムボックス、ポーション作成技能等、私の事は出来る限り内密にお願いします。まぁ、現状でポーションの件は解禁で構わないと思いますけど」


「承知している。開示するのはポーション技能までだ。

 ……そう言えば、奴隷を買ったとか。もし、奴隷の所持に抵抗がないのであれば、護衛兼パーティーメンバーとして、前衛能力のある無期奴隷の永年購入を検討してみたらどうだ? 今後、身を守るのにも、冒険者を続けるにも必要だろう。ダンジョンに入るなら特にな」


 その提案には返事をせずに、執務室を後にした。ダビデの件は仕方ないとしても、人を売り買いするのはちょっと嫌だ。

 ポーションの詳しい納品数は材料の収集もあるから、来月、霜の月までにギルドで決めておくとのことだった。無理のない個数ならいくらでも構わないと、私からはそれだけ伝えておいた。


 執務室の隣へ移動し、ランクアップの作業をする。これで何処のダンジョンにも入れるようになったけど、アンナさんから、実力を見ながら無理せずに攻略するように念を押されてしまった。


 全て手続きが終わり、二人で下に降りる。


 ー…ゲ、まだ沢山いるし。


 ケビンさんたちを始めとして沢山の冒険者がいる。私を見つけるとざわつき始めた。


「皆さん、ティナへの個別依頼は基本的にギルドを通して頂きます。例外はティナから依頼を受けた場合のみです。覚えておいてくださいね」


 殺気だったアンナさんの微笑みに気圧されて、冒険者たちは三々五々解散していった。あー、私に個別でポーション作成依頼したかったのか。際限なく受けるとギルドとの契約違反になるし、注意しないとな。

 階段の下に残ったのはスカルマッシャーさんたちと、ボロい少年、あ、ニッキーか。


「お待たせしてすみません。少しだけナイショ話をしたいです」


 茶目っ気を出してケビンさんたちにお願いする。


「ああ、かまわない。その前に、ティナ、コイツがどうしてもお前に挨拶したいと言っていてな。他の連中は帰った」


 ニッキーを押し出しつつ、ケビンさんが伝えてくる。

 うん? なんだろう?? 私に関わると仲間内で総スカン食うんじゃないかな? こんな人目があるところで話していて大丈夫なの?


「悪かった!! 冬の間はあんまり品物ないけどよ、春になれば、また色々売るから、良かったら買いに来てくれ! じゃ!!」


 勢いよく90度に頭を下げ、そう、ニッキーは言うだけ言うと、走り去っていった。ケビンさんたちも私もポカンとしてる。


「一体、なんだい、今の?」


 マイケルさんが呆然と呟いた。私は我慢しきれずに、クスクス笑ってしまう。男の子だねぇ。かーわいい。私には伝わったから大丈夫。


「いえ、気にしないで下さい。少し、縁があっただけです」


「いや、ティナがわかったならいいんだけどよ。なんだありゃ?」


「ほら、いつまでここに立っているつもり? ナイショ話をするんでしょ。あっちの個室を貸してあげるから、さっさと話していらっしゃい」


 いつまでも移動しない私たちに業を煮やしたのか、アンナさんに応接室のひとつに放り込まれた。


 上座にケビンさんたち、入り口に近い所に私が座る。


「えっと、お時間を頂いてありがとうございます」


 まずは空気を変えようと挨拶をした。


「あぁ、構わない。一応、世話役だしな、困っていることがあるなら言うといい」


 相変わらず迫力満点なケビンさんが目付き鋭く話す。これは心配かけちゃってるのかな?


「いえ、困っていると言うか、伝えたいことがあって。

 先程、アンナさんからもあったように、私への個人的なポーション作成依頼は禁止されています。ただし、私からの依頼と、私から売買を持ちかけるのは全面禁止ではありません。

 ギルドの商売に影響を出さない範囲ならと、マスター・クルバに既に許可を得ています」


 もう、言いたいことわかったのかな? カインさんの目が輝いているし、マイケルさんの目は底光りして怖いくらいだ。


「現在、回復薬ならば高位回復薬まで、魔力回復薬なら中位回復薬まで作成可能です。一応、高位魔力回復薬も作れはするのですが、負担が大きいので、ギルドの依頼以外では作らない事にしています。ごめんなさい。

 ただし、材料を集めるのがひとりでは手が回りません。

 ですので、もし、スカルマッシャーさんが、何かのついでに、回復薬素材を持ち込んで下さるなら、手間賃に少し素材を頂きますがご希望のポーションを作成します。

 あまり多くのパーティーにお願いすると、私の手に負えなくなるので、私からこの提案をするのは、"スカルマッシャー"さんと"自由の風"さんの2パーティーにする予定です。

 いかがでしょう、記憶の片隅にでも置いて頂けると嬉しいです」


「ティナ、それは…」


 ケビンさんが自分達だけ優遇されるのを嫌がる様に何かをいいかける。

 そのケビンさんをどついて、ジョンさんが止めた。


「ティナ、申し出は大変ありがたいと思うが、何故俺たちと"自由の風"なんだ?」


 会話の選手交代。どうやら交渉役は常識人のカインさんの担当みたい。


「同じ依頼をするなら、縁のある方にお願いしたいだけです。スカルマッシャーさんは5本の指に入るトップランカー、自由の風さんも有名処の冒険者と聞きました。

 それに恩と言うか、迷惑をかけていると言うか、借りがあると言うか……、まぁ、そんな感じで私がトップクラスの皆さんに出来ることと言ったら、ポーション作成技能の活用くらいです。

 秋から冬にかけては魔物が活発になるとも聞きましたし、遠慮なく持ってきて欲しいです。森の何処かに住んでますから。

 それに、技能も使えば使うほど練度が上がりますし、手間賃に素材を頂きますから、私にも利点があります!」


 最後は言い訳じみたことをぐずぐず話すはめになった。

 あー、恥ずかしい。でも、借りっぱなしは性に合わない。

 そこ! 生温かい目で見るんじゃない!


「ならありがたく受けよう。どれくらい作って貰えるかは交渉ってことにしておこうか。"自由の風"の面子にはもう話したのかい?」


「いえ、カインさん、まだです。アンナさんにでも手紙を頼もうかと。宿知らないですし…」


「あー、それならリックとは同じ宿だから、俺達が伝えておくよ。今、ティナが不用意に接触すると騒ぎが起こるだろうしな。しばらくはギルドにも近づかないほうが無難だと思う。

 しかし俺たちとの素材の受け渡しや、ティナと連絡が取りたいときはどうしたらいい?」


「それなら、これをお貸ししますので、使ってください。使い方はわかりますよね? リックさんにも渡してもらえますか?」


 そう言って取り出したのは、蛤みたいな貝の片方だけが付いたキーホルダーモドキ。ひとつの貝を2つに割って、お互いの声を届ける通話のアイテムだ。

 これは両親からもらった無限バックに複数入っていた。


「通話のアイテムか。ああ、わかった、渡しておこう」


 よし、今日やりたかったことはこれで全部終わり。色々バレたけど、結果よければ全て良し。


 さぁ、城壁が閉まる前に草原に戻ろう。

 今日のダビデのご飯はなんだろな?






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