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207.兵糧攻めは立地を考えましょう

「食料輸入が止まった? やっぱりそうなったか。マリアンヌ達に感謝だね」


 執務室でアルフレッドが受けた報告に、想定の範囲内だと返す。不安げな内政官達に、食料の備蓄を確認した。


 何とかかんとかリベルタの名前を出さずに、買い占めが出来た小麦は国民全体を二年は食べさせる事が出来る。調味料、特に塩は約一年分。砂糖は嗜好品だけれど冒険者達に人気だから半年分。それ以外も概ね半年から一年程度は無補給でもなんとかなる。


「アンナ殿からの連絡があのタイミングで助かりました」


「まったくだよ。もう少し遅かったら、大変だった。女王に対する口調でクルバさんから怒られちゃったマリアンヌは可哀想だったけれど、本当に助かったよ」


 あの時場違いに明るい口調で連絡を入れてきたマリアンヌに、クルバさんが本気のお叱りをしていた。更にアンナさんへと通信相手は変わり、おめでたとデュシスの近状報告をされた。


 その中で、チラッとペンヘバンが何かを仕掛けてきそうだ。人間世界各地の神殿を牛耳っている国だから、移転制限や商人達への祝福を盾に売買の制限が予想されると話されたのだ。


 ナイショよと言いながら、デュシスにも使者が来ている事を教えてくれて、更には「リベルタを破門する」事を計画しているともリークしてくれた。


 当然の事ながら同時に獣人の代表であるワハシュもリベルタを異端と宣言すると言われ、世界から全ての繋がりを拒否される恐れがあることも心配された。


 今回の事はそのアンナさんの不安的中第一弾だろう。ちなみに移転に関しては、双方の神殿が入り口を開かなければ行えない。だが神殿は国よりもペンヘバンやワハシュの法王に従う。だから各国は常に神殿の動向に注意を払っているらしい。


 まあ、ウチの神殿は「神子姫に忠誠を誓う」一団と、人間の祀る神々を信じる「クレフ派の兼業冒険者」の神官が少数出入りしているくらいだから、私を裏切り、ペンヘバンに従う者はいないから安心して欲しいと既に連絡がきていた。


 特にペンヘバンがリベルタに敵対すると態度を明らかにし始めてからは、常に数人の神子姫派の神官達が赤鱗の騎士を伴ってオーナメントの部屋に詰めている。隙がつかれ敵を招き入れる事はないと報告が上がってきている。


「住人で外にいるのは?」


「陛下の警告を受け、リベルタの外に出ていた者達は帰還していました。他国に残っているのは一部の商人とオルランドの手の者達。それと冒険者ギルドから、先の犠牲者達の身内を助ける為に依頼を受けた冒険者たちのみです」


 犠牲者は隷従の首輪を付けられていた冒険者達の事だろう。この扱いは、冒険者達が所属していたギルド支部には伝わっていなかったみたいで、クルバさんやクレフおじいちゃん達が切り崩しに忙しい。その一環でこれ以上の犠牲を避けるために、冒険者達の身内を逃がす算段をしているらしい。


「けっこういるね?」


 思いの外多い国外にいる自国関係者に私の表情が曇った。それに気がついたアルフレッドが苦笑しながら否定する。


「少なすぎるくらいです。他国に残った商人はそもそもその国で商いを行っていました。リベルタとの関係性を知られておりますので、多少風当たりは厳しいでしょうが心配はいりません。また、オルランドの手の者達は、その国に溶け込んでおりますのでこれも心配無用。救出など計画しては、逆に信じていないのかと憤慨されますよ」


「あ、そうなの?」


「はい。最後に冒険者ですが、彼らは移動するのも仕事の内。気にするものはおりません」


「なら捕らわれて人質にされたり、ひどい目に合わされたり、偽証を強要されたりしそうな人はいないってことでいいの」


「はい。少なくとも庇護対象の国民で外に出ている者はおりません」


 アルフレッドの断言を受けて、少し安心した。それなら今考えるのは、主食と調味料以外をどうするかだ。


 日持ちしない食料までは流石に備蓄しきれなかった。このままでは秋を待たずにおかずが不足する。


「冒険者ギルドに食料納品の強化をお願いしよう。魔物のドロップ品に多少のイロを付ければいいかな? 詳しい交渉は任す」


 内政官の一人を指定して冒険者ギルドとの交渉を一任した。魔物のドロップ品でも食べられる物は多い。特に肉類はかなり美味だ。住民たちも流通が増えれば喜ぶだろう。


「騎士団も狩りの強化をお願いしていいかな?」


「無論でございます」


 即座にうなずくフォルクマーを頼もしい気持ちで見つめた。


「無理はしないでと言いたいけれど、住人達の食事がかかってるから、ゴメン。私は貴方達を頼り、期待しています」


 無理を承知で頼んでいるのに、フォルクマーは凄く嬉しそうに笑っている。


「後は……そうだね。勇者との約束を果たそう。

 誰かハルトとジルさんを呼んで」


 私の命令を受けて、騎士の一人が外へと出ていった。


「勇者との約束で御座いますか?」


「隣接する境界の森を攻略する。私とハルトが主力になるよ。後はジルさんや一緒に来たいっていう有志がいれば、かな。危ないからね、流石に命令はしたくない」


「陛下と共にでしたら我ら赤鱗、喜んで死地にも赴きましょう。ですが何故今なのですか?」


「フォルクマーだってレイモンドさんから聞いて知ってるはずだよ。南に広がる森は肉以外にも野菜や鉱石がドロップする。北の森は根菜と塩や香辛料。もちろん肉や薬草も出る。魔物はかなり手強いって話だけどさ。

 このまま奥に進んだ森は手出ししない方がいいって警告されたけれど、高レアの薬草類にレア物の鉱石なんかの宝庫だ。この状況で放っておく事は出来ないよ」


「ですが多くは人跡未踏の地です。危険ではありませんか」


「だから有志だけ。様子見にどうせ突撃しなきゃいけないハルトと一緒に見てくるよ。問題ないようなら、大規模攻略かな。

 初めての小麦の収穫は五ヶ月後。国民に行き渡る量を作れるようになるまでには、数年かかる。いつまでリベルタの包囲網が続くかわからないけど、早めに何とかしないとじり貧だ」


 境界の森については、広域破壊は得意とする所だし、おそらく問題はないと思う。問題は主食となる小麦不足だ。逆に言えばそれさえなんとかなれば、リベルタは自給自足でなんとかやれる。隣接する三ヶ所の境界の森に、小麦の代替物があることを祈ろう。


「我々獣人は小麦がなくとも、肉主体で生活できます。人間達に多く分配して下さい」


 私の悩みを感じたのか、フォルクマーがそう進言してくれた。確かに国民の半数以上を占める獣人が消費量を減らしてくれるなら助かる。


「……足りなくなりそうなら甘えさせてもらう。不甲斐ない王でごめん」


 生活は出来ても、いらない訳じゃない。将来的に物足りない生活を送ることになるかもしれない獣人達には頭を下げるしかなかった。




「……来たぜ、へーか」


 その他の国家運営を話し合っている間に、ハルトが執務室にやって来た。そのすぐ後からジルさんも入室する。


「揃ったね。では勇者ハルト」


「何だよ、改まって」


「貴方との約束を果たしましょう」


「それって」


「ええ、境界の森を攻略します」


「……っしゃー!!

 おう! 俺に任せろ!!

 皆も強くなった。今度こそ攻略してやるぜ」


 ジルさんに鍛えられ自信がついたのか、ハルトがガッツポーズをして喜びを露にしている。


「まずはこちらと境界の森の境に、攻略拠点となる小屋を作ります。そこを足掛かりに攻略を。最初は南に向かいます。

 フォルクマー、小屋を建てるまで騎士達の一部を借りたいけれど大丈夫?」


 境に近づくほどに魔物は強くなり密度も濃くなる。流石にハルトパーティーと私だけじゃキツいだろう。


「御意。では初期に陛下により強制種族進化させて頂いた者達から選抜し、境界の森攻略隊を組織します。

 種族進化し戦いに慣れた者は、リベルタ国内でのレベルアップは難しく、皆悩んでおりました。この知らせを受ければ喜びましょう」


「来るんだ」


「当然です。宰相殿はどうなされるのですか」


 当然のように南の境界の森に騎士達の同行を告げられた。聖騎士であるアルフレッドも同行したそうな雰囲気はあったけれど、内政を行うと今回は辞退する。


「ジルベルト。我が君を頼みます」


「ああ、任せろ」


 短く会話するだけで二人は納得したようだ。そのままジルさんが私の護衛に任命される。


「フォルクマー、全員はダメだからね?

 少なくとも、私と同行する境界の森攻略隊、リベルタ周辺を警護する人員。万一の時の為に街に残る人員の三グループには分けてよ」


 戦いが起きますねと呟きながらも、フォルクマーは了承してくれた。


「おい、へーか。あんたも来る気か?」


 私が同行すると気がついたハルトが、驚きながら確認してきた。


「当然。これはハルトとの約束を果たす以外にも、リベルタの食料確保の目的もあるもの。広域破壊の使い手である私の出番。それに最近、レベルアップもしてないし、たまにはいいでしょ。たまには私も全力で暴れたい」


「心強いな」


「はは。勇者様にそう言って貰えるなら嬉しいよ」


 ニヤリと笑みを浮かべてハルトを見る。


 さてと、世界はリベルタを兵糧攻めにしているつもりなのかも知れないけれど、そうは行かない。ここの立地の良さを思い知らせてやろう。


 食料の他にも、魔石やらレア鉱石やら戦争に役立つ物資はいくらあっても過剰にはならない。他国に輸出しなくていいなら、国内で贅沢に使ってしまおう。


 スミスさん達、鍛冶屋連合にも協力を要請しておかないとなと思いながら、久々のダンジョン攻略に私は胸を高鳴らせていた。





(C) 2016 るでゆん

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