18.住所不定有職
あの後、とりあえず私がダビデの後見をすると言うことで中にいれてもらった。ちょうど夜勤の冒険者との交代で上がると言うリックさんと、冒険者ギルドまで一緒に行くことになった。
リックさん曰く「危なっかしくてほっとけるか。二人仲良く奴隷に売られそうだ!」と言うことらしい。
そこまでじゃないんだけどな。この世界の大人は心配性が多い。クレフさんといい、スカルマッシャーさんと言い、アンナさんといい、子供に甘すぎだ。
リックさんのパーティーメンバーも一緒に、ギルドに続く大通りを歩く。ちなみにリックさんのパーティー『自由の風』は男女各3人ずつのパーティーだ。その内二組は結婚済だと、後でアンナさんに教えてもらった。最後に残ってるのはパーティーリーダーのリックさん。そのうち押しきられて落ち着くはずと、その時期がギルド内でちょっとした賭けの対象になっているそうだ。
「この子がねえ……」
「おう、昨日ケビン達が話してた、ギルドの秘蔵っ子だ」
「クレフ殿の被後見人、冒険者ギルドのお姫様。
しかも、この短期間で、デュシスの町でも5本の指に入る冒険者、スカルマッシャーを骨抜きにした……」
私を見た反応は概ねこんな感じ。骨抜きとか、お姫様とか、秘蔵っ子とか、どんな噂が流れているのやら。二日で広まりすぎだろう。
ずり落ちてくるダビデを背負い直しながら道を歩く。周りがチラチラこっちを見ているが、ダビデの可愛らしさにやられているんだろう。やらんよ、この子はウチのコだい!
「おかえりなさい、自由の風さん。今日で門番の依頼は最終日です。終了報告を受けるのでギルドカードの提示をお願いします。
って、ティナ!! なに背負ってるの!! カワイイー!」
「ただいま、マリアンヌ! 可愛いでしょ!」
キンキンとした私たちの声で周りの注目が集まってしまった。夕方の報告時間と重なったのか、それなり混み合っている。
「ティナお嬢様!? ごめんなさい! ボク…」
それでようやくダビデも目が覚めたのか、わたしの背中で暴れだした。そっと床に下ろし、手を繋ぐ。
肉球ぷにぷに~幸せ♪
「自由の風さんお疲れ様でした。マリアンヌ、対応をお願いね。ティナちゃんはこっちにいらっしゃい」
奥から出てきたアンナさんが問答無用で私をブースに連れていく。リックさんたちに挨拶しつつ、いつものブースに入った。何故か私を見送る面子がみんな合掌してる。何でだろう?
「ティナちゃん、とりあえずはおかえりなさい。無事で良かったわ」
「ありがとうございます、薬草採集も無事に終わりました」
あれ、アンナさんの目が笑ってないぞ。
「それはおめでとう。でも、ひとつ聞いていいかしら? そのコボルド、どうしたの?」
あー、これは説教モードかしら?
正直に見つけた状況と、これから一緒に住むことを伝える。
「ティナちゃん、それは奴隷として受け入れると言うことだけれど、分かっているのかしら? お金は? 住む家は? キチンと考えたの?」
「お金は、私が稼ぎます。幸運な事にポーションの買い取りをしてもらえますから、二人でも何とかなるはずです。贅沢は出来ませんけどね。
住むところは、これから考えます。最悪、町の外で暮らそうかと思っています。
……奴隷、ですか。さっき、リックさんにも言われたのですが、出来たら奴隷ではなく同居人として過ごしたいのですけれど、難しいですか?」
深いため息をつかれた。
「ティナちゃん、コボルドは種族奴隷よ。ここでは自由なコボルドは野良だと思われて、捕らわれ売られるだけよ。自分の奴隷として登録するにも金銭がかかるし」
「ティナお嬢様、ボクを買ってくれるのではないのですか?」
売られると聞いた途端にダビデが私のローブの裾を引き懇願してくる。
「お嬢様は、ボクを飼って下さると約束しましたよね?!」
うん? 確かに「かう」とは話したけど、犬じゃないんだし、ただの比喩だと思ってたんだよね。しかも、1回目と2回目でニュアンス違うし。
「買う」と「飼う」かぁ、これはおばちゃん、一本とられたわ。
「そういうつもりじゃなかったんだけど、本人が良いなら、あと術がないなら仕方ないかな。
アンナさん、なら奴隷として引き取ります。どうしたらいいですか?」
「もう、頑固なんだから。ティナちゃん、奴隷の所持は初めてよね? 少し説明させてちょうだい。
奴隷の登録は奴隷市場の集積所でやってもらえるわ。期間奴隷ならそれに見合った金額、永年なら最低でも金貨1枚が必要になるの。
レンタルは途中で奴隷に何かあった場合、違約金を払わなきゃいけないし、毎年更新料として税金を払う必要があるわ。
永年ならそう言ったものはなし。所有権が完全に移るから好きにしていいの。生かそうが殺そうが所有者の自由。
コボルドで永年、目立った技能がないなら金貨1枚が相場かしらね?
あとは住み家だけれど、一般の宿屋では亜人や獣人奴隷は宿泊自体を嫌がられるのよ。だから基本的には貸家か持ち家になるのだけれど、冒険者だとDランク以上の成人しか借りられないのよ。
それを知っても、貴女はコレを所有するのかしら?」
思った以上に条件が厳しいね。
まぁ、私の選択は変わらないけど。
住み家は『隠れ家』があるし、金は転生特典も残ってるし、万一の場合は親の遺産もある。問題なし!!
「問題ないです。ギルドにはこまめに顔を出しますから、回復薬の心配はしないでください」
私の決意が変わらないと分かったのだろう。諦めて貰えた。
しかし、今日の宿、どうしよかな? ダビデ、このままだと野宿だよね。その時にはわたしも付き合うけど、この世界、公園とかあるのかな?
「もう、仕方ないわね。なら奴隷登録を終えたら、今日はその子をギルドで預かるから連れていらっしゃい。
どうせ、今日泊まる所なんて考えてなかったんでしょ?
今日は私が夜勤だから、その子だけならこっそりギルドの奥で休ませてあげるわ。……他の人には内緒よ?」
困ったようにアンナさんが提案してくれる。
アンナさん、大好き!!
「そのかわり回復薬の増量よろしくね」
は~い! 明日までに全力で作ってきます!!
「ダビデはそれでいい? 一晩、ギルドでお留守番できる?」
一応本人にも確認する。どうしても無理なら、城壁破って草原に帰ろうと思ってたり。ワンコの事になると見境がなくなるのは昔からだ。
「もちろんです。お待ちしています、ご主人様」
「アンナさん、少し待っていてください! すぐ登録してきます!!」
ダビデの手を引いて駆け出そうとする私に、アンナさんがまったをかける。
「その前に薬草の納品をしましょうね。何本とれたのかしら?」
あ、忘れてた。
*****
あの後、無事に30本分の薬草の納品を済ませ、奴隷市場に向かった。何故かリックさんだけが私についてくる。
強面なのに、細かな心使いが出来る男なんだそうだ。
クレフさんに教えてもらった様に、ここの奴隷市場も同じレイアウトだったから迷わずに集積所までたどり着けた。
夜の奴隷市場は昼間以上にバイオレンスだった。リックさんがいなかったら途中で耐えきれずに逃げてたかも。感謝、感謝。
「いらっしゃいませ。買い取りですか? 登録ですか?」
制服を着た紳士が聞いてくる。ここは男所帯なんだね。
「コボルドの永年の登録だ。主はこっちの子供」
「かしこまりました。ではあちらにお進みください」
リックさんがそう伝えると、布で仕切られた奥を示される。リックさんはここで待ってるというと、壁際に移動した。
布の奥には術師のおばさんが待っていた。
規定の料金、金貨を1枚を払うと床に書かれた魔方陣が光りだす。中心にはダビデ。端の小さな魔方陣には私が立っている。
溢れる様に輝く光がダビデに吸い込まれて消える。
……こんだけ?
「はい、終わりましたよ。
これでこのコボルドはお嬢様の所有物です。命令には絶対服従、お嬢さんがなくなった場合、初期には後追いで死ぬ様にしていますから、そのままでも問題はないでしょうが、それが嫌な場合は別途命令してください。
不要になったらまた売りに来てくださいね。解呪に少しお金を頂きますが、買い取りも致します。
では、末永く可愛がってやってください」
流れ作業の様に外に出される。
「お嬢様、ボク、頑張ります。これからよろしくお願いします」
「うん、でも本当に気にしないで、気楽にしててね。ダビデが幸せなら私も嬉しいし」
おう、しっぽパタパタだね。
「おい、嬢ちゃん、ラブラブしてねぇで帰るぞ」
「あ、リックさん、ありがとうございました。助かりました」
借りが出来ちゃったな。そのうち返そう。
リックさんにお願いして、商店街を通って帰る。私は新品を買うつもりだったんだけど、本人がどうしても古着が良いと言い張り、古着屋でダビデの服を買い込んだ。
やっぱり獣人は嫌がられるのか、触ったら買って貰うよ!! と怒鳴られながらもリックさんが店主を宥めてくれて何とか買えた。
借りその2。ワンコの恩は忘れませんよ。
後、店主、ウチのコを怯えさせたこと忘れませんからね。
その後、ダビデをアンナさんに預け、夕飯代わりの軽食を持たせた。
「リックさん、今日は本当にありがとうございました。何のお礼も出来ませんが、何か出来ることがあったら教えて下さい」
「おう、気にすんな。ケビンにも頼まれてっからな。ただよ、嬢ちゃん、あんまり無茶すんなよ! じゃぁな」
そう言うと、さっさと歩き去っていった。
******
昨日は小春亭に泊まり、時間の許す限り回復薬を作った。
全部納品するといくらなんでもヤバそうだから、それなりの数に減らすつもりだけど、アンナさんに感謝の心も伝えたいし、さて種類と数を決めなくては。
結局決めきれず、朝靄が立ち込める中、市場に向かう。昨日の場所にはニッキーがもう待っていた。
足元には大きさが異なる袋が4つ。
「おう、来たな、ティナ。持ってきてやったぞ」
「早いね、ニッキー。助かる。中、見せてね」
中を見ると間違いなく、四種類の葉っぱが入っている。虫食いもなく、状態が良いものばかりだ。
「オッケー。確かに注文通りだね。なら、コレ」
半銀を渡す。ニッキーはお金を受け取ってから、何か言いたげにこっちを見ている。
「何? 手付けなら返さなくていいよ」
「なぁ、ティナ。お前ってさ、今ギルドで噂になってるティナか?」
「どんな噂がわからないけど、スカルマッシャーが世話役の駆け出し冒険者のティナなら私だよ?」
「やっぱりそうか。
ティナ、悪いけど後はお前には物は売れない。
俺も自分の身が可愛いからよ。ゴメンな。
朝とか夕方とか、人目のない時間は気を付けろよ?
お前、嫌われてるぞ」
うん? 嫌われてる??
何かやったっけ??
この世界で嫌われるほど関わった人って、あんまりいないんだけど? キャサリンでも逃げたか?
「あ、そうなの? 教えてくれてありがとう。こっちこそごめんね。もう来ないから、安心して。
ニッキーこそ、気を付けてね。何か危険な目にあったら教えてくれれば何とかするよ」
うーん、後でアンナさんかケビンさんにでも誰が逃げたのか聞いてみよう。関わった人がひどい目みるなら、対処が必要だし。
宿に帰り、朝ごはんを食べ、今日で宿を引き払うことを女将さんに伝えた。
「あら、残念だこと。出発なのかしら?」
「いえ、実はコボルドと一緒に住むことになって。宿屋ではご迷惑をかけるので他所に移ることにしました」
「まぁ、奴隷を買ったのね。確かに他のお客様の手前、人以外の奴隷は中に入れられないもの。残念だけど仕方ないわね。また機会があったら泊まってくれると嬉しいわ」
また機会があったら泊まる約束をして、2日間お世話になった宿を出た。
まだ早い時間だから、あまり人もいない。急ぎの旅人は今頃、城壁の門だ。
「いらっしゃいませ。あら早いわね。ティナちゃん、お預かりした品は奥よ」
私が入ってきた事に気がついたアンナさんが挨拶をしてくる。まだ何組か冒険者はいるけれど、朝の忙しい時間は終わったようだ。
「おはようございます、アンナさん。昨日は助かりました。ありがとうございました」
いつものようにブースに移動する。
「いえいえ、もう少しで私も上がりの時間だから助かったわ。とってもいいコにしていたわよ。連れてくるわね。少し待って」
そう言うと、奥に歩き去った。さて今のうちに納品分の準備をしてしまおう。どうしようかな?
何とかバスケットに、どっさりと、回復薬を詰め込み終わった時に、アンナさんがダビデを連れて戻ってきた。
「ご主人様、おはようございます。お帰りなさいませ!」
ふかふか毛並みで昨日買った服に着替えたダビデは可愛さ三割増しだ。これで標準体型まで太れば、ますます可愛くなりそう。誘拐に気を付けなくちゃな。
「おはよう、ダビデ! 昨日は良く眠れた?」
「はい、アンナ様にとても良くして頂きました」
「そう、良かった。ならダビデ、少し待っていて貰えるかな? アンナさんとお話したいことがあるんだ」
頷くダビデを確認してアンナさんに向き直る。
「すみません、アンナさん。回復薬の納品をお願いします。ダビデを泊めて頂いたお礼に、量と種類を増やしました。
多過ぎて買い取り不能の場合は改めますので、戻してください」
そう言ってどっさりと重たくなったバスケットをテーブルに出す。
「あら、それは楽しみ。では拝見しますね」
テーブルに回復薬を広げて確認していく。
内訳は
高位回復薬 1個
中位回復薬 50個
下位回復薬 100個
そしておまけに
下位魔力回復薬 20個
入れてみて気がついたけど、このバスケットも空間拡張系アイテムだった。一杯入る系アイテムは結構流通してるみたい。
内容を確認したアンナさんが目を見開いたまま固まっている。
ー…やっぱりちょっとやり過ぎた?
内心後悔しつつアンナさんの再起動を待つ。
再起動したアンナさんはガタンと椅子を蹴倒して、走り去ってしまった。マリアンヌが乗り移ったみたいだ。
しばらくすると、マスター・クルバと共に戻ってくる。アンナさんの顔は興奮で輝いている。マスター・クルバば相変わらず不機嫌そう。
「おはよう、ティナ。三日目で俺が呼ばれるとは思わなかったぞ。まったく、非常識な。
この回復薬はお前が作ったのか?」
入ってくるなり、クルバさんは端的に聞いてくる。
「朝早くから申し訳ありません。昨日、アンナさんにご迷惑をかけたので、お詫びのしるしに手持ちを持ち込みました」
「そんなことは聞いていない。質問に答えろ。これらは全てお前が作ったのか?」
誤魔化されてはくれないか。仕方ない、この場での嘘は悪手だ。
「はい、以前から少しずつ作り貯めたものです。高位回復薬はレシピは知っていたのですが、この街で、今回、初めて作りました。品質の確認をお願いします」
「……信じられん。なら、お前は魔力回復薬系もレシピを知っているのか? 素材を提供した場合、作成は可能か??」
「……一応、可能です。数と品質はお約束出来ませんが、作成は多分出来るかと」
「……規格外とはお前みたいなのを言うんだろうな。追加で契約を結びたい」
私の正面に座り、こっちを見据えながらそう言われる。
後ろに立ったまま待っているダビデがその視線の強さに怯えている。
拒否は出来ないだろうし、さて、どうしようか?
「条件次第です」
「これから冬に向かうにつれて魔物も凶暴化するからな、少しでもポーション類を備蓄したい。冬には、戦争にとられている職人や兵士も一度戻るから一息つける。それまで負担をかけることになるが、今、薬剤師メインなのは妻とティナだけでな」
ん?
私は薬剤師メインのつもりないんだけどなぁ……。ま、いっか。
「具体的には?」
「下位回復薬を 200。
中位回復薬を100。
高位回復薬を20。
下位魔力回復薬を300。
中位魔力回復薬を150。
高位魔力回復薬を10。
できるだけ早く追加納品してほしい。報酬は金貨30枚。指名依頼として、買い取りポイントの他に、別途、達成報酬としてギルドポイント1000Pをつける。なお、素材は全てこちらで提供する」
「失礼ですが、マスター・クルバ。計算が合わないように思います。少し高い気がしますけど??」
「フルマナポーションが作れることは否定せんのか。まったく。……高いのは大量発注でかつ急ぎだからな。割り増しだ。
……何日かかる?」
えーっと、これどうしよう。何日って言えば目立たなくてすむ?
算数きらいなんだけど! いいや、ざっくり適当で!!
「えーっと、なら30日以内とかでどうですか? 手持ちの分を出すとしても、これだけ大量なら、作らなくてはいけない分もありますし」
「1ヶ月か。了解した。ポーション類の納品は一括でなくても構わないが、全て納品し終わった時にまとめて支払いをすることになる。
後は、アンナから聞いたが、今日から外で暮らすというが、問題はないのか?」
「はい、外で暮らしても困らないアイテムがありますから」
「そうか、両親の無限バックの中に拡張型テントでも入っていたのか。
なら、何処に展開するのかは知らないが、気をつけろ」
「はい。あ、そうだ。町で警告を得ました。キャサリンでも逃げたんですか?」
私の質問にクルバさんとアンナさんは顔を見合わせた。
「そのような報告は受けていない。どんな警告を受けたんだ?」
ニッキーの事は伏せて簡単に状況を説明した。
「ティナちゃん、それはおそらく別件よ。後はこちらで確認しておくから、気にしなくて大丈夫」
「あぁ、忘れろ。こちらで対応しておく。
では、今回の納品の代金とポイントを付与する。バスケットには追加依頼の材料を入れておいた。
また何かあったら連絡するように」
足早にクルバさんは執務室に戻っていった。
「ギルドカードを渡して貰えるかしら?………おめでとう、今日からFランクよ。
今回の指名依頼が終われば、Dランクに後一歩までポイントが溜まるし、本当に早いわね。
Dランクになれば森の依頼が解禁されるし、ダンジョンにも入る許可が出るわ。森には素材も多いし、ダンジョンは実の入りが良いから、若い冒険者の憧れなのよ?
はい、バスケット。無くさないでね」
「ありがとうございます。できるだけ早く持ってきます」
*******
ギルドで指名依頼を受けて3週間がたった。昨日は定期納入の日だったから、一人町まで行って納品を済ませ、食料の買い出しをしてきた。
あの日以来、ダビデは町に同行していない。キッチンにおいたアーティファクトから出る、味噌や醤油、ソース等の活用法を研究するのに忙しいらしく引きこもっている。
お陰でこの20日、毎日ご飯が豪華で美味しかった。米がないのが悔やまれる。そのうち本気で探そう。
「ティナ様、今日も草原ですか?」
「うん、採集と軽く戦ってくるね」
日課になった草原の散歩に今日も向かう。指名依頼の回復薬はすでに作り終え、バスケットごとアイテムボックスの中だ。
ダビデと最初に会った草原の深部に『隠れ家』を設置して毎日を過ごしている。ローポーションの素材集めと、ウサギや犬等の弱い魔物を狩る毎日だ。
ー…あれ? 人がいる。しかも、うじゃうじゃ??
普段、魔物の反応しかないマップに人の反応がある。こっちに向かっているみたい? なんだろう? ギルドからのメッセンジャーかな?
住んでいる大体の位置はアンナさんには伝えてある。
緊急の用事だと不味いから、マップを頼りに向かった。
「お前、ティナだな!!」
柔らかそうな防具に身を包んだ20人近い子供が私を見て口ぐちに声をあげる。いや、子供と言っても、多分同じくらいだけど。
「そうだけど、どうしたの? ギルドでなんかあった??」
嫌な予感しつつ、一応問いかける。何かあってもこんな子供、寄越さないだろうし、一応弱いのしか出ないとは言え、ここ深部だし。現に、何人かの子供は血を流している。
「やっちゃえ!」
はい?
誰かが叫んだのを皮切りに、一斉に襲いかかってくる。
「お前、ムカつくんだよ!!」
「お前ばっかり優しくされて!!」
「お前がいるから!」
「二度とオレらの町に来んな!」
木の棒や鉄の棒、錆びた鉄剣なんかを振りかざしながら、叫んでいる。
これは、あれか? 嫉妬か? 外部因子の排除機構か??
このまま殴られる訳にもいかないし、痛いのも嫌だから、一人ずつ眠りの魔法をかける。わざと接触発動にしたのは、実力差を知らせないといつまでも終わらないかな? と思ったからだ。
誰も逃げないのは関心だけど、戦力差を冷静に判断できないのはマイナスだよと、のんびり考えながら次々と眠らせていく。
「……っ!!」
「あれ? ニッキーじゃん?! どうしたのよ??」
残りが片手を切った所で懐かしい顔を見つけた。
「ニッキー、てめぇ、わかってんだろうな!!」
一際体の大きい少年を中心とした一団がニッキーを怒鳴り付ける。あら、ニッキー、痣だらけ? イジメは駄目よ。
すこーし強めにニッキー以外の子達を殴りつけ、眠らせた。
「……っ! わりぃ、オレ、止められなかった」
「ん? 何の事? 前に話してた危ない目には合わなかったかな?? 大丈夫?」
「お前、さ、本当に世間からずれてるよな。この状況でそれを聞くかよ、普通。
みんなの憧れのスカルマッシャーさんたちやあのおっかねぇアンナおばさんと、普通に話すし、オレ達のアイドル、マリアンヌちゃんとは仲良しだしさ。
着てるものも一流、金にも苦労してない。みんな、おんなじ、未成年の、ここでしか生きられない冒険者のはずなのにさ」
あー……なんかごめんね。だから、この子達襲ってきたのか。
うーん、本来なら寝せて放置、生きようが死のうが気にしないんだけど、さて、どうするかな。私にも非はあるっぽいし。
「お前、めっちゃ強いんだな。ほら、俺も殴れよ。ここで俺だけ何もされないと、グループから外される。生きていけなくなるんだ。
……ゴメンな」
木剣を振りかざし殴りかかってくる。個人比弱めに殴りつけ、眠ってもらった。崩れ落ちるニッキーを抱き止め、この後を考える。
うん、とりあえず、ギルドのアンナさんの所に運ぼう。




