表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/250

だから、どうして、こうなった!



 爽やかな風、目に優しい緑の木々、小川のせせらぎを聞きながら、ついさっきまで今日眠る場所を整えていた。和気藹々とまではいかなくても、和やかに準備をしてた。

 目の前の光景を否定する。

 と言うか、否定したい。

 切実に。


 蹲る美形。

 少し離れた後ろで、今にも飛び出して来そうになっている別系統の美形。

 それを遠巻きに固唾を呑んで見つめる、ケモ耳×2。

 もけもけは正義だ!!


 ALL オス。

 私だけメス、一応乙女に分類される女の子。不本意だけど。


 私の手には、蹲る美形から手渡された、トゲトゲの枝(複数)。 ご丁寧に私が握るところのトゲは全て処理されている。

 無駄にしなやかで長いそれは、まるで鞭。

 ガチで鞭。

 前世でやっていた、RPGゲームの悪役ボンテージ女幹部の武器のような鞭。

 勘弁してくれ!


 渡された途端固まった私を流石に不審に思ったのか、伏せていた顔を上げて私を見る瞳は、すがり付く様に潤んで悲しげだ。


 貴方はどこの乙女ですかッ!?


 心の中で絶叫しつつも、表情には出ず、瞼が痙攣するのみ。


 だから、どうして、こうなった。

 全てはあのとき、私の精神状態が、鬱だったせいか?

 そうなのか、そうなんだな?!


 私は盛大に過去に逃げることにした。





 ********




 前世、と今になったら言い切ってしまっていいと思う。


 前世での名前は、高橋 有里。クラスに複数はいる苗字、名前の地味で目立たないやつ。


 ぎりぎりアラサー、もうすぐアラフォー。

 お局一歩、いや、半歩手前の会社員。安定の万年ヒラ。オヤジ化は認めたくないけれど、枯れた化石女の自覚はあった。


 大人になっても名前の通りに地味は変わらず、結婚するでもなく、かといって出世するでもなく、同じ日々を過ごしていた結果だ。


「昨日と同じ今日が生きられれば、それで満足です」


 職場の上司達に何故出世を望まないのか? と聞かれたときに真顔で答えたら、変な顔をされた後に大爆笑されたっけなぁ。


 今では懐かしいや。


 高橋 有里としての日本での最後の思い出は、実家で飼っている犬に大量のお土産を買って、両手に満載した紙袋をぶら下げて、仕事帰りに正月帰省ラッシュの電車に飛び乗った事。私はバリバリの犬派。でも毛皮があればどんな生き物でもドンと来いだけどね。


 夜だったから子供連れはもういなくて、私のような土産を抱えた仕事帰りか、大学生位の若い子たちがキャッキャ騒ぎながら、通路にすし詰めになって立っていたっけ。


 もう少しで最寄り駅だな、と身動ぎした時、身体が強く振られた気がして意識が途切れた。


 人生初の気絶だー☆と思ったら、どうやら死んだらしい。



 気がついたら、だだっ広い白い空間に、百人ほどの人間が等間隔で立っていた。もちろん私もその一人。中央右寄り、後ろの方で比較的全体が見渡せる。


 移動しようと周りを見渡して気がついた。


 二メートル四方の透明な板、プラスチック系のナニカで囲われている。出口もない。叩いても音もしない。


 おー、閉じ込められてる!


 ついでに、まったく声も出ない。

 そして何故か自分が死んだことも理解しているし、それに疑問を持つこともない。1種のマインドコントロールか? はたまた、神の奇跡か。


 道理でこんなに人数がいるのに、みょーに静かだと思ったわ。


 前の方で元気な青年が壁を叩いている。


 泣き崩れているアイドルみたいに可愛い子もいる。


 呆然と立ち尽くし、口だけが高速で動いているおっちゃんもいる。……家族でもいたのかな?


 ビール片手に隣どうしで乾杯の仕草をしているツワモノもいるけれど、あそこは意思の疎通が出来ているのか? それとも酔っぱらい特有のアレなのか。


 比較的冷静に周りを観察している風で、内心私はパニックを起こしていた。


 元々不意討ちには弱い、変化嫌いのヘタレだ。こんなワケわからん死後の世界などゴメンだ!

 ついでに言うと、私は典型的日本人!楽しければ、正月、七夕、節分、ひなまつりに花祭り、土用丑の日、バレンタインにクリスマス、ハロウィーン、なんでもござれの人生だったんだぞ。

 真っ白ってなんなのさ、これなら、意識消滅、肉体塵の方が理解出来るわ!!


 ……ピンポンパンポーン♪


「えー、ご来場の皆さま、告知事項があります。質問は後程まとめて個別にお伺いします。しばらくの間ご清聴ください」


 全力で突っ込みを入れていたとき、一昔前のお知らせのチャイム音の後に疲れた中年のおっさんの声が話し出した。

 スピーカーは何処にも見当たらないが頭上から聞こえてくる。ほぼ全員が弾かれた様に上を見て、一部が上に向かって叫んでいるようだ。


「えー、一部の方が興奮されている様ですが、えー、進めます。

  この度、ご来場の皆さまは、えー、亡くなられました。えー、これは大変遺憾ながら、えー、予定から外れた事でして、えー、協議の結果、他世界へと、転生、もしくは移転して頂きます。えー、皆さまがこれを拒否することは出来ません」


 はい?

 とりあえず、「えー」が多くて聞き辛い。転生、移転? チートかよ!


 独り身の寂しさか、拗らせ厨2病のお陰か、ネットの無料小説を読み漁っていた私には慣れ親しんだ設定が飛び出してきた。


「えー、転生、移転の区別ですが、移動する世界や、本人の希望等も考慮して決めます。

  えー、ただし、えー、一定以上年齢の方々については、えー、一律、転生と言う形を取らせて頂きます。えー、申し訳ありません。えー、これは身体と魂の成長が終わっていると、えー、移動先の環境に適応出来ないためです。

  えー、同じ理由で、適応の為に、転生、移転を問わず、えー、各世界で生きていくための一定の訓練を受けて頂きます」


 お、頭の中に「あなたは転生」という文言が浮かんだ。悩んでいるのは、10代の子くらいかな? つまり移転はハタチ前までと。


「現在、皆様の思考にアクセスし、えー、選択肢を提示させていただきました。選択肢のない方は確定です。えー、選択肢のある方は、ここから旅立つ時までに選択をお願いします。選ばない場合はランダムで決定します」


 お、流暢になってきた。このほうが聞きやすいや。


「また、えー、訓練期間ですが3日、3週間、3ヶ月の中から選んで頂きます。訓練終了後、早い方から移動先を選択して頂き、移動します。

  えー、1つの世界への最大移動人数は決まっています。最大になり次第、その世界への移転を停止します。この措置はその世界に与える影響を考慮してのものです。

 ただし、候補となる世界は、えー大量にあります。

  えー、長く訓練を受けたからといって、えー、厳しい世界しか残っていないと言うことはないので、ご安心下さい」


「では、えー、ここからは、個別の選択となります。えー、皆さま、後悔の無いように、ご選択下さい。えー、まずは、人生の、ダイジェストからどうぞ!!」

 

 い、

 いやだー!!

 黒歴史満載の人生なんて、振り替えさせんな!!


 **


 しっかり見せられました、人生のダイジェスト。黒歴史オンパレード。私は灰になりたい。

 死んでるけど、死んでしまいたい。

 いや、消滅したい……。



 なにやってんの!昔のワタシ!


 とりあえず、ナメクジとカタツムリを瓶詰めにするのは止めなさい! (幼女時代)


 トンボの羽をちぎってブローチ♪とか言うの止めなさい! (小学校低学年)


 身体が大きいからって、男の子たちと殴り合うのはダメ! (小学校高学年)


 二次元に走るのは良いけど、親に嘘をついてまで、勉強せずにマンガ本読み漁るんじゃありません! (厨2病全盛期)


 等々………


 ……場面のチョイスに悪意を感じる。

 けれど、残念ながら覚えてる。私はろくでもなかったなぁ。あー、消え去ってしまいたい。


 最後に、最愛のワンコ。すっかり老犬になって寝てばかりいるウチのお坊っちゃまが見える。


 見覚えのない大きな紫の座布団の上で、のびのびと寝るその顔は、いつも通り丸々と太り、その身体を撫でる骨の浮いた手との対比が痛々しい。


 少し画面が動いて、母の顔が見えた。青ざめて、強張っている。母の肩越しに小さく見える、父の背中は丸まっていて、いつもより小さく見えた。


 あぁ、これは私が死んだ後の風景か。唐突に理解する。


 死んで、ごめんなさい。ろくでもなかったけど、せめて、みんなより長生き出来なくて、ごめんなさい。


 元々不意討ちに弱く、マイナス方向で感情の振れ幅が大きい私は鬱に入った。


 えぇ、これが全ての始まりよ!ちくせぅ!!





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ